GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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…おぞましいほど原作から離れていることに気付く作者でございました。
まずい…収拾付くかなこれ…


異常事態

異常事態

 

一週間後。未だにソーマとはギクシャクしたまま……こちらから話すことができず、そのせいか彼からもあまり話を振らなくなってしまった。

 

「でもよかったよな。アリサ、復帰できるみたいだし。」

「……うん……」

「あーでも大丈夫かなあ……最近ヴァジュラ種の目撃情報増えてるけど……」

「……うん……」

「……聞いてる?」

「……うん……」

「……神楽ー?」

 

名前を呼ばれたことに気付くのに数秒、目の前にコウタがいたことに気付くのにさらに数秒。

 

「……あれっ?コウタ、いつの間にそこにいたの?」

「ちょっ!元々いたって!」

「……そうだっけ……」

 

だめだ……周りが全く見えていない。ちょっとでも気を抜くとソーマのことばかり頭に浮かんでいる。私、どうしたらいいんだろう……

そうやってまた自分の世界に飛んでしまいそうだった意識はエレベーターのドアが開く音で戻される。出てきたのはアリサだった。

 

「本日付けで……原隊復帰になりました。また……よろしくお願いします……」

 

前の彼女からは想像もつかないような、暗く沈んだ声。俯きがちに告げたその言葉にコウタが返す。

 

「実戦にはいつから復帰なの?」

「まだ……決まっていません……」

「そうなんだ……」

 

その会話に入ることもできず、ただ突っ立っていた。

……そして聞こえたのは一階からの声。

 

「おい聞いたかよ、例の新型やっと復帰したらしいぜ。」

 

アリサがビクリと肩を震わせる。

 

「ああ。リンドウさんと神楽さんを閉じこめた奴だろ……神楽さんがいなけりゃあ二人とも死んでたんじゃねえの?」

「そうそいつだよ。で、結局パニクって戦えなくなってたんだってさ。」

「プッハハ!ただの役立たずじゃねえか!」

 

聞こえよがしとはこのことを言うのだろう。

 

「……あなた達も……笑えばいいじゃないですか……」

 

諦めを含んだアリサの言葉。やはりコウタが返す。

 

「俺達は笑ったりしないよ。」

「えっ?」

 

……達、と言われては黙ってもいられないだろう。

 

「あれがアリサのせいじゃないことは私達は分かってる。……あんな風に言う人はいるかもしれないけど……そんなのはこれから見返せばいいよ。どうせその場その場で意見を変えるだろうから。」

 

……気付かぬ内に浮かべていた作り笑い。久しぶりに使っていた。まあ、アリサの表情もちょっとは良くなったからいいだろう。

 

「あの……もう一度私に、ちゃんと……」

 

一言一言絞り出すように答えていく彼女。……その後の言葉は、さすがに想定外だった。

 

「戦い方を教えてくれませんか?」

 

俯いていた顔を上げ、決意に満ちた目を向けつつそう言った。……その言葉に応えたい。けど……

 

「……ごめん。私は……ちょっと無理……」

 

そう答える以外のことができなかった。

 

「……そう……ですか……」

 

ほとんど泣きそうなアリサに申し訳なさを感じつつも、諦めてくれたことを喜んでいる私がいた。

 

「……ごめんね……今日もこれから任務だから……」

 

……平原でウロヴォロスの討伐。それが今日の任務内容だ。……同行者はいない。自分から、断った。

 

   *

 

出撃ゲートへと向かった神楽さん。……異常なほど思い詰めた表情をしていた。

 

「……神楽さん、どうかしたんですか?」

 

事情を知っているかもしれないコウタに聞いてはみる。

 

「うーん……俺も詳しくは分からないんだけど、何日か前から妙にとんでもない任務ばっか受けててさ、口数もめっきり減ったわ話しかけてもなかなか気付かないわ……ソーマともろくに話してないからなあ……今日なんかソロでウロヴォロスだし……」

 

ソロでウロヴォロス……神楽さんならば可能ではあるだろうが、そんなこと好き好んでやるものではない。

 

「ソーマも無茶な任務ばっか受けてるし……もう第一部隊がそもそもやばいんだよな……神楽とソーマは今言った通りだし、リンドウさんはいなくなっちゃうし、サクヤさんもあんまり部屋から出て来ないし……」

 

リンドウさんがいなくなったのはツバキさんからも聞いた。私の責任はないと言われたが、やはり原因となってしまったのではと考えてしまう。

 

「それで、戦い方を教えてほしいって……どしたの?元々強いじゃん。」

「……自分が守りたいものを、守りたいんです。」

 

それが理由。……守りたいと考えるだけで守れるのだったら苦労しない。私が守るための力を持っていなかったからこその頼みだ。

 

「……守りたいもの、か。」

 

守りたいものが守れずに消えたロシアでの日々。それを繰り返したくはない。

 

「分かった。俺でよければ付き合うよ。さすがに新型特有のは無理だけどさ。」

 

コウタからの提案。ありがたく受けよう。

 

「はい!」

 

   *

 

地響きを立てながらウロヴォロスが倒れる。そのコアを回収してアナグラに通信を繋いだ。

 

「……ヒバリさん、終わったよ。」

「お疲れさまでした。今迎えのヘリを出します。」

 

色褪せて見える世界。モノクロで、自分だけが浮き立っているかのようだ。

大きな被害はなく完了した任務。無傷で回収できたコア。普通ならば大喜びしてもいいような結果なのに……

ほとんどダメージのない体は、そこに立っているのを拒絶する。

 

「……何なんだろ……」

 

膝から染み込んでくる冷たい水。ついさっきまで戦って火照っていた体が急速に冷えていく。……雨で冷えた頬を雨とは別のものが伝った。隣には誰もいない。如実に感じられる事実。

空を見上げても、広がるのは灰色の空。そこに誰がいるというわけでもなく、それで気が晴れるということもなく。ただ寂しさのみが募る。

 

「私って……何なんだろ……」

 

もう自分がここにいるのかすら分からなかった。

 

   *

 

空母の上に累々と転がるアラガミの死体。そのどれもが第二種接触禁忌種だ。

 

「……終わりか。」

 

周りにアラガミの気配がないのを確認して回収を頼む。

 

「任務完了だ。回収頼む。」

「あ、はい。今地下鉄跡の方にヘリが出ているのでそれに回ってもらいますね。」

「ああ。」

 

……全く気が晴れない。これだけのアラガミを相手にしていながら、頭の中では神楽のことを考えている。

 

「……クソッ……」

 

瓦礫に背を預ける。何をしていても頭に浮かんでしまう彼女のこと。……辛いという以前に自分がふがいない。

 

   *

 

ヘリに先に乗っていたのはサクヤだった。

 

「お前か。」

「あら、ソーマじゃない。」

 

向かいの席に座って何をするでもなく外を眺める。アラガミの死骸はすでに霧散し、見えるのはぶっ壊れた空母と夕日を受けてまぶしいほどに光る海のみだ。

 

「乱気流があるんで迂回します。ちょっと時間かかるんでお願いします。」

 

操縦席の方からの声。帰り着くのは遅くなりそうだな。

 

「元気ないわねえ。」

「……」

 

元気がない……それとは少し違うだろう。自分が自分でない、何かが欠けちまっていると、そう感じている。

 

「神楽ちゃん、どうするの?」

 

……サクヤの口調はいつもよりも厳しいものになっていた。同性だからこそ分かるものでもあるのだろうか。

 

「……一つ、聞きたい。」

「え?」

 

絞り出すように言ってみる。

 

「俺は……あいつの側にいる資格があるのか?」

「……」

「あいつのことを考えてやってもいいと思うか?」

「……」

 

会話はそこで途切れる。俺はサクヤからの返答を待ち、サクヤは……考え込みつつ面食らっているかのようだ。そのサクヤが口を開いたとき、まず出てきたのは……

 

「当たり前よ。」

 

……救われた、それが表現として正しかった。

 

「最近あの子の顔見てる?あなたとあまり話さなくなってからずっとひどい顔してるわよ?……何があったかは知らないけど、あの子もたぶん悩んでるわ。毎日毎日泣きはらした後みたいに目を赤くして、話しかけてもろくに反応しないし、任務もとてつもないのばかり受けていつもふらふらになって帰ってきてる。……だから……」

 

いったん言葉を切った。

 

「今日帰ったら話を聞いてあげなさい。あのくらいの歳の女の子って、外から見えるよりずっと弱いんだから……あなたから聞かないと、いつまでも話は進まないわよ?」

 

……あのくらいの歳の女の子。その言葉が出てくる時点でこいつは俺よりも分かっているのだろう。その進言を無闇に切り捨てるはずもない。

 

「……ああ。そうするさ。」

「うん、よろしい。」

 

まあ、後の問題は切り出し方だな。そう考えて目を閉じる。

……同時に凄まじい衝撃がヘリを襲った。

 

「っ!何だっ!?」

「ソーマ!後ろ!」

 

言われて後ろを見やる。そこには操縦席がある……はずだった。

操縦席はパイロットごと、文字通り消えていた。空いた穴から見える地表にはウロヴォロス種の第一種接触禁忌種であるアマテラスが確認できる。間違いなく今の衝撃の元凶だろう。それが三体。それぞれが想像を絶する数の小~大型のアラガミを従えている。

 

「サクヤ!飛び降りろ!」

 

神機を取って飛び降りる。途端にヘリは火に包まれた。一秒でも遅れていれば爆発に巻き込まれて死んでいただろう。

 

「端から潰す!行くぞ!」

「了解!」

 

……死なずにいられることが奇跡であるような状態。だが俺は、死ぬ気など微塵もない。

……あいつと話しもせずに、死んでたまるものか……!

 

   *

 

その少し前のこと。

 

「それじゃ、メンテしとくね。」

「うん……」

 

相変わらず自分でも上の空な感じでふらふらとエントランスに入る。ちょうど任務終わりの時間だったのだろう。そこには結構な人数がいた。

 

「お帰り。どうだった?」

「あ、おかえりなさい。」

 

コウタとアリサからの声に反応するのに数秒かかった。

 

「……何とか終わった。……コア無傷で取れたから上々だと思う……」

 

その後はほとんど何も聞いていなかった。すごいとかいろいろ言われた気がするけど、たぶん生返事しかしていないだろう。……やはり頭の中は……

 

「……ソーマ……っ……」

 

口にまで出てしまうとは考えていなかった。

 

「あ、あの……神楽さん……本当に大丈夫ですか?」

 

アリサから聞かれ、また反応が遅れる。……その言葉へ答える前に警報が鳴り響いた。

 

「旧市街地西南西10キロ地点付近にて多数のアラガミが出現。接触禁忌種多数につき各部隊長及び第一部隊のみ出撃してください。」

「うわあ……俺らは全員かよ。アリサ、行ける?」

「大型は苦しいかもしれませんが……行けます!」

 

二人の会話を聞いて気が付いた。……ソーマがまだ帰ってきていない?

 

「また、現在現地で第一部隊員二名が交戦中。その救……」

「っ!」

 

先も聞かずに駆けだした。……ジープなら運転できる。

……今行くから。絶対すぐにそこに行くから。だから……死なないで。




…書きながら思ったこと。
「うわあ…アマテ三体とか死ぬわ。なんであいつら銃利かないんだし!バトルスタイル総崩れだっつーの!」
…実はこの作者、どんな装備での出撃だとしても強化パーツの「狙撃の名手」をはずさない生粋の銃主体型神機使いでして。いやもうアマテ倒すのとウロヴォ倒すのとだと時間が倍近くにまでなるという…
あ、ちなみにもう一話投稿します。あまりにもぶつ切れなので。

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