GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
すれ違って互いに気付く
止める間もなくすっ飛んでっちゃった神楽において行かれた俺とアリサは、タツミさんと同じヘリに乗って現地に向かっていた。
「……西南西10キロか。たぶんもう着いてるな。」
冷静に考えるタツミさんの前でそわそわと落ち着けないでいた。
「そんな冷静に考えてる場合じゃないですって!何がどうなってるか分かんない場所に主力三人まず投入されてるってどういう!」
「いやいや、とにかく落ち付けって。こんな時に焦ってもどうにもならないんだよ。問題は着いたときにどうするかであって、今どうするかじゃないんだからよ。」
諭されて少し考え直す。
「だいたいあの三人だったら滅多なことじゃ死なないしな。のんびりしてらんないってのは正解でも、そこについてああだこうだ言うのは不正解だろ?」
「……はあ……」
彼らの強さは知っている。……知っているだけに心配なのだ。死に急ぎはしないか、と。
「あと五分以内に着きます!降下準備してください!」
パイロットが声を張り上げた。にわかに緊張が高まる。
「うっし、準備だ。お前ら、あんまり離れるなよ。」
「了解!」
「了解です。」
……問題の時間の始まりだ。
*
「道を……」
五分。ジープをオシャカにしてまでかっ飛ばした結果の到着タイムだ。
「空けろ!」
目の前にあるもの全て切り飛ばして突き進む。……まだ二人はいない。
髪も服もどこもかしこも鮮血にまみれ、体のどこを見ても赤く染まっている。そんなことで止まるつもりもないが。
「!」
走りに移行してから最初の大型種が姿を現した。……初手からスサノオとは……またすごいことになっている。
「だから……」
その尻尾に付いた刀が振られる。狙いは違わず、私を確実に串刺しにできる攻撃だ。
「道を空けろって……」
その刀をいなしつつ懐へ飛び込み、真上に神機を構える。
「言ってるでしょ!」
途切れかけた解放状態を再度の捕喰で回復させる。真上にあったスサノオの胴体は跡形もなく消え失せた。上から降ってくる血飛沫に構いもせずまた駆け出す。
スサノオを越えたところで見えたのは……アマテラスのようだ。第一種接触禁忌種の中でも特に警戒されるアラガミ。そのアマテラスの死体が二つと、完全な状態で残っているのが一体。その最後の一体らしきアマテラスが何かに向かって攻撃しているのが見て取れた。距離、目測にして約2キロ。その位置からは神機からのレーザーも撃たれていた。
「っ!」
さらに足を速める。……徐々に視界が赤く染まってゆく。頭ははっきりしているのに、自分の中でアラガミが強くなっている。こんなことは初めてだ。
……別にアラガミになったっていい。自分のことなんてどうだっていい。ただ、ソーマを助けたかった。
*
少し前。極東支部寄りの位置から爆発音が鳴り響いた。そちらを見れば、未だに黒煙が立ち上っている。
大型種討伐合計数19体。中型種討伐合計数37体。……小型はすでに、数えるのが面倒なほど潰している。三桁は軽く越えるだろう。
「ソーマ!あとどのくらいなの!」
「分かるわけねえだろ!」
サクヤすらも弱音を吐き始めている。……当然だ。並の神機使いだったらそもそも生きてはいないような状況下に置かれているんだからな。
一旦周囲のアラガミと距離をとり、遠方まで見回す。
「……チッ。」
見渡す限り赤い大地とアラガミの群。状況は絶望的、アナグラから援軍が来たとしても間に合う可能性は限りなく低い上、その後切り抜けることがそもそも苦しい。……いったいどうしろってんだ……
物資も切れ、全身怪我に覆われ、前後左右をまるでここに集められたかのような数のアラガミに包囲され……久しぶりに自らの死が頭をよぎる。
「バカなことを……」
考えていいものか。幾多の死の上に立っていながら……
だから活路を探して……
すぐ近く。本当にすぐ近くに、今一番会いたかった彼女を見つけた。
「ソーマ!」
……後ろにゼウス二体引き連れてくるか普通……そんな考えも今は捨てよう。
後ろから迫っているアマテラスを構うことはない。一気に駆け出す。……神楽とすれ違うまで三秒。彼女の速さを、もう体が覚えていた。いつの間にか……数え切れないほどの回数、共に任務に出たんだな。
すれ違いざまの頷き。意味は単純だ。
ゼウス二体の間。その真下から一気に跳躍する。
「沈め!」
左の一体の頭へと刃を深く食い込ませ、それを軸にさらに上へと飛び上がる。同時に神機を引き抜いた。
「っ!」
頭上へと振りあげた神機はその狙いを違うことなく、残ったゼウスを地表まで叩きつけた。
*
討伐総数……大型種23体、中型種30体、小型種は……分からない。外傷いっぱいアイテムなし、通信不能の満身創痍。それでも足は絶対に止まらない。
確実に近付いているさっきの場所。彼が戦っているであろうその場所は……
「ソーマ!」
彼の姿と共に唐突に目の前に現れた。
後ろからゼウスに追いかけられながらの登場……なかなかに滑稽な図だ。でもそれでいい。やっと彼に会えたのだ。無事、とは言えなくても、彼がそこにいた。
後ろにいるアマテラスに構わず私の後ろを見据える。
すれ違いながら交わした頷きの意味。互いに背中を任せられる相手への委託。……笑っていた。
アマテラスの腕が絡み合いながら向かってくる。それを上に跳躍して避け、足場としてさらに先へ。ばらけていくその触手を一本一本着実に進んでいく。目指すは頭の女神像。
「っ!」
渡っていくはずの触手上を別の腕が襲う。私よりも大きなそれを補食してもっと上へ。あと3メートル。最後に残った足場を蹴り女神像の真上へ。こちらを見上げたその顔に向かって神機を下方垂直に構える。
「落ちろっ!」
吸い込まれるように女神像に突き刺さって、そのままの勢いで地表まで貫いた。
*
アマテラスが散ってからすさまじい勢いで討伐が進んだ。元々機動力がないと戦いづらく、その上銃がろくに効かなかったのだから当然だろう。ソーマとサクヤさんのコンビではちょっと面倒な相手だ。
「……っはあぁぁ……」
周りにアラガミがいない。それを確認したとたんに気が抜けて盛大にため息を付く。
「……悪かったな。」
横にはソーマがいて、もう普通に話しかけてくれる。
「……そう言う場面じゃないよ?」
「ああ……」
彼は少し黙って……
「……ありがとう。」
そう言って、私を抱きしめて。
「……うん……」
初めて彼の背にいたときのような暖かさに包まれる。体を完全に預けて、首に回した手に支えられるようにくっついて……そうやって赤ん坊みたいにしていると、予想外のことが起こった。
「…?…!?」
「…!!」
……感応現象である。元々それがどういうものか知っていた私は一瞬で驚愕。ソーマは何が起こったか今一理解できていない模様。パッと離れた私達。……それはさておき、互いに何を知ったかと言えば……
「……くっ……」
「……ぷっ……」
そっくりそのまま、自分が考えていたこと、である。
「くくく……!」
「あっあははっ!」
一緒に吹き出して一緒に笑って。……きっとこれからも、そうして二人で行くのだろう。いろんなものを乗り越えて、いろんなことを楽しんで、いっぱい笑って、いっぱい泣いて。
そんな生活が、今はとても楽しいです。空を見上げて、私は初めて生きることが楽しいと、家族にそう言った。
そうだ、今私はこんなにも……
「……ん……」
こうして……自然と唇が引きつけられて。深く深く、口付けを交わして。
「……大好き……」
……とても楽しくって、とっても……しあわせです。
ちょっと無茶振りです。でもなんとなく有りそうな気がするんですよね。アラガミとほぼ同じだったら。
根拠は…GEコミカライズ、the spiral fateの方をご覧ください。次話でも説明を入れてあるにはあるのですが、おそらくコミックのほうが分かりやすいかと。
それでは皆様、また次回。