GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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帝王です帝王です。でもまだまともに戦わない帝王です。


ディアウス・ピター

ディアウス・ピター

 

あのコア回収騒動から二日後の夜更け。ほぼ一日中任務をこなしていた私はアリサと部屋でおしゃべりして楽しみつつ時間を潰していた。

 

「ふう。今日も終わったあー。」

「ちょっと大変でしたよね……」

「そもそも偵察が雑!なんでハガンコンゴウ一体の討伐でコアが四個も回収できるの……」

 

昼間こなした任務は私とアリサの二人でハガンコンゴウ一体の討伐……のはずが、まさかの同種が追加で三体来るっていう……ちなみにソーマ達は第六部隊と合同で地下鉄跡のアラガミ掃討に向かった。三体の大型アラガミが出現したらしい。

 

「いくら群になりやすいからってあれはおかしい!」

「そうですよ!最近の調査隊、いいかげんすぎます!」

 

コーヒーと紅茶をそれぞれ持ちながらここから数分にわたってギャアギャア……うん。とりあえず割愛。

 

「まあ偵察班が一つ減っちゃったのもあるからね。多少は仕方ないと思うけど。」

「市街地防衛に回されてるんでしたっけ。カノンさんは一日にいくつも任務を受けることがなくなったって喜んでました。」

 

ここ最近のアラガミ増加に伴って市街地への被害も多くなってしまっていた。それを緩和するために、元々三つあった偵察班の内一つを完全に市街地防衛用に切り替えたらしい。

 

「でも偵察の精度が落ちちゃったのはやっぱりね……辛いものがどうしても……」

「……今度教官に直訴……できませんね。」

「うん。怖すぎ。」

 

苦笑いするアリサと爆笑寸前の私。端から見たらおもしろい光景だろう。

 

「あ、そういえば今度の休暇に食べる料理ってもう決めてあるんですか?買い出しとかがあれば手伝いますけど。」

「うん。もう決めたよ。買い出しも昨日ソーマと行ってきたから……とりあえず作る方で援護頼んだ。」

 

親指を立てて彼女へ向ける。私自身は特に深い意味を持たずにやったのだが……

 

「あれ?どうかした?」

「いえ……えっとですね……」

 

困ったような表情できょろきょろ止めを泳がせているアリサ。

 

「……もしかして料理が出来ないとか?」

「うう……」

 

……俯いてがっくりと肩を落としているところから察するに図星なのだろう。が、さすがにここで放っておくのは忍びない。

 

「うーん……それじゃあ、今度暇があるときに教えようか?アリサがよければだけど。」

 

この言葉を受けてか何なのか、さらに上半身が前に倒れて突っ伏すような形になる。

 

「……はい……よろしくお願いします……」

 

……なんだかんだ料理が出来ないのが恥ずかしいといったところだろうか?ぶるぶると悔しそうに震える肩が何とも可愛い。

そしてぼそりと呟く。

 

「……こんなんじゃあコウタにお礼できない……」

「……」

 

自分でも分かるほどにぴくりと動いた耳と爛々と輝き出す目。コウタにお礼?コウタにお礼をしたいとな?

 

「へえーえ……コウタにお礼がしたいんだあ。さては復帰直前に付き合ってもらってたお礼かなあ?」

「ふあっ!?」

 

にやけながら彼女をいじり出す私。

 

「いやあ……うん。彼も最近かっこいいからねえ。っていうか見かけによらず気も利くし。うんうん。分かるなあ。実は頼りになるもんなあ。」

「いっ!いやっ!あのっ!いえっ!そのっ!」

「アーリサぁ……言葉になってないよお?」

「うぐ!」

 

耳まで赤くしてどたばたするアリサを見てふと思う。……なるほど。サクヤさんが私をいじっていたのはこの楽しさを知っていたからか。

 

「よろしい。ならとことん、確実に、何が何でも、すばらしい腕前にしてあげよう。……徹底的にね。」

 

ちょっと黒いイタズラ心が首をもたげているけど気にしない。教えるときにサクヤさんとカノンさんも先生にしようとか考えてるなんてそんなことあるけど気にしない。でもってカノンさんをどうやって任務中のテンションに持っていこうかとか考えているはずがあるに決まっているけどやっぱりきにしない。

 

「……徹底的にっていうのにいやな予感しかしませんよ……」

「そーおー?気にしない気にしない。」

 

明らかに何か企んでいる人の声で言っても意味ないけど。

 

「でも、そっか。きっとコウタも喜ぶよ。アリサが料理作ってあげたら。」

「……そうだといいんですけど……どうしても料理が上手くならなくって……」

「はじめはそんなんだって。」

 

……初めてソーマに夕食をごちそうした時を思い出す。いつもは良く出来たくらいにしか思っていなかった自分の料理が、なんだかとってもポカポカするものになっていたっけ。彼がおいしそうに食べてくれるだけで自分まで幸せになれた。

 

「がんばろ?」

「……はい!」

 

一昔前の彼女からは想像もつかないような嬉しそうな表情だった。

 

   *

 

翌朝。結局あの後は何もせずに寝た。さすがに疲れていたし、少しくらいは寝た方が良い。

まあ、それでいつまでも寝てはいられないのでいつもと同じくらいの時間にエントランスに降りる。まだソーマは来てないかなあ……なんて思っていたのだが。

 

「あれ?」

 

エレベーターを降りてすぐのソファーに、珍しくフードをとったソーマが腰掛けていた。でもこっちに気付く気配がない。

 

「ソーマ?どうしたのこんな早くに。」

 

聞かれて初めて私がいるのに気が付いたようだ。

 

「お前か。昨日ちょっとな。」

「ちょっと?」

 

彼の横に座り、少しだけ沈んだ声色に聞き返す。

 

「ああ。後でツバキから話があるはずだ。」

「……それ、一大事って言わない?」

「まだそこまではいかねえさ。こっちの人的被害に関しては軽傷者一名だからな。」

 

と言って右腕の袖をめくる。元々浅黒い肌だから分かりにくいけど、手首の上から肘の近くまで少し火傷しているようだ。まあ、神機使いの治癒力なら全く問題はないくらいのものだとは思うけど。

 

「うわあ……大丈夫?痛くない?」

「ああ。別にこのくらいなら……それ以上にこれの原因の方が問題だ。」

「原因って……」

 

袖をまた下ろしながら少し苦々しげな顔をする。

 

「例の黒いヴァジュラ。これの他にあいつに第六部隊のやつが神機を壊された。」

 

自分の右腕を指さしながらの彼の言葉が終わるか終わらないかで出撃ゲートが開いた。会話が聞こえていたのか、頬の油をいつもより多くして伸びをしながら出てきたリッカさんが口を開く。

 

「壊されたのは銃身パーツの方なんだけどね。本体はだいたい無事だから何とかなったよ。」

 

と言いつつ欠伸をかみ殺している。徹夜だったのだろう。

 

「お疲れさま。でもそんなに大変なことになってたんだ……」

「帰ってきたと思ったら神機は壊れてるし珍しくソーマが怪我してるし第六部隊の人はビビってるし……援護に出たはずのサクヤさんは怖い顔してるしコウタはうるさいし……けっこう大変だったんだよ……」

「……その光景が想像できるのってだめかな?」

「い、いいんじゃないかな?」

 

苦笑いして顔を見合わせる。

 

「とりあえず私は寝てくるよ……さすがに徹夜だから……」

「あ、うん。おやすみ。」

 

ふらふらと後ろ手に手を振りながら保管庫の奥へと歩いていく。いやほんと頭が下がります。

 

「これまでは俺らだけだったからまだ何とかなったけどな。今回は……」

「第六部隊がいたってこと?」

「……ああ。」

 

ため息をつき、背もたれに体を預けながら彼は話を続けた。

 

「あいつらが弱いわけじゃねえ。あのヴァジュラが強すぎるだけだ。……俺達だけなら周りを気にし過ぎずに戦えるが、他の奴らはどうもそうはいかないらしい。周りにいるやつとどう組んで動くかを無理に考え続けながら動いてやがった。」

「しょうがないよ。第六部隊は前まで偵察部隊だったし……」

「それもある。つっても、少なくともあいつらはあれとはまともに戦えないのも事実だ。」

 

苦虫を噛み潰したような、とはこういう顔を言うのだと説明に使えそうな表情だった。

 

「それを判断したからツバキも俺達に話をしようとしてるんだろうさ。」

 

言い終わると大きく欠伸をした。……もしかして……

 

「……ソーマも徹夜?」

「ああ……お前が来る少し前に報告書を出した。」

 

頭を振りながら息をついている。よほど眠いのだろう。

 

「少し寝ちゃったら?部屋に戻るほどの時間はないけど……」

「……そうする……」

 

そのまま頭を垂らすような格好で動かなくなる。……早い……

 

「……私もまだ眠いなあ……」

 

私の方も話し相手がいなくなったからかどっと眠気が押し寄せた。

 

「……ん……」

 

うとうとしながらコテっと倒れたのはソーマの肩の上だった。

 

「……お前……」

「いいの。」

 

……この後、話をしようと降りてきたツバキさんに丸めた資料で軽く頭をはたかれて起こされたのは言うまでもない。

 

   *

 

「……ここまでが現在までに周辺地域で起こっているこのアラガミによる被害や戦闘だ。何か質問は?」

 

ツバキさんの声がエントランス全体に響きわたる。……っていうか戦闘って……ほとんど私とソーマのじゃん。

 

「特に無いか。ならアラガミそのものの説明に移る。あまり情報はないがこれからの参考にしてほしい。」

 

そう言いながら私達に資料を配る。その中には写真もあった。これまで戦うのに精一杯だった上、暗い場所での戦闘がほとんどでろくに観察できていなかったからちょうど良い。

 

「……あれ?」

 

が、その写真を見る内に何かが引っかかった。それに気付いたのとほぼ同時に横でアリサが息を呑む。

 

「……これは……私の両親を殺したアラガミです……」

 

くしゃっという音と共に彼女が持っていた資料が皺だらけになる。……確かにこれはあの時感応現象で見たアラガミと同じだ。

 

「そうだ。公式な記録にはないが、このアラガミは過去にロシアでリンドウが確認している。」

「えっ?」

 

サクヤさんが驚いたような声を出す。……当然だろう。サクヤさんから聞いた話では、もう一枚のディスクはこのアラガミが持っている可能性が高いのだから。

 

「その時に提出された報告書にはある地域が壊滅したとあった。だが確認されたアラガミは0。黒いヴァジュラに関しては情報不足としてカウントされていないということだそうだ。……一地域が、こいつのみによって壊滅させられたのと同義だ。」

 

全員が押し黙る。抑揚が強くない落ち着いた声であるだけに重みがあった。

 

「以後、本アラガミをディアウス・ピターと呼称。第一部隊へ討伐命令を発する。以上、解散!」

 

討伐命令が第一部隊へと限定されている。このアラガミの危険性がさらに認識されたような気分だった。




…サブタイトルが詐欺ですよねえ…すみません。
あ、次話も同じ日の話です。

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