GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

31 / 150
四話目の投稿。…切れ目の変人が動き出します。


誰かの企み

誰かの企み

 

任務から帰投した私の前にとても楽しそうなヒバリさんがいる。

 

「それでそのお店、料理がすっごく美味しいって評判だったんです。」

「へえ。ってことは……タツミさん本気で美味しいところ探してたのかな?」

「だと思いますよ?早く行きたいなあ……」

「あいつ……意外とマメだったんだな。」

 

タツミさんたちを助けに行ったあの日から三日。本気でプロポーズし……ようとしたタツミさんが開きかけた口をヒバリさんの唇が塞ぐ形でカップル成立した二人は、タツミさんの怪我が治り次第、夕食を食べに行くことに決まったそうだ。場所はタツミさんが前から誘っていた和食料理店なのだという。和食、というところがちょっと意外だと噂になっていたり。

私は私で隊長への昇格が決定。それに伴って、階級も小尉へと上がった。とはいっても周りとの関係は全然変わっていない。変わった物はといえば自室がベテラン区画に移されるくらいだ。……準備は今日完了する予定。

 

「あ、それと神楽さんとソーマさんに榊博士から呼び出しがかかっています。先日持ってきた物が何なのか分かったから来てほしい、とのことです。」

 

持ってきたもの、というのは、あの日ビルの屋上にあった物の一つだ。他にもいろいろとあったのだが……大型の機械ばかりであったため持ち帰るには至らなかった。近日中に回収部隊が送られることになっている。

 

「やっと終わったのか……」

 

ソーマは呆れ顔。……まあ確かに、あの暇人が三日もかけるなんて長ったらしいったら……

……いや、そもそもあれはそんなことが言えたものではないか。

 

「まあまあ、とにかく早く済ませようよ。じゃあまたね、ヒバリさん。」

「はい。」

 

手を振りながらエントランスを後にする。……さて……何だったか聞きたいような聞きたくないような……

 

   *

 

「失礼し……どうしたんですかこれ?」

 

研究室に入った私たちを迎えたのは……

 

「や、やあ……すまないがこの書類をどかしてくれないかな……」

 

いつものコンソールの後ろで書類の山に文字通り押しつぶされている博士だった。

ぎゃあぎゃあと騒ぎながら書類をどかし、かつそれを整理すること数10分。ようやく博士が動けるところまでには片付いた。

 

「いやあすまない。ちょっと書類を探していたらその山が崩れちゃってねえ。」

「片付けながらやってください!」

「……言っても無駄なんじゃねえのか?」

 

実際ソーマの言う通りなのは今は考えないようにして、とにかく本題に入ろう。

 

「で、結局何だったんですか?」

 

……その問いに対する答えはあまりにも突飛な物だった。

 

「……その前に……神楽君、君の見解を聞こうか。これは何だと思う?」

 

博士は先日私が持ち帰った物を手に持って、もう片方の手の指で指した。

円柱上の容器の中に入った、光沢のない直径十数センチの白い球体。持ってきたときとはケースが違うから容器は博士の私物なのだろう。

そして、実際私には心当たりがあった。

 

「……複合コア、だと思います。」

 

博士は渋い顔を、ソーマはほんの少しだけ驚いた表情をする。

 

「僕の結論もそうさ。ただし、君のお父さんである神野桜鹿(おうか)博士の理論とは全く違うものから作られた物のようだけどね。」

「父のとは違う、ですか?」

「とにかくこれを見てほしい。」

 

そう言って部屋の奥からパネルを引っ張り出し、コンソールで操作した。映し出されたのは何かのレポートのような画面。球体が左右に一つずつあり、それぞれの横に文章が、さらに端の方には何かの数値が羅列されていた。その数値の中には所々赤く塗り分けられた箇所があった。

 

「右は桜鹿博士の最終レポートを抜粋したもの、左はこれについて僕なりにまとめたものの中から右と対応した部分を抜粋したものだ。赤文字になっているのは互いに全く違っている部分さ。ちなみにコアKは桜鹿博士の作った複合コアのことで、コアXは君が持ち帰った物のことだ。」

 

博士からそう説明を受ける。

 

「比較して分かったのは、コアKには人との適合を目的とした改良があったということ。コアXには変色場を強くするような操作がされていたことだね。」

 

……えっと?

 

「あのー……コアXの方が全然分からないんですが……」

「……今の話で分かる奴がいるのか?」

 

一応お父さんが作ったコアの方はよく知っているし簡単に分かるんだけど……

 

「うーん……ちょっと説明が難しいんだが……まあつまりはアラガミに影響がある感応現象を起こすみたいなんだ。」

「アラガミに?」

 

まあ確かに……いつだかに博士が言っていたように、感応現象の原因が偏食場同士の干渉にあるんだとしたら有り得るのかもしれないけど……

 

「何でこんなものを作ったのかは全くもって分からない。ただ……」

 

博士はそこで一瞬迷っているかのような表情を見せた。……結局次に口を開いたときには別の言葉が発せられる。

 

「いや、この話は終わりにしよう。まだ結論を出すのは性急すぎるからね。」

「え?」

「それともう一つ、君達がこの間旧市街地から持ち帰ったものだけどね……」

 

……これはこれ以上聞いても何も教えてはもらえないだろう。

 

「まだまだサンプル不足だから何とも言えないけど、確かなのはあれがアラガミのものであること。そしてその組織構成が人の頭髪に酷似していることの二つだ。……あれはとても興味深いよ。また見つけたら持ってきてほしい。」

「あ、はい。」

「……あればな。」

 

うん。とりあえずはあの子がアラガミではあるんだって分かっただけでも良しとしようか。

 

「ああそうだ。君は一回ヨハンのところに行くといいよ。彼が話したがっていたからね。」

「?」

 

博士がヨハンと呼ぶのは……支部長だよね?何で私と話したがってるんだろう?

 

「隊長への昇格が決まっただろう?その祝辞の一つも言っておかないと、だってさ。いやあ、彼もちゃんと支部長やってるね。」

「あ、なるほど。」

 

……それだけじゃない気がする……そう、漠然とした不安があった。

 

   *

 

「終わったか?」

「特務任された。」

「……そうか……深入りはするなよ。」

 

あの変人の部屋を後にしてすぐ支部長室へと向かった。神楽への話とかいうのは五分少々で終わり……

 

「深入り……?あ、あとソーマをよろしくだって。」

「……んのやろう……」

 

この扉蹴り壊してやろうか。そう思ったときに気が付いた。

 

「どうかしたのか?」

 

声が笑っている割に妙に思い詰めた表情。いつもが明るいだけに違和感が大きい。

 

「……うん……ちょっと……」

 

そこまで言いかけて、彼女は突然意識を失った。

 

「っ!おいっ!」

 

倒れる寸前で抱えることはできたが……特に熱がある様子もないのに呼吸が荒い。あたかも何かに魘されているようだった。

 

「……」

 

結論は俺の部屋に運ぶことだった。

 

   *

 

結局彼女が意識を失っていたのはほんの数分。目覚めるとすぐ状況は理解したらしい。……一応言っておくが寝ていたのはソファーの上だ。その隣に俺が座っていた。

 

「あはは……ごめんね。いきなり倒れちゃって……」

 

真っ青な顔で必死に笑っていた。

 

「……コアのこと、か?」

 

こいつが倒れた理由に少なからず関係しているであろうこと。聞けば、すこし青くなりつつびくりと体を震わせる。

 

「……でかな……」

「?」

「何で……こんなことに使われちゃってるのかな……」

 

つ、と涙が頬を伝う。それを皮切りに大粒の涙をこぼしていった。

 

「お父さんが……あんなに頑張って作ったのに……何で……」

「……フェンリルも、結局は一枚岩じゃねえ。」

 

神楽を抱き寄せつつ答える。……いや、答えにすらなっていないだろう。何と言えばいいのかなど全く分かっていないのだ。

だから少しでも考えを別に逸らさせようとした。不自然でなく、かつ全く関係がないに等しい事柄。その中ですぐに言えたのは……自分の過去の話だ。

 

「……マーナガルム計画……聞いたことあるか?」

「え……?」

 

あるはずもない。あの時のことを知っているのは今では極僅か……知っているものには戒厳令が敷かれた上、少しでもあれに関わった研究者の多くが第一ハイヴに住んでいたのだ。最後に立ち会った者達は、二人を除いて亡くなっている。

 

「俺がこういう体になった実験だ。マウスの段階で成功していただけのことを、人にいきなり適用した。」

「それって……」

「……胎内にいる胎児に、偏食因子を投与する。そうすれば生まれつき神機への適合係数を持ったアラガミと人間のハイブリッドが生まれることはマウスでの実験で確認されていた。」

 

詳しいことは当事者の俺もよく知らない。全て知っているのはおそらくたったの二人……あの変人と支部長の野郎だ。

 

「実験は結局失敗だった。俺を生んだ直後にお袋はアラガミ化したらしい。その実験中に助かったのは支部長と俺だけだ。」

「……」

 

じっと聞いていた神楽の目からはもう新たな涙は流れていない。……一応気は逸らせたか。

 

「これ以上のことは知らねえ……機会があったらあの変人にでも聞いてみろ。まあ、素直には教えてこねえだろうけどな。」

 

自分の言い方に苦笑いしちまうが……まあいい。

 

「……とにかく、結局のところフェンリルも一枚岩じゃねえんだ。はっきり言って技術の悪用があっても何もおかしくはない。」

「……うん……」

 

悲しげな表情にはなっても泣きはしない。ひとまずは落ち着いたのだろう。

 

「ただし、それが禁止事項だってのも事実だからな。発覚すれば極刑も有り得るレベルの重罪だ。ちなみに……捕獲権は俺達にもある。」

「……?」

 

いまいち的を得ていないのだろう。きょとんとでも付けたくなるような顔で俺の次の言葉を待っている。

 

「要は……お前の親父が残したものを使った野郎なんざ、俺達が捕まえればいいってことだ。……余裕で軍法会議に送れるさ。」

「……ほんとに?」

「ああ。」

 

後で神楽が言った言葉によれば、この時の俺は随分と痛快そうな意地の悪い笑みを浮かべていたらしい。

……彼女の親父が作り上げた複合コア。それがこうして使われることを不快に思うのは俺も同じだ。

 

「……っていうかソーマってさ……」

「あ?」

「すっごく口下手だよね。」

 

……この直後、彼女の額にデコピンが飛んだのは言うまでもない。

 

   *

 

余談だけど、この日の真夜中にエイジス島のシステムが誤作動を起こした。エイジス島に設置された観測機からアラガミの反応があったのに、そこにはアラガミの影も形もなく、外壁をぐるっと見回しても特に何の被害もなかったと報告された。

そして……叩き起こされたのは私とソーマである。センサーの異常?腹立たしい……エイジスに安物使うな!




…とりあえず本日はこれで終了ですね。この後になるとほんとに原作の本筋に関わる所になるので。
…編集せねば…

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。