GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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お久しぶりでございます。いやしかし…自分でも思いますが…不定期更新ですね。すみません。
本日も複数話投稿でいきたいと思います。内容としては二人のデートですね。


プレゼント

プレゼント

 

ちょっとあたふたしながらもほんわかとした翌日のこと。いつもはポニーテールにまとめている髪を今日はまとめずに風任せ。そんな、髪を振り乱し、ちょっとばかり準備を進めていた。

……突然ながら、私は今素晴らしく上機嫌で素晴らしく沈んでいる。……意味が分からないだろうが……その理由の説明以前に知ってほしいことがいくつか。

まず一つ目。実はアラガミの血液は化学物質を含むものが多く、あまりにも大量に浴びてしまうとその時着ていた衣服が使えなくなることがある。身体そのものには特に影響は出ないが。

二つ目。昨日の超大型戦闘で返り血まみれになった強襲兵服は当然の如く使えなくなった。つまりは新しい服を作るか何かしなければならない。

三つ目。現在の財布の残金はパーツの強化費用でほぼスッカラカン。

四つ目。壊したジープ代が給料から引かれた……

五つ目。とどめ……服のストックなし。もともと持っていたスイーパーは運悪く洗濯してしまっており、現在乾燥中。

もう分かったと思うが……戦闘服が全くない上に一月それが続くかもしれない状況になってしまった、というのが昨日の帰還報告及び訓告後一時間まで。

で、見かねたソーマが服を買ってくれるということになり、二人で休暇を取って(っていうか二人で療養中。過労でぶっ倒れたのだ。二人そろって。)今日出かけようということにまでなった。これが上機嫌な理由だ。……がしかし……

 

「何でこんな服しかないんだろう……」

 

神機使いになってからというもの、強襲兵服とネグリジェくらいしか着てなかったせいで、普段着はといえば……肩が紐だけの、白を基調として、青のアクセントが付いているワンピースのみ。丈は膝まで。神機使いになる前から来ているお気に入りの服。

外の季節は夏。……おかしくはない。おかしくはないさ。だが……一緒に買い物ってことは……

 

「……初デート……がこれえ?」

 

って話だ。……これが沈んでいる理由。もうちょっと勝負服的なものでも作っていれば……

……まあいつまでもこうしてはいられない。仕方がないので麦わら帽子なんてものをひっ被って、手には手作り弁当入りバスケットを持ち、サンダルを履いてエントランスへと降りた。彼が決めた行き先は外部居住区の一角らしい。まさかの行きつけの呉服屋だとか。そして最終地点は……居住区民のデートスポットだ。

 

   *

 

「最低でも……足りなくなることはないな。」

 

財布に入れた金額を確かめつつ呟く。50000fc。これで足りないようなことは……あっては困る。昨日の神楽でもあるまい。ジープ一台……凄まじい額だ。

 

「あら、どうかしたの?療養中じゃなかった?」

 

エントランスに降りてきたサクヤに聞かれる。俺と比べてダメージもずいぶん軽く済んだらしく、今日もまたコウタとアリサと共に出撃だと言う。……やばいアラガミはだいたい俺に集まって来やがるんだったな。

 

「外出許可は取った。……神楽の着るもんがねえからな。」

「ああ……そういえば……」

「……今のところあいつは一文無しだ。」

 

いつもケラケラと笑っている表情も苦笑いに変わる。……ジープを壊していたのは俺も予想外だった。あの黒煙がそれだったのか?

 

「ま、まあ、行ってらっしゃい。私すぐ任務だから。」

「……ああ。」

 

あいつなりに気を使ったのか。そんなことを考えながらサクヤを見送る。

その後程なくして神楽が降りてきた。

 

「お待たせっ!……って……」

「……何だ?」

 

降りてきたと同時に固まる。その目線は俺の服に向けられていた。

 

「かっこいい……」

「……そういうことをさらっと言うな……」

 

……さすがにいつもの服装で来ていいはずがないと思い、たまにしか着ていなかったダークブルーのジーンズに同型色のポロシャツ。その上にリバーシブルタイプの薄いシャツを羽織っている。……裏地がやはりダークブルー、表は黒とグレーのチェック柄だ。靴もそれに合わせて黒に銀のラインが入ったスニーカーを選んでいる。……ファッションとかいうものに興味があったほんの僅かな時代の遺品と言えるものばかりだが……

対して神楽はと言えば……?何を不安そうにしているんだ?

 

「ところでソーマ……これ、大丈夫かな?」

 

……そのどこに問題があると思っている、とはあえて聞くまい。……不安になる理由が分からなくなるほど似合っていた。

肩紐のみで吊された白のワンピースに明るい茶色のビーチサンダル風のスポーツサンダル。頭には麦わら帽子を被り、その縁からは風に流されて黒髪が広がる。そんな中で少しだけ入ったワンピースの青が映えている上、前で組むような形にした両手には小さめのバスケットを持っている……気取らずも可愛いとかどっかに載りそうな勢いだ。

 

「お前、その格好が似合ってることに気づいてないだろ。」

「……似合って……る?」

 

目をしばたかせ自身を見回す神楽。……その状態を似合っていると言わずに何を似合うと言えと……

 

「ああ。十二分にな。……そろそろ行くぞ。」

「あ、うん。……えへへ……」

 

鼻の下を人差し指で擦りつつ照れ笑い……これが意図的でないのが恐ろしい。本気だったらタツミすら手中に収めるだろう。……あのヒバリに一途と公言しているアホすらも。

 

   *

 

外部居住区には結構いろいろなお店や屋台が並んでいる。ごくごく普通の日用品から何が何だか分からない怪しげなものまで、隅から隅まで探して回ってしまえばほぼ全てのものが揃うほどだ。

 

「ソーマが言ってたお店ってどの辺にあるの?」

 

アナグラを出てから数分。時間が時間だから人通りもさほど多くはなく、二人で手を繋いでテクテクと歩いていた。ワンピースを棚引かせつつ吹く風も涼しく、絶好のデート日よりだ。目当ての呉服店はというと少し奥まったところにあるようで、だんだんと周囲の屋台などが少なくなってくる。

 

「あと二、三分だ。……近いくせに入り組んだところにあるからな。ったくあの変人め……」

 

さっきから道を間違えないように確認しながら歩いているように見える。どうやら途轍もなく分かりにくいところにあるらしい。

 

「変人?」

「まあな。」

 

変人って……いったいどういう意味でなのだろう?純粋に気になるのが半分、ソーマが変人というのはどんな人なのかというところに半分。

 

「……相当儲かっているはずなのに建物として店を持たねえ……だいたい自分の家すらすでに家とは呼べねえ……あいつが変人でなかったら誰が変わってるのか聞きたいくらいの変人だからな。覚悟しろよ。」

「うわあ……」

 

前言撤回。ソーマにここまで言わせる人物とはいったいどのような人なのか気になるのが十割に変更。

そんな若干の不安要素を含みつつの初デート。正直言わなくてもすごく楽しい。昨日あんなことがあったばかりだというのも重なってか、ソーマが隣にいるだけで嬉しくて仕方がない。しかも手を繋いで歩いていて……

 

「えへへ。」

 

自然と顔がほころんでしまう。それを微笑みながら見てくれる彼もいて……幸せってこういうことかあ、なんて思ったりするのだ。

 

   *

 

「ここだな。」

 

そう言って彼が止まったのはごくごく普通の民家らしき建物の前。一応呉服屋と看板は出ているものの、それに気付かなければ何の変哲もないただの家だ。

 

「ここ?誰か住んでそうだけど……」

「店の主人の家だ。もっとも、住むための部屋は一つしかないらしいがな。」

「あ、そういうこと。」

 

ためらいもなく扉を開いて中に入っていくソーマに続く。

 

「おい、いるか?」

「おじゃましまーす……わっ。」

 

中に入ると同時にありとあらゆる服が目に飛び込む。ターミナルで売っている数を遙かに凌駕するバリエーション。オーダーメイドを受け付けているとの張り紙も出ている。

 

「すごいね……」

「種類だけだったらターミナルの三倍はある。素材の問題がでかいが。」

 

三倍という数に驚いていると、奥から一人のおじいさんが出てきた。

 

「…お前か。確か17日ぶりだな。」

「相変わらず正確だなあんたは。」

 

……えっと?いきなり出てきていきなり時間を告げていきなりソーマが答えて……?戸惑っているとソーマが助け船を出してくれた。

 

「この爺は妙に覚えが良くてな。一度来た客の顔と名前を確実に覚える上に、その来店日時まで正確に覚えやがる。しかもそれをいちいち聞いてくるからな……近所でも変人で通っているほどだ。」

「……すご……」

 

改めて見てみると、どことなく威厳のある顔つきの楽しいおじいさんって感じで、見た目的には60代半ば頃。……にしては異常なほど引き締まった体つきに思える。着ている服は上下共に作業用のだぼっとした衣服だ。

 

「神機使いの同僚か?桐生忠志だ。ところでソーマ君よ、いったいいつの間に色男になりやがったんだ?」

 

……横を向きつつ片手で額を押さえるソーマと真っ赤になって俯いてもじもじする私。

 

「えっと、その……は、初めまして。神野神楽……です。」

 

どうにか自己紹介は済ませる。

 

「なるほど。神野さんか。……お前のオーダーはこの子用か?」

 

……オーダー?

 

「ああ。出来てるんだろ?あれだけの材料と一晩……あんたには十分すぎるだろうが。」

「?……??」

 

何が何だか話の脈絡すら掴めずに二人を交互に見やる。

 

「すぐに分かる。」

 

そう言って私の頭に手を乗せるソーマ。

 

「むう……」

 

……なんか納得できないっていうか何ていうか……

 

   *

 

その後私達は奥の布を被ったケースの前に案内された。

 

「自信作だ。ま、心行くまで見てみろ。」

 

桐生さんがそのケースの横に立つ。

 

「よっと。」

 

被さっていた布を一気に取り払って……

 

「わあ……」

「……良い出来だ。さすがだな。」

「おうよ!」

 

……中に入っていたのは一着の服を着たマネキン。

 

「……きれい……」

 

前にアーカイプで見た剣道着という服の上を膝上10センチくらいまで伸ばし、肩から先を取り払って、その上から細い帯を締めている。生地の色は白だ。右側に三ヶ所、赤い飾り紐もある。

腰からは1メートルほどのどこか柔らかな色合いの赤マントが同じく細い帯で止められ、さながらスカートのように広がっている。その下から覗く足には、太股に白地に赤の飾り縫いが付いた布製のリングが、膝から下に白を基調として黒のアクセントが入ったブーツを履いていた。

腕は肘の上5センチほどの位置から袖のような物のみが被せられ、太股にあるのと同じリングで着せられている。形状としては、こちらも前にアーカイプで見た巫女という女の子達が着ていた服の袖のように見え、こちらも白地に赤の飾り縫いが付いている。

肩には金属の肩当てが止められ、その縁から50センチほどのマントが広がっていた。こちらは赤を基調としている。

頭には髪飾り。枝垂れ桜をモチーフにしたような髪留めと、その花びらのような形状のリボンの二つだ。リボンの方はマネキンの頭にポニーテールを作っている。

そして何より、白地のワンピースには桜吹雪があしらわれていた。

その全てが調和していて……思わず魅入ってしまう。

 

「……気に入ったか?」

 

隣では満足げに笑っているソーマ。彼はケースの中の下の方にある一点を指さした。……そこには筆記体でこう書かれた一枚のプレート。

《To Kagura. From Soma.》

 

「とっても!」

 

思わず抱きつく。ただただ嬉しい。彼からの、初めての贈り物だ。

 

「おまっ……ここは店の中っ……!」

「あ……」

 

言われて慌てて離れて……ものの見事に爆笑を堪えている桐生さんがいることに気付く。

 

「え、えと!あのっ!」

「……ったく……」

 

ううう……またやっちゃった……

 

「ええとだ、とりあえず料金の方は12000fcだな。残った素材の分引いた額だ。」

 

笑いながら桐生さんが言ったのだが……12000!?服の料金じゃない……

 

「以外と安く済んだじゃねえか。」

「バーロー。お前が持ってきた素材がどんだけあったよ?」

 

私の目の前で交わされる会話。……嫌な予感が……

 

「……接触禁忌種系統の素材を各数十、だったか?」

「うそっ!」

「マジだ。お前さんの写真と素材と……いきなり持ってきて似合う服作れってんだからよお。ひっくり返ったねどうも。」

 

……ひょえええ……

 

「ま、その分ちょっとやそっとじゃ……と言うより、それがアラガミ程度の物からだったら絶対に破れねえし変質もしねえし……今んとこ世界最強の服だろうなあ……偏食因子で織ってるようなもんだからな。」

 

……安心した。一番の問題は返り血なわけで……

 

「ねえねえ、着て帰ってもいい?」

 

嬉しすぎてついそう聞いてしまう。

 

「あっちが試着室だったはずだ。待ってるから着てこい。」

 

そして、彼は優しく笑ってくれている。

 

「うん!」

 

桐生さんに服を運んでもらいながら試着室に駆けていった。……似合うといいなあ……

 

   *

 

「ずいぶんといい子を捕まえたもんじゃねえか。ええ?」

「…いろいろとな。」

 

戻ってきた桐生に料金を渡しながら話す。

……喜んでもらえるかが実際不安だった。ここに来るまでの道中もあちらこちらを訳もなく見ていたし、冷や汗を押さえるのに必死だったと言っていい。だからこそ、嬉しかった。たぶんあいつ以上に。

 

「そういや百田の奴はどうしてる?ここ二三ヶ月会ってねえからな。」

 

アナグラのエントランスに入り浸っているあの百田の爺と桐生とは過去に軍の同じ部隊でやっていたらしい。その後百田は神機使いに、桐生は軍の解体後にここを開いた。俺がこの店を知っていたのは百田の奴に教えられたからだ。元は普通の呉服屋だったらしいが、神機使いの増加に伴って戦闘服も作るようになったという。今ではアナグラ公認のアラガミ由来繊維織り師だ。……もっとも、神機使いの間での知名度は低いのだが。現役の神機使いでここを行きつけにしているのは俺とリンドウ、そしてサクヤくらいだ。

 

「相変わらずうちに入り浸ってるさ。酒飲み相手がいなくなって寂しがってるぜ?」

「……ああ、リンドウのことか。」

 

桐生は万屋とも親交がある。そのためアナグラ内の事情にも精通し、隠れた情報屋として外部居住区のご意見番と化すこともしばしばあるらしい。……元気な爺だ。

 

「まあ……たまには休みにして、あいつと飲みにでも行ってやるかねえ。」

「そうしとけ。じゃねえとエントランスが騒がしい。」

「っはっはっは!正直だなおい!」

 

一時期に比べて外部居住区の雰囲気も相当明るくなった。その影にはこいつのような人間がいたことも事実だ。

 

「……そろそろ出てくんじゃねえか?」

 

言われて時計を見る。……五分。確かにそろそろ……

 

「お待たせっ!」

 

なんとなくデジャヴな発言と共にこちらに見せたのは満面の笑み。これまで集めた素材を放り出した甲斐もあったというものだ。

 

「よく似合ってる。」

「ほんと!?」

「ああ。」

 

よほど嬉しいのかその場で一回転する神楽。二枚のマントや振り袖がたなびく。

 

「…守ってやれよ?」

 

横から言われた言葉。桐生はアラガミの襲撃で三年ほど前に妻を亡くしている。子宝には恵まれなかったが、近辺ではおしどり夫婦として有名だった。

 

「……当たり前だ。」

 

心からの言葉だ。

 

「……ならいい。……さて、この後はどうすんだ?」

 

後半は神楽にも聞こえるように言っていた。

 

「……この状況で外部居住区に出てまで行くところって言ったら……わかるんじゃねえのか?」

「おお、あそこか?……つーかお前……いつもは一人で行って……」

「言うな。」

 

目の前にはワクワクした目を向けている神楽がいる。あまり待たせるわけにもいかないだろう。

 

「行くか。」

「うん!」

 

答えて子犬のように付いてくる彼女。……それを見て改めて思う。支えるのではなく、支え合っていこうと。

 

「また来いよー。」

「もちろん!」

 

隣で桐生に手を振る彼女は、これまでで一番楽しそうだった。




今気付きましたが、今回結構長かったんですね。
桐生のアイディアはサクヤさんの服の説明から出てきました。なんでもサクヤさんの服であるシングルクロスはオーダーメイドなのだとか。
で、なんだか地味にファッショナブルなソーマもそういう店を知っててもおかしくないよな。なんて思い立ってこのようになりました。
それではまたしばらくお付き合いください。

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