GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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今回のタイトルですが、決して打ち間違いではありません。
ちなみに言っておくと、神の見えざる手、が経済用語であるのも知っています。
↑友人に聞かれた奴。


諸刃の盾

諸刃の盾

 

「チッ……」

 

横から飛び込んできたコンゴウを一太刀で切り裂く。補足するなら……今のが七体目だ。

 

「んしょ!っと……」

 

真っ二つになって転がったそれのコアを俺の後ろにいた神楽が回収する。若干振り向いて確認すれば汗だくで息を荒くした彼女が目に入った。……俺も似たようなもんか。

 

「これで何体目だっけ?」

 

溜め息をつきながらの言葉。

 

「七体だ。……まだ必要だけどな。」

「うー……もう疲れたよお……」

「同感だ……あの痩せ狐が……」

 

話は数時間前に遡る。

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「やあソーマ。それに神楽君。呼び出してすまないね。」

 

また、呼び出され、神楽共々研究室に来ていた。……神楽の場合はこの五日間毎日来ていたが。

 

「かぐらー。」

「おはよう。博士に変な事されたりしなかった?」

「……神楽君……」

 

例のガキも知能が発達した。今では大抵の日常会話が出来るらしい。神楽がここへ来ていたのもこいつといるのが目的だ。

 

「で、今日はどんな面倒事を任せるつもりで呼んだんですか?」

「ですかー?」

 

二人で遊びながら言う。言い方は気にしてはどうしようもないところだろう。

 

「う、あ、ああ……えっとだね……」

 

どもりながらの言葉をそこで区切る。そわそわとしながら次の言葉が出てきたのだが……それへの反応は見事にかぶった。

 

「……その子のご飯のストックがないんだ。」

「……はい?」

「……あ?」

「んー?」

 

一瞬の沈黙の後、神楽が騒ぎだす。

 

「何でそういう状態になるまで放っといたんですか!なくなりそうだってわかったら貯蔵庫からもらってくればいいじゃないですか!」

「いやあ、貯蔵庫から無断で持ち出しているのがばれちゃってねえ。その子の事は隠し通せたんだけどねえ。いやあ、参った参った。」

「参ったじゃない!」

「はいいい!」

 

……出来の悪い漫才でも見ているかのような気分だ。本人達は至って真剣なんだろうが。

 

「……まさかコアを取って来てくれとか言うんじゃねえだろうな?」

「まさにその通りなんだ。頼まれてくれるかい?」

 

半ギレでの質問に悪びれずに答える切れ目野郎……殴りてえとすら思うが……どうやら神楽も同じであるようだ。

 

「そうですかわかりました。それでは本日の任務に向けて神機を強化いたしますのでその費用を是非ともお支払いいただければ、と。任務報酬に上乗せする形での支払いを希望いたします。」

 

明らかにぶちキレている。その表情がすばらしく笑顔であるのもいつも通り……青筋を立てるってのはこの事か。

 

「……し、承知したよ……」

 

それに半分怯えながら後ずさる変人を後目に俺たちは研究室を出た。

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で、こういう事になっているわけだ。今のところは頗る順調に進んでいる。それというのも……

 

「にしても、これ効果あるね。五分くらいでこんなに集められるんだ。」

 

俺達から数メートルの位置に、例の複合コアがカプセルに入って置かれている。アラガミの注意を引く性質を持った偏食場を発するとかいう話だったな。実際ここまでの五分強で七体のコアを手に入れているわけだから、こういう時なら役に立つものであるのは間違いない。補足するなら、今日のコア回収はこれの実験も兼ねている。

 

「……複雑か?」

「え?……あ……」

 

自分でも気が付いていなかったのだろう。複合コアを見る彼女の顔は、怒りや悲しみを無秩序に織り交ぜたような表情を浮かべていた。

 

「まだ……ちょっとね。」

 

神機を持っていない左手で俯き気味の頬を掻きつつ答える。……どうしても払拭できないものはあるのだろう。

 

「……戻ったら市街地の商店街にでも行くか?」

 

かける言葉がろくに見つからずそう聞いた。俯いていた顔を上げ、少し恥ずかしそうな表情をする。

 

「あ、うん。……ごめんね。気使わせちゃって。」

「気にするな。とにかくあと二、三体であがるぞ。」

「うん。」

 

離れた場所に現れたアラガミ達を見据えつつ頷いていた。

 

   *

 

二人がコアをかき集めているのとほぼ同時刻のエイジス島沿岸。

 

「コウタ、何か見えるか?」

「ちょっと焦げた痕みたいなのはありますけど……爆発が起こったような感じじゃないっすよ?」

 

任務を終え、バガラリーでも見ようかと考えていた時、タツミさんと一緒にエイジス島を確認してこいとツバキさんに偵察を任された。定点カメラが外壁での爆発らしきものを捉えたらしい。

 

「そうか。それじゃあもう一周確認してから帰ろう。」

「了解。」

 

ボートの上で双眼鏡を使いつつ見回っていく。エイジス防衛は第三部隊の仕事だけど、今は別の任務に出ているから仕方ないんだよな。

 

「お?」

 

そんな感じで見ているとタツミさんが声を上げた。同時に船を止め、その少し後に双眼鏡を俺の頭ごと回した。

 

「あそこ動いてないか?」

「へ?」

 

向けられた先はたった今自分が焦げ付いていると思った場所だ。周りの外壁と比べて黒ずんでいて、かつ少し管状に盛り上がっている。爆発云々の報告があったから焦げた痕だと思ったのだが……

 

「特に動いてはいなさそうですけど……」

「そうか……んじゃまあいいか。進むぞ。」

 

タツミさんにそう言われた頃には、俺の頭は終わった後の報告書の面倒くささに飛んでいた。

 

   *

 

「コアは博士に渡したし神機も整備に出したし。あとはソーマのこと待つだけだけど……」

 

今日はソーマが報告書をまとめている。二人で任務に出るときはいつも代わる代わる報告書を書いていて、今日は彼の担当なのだ。

 

「早く来ないかなあ……」

 

のんびりと小説を読みつつ、久しぶりに角砂糖とミルクを入れた二杯目のコーヒーを飲み干す。にしても暇だ……なんとなくお腹空いてるし……どうしよう。なにか軽いものでも食べようかな。

そんな風に考えついて立ち上がった。そのままキッチンに向かおうとベッドとテーブルの間まで出たのだが……

 

「……あれ……?」

 

胸の辺りが異常に痛い。でも人間の痛みじゃない。……これって……

 

「う……あ……」

 

痛みはどんどん強くなり、その内に胸を押さえてうずくまる。

 

「あっ……くぅ……」

 

うずくまるのすらも辛くなっていって横倒しになって倒れた。……全く収まる気配がない。

 

「うっ……げぁ……」

 

夕食前の空っぽのお腹から胃液が逆流する。意識を保つのすらもう苦行だ。

そういう状態の私の耳にかろうじでインターホンの音が届く。

 

「俺だ。もう行けるか?」

 

……ソーマだ……

 

「神楽?」

「……そ……ま……たす……て……」

 

かすれた声で言う。

 

「おい!神楽!」

 

ロックが解かれる音を最後に私の意識は完全に途絶えた。

 

   *

 

「……」

 

……どこ……だろ……病室……?

 

「体そのものには何もない。一応彼女の部屋の方も確認はしたけど、外から入ってきたのだって君だけだったろう。」

「だったら何でこうなってんだ。」

「……ここの中には、原因になりそうな物はないんだけどね……」

 

……この声って……

 

「ソー……マ……?」

 

少しだけ頭を横に回す。彼はすぐそばにいた。

 

「気付いたか?」

「う……ん。まだぼんやりするけど……」

「そうか……」

 

しゃがんで私と目線を会わせていた彼の肩から大きくついた息と共に力が抜ける。

 

「体はまだ痛むかい?」

 

その向こう側にいた博士からも聞かれる。

 

「……もう痛くはないですけど……あまり動きたくないです……」

 

……熱があるようだ。全身すさまじく重くなったように感じるし、頭もぐわんぐわんして異常なほど気だるい。

 

「無理しなくていい。……無事でよかった……」

「ごめんね……心配かけちゃった……」

「気にするな。……お互い様みたいなもんだろ。」

「ふふふ……そうかも……んっ……」

 

寝ているとどうしても周りが見えないから体を起こす。力の入らない背をソーマに抱えてもらい、結局ベッドに座った彼の体に寄りかかる形になった。……荒く息をつく以外はないのだけれど。

 

「さて、とりあえず続きから話そうか。」

 

私が座るのを確かめてから博士が口を開いた。

 

「さっきソーマに言った通り、神楽君自身とこのアナグラの中には神楽君が倒れるような原因は全くなかった。だからちょっと外の方も確認したんだけどね……」

 

そこまで言うと、博士はポケットから四つ折りになった数枚の紙を取り出してソーマに手渡した。その紙に目を通した彼の表情が変わる。

 

「どういうことだ。」

 

私に紙を渡しつつ厳しい表情で博士を見る。何が何だかわからないままに私も紙を見る。……レポートのようだ。

 

「……エイジス島から……偏食場……?」

「たぶん、君が倒れた理由はそれだ。その偏食場が発生した原因は全く分かっていないんだけどね。」

「それでどうやってこれが倒れた理由になるんだ。」

 

ソーマの問いかけに博士は無言で逆のポケットから紙を取り出す。やはり四つ折りにされたその紙には二つの波形が印刷されていた。……ずいぶん似ているようだが……

 

「上がその偏食場。下は神楽君のコアが持つ偏食場だ。」

「え……?」

「……似てるな……」

 

……そういえば自分の偏食場をこうして見るのは初めてだった。そんなことを考えながら博士の次の言葉を待つ。

 

「これだけ波形の似ているコア同士であれば、非接触時でも感応現象、もしくはそれに類似するものが起こる可能性はある。さらに可能性の話をするなら、片方の偏食場に何らかの異常があった時にもう片方へその影響が出る、なんてこともあるかもしれない。まあこれはあくまで僕の仮説だから何とも言えないけどね。」

 

異常……だめだ。頭がくらくらしちゃって全然考えられないや……

 

「簡単に言えば、ある個体のダメージが偏食場が似ている個体にコピーされてしまうのさ。程度は分からないけど、君の様子を見るにかなりの割合で受けてしまうんだろうね。」

 

あ、それなら分かる。

 

「エイジス島……持ち手に刃でも付いているのかもしれないね。」

 

いつも以上に怪しい微笑を浮かべつつ小さくそう呟いていた。

 

「とりあえずこの件はヨハンに報告しておくよ。神楽君は回復したらすぐ戻っても大丈夫だからね。」

「あ、はい……」

 

それだけ言い残して博士は病室を出ていった。

 

「……」

 

で、その博士が立っていた位置に屈んだソーマがいたりする。

 

「……どうしたの?」

 

特に返事はせず立ち上がった彼の手には何かのディスクが握られていた。それを私に差し出しつつ口を開く。

 

「あの変人が置いてったんだろうさ。」

 

表面に書かれていたのは十八年前の日付がいくつか。十八年前っていうと……

 

「大方マーナガルム関連の記録だろ。……ったく、何がしてえんだあの変人は……」

「そっか。十八年前ってソーマの……」

「ああ。俺が産まれた年だ。」

 

ちょっとだけ笑みを浮かべながら答え、やはりちょっとだけ苦笑する。そんな彼が新鮮でいつの間にか見つめていた。

でまあ話題もなくなって、しばらくお互いの温度を楽しむような格好で座り、その状態で十分も経った頃には私の調子もよくなっていた。

 

「そろそろ部屋に戻るか?」

それが分かってか彼はそう聞いてきた。確かに戻っても大丈夫なんだけど……でもなあ……

 

「ううん。まだちょっとだけ……」

 

なんだか、いつもよりあったかい……この感覚をまだ独り占めしたかった。




そろそろ佳境?…に入りたいけど…

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