GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
昇進
翌朝のことである。
「え?召集?」
いつものように任務に出ようとした私はカウンターでそれを聞いた。
「はい。ツバキさんから第一部隊員全員に当てて召集がかかっています。何でも第一部隊に重要な通達があるとのことですよ?」
「重要な通達ねえ……」
……まずい。心当たりがいっぱいだ。特にリンドウさん関係で。
「まあでも仕方ないか。……ねえねえ、そのアップルジュースちょうだい。」
後半は万屋に言った言葉だ。こちらが投げた代金を受け取ると、同じように缶を放ってくる。
「特にやることもないし、ここで待ってるよ。」
言いながらタブを引き上げる。
その後もしばらく話を続けること10分。エレベーターの扉が開いた。
「あ、おはようございます。……ってあれ?神楽さん?」
「おっすヒバリちゃん!頼んでおいた任務受注できてる?」
降りてきたのはカノンさんとタツミさん。ブレンダンさんは……そういえば今日は非番だっけ。
「おはよー。何かうちに召集かかってるっていうから待ってるんだ。カノンさん達は?」
「普通に任務です。……ちょっと私の射撃練習を兼ねてですね……」
ああ……そういうことか……
そして苦笑いを浮かべる私の横では……
「もちろんです。こちらですよね?」
タツミさんに任務詳細のレポートを渡すヒバリさんがいる。
「えーっと……サリエルの討伐任務……お、これだこれだ。さっすがヒバリさん!」
「……はあ……」
無駄に誉めちぎるタツミさん。……ため息を付いたヒバリさんはカノンさんへと目配せする。
「……タツミさん、とにかく早く行きましょうよ。」
「お?……ああそういえばそうか。んじゃヒバリさん、帰ってきたらデートでm」
「お断りします。」
この一言で意気消沈したタツミさんはカノンさんに引きずられていく形で任務へ。……それを見送るヒバリさんの表情は、なんだか寂しそうだった。
*
それから一時間ほどで第一部隊の今いる全員が集まった。
「全員召集か……ここまで突然ってのは初めてだな。」
「呼ばれる理由はいっぱいあるけどね。」
「リンドウが見つかったわけもないし……」
「何なんでしょう。コウタ、何か聞いてます?」
「いやいや、俺が知ってるわけないじゃん。」
各何が何だか分からずに話し合う。実際呼ばれる理由はあっても前触れがなさ過ぎだ。
「すっごく嫌な予感がする……」
「これは……もう考えても無駄だな。」
呆れているかのように溜息をつくソーマ。その溜息に重なるようなタイミングで耳慣れた靴音が近付いてきた。
「全員集まっているな。」
私たちを見回してから言う。答えたのはサクヤさん。
「はい……それで、何かあったんですか?」
「焦るな。別に何があったわけではない。」
……何かあったわけでは、ないって……
「第一部隊のリーダーの件だ。もっとも、リンドウのことでは無いがな。」
ツバキさんの言葉はこう続いた。
「本日の任務の完了を持って、神野神楽を第一部隊隊長に免ずる。これは決定事項だ。」
……ふむふむ。私が第一部隊長になることになっ……た……?
「ち、ちょっ……えええええ!」
驚く私。……それを余所に失礼な奴がいたりする。
「すげえ……出世じゃん。大出世じゃん!こういうの何て言うんだっけ?下克上!?」
「……それ、裏切りですよ?」
「わああ!二人とも何でそんなほのぼのした話にっ!」
第一部隊。どの支部でも、そこに所属しているのは超一級の神機使い。当然その隊長には相応の腕と指揮力、人望や、果ては新人育成能力まで要求される。
ツバキさんから定期的に送られてくる私の成績を見た場合、ひとまず一つ目は何とかクリアできているかもしれない。が、作戦指揮なんてやったこともないし、人望で言ったらまだサクヤさんの方が上だろうし、新人育成にいたってはその経験すらない。
「喚くな。お前のこれまでの戦績や人格を考えての結論だ。」
「そう言われましてもっ!ほ、ほらここにはソーマとか!」
「待て、何で俺が出てくる。俺は隊長になる気はねえぞ。」
「そんなこと言わないでよお!」
今現在、第一部隊には隊長がいない。当然ながらリンドウさんが失踪したからである。ちなみに臨時で務めていたのはサクヤさんだ。
「え、えと……何で私なんですか?」
とりあえず気を取り直して聞いてみる。……おそらく、もう何も変わらないだろうが。
「さっきも言ったが、一つはお前の最近の戦績だ。もうソーマにも劣らないようだからな。」
「は、はあ……でもまだソーマの方が経験も積んでいるし……」
それでもあたふたと逃れようとする私。……うう……我ながらかっこわるいなあ……
「そこで考慮されたのがお前の人格だ。ソーマは隊長向きではない。」
「当たり前だ。誰があんな面倒な役職に向いてるってんだ。」
……ソーマ……それけっこう自分を卑下しちゃってない?
「サクヤがサポートに向いていることはもとより分かっていること。アリサはまだここでの日数が足りなさすぎる。コウタは論外だ。」
「えっ!?」
「……まさか自分も候補にいるとか考えていたんですか?」
「うーん……実際リーダーってやりにくいのよねえ。」
三人は三人で好き勝手に言ってるし!
「結局のところ、お前が一番適任だということだ。本日の任務から帰投したらすぐに支部長室に来るように。以上。」
再度私の方を向きながらそれだけ言い残し、反論する暇もなく去っていったのだった。
「……なぜに……」
「とりあえず受けるしかなさそうだな。」
「うう……」
……決定。リンドウさんが帰ってきたら一発殴ってやろう。
*
「す、すごいことになってますね……」
「すごい云々の前に面倒だよお……」
そしてどうするでもなく任務の受注に向かった私。
「今日入っている任務は……あーどの地域にも複数体いますね。単体任務は第二部隊が遂行中です。そろそろ終わる頃ですね。」
「……もうどれでもいいよ……どれでも……」
うん……アマテラス二体とかスサノオ二体とかそんな面倒にも程があるやつじゃなければどれでも……
「えっと、それではポセイドン三体が空母エリアに出現していますのでそちらを……」
「却下!」
「冗談ですよ。」
……ヒバリさんが意地悪だよお……
「あまり辛くないものだと……旧工場エリアのヴァジュラとマグマ適応型ボルグ・カムランの討伐任務ですね。」
「まあその辺だったら良いかな。それじゃあそれを……」
とりあえずヒバリさんの薦めに従ってその任務を受注しようとしたときだ。
「ヒバ……さん!た、タツ……が……タ……ミさんが!ウ……ロスが来……それ……っ!」
カウンターの上に置かれた端末にカノンさんから通信が入る。こちらが受け取る前に声が聞こえたということは……緊急回線だろう。ノイズがひどいところをみるに、相当やばい状況下におかれていると考えて間違いない。
「私達で出る!通信こっちに繋いで!」
「了解しました!」
通信機にイヤホンを繋いでそれを耳に付けながら、一旦部屋に戻った残りの第一部隊員を集めるためにカウンターのマイクをこちらに向ける。
「第一部隊、出撃します。詳細は追って伝えます。」
……これじゃあ本当にリーダーみたいだ。のんびりしてはいられないながらも考えていた。
「神楽さん、繋ぎます!」
ヒバリさんから声がかかる。同時に耳に付けているイヤホンから声がした。
「かぐ……ん!……ミさんが!」
「落ち着いて。まずはどうしたのかから伝えて。」
そこで一旦言葉が切れる。風の音が強くなったし、アラガミの様子を確認しているようだ。
「任務……了して、そっち……通し……入れよ……って言……たら……ロヴォス……て……」
「うん。」
これは……よほどまずいことになっているということなのか?
「わた……気付……なく……タツミさ……庇っ……く……て……怪我……て……」
ちょうどみんなも降りてきた。
「大丈夫。私達が着いたら、すぐサクヤさんにそっちに行ってもらうから。場所はどこ?カノンさんに怪我はない?」
「ひが……ビルの1か……です……しは全ぜ……い丈……で……」
「了解。切るね。」
みんなの方を向く。
「……行くよ。」
*
「……何でそんなところにいつまでもいるんだ?」
「タツミさんが怪我してるから二人は動けないみたい。」
ヘリの中で状況説明。もうそろそろ着く頃だ。
「説明した通り、私達は平原の東側に降下。サクヤさんは大型救急キットを持って東端のビルの一階へ。それをコウタとアリサで援護。治療中は攻撃が届かないように防衛。」
「分かったわ。」
「了解です。」
「おっしゃ!任せろ!」
三人とも返事をする。
「私とソーマはウロヴォロスにそのまま突っ込んで攪乱。」
「ああ。」
そこからはしばらく無言になった。沈黙を破ったのはヘリのパイロット。
「あと一分で降下地点です。」
「了解。準備して。」
……といってもやることはない。神機を掴んで降下体制を取る。乱戦になるだろうから今日はバックラーだ。
「カウントします。10、9、8、7……」
……さて。
「3、2、1、0!」
「作戦開始!」
結構突然過ぎな気もするんですけどねえ。尺と話の密度の問題が…