GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
なんかタイトルからして怪しいですが、今回はそこまで大きな進展がありません。
作者のぐだぐだにお付き合いください。
嵐の前の静けさ
さてさて、なかなかにしょうもない日々が十日目を迎えた日。
「んー……久しぶりのミッションでこれかあ。」
源隊復帰を果たした私とソーマは、エリックさんと共にあるミッションに赴いていた。場所はまたまた贖罪の街。
「ふふふ……安心したまえよ神楽君。接触禁忌種といえどたかがスサノオ一匹。いざとなったらこの僕が華麗に助けてあげようじゃ……のわああああ!」
「上に注意するようにしても横が留守じゃあだめですよ?」
「上に注意したところで横ががら空きでどうする?」
何があったかと言えば……
いつものようにキザで自己満足な言葉を並べ連ねていたエリックさん。彼の真横の崖の下からスサノオが飛び出し、その神機の捕食形態ににた形状の腕から光弾を発射したのだ。
その光弾を、彼の横十センチに突き出した私とソーマの神機の刀身が全てカバーしたという次第で……
「消えろ。」
その数秒後にはソーマの手によってスサノオの右腕が切り落とされている、ということである。
「ソーマ!刀は弾くから足切って!」
神機を銃に変形させながら彼に言う。スサノオとの戦闘では足を切ってダウンさせるのは重要な意味を持つ。が、その足にたどり着くまえに尻尾の刀を潜り抜けなければならず、それが熟練の神機使いでも難しいとされているのだ。
「ああ。」
短い回答。同時に足へと突っ込んでいく。
それを阻もうとする刀を……
「邪魔。」
弾丸で弾き返す。今日はアサルトだ。連射性も問題ない。
「フン。」
三回ほどそうして弾いた頃、ソーマが右前足を切り飛ばす。続いて右後ろ足、横薙に振って左前足と後ろ足とを順に切断した。そうしている間も執拗に彼を狙っていた刀は、私の弾丸ですでにぼろぼろ。かろうじで原型を留めている程度だ。
「エリックさん!お願いします!」
完全にダウンし、ソーマが一旦離れると同時に接近する。銃撃手はエリックさんと交代だ。
「ああ。華麗なる僕が……」
「どうでもいいからさっさと残りの神機を狙ってください!」
誤解なきよう。別にエリックさんがだめな人だと思っているわけでは……ちょっとあるかも。
私が狙っているのはもうほとんど壊れている刀。左の神機に向かって飛んでいくエリックさんの銃弾の横を走りながら自身の神機を刀に変える。
「よ……っと。」
こちら側に向けられた左前足の切断面を捕食する。後ろから迫ってきたスサノオの刀は……
「往生際が悪いんだよ。」
ソーマにガードされる。
「さっすがあ。抑えといてね。」
「こいつが引かなければな。」
だから相変わらず堅いと……ま、いっか。
目標の切断位置は私の真上。バーストの恩恵を受け、二段ジャンプをしてそこまで到達する。
「んっ!」
下から尻尾を切り上げる。スサノオの部位の中でも特に柔らかいそこは、いともたやすく切断できた。
その痛みからか暴れようとするスサノオ。……その体は、とうとう左腕も破壊されてしまったがために何一つ残っていない。
そんな状態を後目に空中で神機を銃にし、ソーマに向かってアラガミバレットを全弾受け渡す。
「あと頼んだ!」
「もうやってるだろ。」
チャージクラッシュの体制に入っているソーマ。彼の神機から黒いオーラが発生する。
「終わりだ……!」
その一撃は、スサノオの体を半分に切断して尚地面まで穿った。
*
「あー……コア回収やりたかったのにぃ。」
空中でほぼ真下へとアラガミバレットを連射する暴挙を行って、相当高くまで反動で上がっていってしまった。結局地上まで来たときにはソーマがコアの回収を済ませているという……
「……悪い。」
顔を背けながら詫びてくれるソーマ。……なんか……Sに目覚めそうな私がいる。
「冗談。ほら、早く帰ろっ?」
……こうしてミッションに出て改めて感じる。彼と、一緒にいられる。そんな幸せ。
「……そうだな。」
微笑みながら返してくれる。そんな彼も、同じだったらいいな。
*
「神楽お姉ちゃーん!エリックー!」
アナグラに帰り着くなり呼ばれる私。
「エリナちゃん。来てたの?」
「うん!」
声の主はエリナ・デア=フォーゲルヴァイデ。エリックの妹さんだ。何でこんな風に呼ばれているかって言うとだ。あのコウタとの初合同任務となったアラガミの外部居住区襲撃で私が助けた少女が、実はエリナちゃんだったことに起因しているわけで……まあ、ちょっと嬉しくもあったり、同時に少し寂しかったり。
「君の方が先に呼ばれるとは……兄として複雑だよ……」
「そ、そうは言われましても……」
なんか微妙な空気になっている私たちに構わず、エリナはじゃれついてくる。
「お姉ちゃんもエリックも遊んで?サッカーしよ?」
……お姉ちゃん……かあ……
『お姉ちゃん!早く公園行こうよ!置いてっちゃうよ!』
懐かしい。でももう、フラッシュバックを起こすことはない。
「神楽?どうかしたか?」
ソーマの声で我に返る。
「お姉ちゃんって呼ばれると、ちょっと懐かしいんだ。」
……私の言わんとしていることは理解してくれたようで……
「……行ってこい。報告はしておいてやる。」
「……うん。」
やっぱり、彼は優しい。
心の中で彼に礼を言いつつ、エリナちゃんが手を振っている一般出入り口へと向かった。
*
「お姉ちゃん遅いよお!」
「ごめんごめん。さ、行こっか。」
「エリナ……神楽はお前の友達では……」
「大丈夫ですよ?私も楽しいですし。」
「やったあ!」
気が付けば当たり前となり、気が付けば周りの神機使い達が微笑んでいる光景。そんなものが、あいつの周りでは増えていっている。
腕輪のない神楽。彼女はすでに第一部隊の中心的な存在になっている。アナグラの、といっても過言ではないだろう。
俺を取り巻く環境も、前と比べれば格段に良くなった。死神と呼ばれていた、昔の俺。それが今では他の部隊から名指しで同行を頼まれることすらある。全てが神楽のおかげだ。彼女がどう思うかはわからないが、俺はそう思っている。
「おー、仲良し三人組は今日も遊びに行くのか?」
エレベーターから降りてきたリンドウ。
「ああ。」
報告を済ませるか。そう思ってエントランスの一階に向かう。
「エリックも言ってたからなあ。エリナに姉が出来たみたいだとかなんとか。」
「……自分の妹じゃねえのがミソだな。」
「っはは。違いない。」
典型的なシスコン……まあ、あいつらしいと言えばあいつらしい。
話している内にカウンターに着く。
「スサノオの討伐は完了だ。記録つけておいてくれ。それと……」
その先をヒバリに奪われる。
「神楽さんとエリックさんの外出許可ですね。了解しました。」
どうやら俺が思う以上に当たり前の光景となっているようだ。
*
その十分後と言ったところか。
「そういやお前、支部長のやつは順調なのか?」
リンドウの部屋にいた。
「相変わらず、無茶なものをやらされているさ。」
今日のスサノオの討伐。珍しく他の神機使いの同行を許可された特務だった。さすがに神楽と二人は厳しいような気がしてエリックの奴も連れていったが……はっきり言って二人で十分だったな。
支部長直轄任務である特務は、その性質上特務を任されていない神機使いを同行させることは特に指示がなければ禁止されている。
特務の目的はアラガミのコアの回収。任務ごとに種別は違うが、それだけは変わることがない。……訳わかんねえことに使ってやがる様だが……
「そうか。最近は特務も増えてきてるからなあ……あの支部長は何やってるかわかったもんじゃないな。」
「俺が知るか。」
というより知ってたら苦労しない。
……俺がやることは、どうせ変わらないだろうが。どうせあいつと生きようとするだけだ。
「まあ良いさ。ところでだ、神楽とはどこまでいってんだ?」
……は?
「おいリンドウ。今度は神楽なしであの教会に閉じ込めてやろうか?」
「……それは勘弁だな……」
「ならふざけたこと聞くんじゃねえ。」
「委細承知。まったく……冗談ぐらい言わせ……冗談だ冗談!」
……腿にナイフがあった。……ちょうど良い。このくらいじゃねえとこいつは黙らねえ。
結局そこで黙らせてから話題もなくなり、さほど経たずに別れた。……めんどくせえおっさんだ。
*
「おねーちゃーん、またねー!」
離れたところから手を振っているエリナちゃんに、アナグラの入り口から大きく手を振り返す。彼女が見えなくなるまで振っていた。
「すまないね。いつも遊んでもらってしまって。」
隣にはエリックさんがいる。その表情は終始綻んでいた。
「だからあ、私だって楽しいから大丈夫ですってば。」
エリナちゃんとあの日死に別れた弟。二人は、どことなく似ていた。重ねる対象ではないとわかっていても感じてしまうそれは、私の心を童心に帰らせてくれる。
「彼女がいつも言っているよ。本当にお姉ちゃんが出来たみたいだ、とね。僕としてはちょっと複雑なんだけど……」
「複雑?」
その意図するところを測りかねた。
「いやあ……自分でも華麗でないと思ってしまうのだが、なんだかエリナは最近君と一緒にいることの方が多い気がしてね。そう……やきもちを焼いているとでも言うのかな。」
「……大丈夫ですよ。」
「えっ?」
私とよく一緒にいる。それは間違いじゃない。だけどやきもちを焼くような内容でもないのだ。
「だってエリナちゃん、私と一緒にいる時ってエリックさんの話ばっかりですから。」
「そうなのか?」
周りにエリックさんがいなかった場合、ほぼ確実に主語がエリックになる。その全てが、ほめ言葉へと繋がっていくのだ。
「エリックはいつも守ってくれるの、とか、エリックはいつも遊んでくれるの、とか……すごく嬉しそうに。」
「そう言ってもらえてるなら嬉しいんだけどね……僕は僕で結局のところ、君に守られっぱなしだ。この間エリナを守ってくれたのさえ、君じゃないか……」
「関係ありません。」
「……どうして?」
なんだか半信半疑な様子のエリックさん。
「エリックさんとエリナさんは……兄妹じゃないですか……」
「っ……すまない……」
私が家族を失っていることは、もうアナグラに知れ渡っている。というか、自分からソーマやほかの何人かに伝えたのだ。
「いえ。大丈夫ですから。」
兄妹。一見強くはないその繋がり。でも本当は……何より大切だと知っている繋がり。二人には、それがあるのだ。
「だから、安心してください。彼女にとっての優先順位は、私なんかよりもあなたの方がずっと高いですから。」
自分でも諦めを含んだ発言だと思う。彼女とは、最高でも親友止まりだろう。
「……それでも……またエリナと遊んでやってくれるかい?」
……そう言う心配がまず出てくるんだから大丈夫。そう思いを込めて言った。
「もちろんです!」
*
エリックさんとはエントランスで別れた。どことなくいつもより嬉しそうだったな。
それでこの後何をするか考えようとしたところにヒバリさんから声がかかった。
「あ、神楽さん。」
「んー?どしたの?」
……間の抜けた、と自ずから思ってしまう返事だ。
「アリサさんのことなんですけど、大車先生がいらっしゃるときは面会可能になりましたよ。」
聞き慣れない言葉が出てきた。大車先生?
「えっと、その先生って……誰のこと?」
そう聞かれると予想していたようで、すぐに説明してくれた。
「アリサさんの主治医の方で、本名は大車ダイゴって言うんです。アリサさんのメンタルケアも行ってるんですけど、そのおかげか新型神機にも精通しているんだそうですよ。確かこの支部へは……アリサさんと一緒に移動してきていましたね。」
「へえ……まだ会ったことないなあ。」
正直とても会ってみたい。新型神機にも精通しているのなら尚更だ。
「ねえねえ、今日その先生ってどこにいるの?」
「ちょっと待ってください……あ、もう帰宅されてますね……ちょっと変わり者なんですよ。わざわざ外部居住区の宿舎に入ってらして……支部長から大きめの個室を与えられたそうなんですけどね……普段は宿舎の方で生活しているそうです。」
「そっかあ。」
残念。まだいるんだったらすぐ会いに行こうと思ったのに。
「あ……」
「どうしたんですか?」
ちょっと待てよ?アリサの面会は大車先生がいるとき限りで、その大車先生が今いないってことは……
「アリサのお見舞いも行けないのかあ……」
「あー……そうですねえ……」
はあ……明日まで待つしかないなあ……
ある日の友人の言葉。
「エリナにさ、お兄ちゃんとか呼ばれてみたいよな!」
たしかエリナの情報が開示された直後に言っていたはず…
それが湾曲して捻じ曲がってちょうど超電磁砲の黒子の
「お姉さま!」
を超電磁砲Sで見て…こうなりました。いやあ…どうしてこうなった!
…と、私は私自身への無意味な問いかけをします。