GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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行く、を逝く、に脳内変換してはいけません。
いくら原作ストーリー上そうなった人がいたとしてもいけません。


行く人

行く人

 

翌日明朝……

 

「第一部隊長であるリンドウだが……失踪した。」

 

ツバキさんの言葉。エントランスに集められた私達が、各見せる反応。

 

「……」

 

黙って顔をしかめるソーマ。

 

「……そう……ですか……」

 

驚きを隠せないながらもどこか納得した様子のサクヤさん。

 

「え、えっと……何で?」

 

……とりあえずコウタは放置の方向としよう。

 

「理由は不明だが、あいつは自分で腕輪反応を隠している。どうやってかもわからん上、これでは追跡できない。今のところは各部隊に任務帰りに空から確認させているが……それで発見できる可能性は極めて低いだろう。」

 

腕輪反応を自分で隠している、か……私みたいになっても大丈夫ってわけもないし……最低でも偏食因子の投与としての役割は果たさせてるよね。

 

「偏食因子が保管庫から相当消えているが、おそらくはリンドウが持ち去ったと思われる。第一部隊はその補充に当たってくれ。」

「フン。リーダーのケツは隊員が拭けってか。」

「その解釈でも良いが……」

 

ツバキさんが口ごもる。何かあったのだろうか?

 

「持ち出された偏食因子がどれも強力なアラガミ由来のものであるため、お前達でなければ確実に集められるかが怪しい、というのが一番の理由だ。」

 

……なんという……まさかそれが狙いだったとか?

 

「アリサのこともあっていろいろと思うところはあるだろうが、今は目の前のことに集中しろ。最近はアラガミも活性化しているからな。」

 

私とリンドウさんが教会に閉じこめられたのを皮切りに、とでも言う感じで起こったアラガミの活性化。以前と比べ、防壁を破られることも多くなっている。そんな状況でいない人間のことを考えてもしょうがないだろう。

だから今は……

 

「了解!」

 

私が今出来ることを精一杯やろう。

 

   *

 

話が終わってから三々五々に散った私達。その後私自身はというと……

 

「ふう。討伐完了っと。」

 

地下鉄跡での任務を完了させていた。目標はマグマ適応型ボルグ・カムラン。ついでにヴァジュラテイル。

何はともあれアナグラに通信して回収してもらうだけだ。

 

「あ、ヒバリさん。任務終わったよ。」

「はい。お疲れさまでした。すぐにヘリを出し……」

 

通信はそこで遮られた。後に聞こえたのはノイズと……何かが天井を破ったとでも言うような轟音。そしてアラガミの声。近い。だというのに種別が分からない。聞いたことのない声だった。

 

「ヒバリさん!?応答して!……だめか……」

 

いくら呼びかけても向こうからの返答はない。聞こえるのは戦闘音のみ。

 

「……」

 

……通信機に内蔵してもらった非常事態ボタンを押した。

 

   *

 

ダッシュで音がした地点に向かった私の目に飛び込んだのは見覚えのないアラガミと一人で対峙するソーマ。……明らかに劣勢で。

 

「ソーマっ!」

 

そのアラガミは……言うなれば黒いヴァジュラだった。だがその顔は人面となり、全身からまがまがしい何かを発しているかのように帯電している。間違いなく上位種。いや、別種と考えて良いかもしれない。それ以前に間違いなく起こってるよ……面倒……

 

「っ!?何でお前がここにいるんだ?」

「ここ元々私の作戦区域。ソーマとあのアラガミがさっき降ってきて……っていうかあれ何?」

「俺に聞くな。」

 

話した限り彼は大丈夫そうだ。ただし、疲労の仕方が尋常ではない。

 

「っ!何発入れたの!?」

 

発せられた雷球をガードしつつ聞く。後ずさりもしているが。

 

「……一発もっ……入ってねえ!」

 

その言葉通り、と言うべきか。彼が振った神機の切っ先はいとも簡単にかわされた。

そのかわした後の隙を狙って神機を振るうものの……

 

「速い……」

 

同じく空を切る。続けて振っていくものの結果は変わらず、私の方にも疲労が蓄積していく。

そうして避ける間にも攻撃してくるのだから……

 

「……これっ……どうしろっ……て……言う……わけ……?」

「……知るか……だいたいこいつは……討伐対象じゃねえ……」

 

……そうでもなければこんなのと一人で戦ってるわけがない……って、今はそんなことはどうでもいいんだけど。問題はどう討伐するか、またはどう撤退するか。

 

「……逃げるの……試した?」

 

一応聞いてみる。おそらく試したろうとは思うけど……

 

「そもそもグレネードを持ってきてねえ……」

 

……えっと……お疲れさまです。

でもそれだったら好都合。これで試したとか言われたらやりようがないけど、まだ試してないんだったら効果はあるかもしれない。

 

「んっ!」

 

角に退きながらグレネードを地面に投げつける。……他種のアラガミと比べてずいぶん効果があるようで。

 

「……ビンゴだな。今の内に引くぞ。」

「分かってる。」

 

その隙をどうにかついてぎりぎりで逃げ出した。

 

   *

 

「というわけで、突っ走ってたらヒバリさんから通信が入ってやっとの思いでヘリに乗って帰ってきたんだけど……さすがに疲れた……」

 

命辛々帰還したアナグラのエントランスのソファーにコウタが座っていた。のんびりと。

 

「大変だったんだ……こっちじゃあ二人と通信が切れてちょっと騒ぎになってたよ。何が起こった!って。ソーマが通信不能になった直後だったからさ。神楽まで切れたの。しかも非常信号が出てたもんな。」

ツバキさんの声真似をしながら言う。一人が通信不能になったならその場所での電波障害であると結論付けられるが、別地域にいたはずの二人目が同じく通信不能になったとしたらただ事ではないと推察される。まあもっとも、腕輪反応の有無も関わってくる。私の場合、今のところコア反応が代用されてるんだけど……一向に解決される様子のない腕輪の代用品問題はどうしたものか。

なんてことをコウタの正面に座りながら考える。隣にはソーマが座った。同時に彼が口を開く。

 

「それで?あの新種の情報は何かあるのか?」

 

例のアラガミの特徴はヘリの中で伝えてある。情報があればもう出て来ているはずだ。

 

「うーん……これと言って特にって感じ。似たような状況になったことはあってもソーマ達が戦ったアラガミに類似するのはいないみたいでさ。とりあえずはヴァジュラの変異種だろうって見方が一番有力かな。」

「そうか。」

 

……くそったれが。間違いなくそう思っている。

 

「ところで、さあ。」

 

コウタが話を変える。

 

「リンドウさん、どうしたんだろうな……何か知らない?」

 

そう聞かれるであろうことは予測済みだ。

 

「知らない……私も聞きたいくらい。」

 

ソーマは相変わらずの仏頂面だ。……知らないオーラ全開で。

 

「そうだよなあ。いったいどこ放浪してんだ?」

 

結局その話もここで打ち切り。分からないことについてどれだけ議論しても分からないのだ。コウタはそう判断したらしい。

その後も話題は絶えず、世間話程度の話が二三続いた後でアリサの話に入った。

 

「アリサ、神楽達が見舞いに行った頃から容態が好転したらしくってさ、大車先生って人がいなくっても面会できるようになったって。さっきヒバリさんが言ってた。まだ寝てることが多いですけど、だって。」

 

寝てることが多いか……効き目の高い鎮静剤とか言ってたけどもう信用できない。ソーマが聞いたところだと私達を隔離するか、なんて言ってたらしいし。やばいものとか投与しててもおかしくなさそうだ。

 

「そうなんだ。じゃあ今日も行ってくるかな。ソーマ、どうする?」

「この後は無理だ。支部長に呼ばれてるからな。」

「……私に嫌そうな顔してもどうしようもないと思うよ?」

 

そんなふうに言うと、悪い、と言っていつも謝ってくれる。いつもならじゃれつくところだが……目の前にコウタがいてはそうもいかない。残念だ……

と、コウタの端末のアラームが鳴る。例のバガラリーの主題歌だったか?とりあえず分かりやすい。

 

「あ、じゃあ俺この後任務だからさ。じゃあな!」

「そっか。行ってらっしゃい。」

 

出撃ゲートへと向かう彼の背に手を振りつつソーマに向き直る。

 

「やっぱり……ソーマも知ってるの?」

「……知ってるわけじゃねえ。」

 

今日の様子からしてサクヤさんも知っているだろうけど……そう思い出しつつの小声の会話。

 

「まあどうせ、あいつはしぶとく生きてやがるだろ。あれだけの偏食因子を持ち逃げしている時点で何かするつもりだろうからな。だいたいあのやろうのしぶとさは……」

 

とっさに耳をふさぐ。おかげであの単語を聞かなくて済んだ……私が苦手とするあの黒くて平べったいやつの名前を。

 

   *

 

という感じで私にとって若干修羅場と化したエントランスから向かった先は病室。目的は当然アリサのお見舞い。

 

「アリサー。入るよー……って寝てるか。」

 

思った通りというか、安らかなとまではいかない寝息を立てて寝ているアリサ。彼女のベッドの横にある丸椅子に腰掛ける。

 

「……」

 

自分の右手。あの時、彼女に変化をもたらすことに成功した右手。……また、おこってくれるだろうか?

 

「……ま、そんなに都合よく起こるわけないかな。博士も不確定要素が多いって言ってたし。」

 

だから何気なく、特に何を期待するでもなく、ただ純粋にアリサの手を握った。




ある意味で原作に忠実です。ええある意味で。
リンドウさんがいなくならないとこっから先の展開がやり辛くてしょうがないじゃないか!
と、気が付いたのはいつだったかなあ…

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