GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
あ、すみません。
やっと面倒な十日間が終わり、本日より大型投稿開始でございます。
その数なんと十四話!
と、いうわけで。第一回目の投稿を始めます。
バイキングデート
「あー。第一部隊の隊員は全員研究室に来てほしい。ディアウス・ピターのことで分かったことがあるからね。」
エントランスでリッカさんと話していた私の耳に入ってきたのはそんな博士の言葉だった。
ディアウス・ピターについての話をされた日から二日。ちょうど晩御飯を第一部隊のみんなで、という予定が立っている。今日はみんなソロで行ってアラガミを減らしてこようとか言っていたのだが、そこへ博士からの呼び出し……いやな予感が……
「あーあ……呼ばれてるね……」
「うん……」
リッカさんも苦笑い。その彼女から質問が投げかけられる。
「ところでさ。U-RK0707って聞き覚えある?」
「?」
いきなり謎の文字列を聞いて困惑する。彼女のことだから変な冗談を言っているってわけじゃないと思うけど……
「一昨日サクヤさんの神機をフルメンテかけようって話になったんだけど、サクヤさんの神機って結構使ってるからさ。あまり負担をかけないようなやり方ないかなあって思ってお父さんの日記とか見てた時に見つけたんだ。他にも何かの図面とか他の文字と数字の羅列とかいろいろ。」
首を傾げながら聞いてくるリッカさん。……U-RK0707……
「うーん……特に聞いた覚えはないと思う。それにしても七夕みたいな数字だね。」
「後ろの五桁はいくつかあったんだ。えっと……」
そう言ってポケットから手帳を取り出していく。彼女の手帳だから、きっと気になった部分だけを書き移してきたのだろう。
「あ、あった。……えっと、U-KK0707、U-RK0707、S-OK0707、S-HK0707。この四つは特記事項って感じで書かれてた。それとAK-tαからAK-tηまでずらっと。」
まあ確かに下五桁は多いみたいだ。
「全然わかんない。」
「だよね……いやあそれが書いてあったページに冬香さんの名前があったからさ。」
……え……?
「……お母さんの?」
冬香。私のお母さんの名前だ。人から名前を聞いたのはすごく久しぶりだと気付く。最後に聞いたのは私を引き取ってくれたお父さんの研究者仲間のおじさんからだったろうか。
「冬香さんがアナグラに手続きをしに来るからおみやげを用意しないとって。そのページに殴り書きみたいに書いてあったんだ。」
「へえ……」
それじゃあ私とも少なからず関係があるのかもしれないなあ。そんなことを考えつつ今さっき博士から呼び出されていたのを思い出す。
「あ、ごめんね。博士のとこ行かないと。」
「だね。行ってらっしゃい。」
「うん。それと、出来れば後でその手帳見せてほしいんだけど……」
私のお願いにリッカさんは快く答えてくれた。
「もちろん。都合が良いときに来てよ。」
「ありがと!」
会話を終えてエレベーターへ。今日は無理そうだし、明日の任務終わりにでも行くとしよう。
*
私が研究室に着いた頃にはもうソーマ以外のみんなが集まっていた。
「ノラミ!」
「……どん引きです。」
「何でだよ!」
が、その集まっていたところに入った私がはじめに聞いたのはそんな訳の分からない会話。
「かぐらー。おはよー。」
何となく欠伸をかみ殺しているかのような声を出すシオ。その後ろには博士が立っていた。
「やあ。いきなりで悪いんだけど……」
「はい?」
博士は博士でシオを指さして話し始める。
「この子に名前を付けてあげてくれないか?」
……へ?
「やっぱり名前がないと不便だからって、そういうことらしいですよ?」
アリサが横から説明を入れる。
「ノラミだ!神楽もノラミが良いと思うよな!な!」
……コウタは放っておいて……えっと?
「……名前って……シオのですか?」
一瞬全員が固まる。その硬直が解けたとき、四人の声がハモった。
「「「「え?」」」」
「いやだから……」
何か私も反応に困る。っていうかもしかして二人で決めちゃったらだめだった?
そんな一抹の不安が芽生えたのとほぼ同時にソーマも入ってきた。
「それで今度はどういう面倒事を押しつけるつも……何やってんだ?シオのやつがどうかしたのか?」
「「「「は?」」」」
ソーマも面食らっている。珍しいからこのまま鑑賞……じゃなくって!
「いやその……一昨日ソーマとここに来て……それでこの子の名前……」
と、このベストタイミングで彼女が自己主張する。
「シオだよ!」
「……って決めちゃったんだけど……」
「「「「……」」」」
「勝手に決めるなって感じか?」
「……そうだったのかも……」
この後、約10分間にわたって私とソーマはいろいろと言われることになる。
*
「……さて、本題に移っても良いかい?」
博士が口を開いたのはみんなが落ち着いてから。そういえばここに呼ばれたのって一体何の用があったんだろう……
「今日、今のところは手が空いている人はいるかい?このメンツだけで任務に行こうとしているっていうのでも構わないんだけど……」
どことなく要領を得ない条件だ。つまり何がどうしたのだろう。
「もし空いているなら、彼女……シオを食事に連れていってくれないか?」
「……食事?って言うと……」
シオの食事ってことはつまり……アラガミのコア?
「要はシオを連れて任務に行ってほしいのさ。ルートは僕が確保するからね。」
博士からの説明はこうだった。
シオのご飯は元々アラガミのコアだ。ただ、コアよりは好かないけど他のアラガミ素材も新しいものならどんどん食べるらしい。ちなみに喰い溜めが可能だ。
それらを念頭に置いた上での現在の状況だが……第一部隊全員が一日に回収するコアの数≒シオの一日のご飯に使うコアの数、である。いくら何でもこれでは厳しいと前から言っていた。よほどどうしようもないときは博士がコアリポジットからもらってくるわけだが、それも前に一度見つかっているからあまり多用できたものではない。
でもって博士の研究室には外と直通の、人が五人くらい並んでも通れるような幅の輸送路がある。本来の用途は研究資材の搬入だ。エレベーターで運べないものを主に扱うらしい。そこを使えばシオがいることはバレないし、アラガミの反応を隠す技術は私が一番始めに付けられたあの腕輪のを流用すればいい。……完成済みらしい。
「……というわけで、シオにアラガミを丸ごと食べさせようと思ったのさ。これまでの状況から考えると、ヴァジュラサイズのアラガミを全て食べ尽くせば三日くらいは持ちそうなんだ。まあ行けるのは一週間に一回……怪しまれると面倒だからね。」
説明を終えた博士は私達にどうだい?って感じの目でこっちを見ている。
そういうことなら断る理由はないし、とりあえず博士が変な実験に付き合わせようとしているわけでもなさそうだ。
「私はまだ任務の受注もしてないです。みんなは?」
まあ受注していないって言うかエントランスに降りたときにリッカさんに捕まったって言うか……
「俺は行ける。」
ソーマがまず答えた。続いてアリサ、サクヤさんも口を開く。
「私も大丈夫です。」
「今起きたばかり。行けるわ。」
が、いつもなら最もやかましく騒ぐはずのコウタが返事をしない。
「コウタ?」
全員いぶかしんでいる中……鼾が聞こえた。
「……禁忌種討伐の任務でも受注しよう。できれば複数体の。」
「そうね。」
「賛成です。」
「三体が理想だな。」
……当然、振り分けは私とソーマとシオ、アリサとサクヤさん、残りだ。
*
一時間後。なにやらシオがワクワクし始めている任務地。
なんと運の良いことでしょう。旧市街地にスサノオとポセイドンとゼウスが一体ずつだなんて。
「さて、それじゃあさっき言った通りに別れて索敵。発見次第強襲で。」
爽やかに笑って、かつわざとコウタの方を見ずに通達。
「……マジで?」
「だーかーらー。言ったじゃん。分け方の理由はちゃんと。」
……はっきり言おう。ただのこじつけに近い理由だ。
シオがどこかへ行きそうになっても私とソーマなら位置が分かるし、追いかけることも容易。サクヤさんは援護が一番向いているからアリサを前衛にした形で組めるように。コウタは……ま、大丈夫じゃない?っていう理由だ。
「まあとにかく冗談はおいておいて……コウタは目標の位置を常に特定して。一体だけ残してどっか行かれた、なんてことになったら笑われちゃうからね。他の討伐対象と合流しそうだったら攻撃。ある程度そこから引き離した後、グレネードで隠れること。なるべく早くそっちに行くから。」
「……さんきゅう……」
それでも俺は一人なのか、なんて表情をしているが……放置の方向で。
「よし。索敵開始!」
「おー!」
……なんか気が抜けたような気がするけどこれも放置の方向で。
*
「ごはんだー!」
「チッ!」
「あっ!」
任務開始から五秒のことである。
「あとお願いします!」
東へと突っ走っていったシオと、それにいち早く気が付いたソーマ。後のことをサクヤさんに任せて私も追う。……方向から言って東端の小部屋だ。
「あ、そういうことか。」
一番奥で私が追いついたとき、ちょうどスサノオがシオとソーマに気が付いていた。……どうやらシオは、速攻でスサノオの気配を察知したらしい。食欲ってすごいなあ。
「とー!」
「へ?」
右手から何かが生えた。刀?
その刀のようなものでスサノオの足を狙う。が、そこはどうしても経験が浅いのだろう。上への警戒がおざなりだ。
「チッ!」
ソーマがシオの上に神機を振るう。金属同士がこすれたような高い音の後、振り降ろされていた尻尾が止まる。同時にシオの右手が足を捉えて右上がりの裂傷を刻み込む。
「もう!尻尾は弾くからやって!」
……ヤケクソ。神機を銃に切り替え、アサルトの連射力にものを言わせて振り回される刀を撃ち抜き続ける。
「イタダキマス!」
その痛みからかスサノオがよろめき、その足に白い口のような何かが喰らい付く。シオの右手であると気が付くのにコンマ数秒。そこから右手が神機なんだと気が付くのにさらにコンマ数秒。その白い口はスサノオの左前足を喰いちぎりつつ元の刀のような形へと戻っていく。
その間ソーマは尻尾の根本を切りつけていた。シオが派手な動きをするからか、スサノオは彼女ばかりを狙っているようだ。
そうして攻撃されていた尻尾と刀とが結合崩壊した頃に神機の引き金がカチッという高い音を立てる。
「弾切れか。」
前衛に飛び込んで、ボロボロになって速度の落ちた尻尾と刀を走って避けつつ足を切り結ぶ。四肢に浅く大量に刻まれた傷から鮮血が飛び散った。ロングはこういうときが便利だっていつも思うなあ。
「神楽!来るぞ!」
「!」
スサノオの体が不自然にねじれている。回転の予備動作だろう。ソーマが装甲を開いているし間違いない。
それを確認し、シオを抱える。あ、やっぱり軽い。
「?」
「跳ぶよ!」
ねじれた体の隙間。ぎりぎり通れるくらいに開いた真上へ跳躍する。直後に回転が始まった。着地前に終わるくらいのタイミングとスピードだ。
「うわあ!」
「シオ、後は自分でね。」
着地したときスサノオの後ろ側に立つような位置へシオを放る。……その顔が笑みを浮かべているのは気にしないことにしてと。
そのシオを放った方向。回転を終えて元の位置へと尻尾を戻していく真上から落ち始める。
「そこ!」
落下中に神機を垂直に構え、尻尾と刀の結合部を貫く。弱点位置を突き刺されたからか悲鳴を上げるスサノオ。そのちぎれかけの刀の付け根へとインパルスエッジを放つ。貫通系のタイプじゃないけど、これだけぼろぼろなら十分だ。
繋ぎ止めていた尻尾が離れる。インパルスエッジからの反動でほんの一瞬遅れて顔を上げると、狭い通路へ飛び込んだスサノオがこちらへ口のような右手を開いてこちらへ向けているのが見えた。光弾を撃つつもりだろう。……そして、その向こう側のソーマも確認する。
「お願い!」
「ああ。」
狭い通路を塞ぐ体の中で唯一空いている足の間からこちらへステップで抜ける。顔の真下にいきなり現れたソーマに対応する術は、今のスサノオにはない。
右腕の付け根をソーマの神機が通り抜けていく。少し遅れて右腕が落ち……
「ごはーん!」
……後ろではさっき切り取った刀をおいしそうに食べるシオがいたり……後で腕も食べるんだろうなあ……
でもってソーマは私の右まで下がってる。……なんだかんだ言ってシオが心配なのかな?
「そろそろ片づける。隙を作ってくれ。」
「わかった。何秒後?」
「完了から十秒以内。」
「了解。そっちに吹っ飛ばすからね。」
足に力を込めて床を蹴り出す。残った左腕を振り回して接近を防ごうとするのをその腕を切り飛ばして近付く。
「よっ……と。」
ソーマと同じように足の間を抜けて後ろに回り、片手で神機からの遠心力を受け流していく。……受け流しつつ捕食形態を起動させるわけだけど。
「んしょ!」
なるべくシオが食べる部分が多くなるように、地面との接触面に近いところを捕喰する。左側の足を両方とも失い、バランスを取れずに倒れる。
銃形態に変えて入手したバレットを確認。爆発系だ。
ソーマは……ちょうどチャージ完了か。
「行くよ!」
後方上に飛んでスサノオの手前の床へアラガミバレットを放つ。その爆発と爆風とに踏ん張ることの出来ない巨体が吹き飛んで……
「フンっ!」
ソーマの神機が真っ二つに切り開いたのだった。
*
反動でけっこう吹っ飛ばされた私が戻った頃には、ソーマは服に付いたほこりを軽く払っていて、スサノオの死骸の半分がシオの腕の中に消えていた。
「……ずいぶんとんでもないやり方だな……」
「あはは……」
残った半分の死骸を見つつ苦笑するソーマ。シオはシオでその半分の方へと嬉しそうに歩いていく。
「あいつらはどうなってるんだ?」
「通信は入ってないけど……ここじゃあ信号弾も見えないもん。よくわかんないよ。」
壁と天井に囲まれている。ここは合流されにくくていいんだけど、信号弾を上げるくらいじゃ見えないのが難点だ。
そんな会話をしているとシオが食事を終えて走ってきた。
「おわったー。」
「よっし。シオ、とりあえずみんなと合流……」
「いっくぞー!」
……また一人で走りだそうとしたところをソーマに捕まえられるのだった。
シオの出撃に関しては完全に自己解釈です。
はあ…にしてもリッカが言ったあの変な文字列を考えるのには苦労しました…