GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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今回のサブタイですが、例によって深い意味はありません。
…くそお…夏休みが終わってしまった…


変わりゆくもの

変わりゆくもの

 

「おはよう。」

 

毎朝の日課。写真の中で笑っている家族への挨拶。

アリサも目が覚めたし今日もお見舞いに行くとして……残りの時間はどうしようか?

そりゃあまあ、一人で出撃って言うのもありなんだけど……何せ今日は久しぶりの休暇なのだ。というか初めての、と言えるかもしれない。前回の休暇はアラガミの襲撃で潰れちゃったわけで。

今日休暇になっているのは私とサクヤさん。ソーマとコウタは明後日だ。……残念……

 

「うーん……サクヤさんのとこにでも行こうかなあ。」

 

結局思いついたのはそんなことだった。

 

   *

 

二時間後。もちろん朝六時である。

 

「サクヤさーん。」

 

特に気がねなく部屋のドアをノックしたのだが……

 

「っ!誰っ?」

 

……え、えっと?何でそんな身構えたような……

 

「神楽ですけど……今ダメですか?」

 

返事は……

 

「あなたかあ。そこじゃ何だし、入って。」

 

……なぜに安心したような口調なのであろうか?ま、とりあえず入ろう。

 

「おはようございます。……やっぱり休暇って暇ですよお。」

「あはは。ソーマは休暇じゃないもんね。」

 

……バレた。

 

「別に任務に行ってもいいとは思うんですけど……なんせまともな休暇は初めてになりそうですから。」

「あ、そういえば前の休暇って……」

「……猫との初戦闘でした。」

 

顔を見合わせて笑う。……その内止まらなくなり……サクヤさんに何かのスイッチが入った。

 

「あーっはは!そういえば神楽ちゃんが赤ん坊みたいに泣いたりっ!」

「ちょっ!」

「ソーマまで感化されてたあ!あ、あははっ!」

「さ、サクヤさあん!」

 

遊ばれている。絶対遊ばれている。

と、サクヤさんは笑い、私は真っ赤になってじたばたすること二分。

 

「そうそう、試したわよ。結果大成功。」

「へ?」

 

前触れもなく言ったサクヤさん。何のことだか分からなくて首を傾げる。

 

「ほら、リンドウが最近デートに行くことが多いって言ったときのアドバイス。」

「えっと……!」

 

確かに聞かれた。確かに答えた。……そう。

 

「ベ・ッ・ド・の・な・か・で♪聞いたもんねー。うーん。ピロートークって偉大だわー。」

「ひゃあっ!」

 

……戻りかけた顔色は再度真っ赤になり……それはすぐに戻された。他でもないサクヤさんの言葉によって。

 

「……うん……全部、聞いたわ……」

「……」

 

サクヤさんの目はどこか遠くを見るようで……目の前にいるのに、まるでここにはいないかのように思えた。

 

「あの様子だと……あなたも知ってるの?」

「……メールで……リンドウさんから送られてきました。」

「そう。」

 

そこでサクヤさんはポケットへと手を伸ばした。取り出したのは一枚のディスク。

 

「それは?」

「リンドウからのメッセージよ。これと同じディスクを探し出せって。情報を入れてあるらしいわ。」

 

リンドウさんらしくもない手の込んだ受け渡し。それほどに大きな相手なのだからしょうがないだろう。

 

「二分ノ一って書いてあるし……全部で二つかな。ある場所に隠したって、このディスクに残されている。これに入っていたのは文章データだったわ。私宛の手紙。」

 

ある場所……サクヤさんとリンドウさんにとっての思い出の地なのだろうか……今はまだ分からない。まあ、私の勘は結構当たるようだけど。

 

「……暇があったら、でいいんだけど、ちょっと探してみてほしいの。……いい?」

「……それ、結構卑怯ですよお?」

 

全く。そう言われて探さないわけになどいかないではないか。

 

「もちろん探します。乗りかかった船ですから。」

「ええ。ありがとう……」

 

心地よい沈黙が続く。にしても、よっぽど好きなんだなあ。二人とも。……なんて言ったら絶対反撃されるんだろうなあ。

その沈黙を破ったのは私。

 

「あの、アリサのお見舞い行きません?」

「……そうね。もうちょっとしたら行くわ。先に行いってていいわよ。」

「そうですか?」

 

じゃあお言葉に甘えてお先に、と思って部屋を出ようとしたときだ。

 

「……神楽ちゃん……」

 

サクヤさんに呼び止められた。振り向いて確認したその表情はとても穏やかに笑っている。

 

「……ありがとう。」

「いえ……後で病室で合流しましょうね。」

「ええ。」

 

……よかった。もう、そんなに悩んでないみたいだ。

 

   *

 

「六時……」

 

不覚だ……まさかこんな時間に起きるなんて……絶対リズム崩れてる。絶対。

 

「こんな時間じゃあ二度寝するわけにも……」

 

正確には現在六時三十七分。二度寝してたら誰かがきてあられもない寝相姿を見られたりしそうだし……何にもせずにぼんやりするなんてちょっと寂しいし……

 

「……こういうときに神楽さんが来てくれるとなあ……?……っひゃああっ!」

 

後半はドアを見てからの言葉。たぶん寝てるのをじゃましたら悪いとかそういう理由だったとは思うのだけれど……少し扉を開けてこっちを見ている神楽さんがいたのだ。布製の袋をを下げ、完全に表情を固めて。っていうか徐々に赤くして。

 

「……ま、まさか来てくれたらなあ、なんて言ってもらえるとは思ってなかったなあ……」

「な、な、何であなたが赤くなるんですか!それよりっ、の、ノックしてくださいよ!」

「いやあ時間が時間だから寝てるかと思って……」

 

くっ……やっぱりそれか……

 

「構いません!起きてなかったときにとんでもない寝相見られるよりはましですっ!」

 

こちらが言うと同時に神楽さんが驚愕する。

 

「寝相ひどいの!?アリサが!?」

「!」

 

まずい。言ってしまった……

 

「……はい……」

 

気まずい空気になる。……なるべく周りを見てから発言しよう。独り言すらどこかで聞かれそう……っていうか今聞かれたし。

 

「え、えーっと、調子どう?」

「調子はいいですけど機嫌が悪いです!」

 

実のところ、機嫌はいい。こうして神楽さんが今日もお見舞いに来てくれているからだ。が、さっきのことがあるからどうしてもこうなる。……昔から気が付いていることだが、どうやら私は素直な方ではないらしい。

 

「ま、まあまあ。リンゴ買ってきたからさあ、これ食べて機嫌直しなよ。」

 

と言って袋から赤い果物を取り出す。……見覚えがない。

 

「何ですか?それ。」

 

聞くと、ちょっと懐かしそうな表情をした。

 

「お母さんがよく買ってきてくれた果物なんだ。……食べたこと、ない?」

「……始めて見ました。ロシアの方だとグレープとかが果物の代表格だったし……こっちに来てからは全然果物を食べたりしてないので。」

 

実際には他のものの方がよく食べられているけど、たぶんこっちではこれを例に取る方がいい。

 

「なるほど。」

 

再度答えつつ袋からいろいろと取り出していく。お皿と果物ナイフ。それにフォークもあった。

 

「皮剥かなくっても食べられることは食べられるんだけどねえ……私の好みの問題が……」

 

と言いつつ丸剥きで皮を剥いていくのだが……速い。異常なまでに。どうして4cm大の果物の皮が十秒ちょっとで剥けるんだろうか?

 

「……何でそんなに速いんですか?」

「……慣れ?だと思う。」

 

しれっと言ってのける。そういう問題じゃないと思うんだけど……

結果、皮を剥いて六等分して芯を取るまで一分半くらいしかかからないという……

 

「はい。これでOK。」

「ありがとうございます。」

 

お皿の上に出されたこのリンゴって言う果物を口に運ぶ。

 

「……おいしいです。」

 

甘すぎず、といって酸っぱくない。シャリシャリとした食感もいい。適度な水分を含んで……これまでリンゴを食べてこなかったのが残念なほどだ。

 

「でしょー。ほらほら、まだあるよ。」

「……って言いつつちゃっかり二切れ目に手を伸ばしているのはどう解釈すればいいんですか!?」

「んー?気にしない気にしない。」

 

こ、この人は……

そんな感じでしばらく談笑しているとドアが開いた。……入ってきたのはサクヤさん。

 

「あ、どもども。」

 

神楽さんはそう軽く言っているのだが……私は事情が事情だけにそうもいかない。

 

「……何しに……来たんですか……?」

 

警戒しつつ聞く。

 

「大丈夫。ただのお見舞いよ。……それと……あの日、いったい何があったのか聞きたいの。」

「そう……ですか。」

 

……当然だろう……そしてそれを話すことは私の義務でもある。

大きく深呼吸をしてから、口を開いた。

 

   *

 

「……それでなぜかあの時……私の中でリンドウさんがアラガミになってて……!」

 

……声が震え出す。初めからここまで話すだけでももう汗だくだ。

 

「……気が付いたらっ……リンドウさんに神機を向けてて……ぁあああぁぁあ!」

 

……頭が痛い。内側から砕かれるような気分ですらある。

 

「アリサ……無理はしなくていいから……」

 

そう言って神楽さんが背中を撫でてくれてやっと落ち着く。

……息を整え、残りをすべて話した。リンドウさんの言葉を思い出したこと。そして……天井を撃ったこと……

言い終わると同時に目眩がひどくなる。吐きそうなほどに。

 

「大丈夫だよ。大丈夫。よく話せた。」

 

そんな私を、神楽さんはベッドの方に腰を移してしっかりと抱きしめてくれて……

 

「神楽ちゃん、ちょっとお願いね。飲み物買ってくるから。」

 

サクヤさんが病室を出て……神楽さんの胸で泣いた。私がそうしやすいように、靴まで脱いで体制を変えてくれて……そのまま意識が途切れた……

 

   *

 

サクヤさんが戻ってきたのは五分くらい経ってから。

 

「ごめんごめん。そこの自販機使えなくって上まで……って、あらあら。」

「あはは……いつの間にやらって感じですね。」

 

サクヤさんの途中の言葉から小声。理由は……ベッドの上でひざを曲げて座る私の膝の上で、アリサが寝ているからである。私の胴に手を回し、離すまいとしっかり抱きしめて。その背を優しくゆっくりと叩いている。怜がよくこうして寝てしまったからお手のものだ。と言っても、だ……言っておくが私の服は強襲兵用の衣服であって……お腹周りは裸だ。ちょっとくすぐったい……

 

「……とりあえずしばらくこうしてるしかないですね。」

 

そろそろソーマも帰ってくるだろうけど、アリサをこのままにはできないし……それ以上に……

 

「そう言ってるにしては嬉しそうね。はい、神楽ちゃんの分。コーヒーでよかった?」

「あ、はい。ありがとうございます。」

 

そう……なぜか嬉しいのだ。……と言うより、どうしても懐かしい。お父さんやお母さんの膝で眠った日々。怜に膝枕してあげていた日々。それらが思い出される……

 

「先に戻ってるわね。これ、アリサが起きたらあげておいて。」

 

と言って横の引き出しの上にアップルジュースを置いていく。その背を見送って……

……日頃の疲れからだろうか?私まで眠っていた。




第一部隊女性陣のみの回は今回が初…かな?
作者の趣味の関係上、若干百合っぽくなってしまうのはご容赦ください。いや本当に。
さて、本日はあと二話ほど投稿する予定です。…もうそろそろ一日複数話が限界に近づいてますが…

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