GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
各々の思い
任務を終わらせて帰ってきてからほんの数10分後。
「こんにち……わっ!とお……」
「かぐらだー!」
こっそり見終わったディスクをこっそり返そうとして研究室に入った私に飛びついてくるアラガミの子。毎日こんな風に歓迎してくれて嬉しい限りだ。
「相変わらず子犬みてえに……お前もずいぶん懐かれてるな。」
「えへへ。」
お腹に頬をスリスリとして満面の笑みで抱きしめてくるこの子を見て苦笑しつつソーマが言う。久しぶりにソーマも誘ってきた。
「あれ?博士は?」
この子から目を離して部屋を見回しても博士は見つからない。この時間にここにいないのは珍しいなあ。
「はかせはねー……んーと、りっかのとこにいくっていってたー。」
「なるほど。保管庫か。」
「……また何か企んでんじゃねえだろうな……」
ソーマが不穏なことを言っているけどとりあえずノータッチの方向で。
立ち話を続ける理由はないのでソファーに座る。ソーマは横の低い衝立にだが。さらに言えば私の上に少女が座ったのだが。
その私の膝に座ってこっちを見る姿を見ながらふと気が付く。
「……そういえばさ……」
「あ?」
「この子まだ名前付けてないんだよね。」
「……まあ、そうだな。はっきり言って子犬みてえだって以外の感想はろくに持ったことがないんだが……」
確かに子犬みたいではある。とはいえ、コイヌ、なんて名前にするのはいかがなものか。
「……子犬系統で何か名前に使えるやつってあったか?」
「よっぽど子犬のイメージが強いんだね……」
「んー?」
のほほんとしているこの子は今自分が子犬とされそうなことにはまるで気が付いていないようだ。
「外国語で子犬って何だっけ?」
「puppy、hu:ndchen、cagnolino、perrito、chiot……俺が知ってるのはこのくらいだな。ロシア語のが知りてえならアリサに聞いてくれ。」
一気に並べられた単語たち……にしてもいろいろあるなあ……えっと?パピー、ヒュントヒェン、カニョリーノ、ペリート、シオ……むう……シオ……ふむふむ……
「決定!」
「かぐらー?」
「……主語と目的語を付けろ。」
独特な返答を返しているが、まあとりあえず決定だ。
「この子の名前はシオに決定で。」
「……理由は?」
「ノリとフィーリング!」
明らかに呆れているソーマと頭の上にクエスチョンマークが三つくらい浮かんでいる命名シオ。その様子を見て彼女の顔を覗きこむ。
「あなたの名前は、今日からシオだよ?」
おそらく私は今、満面の笑みを浮かべているに違いない。あまりにも自分の周りの全てが不安に感じられる今、それを一時でも忘れていられるのだから。
「しお?」
首を傾げるシオを見ながらどうしてもそんな風に考えていた。
「うん!」
あきれつつも優しく微笑んでくれるソーマと、きっと満面の笑みから表情を変えていない私と、ぱっと笑顔になったシオ。私達……家族みたいだ。束の間の平穏の中、そう思った。
*
夕暮れ時の平原。
「……ここには何もいなさそうだな。」
「次のポイントへ行くかい?」
「うーん……もうちょっとここから見ておきませんか?」
「というよりコウタ、まだここに来てから五分も経っていませんよ。」
緊急の討伐任務は神楽さんたちが受けていったため、今日は偵察任務に出ている。メンバーは私とコウタ、エリックさんとカノンさんだ。
「それもそっか。……よっし、とりあえず二手に分かれて少し範囲を広げよう。俺とアリサはこのまま前。エリックさんとカノンさんは後にってことで。」
「分かりました。」
「ふっ……華麗な僕が華麗に偵察して見せようじゃ……」
予想通り意味の分からない返答をしようとしたエリックさんをカノンさんが急かす。
「エリックさん、行きますよ?」
「お、おい!僕の言葉を聞こうともせず……」
それでもまだ何か言おうとする彼へカノンさんは神機の銃口を向けた。任務中のテンションになっていることは間違いない。
「行きますよ?」
「……」
うなだれるエリックさんを引っ張る形で歩いていく。……その顔が私を見ながら笑みを浮かべているのはなぜなのだろう……
「アリサ、俺達も早く行こうぜ。」
「あ、はい。」
いつものように軽く笑いつつコウタが私を呼ぶ。……目が合っただけで赤くなってしまう私の顔。今日が晴れで良かった。夕日に照らされていれば顔が赤いのはバレなくて済むから。
「そういえば明後日だよな。みんなで晩飯食おうっていう日。」
「アラガミが襲ってこなければ、ですけど。」
「……問題はそこか。」
腕を組んで首を傾けつつ前を歩く彼の背中が揺れる。
『ソーマに初めて背負ってもらった時ね、すっごくあったかかったんだ。』
私が戦線復帰する前にお見舞いに来てくれた神楽さんが言っていたことが思い出される。
『誰かに抱きしめてもらってるみたいだった。今考えると、その時がソーマを好きになった最初の時だったんだろうなって思う。』
なんとなく緊張していた私を安心させるためか、簡単に昔話をしていた神楽さん。言いつつ笑っていたっけ。なんだかすごく幸せそうだった。
……コウタの背中も、あったかいのかな……
「……い……おーい、アリサー?」
「え?あ……すみません。」
気が付くとコウタは私よりずいぶん先を歩いていた。ぼんやり考えながら歩いているうちに離れてしまったようだ。
小走りに彼の近くへ行こうとし……
「コウタ!後ろにいます!」
彼から離れたところにいるクアトリガに気付いた。まだ向こうはこっちを見つけてはいないようだ。
「クアトリガか……ちょっと苦手なんだよなあ。」
そんな風に言いながらバレットを氷属性に切り替えている。
「そんなこと言っている場合じゃないですよ?」
「だよな。よし、俺が引きつけるから前衛頼んだ。」
「了解です。」
二人だけで戦うのは久しぶりだ。それだというのに全く不安がない。
「早く終わらせて、早く帰りましょう。」
「おう!」
親指を立てた彼の笑顔がとっても眩しかった。
*
「サクヤさん……」
「え?」
第二部隊との任務から帰投し、保管庫で神機をリッカに渡した直後、彼女は私を呼び止めた。
「この神機、フルメンテかける方がいいんじゃないかな。一日で終わるから。」
私がオペレーターをしていた頃からの付き合いの彼女は、私に言葉をかけながら神機を細部まで見ていく。特に使い心地が変わったとかはなかったけど……
「やっぱりちょっと無理させ過ぎ。銃身パーツとの結合部が弱くなってるし、あまり放っておくとまずいよ。」
「そうなの?」
「少なくともいつも通りに扱える状態じゃないのは確かだと思う。最近厳しい相手に向かい過ぎてない?それもスナイパーには近距離って言えるような位置で。」
まあ実際そうであることは否めない。遠距離型なのに前衛に近いポジションにいることは多くなってしまっている。
「うーん……じゃあお願いするわ。あ、できたら強化もしておいて。素材は渡すから。」
「分かった。メンテナンスの申請は出しておくから、明日はのんびり休んでなよ。目の下に隈できてるよ?」
「……それは昨日遅かったからだと思うけど……」
そんな会話の途中で外へと繋がるゲートが開く。帰ってきたのはアリサ達だった。
「もう!変な風に前に出るからです!」
「いや俺が出たんじゃなくって避けた方向にクアトリガが突進していただけで……」
「それ思いっきり前に出てるじゃないですか!」
「えええ……」
何があったのかコウタに叱責と思わしき罵倒を投げつけているアリサ。その後ろには笑いたいのをがんばって堪えているようなカノンちゃんとエリックがいる。
「何があったんだか。」
「さあ……何にしてもずいぶん微笑ましい光景だね。おーい、どうしたの?」
四人の方へ歩いていくリッカ。彼女がすさまじい声を上げたのはその直後だった。
「あっ!神機壊れてる!どうやったらこうなるのよ!」
「えーっと……」
コウタが気まずそうな顔をしているあたりから察するに、彼の神機が壊れているのだろうが……
「どうやったら銃身がポッキリ折れるのか説明してもらおうか。」
「……クアトリガの突進を銃身で受けました……」
「……明日任務後にここに来るように。」
「……はい……」
彼女が怒ったときは凄まじい。特に神機保管庫に相手を呼んだときが一番凄いのだとか。
「……というよりも……コウタ、これの他のパーツ持っていませんよね?」
うなだれるコウタとプルプルと怒りを露わに震えているリッカを余所にアリサが口を開いた。
「確か教官からもらったから他のがないんだ、とか言ってましたけど……」
「このパーツは一応直せるけど……そうか。明日任務に出られないのか……」
「はい……」
ここに用意されている予備パーツはどれも初期型。とても今の彼が受けている任務で使える代物ではない。
「……はあ……」
「アリサ?」
いきなり溜息をついてすぐ傍のコンソールを操作し始めるアリサ。そのコンソールの後ろからロックされたパーツの固定器具が現れる。
それを開け、入っていたものを取り出す。出てきたのはアリサの神機に付いているアサルトにそっくりな青い銃身。
「サイレントクライ……私がロシアにいたときに使っていたものです。今私が使っている神機と対になるように作られたんですけど、輸送中にいろいろあって使えなくなってしまって……結局こっちに来てからは今のだけ使ってましたから、これが直ってからもずっとロックしていたんです。」
懐かしそうにパーツを持っていたアリサはそれをコウタへと差し出す。
「復帰前に付き合ってもらっていたお礼です。……大切に使ってくださいよ?」
ぽかーんとしているエリックとカノンちゃん。驚きを隠せない私とリッカ。目をパチパチとさせているコウタ。アリサはそれらを無視してコウタの手にパーツを握らせた。
「壊したりしたら、ただじゃおきませんから。」
……嬉しそうなアリサの顔。それを見て、神機使いになった日を思い出した。
神機使いとしての初陣の日。リンドウとの合同任務だった。
『神機使い就任おめでとう。』
『……あまり嬉しいものじゃないと思うんだけど……』
呆れる私を余所に彼はずっとニヤニヤしていたっけ。
『まあそう言うなって。ほら。就任祝い。』
『ちょっ……大きすぎない?何が入ってるのよ。』
『開ければ分かる。』
見るからに何か企んでいそうないたずらっ子の表情で言っていた。
『……神機のパーツ?しかも銃身……』
白く長いパーツ。綺麗だって一番最初に思った。
『お前が適合者だって聞いて急いで作ってもらったんだ。性能は折り紙付きだぞ?』
『相変わらずこういうことだけ上手いんだから……ありがとう。大切にするわ。』
満足そうに笑った彼の横顔。今でも鮮明に思い出せる。
『おう。さて、それじゃあ初陣と行きますか。新入り。』
『了解です。上官殿。』
『っとお。そう来るか。』
記憶を辿れば、彼と一緒にこなした数々の任務まで思い出される。……気が付けば涙が一粒だけ頬を伝っていた。
「……思い出しでもした?」
横にいたリッカは目敏くそれに気付く。
「ええ。……がんばらないとね。」
彼女は涙を拭った私の背中を軽く叩いてから四人の神機を受け取りに行った。
*
そのころエイジス島では……
「ったく……どういうことだ?」
二日前から腕輪のレーダーがエイジス島内にアラガミの反応を捉えている。それもずいぶん大きい。
「……どう見ても中央部だよな。この間見に行ったときはこんな反応なかったぞ?」
この間見に行ったときにあったのは妙にでかい人面のみ。組織はオラクル細胞でできていたようだったが、それには捕食のための動きも、偏食場も、果ては生物ならば当然持っている程度の温度も存在していなかった。
それが二日前、いきなり強力な偏食場を発し、かつ一部を動かすまでにいたって外壁を少しだけ破壊して止まった。同時に島内ではありとあらゆる技術者や神機使いが走り回ったのだ。
「……意味が分からん。」
まあ、触らぬ神に祟りなしか。
…今更にもほどがありますが…こんなにリンドウさん出していいんでしょうか…?
なににしても本日の投稿はこれで終わりです。では最後に…
ブラスト用バレット紹介コーナー!…え?いらない?まあそう言わずに。
1 M装飾弾丸:直進/短 上90度
2 M制御:その場で停止/制限時間長 BB充填 1の自然消滅時
3 M制御:その場で停止/制限時間長 BB充填 2の自然消滅時
4 M制御:その場で停止/制限時間長 BB充填 3の自然消滅時
5 M制御:その場で停止/制限時間長 BB充填 4の自然消滅時 下60度
6 M制御:敵の方を向く/制限時間普通 BB充填 5の自然消滅時 下120度
7 L弾丸:強ホーミング/全方向 BB抗重力弾
8 LL爆発:爆発/通常 BB識別効果
…どうぞラーヴァナ辺りので撃ってみてください。