GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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えー、前回例によってとか言った割に今回のサブタイは結構意味が深いです。
まあ、お楽しみください。


奔流

奔流

 

「む……」

 

さて、翌日エントランスに降りた私はそう声を上げた。昨日病室で目を覚まし、アリサが起きるまで待ち、自室に戻ってからまた寝て、今日の朝起きて、日課をこなしてご飯食べて、二時間ばかり本読んで、エントランスに降りてきたのだが……好奇心に満ち溢れた目で私に駆け寄ってくるバカ、じゃなくってコウタが約一名。

 

「なあなあ、もしかして神楽って同性愛……」

「なわけないでしょ!」

「ぎいぃやあああああっ!」

 

……そしてそのバカの股間を蹴り上げる私。どうせ今日が非番な奴の外傷など知ったことではない。それも少しすれば治るようなもの……気にする必要はない。

そのときエントランスにいたのは、ソーマとヒバリさんとタツミさん。ソーマは忍び笑い。ヒバリさんは爆笑を堪えていて、タツミさんは……?何で顔色が悪いんでしょうねえ?でもって何で目を逸らすんでしょうねえ?全然わからないなあ。

 

「……いったい何がどうしたの?」

 

とりあえずソーマへ。予想が付いていないわけではないが。

 

「お、お前がアリサと寝てたからだろっ……く……くくく……」

「いやあれは成り行きで……」

 

笑いながら答えるソーマと狼狽する私。苦笑いのまま固まったヒバリさんと青ざめたタツミさん。白目剥いて大の字に倒れているコウタ……

 

「うわあ……また異質な光景だね。何があったか普通分からないはずなのに分かるって……」

 

そこにメンテ終わりのリッカさんまで来るんだから……

 

「よ、予想が付くって……付きますね。」

「でしょ?」

 

いつものごとく流れの掴めない挨拶だ。終わると同時にコウタを診に行くとはさすが神機及び使用者整備士(仮)。にしても……

 

「はあ。コウタに見られるとは……全然考えてなかった。」

「俺は関係なしか?」

「ソーマは見ても誤解しないじゃん。」

「まあ、確かにな。」

 

うん。本当に無警戒だった。帰ってきてアリサのお見舞いに来ることは簡単に予想が付くはずなのに……

と、ソーマが腰を上げる。

 

「どしたの?」

 

特に何も言わず立ち上がった時点で特別任務っぽいけど……

 

「偵察任務だ。……来るか?」

「いいの?」

 

特別任務かと思ったのだが……行っていいのだろうか?

 

「今回は許可されてるからな。」

「あ、なるほど。」

 

どうやら勘は当たっていたようだ。

 

   *

 

廃寺。偵察エリアはそこだった。

 

「……いつもより天気悪いね。」

 

ここでは雪が降っていることが普通なほどだが、今日は特別ひどい。吹雪だ。前見えない。って言うか向かい風。歩くの大変。白のスイーパーにしてきて正解だった……ってわけでもない。風になびいちゃって動きにくい。

まあそんな文句ばかりの私の横では……

 

「だから探すんだとさ。吹雪の中に隠れてるとでも言うつもりか?……ったく支部長のやろう……」

 

ソーマも文句を言う。……この日が一年でもっともひどい天気ではないかとすら思えるくらいだから仕方がない。測定方法ないけど。測定機置いたってすぐにアラガミに破壊されるのだから意味がない。

 

「東から回ってくれ。俺は西から行く。」

「了解。気をつけてね。」

「フン。お互い様だろうが。」

 

さて、何がいるのか知らないけど、索敵開始だ。

 

   *

 

「いたか?」

「いない。」

 

東西から回って北の本堂前へ。合流したものの、結局何も見つからなかった。

 

「後は……真ん中の通路だけだよね。」

「ああ。チッ。戻るしかねえ……!」

「っ!」

 

二人同時に気が付いた。何かがいる、と。アラガミでもなく人でもなく、何かが。

 

「行くぞ。」

 

本堂へゆっくりと向かうソーマ。無言で頷きを返し後に続く。

屋根が所々崩れていると言っても建物は建物。中に入ると外の吹雪をだいたい防ぐことができた。というかそんなことはどうでもいい。問題は……

 

「?」

 

壊れた仏像の前に、少女がいたことだ。いや、少女というのは適切ではない。

 

「ソーマ、この子……」

「アラガミ……だな。何がどうしてんのかわけが分からねえが。」

 

目の前の、体色が真っ白な少女のようなものから発せられる気配は、間違いなくアラガミのものだ。だというのに、人の気配も混じっている……はっきり言って存在からして謎だ。

 

「探せって言われてたのこの子なのかな?」

「分からねえ。つってもこれだけ珍しい奴だと……有り得るな。捕獲できれば楽なんだが……」

 

発見時から全く変わらない表情。姿勢もこれといって変化なし。こちらの出方を伺っているようにも見えるが、そもそもそんなことをするアラガミがいるだろうか?

と、突然動いた。突然すぎてこちらの対応が間に合わないほどに。向かったのは北西の壁に空いた大穴。

 

「あっ!」

「なっ!」

 

時を同じくして本堂東側の壁が破られる。瓦礫と共に入ってきたのは黒いヴァジュラ。

 

「こんな時に……っ!」

 

飛ばされた瓦礫。その中の一つが少女型のアラガミに当たる。

 

「神楽!あれを守れ!」

 

ソーマから発せられた意外な言葉。その理由は単純だった。黒いヴァジュラの目は少女型のアラガミに向けられていたのだ。

 

「分かった!」

 

私が言うか言わないかの内にソーマが仕掛ける。頭を狙っての左からの薙払い。上に跳躍されて空を切った刃を体ごと回転させて振り下ろしへと転じる。

 

「くっ……」

 

今度は壁を蹴って避けられる。東側の残った部分を吹き飛ばしつつだ。そのままソーマを飛び越えてこちらへと突進してくる。

 

「この……!」

 

それに向かってスプレッドタイプの弾丸を放つ。それすらも後ろに跳ばれて外れた。

その跳んだ先のすぐ後ろでは彼が攻撃態勢に入っている。着地点からの切り上げ。タイミングもぴったりだ。…だったのだが……

 

「ガッ……」

「!」

 

逆にソーマが吹き飛ばされる。空中で放電するなど……聞いたことがない。

 

「ソーマ!」

「構うな!そいつを守る方に集中しろ!」

 

……見た目ほどダメージは大きくないようだ。叱咤されたとおりこの子を守ることにする。

前足を振り抜き、その爪で切り裂こうと向かってくる。真後ろにこの子がいる以上避けられない。

 

「くうっ……」

 

神機で受け止め踏みとどまる。ヴァジュラ種である以上はここから背後に攻撃することはまずない。……そう思って、油断した。周りの気配を読んでいなかった。特に、真後ろを。

轟音が響き、後ろの壁が壊され、焦って確認した少女はまだ同じ場所にいて……

 

「神楽っ!逃げろっ!」

 

上を見たら……プリティヴィ・マータが飛び込んでいた。

 

「ーーーっ!」

 

……その口が大きく開かれ……

 

「……えっ?」

 

上半身だけが頭上を飛び越えていった。

……下半身は少女の腕の中へと消えていた。神機の捕食形態のような腕の中へ。

 

「無事かっ!?」

 

彼の声に振り向いたその一瞬。数秒にも満たないその一瞬の間に、少女も黒いヴァジュラも消えていた。

 

「私は大丈夫だけど……なにが……」

 

憶測混じりのことでないと予測すらつけられない。

 

「黒い奴にかぶってたからな……」

「わかんないか。」

 

その会話の間にソーマがコアを回収した。一応、だけど。半身なくなっていたら死骸にコアがあるかは怪しい。

 

「……無傷か。」

「ラッキーだね。」

「ああ。言い訳も立つ。」

 

言い訳……?

 

「あの子のことは報告しないってことでいいの?」

 

そう聞くと彼は意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「はっ。報告できるような材料もねえからな。」

「うわあ……でも賛成。」

 

私を守ってくれたなどという考えは持たない。アラガミにそんな人間的な感情が宿るという保証はないから。ただ、根拠も確証もないけど……それを差し引いても彼女は敵ではないとも感じた。

 

「……戻ろっか。」

「そうだな。」

 

どことなく沈んだ感情。それはソーマも同じであるようで……

外の吹雪は土砂降りに変わり、空に浮かぶ真っ黒な雲の中からは雷鳴が轟いていた。

 

   *

 

自室のシャワー室で汗を流す。……俺の部屋の中で唯一まともな状態を保っている場所だ。

 

「あいつ……」

 

廃寺で見たあのアラガミ。気配はあの時と同じ、旧市街地で感じたものだ。

 

「……チッ。」

 

頭から離れない。人型で純白とも言えるあの体。だが……間違いなく俺も同じもの。捕喰本能に染まった、人型のアラガミ。

 

「クソッ!」

 

壁を殴りつける。……タイルが割れ、周囲にヒビが入った。

神楽も同じものを背負っている。そしてそれを受け入れている。だからこそ俺はあいつに惹かれた。だから俺はあいつを支えようと思った。守ろうと思った。俺が支えられる場所を。彼女の中でまだ弱くもろい部分を。……だが現実はどうだ?支えようと思っていながら支えられ、守ろうとしながら守れず。結局自分を受け入れることもできていない。

 

「……すまない……」

 

ここで言ったところで、彼女に聞こえるはずもない。

 

   *

 

「はあ……」

 

……帰ってきてからいったい何度溜息をついただろう。頭の中は、ソーマと彼女のことでいっぱいだった。

 

「だめだなあ……私。」

 

彼と一緒にいたいって、彼と進んでいきたいって、そんな風に考えていたはずなのに……私は未だに、自分がアラガミであることを本当の意味では受け入れていなかった。あの子の背後から漂うかのような捕食本能の気配。同じものが私の中にあり、いつ人を襲うかわからない。理解していたはずのその事実が重くのし掛かる。……同じものを持っているというのに、ソーマとはなんと違うことか……

 

「……ソーマ……」

 

目を閉じて枕を抱き寄せる。彼が私だけに見せる優しげな笑みが頭に浮かんで……

 

「……ごめんね……」

 

……なんて……聞こえるはずもないというのに……

 

   *

 

翌日から、彼との会話が減った。




破局です。一種の破局です。でも長続きは《ピー》
おっと、放送禁止のようですね。

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