GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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雨上がり

雨上がり

 

「コウタ。ああいうのなんて言うか知ってます?」

「バカップルだよな。どう見ても。」

「隊長の言ってたことが寸分違わないの初めて見た……」

「騎士たるもの、男女の逢瀬に口は差し挟まぬもの!」

 

……こいつら。

 

「人の病室で騒いでんじゃねえ。」

 

俺が戻ってきた頃には、情けないことにほぼ収束した後だった。

聞く限りでは過去希に見るレベルの状況だったにも関わらず、被害は最小限。最終的な立役者が疲れ果ててぶっ倒れていても、文句を言う者はいないだろう。一度起きて俺を枕にしなければ、だが。寝にくいだろうに、こっちの方が熟睡しているのが何とも言えない。

 

「いいじゃないですか。なんとか無事に済んだんですから。」

「無事、か。」

 

無事と言うには少々。いや、明らかに語弊がある。

極東支部側で動ける神機使いはサテライトにいた人員のみ。昨日対応していた面々は、軒並み検査待ちとなっている。

……分からないことが多過ぎる。渚の話では、ブラッドの副隊長が暴走に近い状態に陥り、戦闘にまで発展したと言う。だがそのわりに、こちらの益になる行動を取っていたことも事実だ。

 

「検査は済んだんだったな。」

「ええ。ブラッドアーツ、でしたっけ。血の力とは少し違うそうですけど。」

 

ブラッド以外の神機使いでも感応種に対抗出来る可能性。以前から結意の能力として推論が立てられていたものだ。

それを、あの一時で丸ごとやってのけた。

 

「俺とハルさんもさっき終わったけど、同じだった。」

「だろうな。状況から見てそれ以外考えにくい。」

 

感応種への対抗策が出来た、と言う意味では幸運だろう。が、手放しで喜んでいられるわけもない。

 

「結局、ブラッドはどうなるわけ?まさか今まで通りってことは……」

「……どうだかな。」

 

ブラッドは……はっきり言って、俺達より大分まずい状態にある。

少なくとも死傷者のなかったアナグラと違い、隊員の一人が死亡、隊長も重症。加えて副隊長も意識不明。

つまるところ、壊滅だ。……結意の奴が意識不明、ってのは、フライアからの伝達でしかないが。

 

「ロミオさんの葬儀は明日フライアで執り行うそうです。昨日の回収時点であちらに運ばれていますし、おそらく埋葬も済ませておくつもりかと。」

「こう言っちゃ何だが、ブラッドは向こうの博士の研究結果だ。見せたくねえのもあるだろ。……こっちからは誰が行く。」

「あちらの計らいで、特に制限はありませんから……」

「行きたい奴が、か。」

「行かない理由もありませんけどね。」

 

フライアはフライアで、件の神機兵の停止やブラッドの現状から大騒ぎになっていると聞く。

……とんだ茶番だ。あの神機兵、観測データだけでも外部から止められた形跡がある。

 

「……時間か。外に行ってくる。こいつを頼んだ。」

「おう。」

 

それら以上に今現在最大の問題は、防壁外の復旧作業だ。

神楽がオラクルを張ったからいいものの、その外側は甚大な被害を被っている。赤い雨の捕喰傾向変性。地面が広範囲に渡って抉り取られ、最も深い地点で5m程度の陥没が発生している。

まるで終末捕喰でも起こそうとしたかのように。そう感じるのは、事実そうだったからか、あるいは俺自身、アラガミとしてそれを望んでしまっている部分があるからなのか。

正直なところ探っておきたい部分ではあるが、余計なことを考えていられる場合でもないこともまた、事実だった。

 

   *

 

ジュリウス・ヴィスコンティ。

フライア所属、ブラッド隊長。

結意の上官。

 

「……ぐ……」

 

呻きながら目を開けた彼に、ユノが声をかけた。

 

「あ、気付きました?」

 

……結意があんなことになった、原因。

 

「医務室……か……?」

「ええ。極東支部の。」

「……我ながら、よく生きていたものだ……っつ。」

 

彼の怪我はずいぶんすさまじいものだったらしい。実際、生きているのが不思議なほどに。

回収はフライア主導で行われ、ひとまず神機兵の諸々が片付くまで、彼と動ける三人はアナグラで待機。

私は結局、結意にもう一度会うことすら叶わないままに医務室で目を覚ました。

 

「……そりゃ痛いだろうね。諸々聞くついでにカルテも見たよ。上腕骨折、額関節脱臼、肋骨は折れた七本の内二本が内蔵に突き刺さってたってさ。」

「なるほどな……ああ、失敬。自己紹介が……」

「いい。資料で見てる。」

 

むしろ今は、あんたの声を聞きたくない。

 

「こちら、クレイドルの……え?」

 

ユノが私の紹介を始めようとし、私は私で、その彼女の弁を遮る。

自己紹介?必要あるようには思えない。

 

「私も案外、しっかりした感情ってのを持ってたみたいでさ。悪いけど怪我人だからとか考えてる余裕ないんだ。」

 

彼の胸ぐらを掴む。手にはギプスの感触が伝わるも、むしろその奥に殴打でもぶち込んでやりたくなる。

って言うかそもそも、掴んだときの勢いで殴ってるか。どうでもいいや。あんたの肋骨が追加で折れようが知ったことじゃない。むしろバキバキに折れてしまえ。

 

「ぐっ……」

「あんたがしっかりしてれば!結意もあんなことにはならなかった!」

 

あそこで転がってたのあんたでしょ。死体だと思ったら無様に死に損なって、ベッドの上でいいご身分じゃない。

ふざけるな。

 

「独断専行のバカ助けに行ったら自分まで一緒にやられました!?しかももう一人は死にました!?あんたこそバカじゃないの!副隊長までボロボロにした気分はどう!」

「渚さん!」

「勝手に行かせちゃったのも監督不行き届きが原因だってねえ!笑わせる!何が隊長!?何がブラッド!?役立たずが役立たず率いてるだけでしょうが!」

「渚さん落ち着いて!ジュリウスさんだって必死に……」

「何をどう必死にやったっての!必死に大ポカかまして部隊員二人道連れにしましたとでも!?ああそれなら大正解だよね!人の妹ぶっ壊しといて図に乗るな!」

 

ああもう、本当にふざけるな。私。

 

「いもう……と……?」

「知らなかっただの何だの聞く気はない!結意は私の妹だ!結意は……!」

「だめ!もうやめて!」

 

引きはがされる。もちろん、ユノの力で何とかなる体のつもりはない。

単純に、私が手を離したのだ。

 

「最っ低の姉を持っちゃった、妹だ……」

 

ジュリウスのせいだ……って、そんなの八つ当たりだって、よく分かってる。過去から今に至るまでどれもこれも私の責任だ。

私がバカな真似をしなければ結意は人間として生きていられたし、父さんに嫌悪されることもなかったし、神機使いになることもなかったし、こんな事態に巻き込まれることもなかった。

全て私のせいなのに、私はジュリウスっていう都合のいい相手に押し付けようとしている。

 

「……ごめん。頭冷やしてくる。」

「渚さ……」

 

どうにもその場にいるのが苦しくなって、行く宛もないのに病室を飛び出した。

私は、本当に、どうしようもなく、最低だ。

 

   *

 

「あ、その……大丈夫ですか?」

「ギプスがなければ少々まずかったでしょうが……ええ。何とか。」

 

鼓に似ていた。おそらく、姉妹だというのは間違いないのだろう。

本当によく似ている。性格は真逆……とまではいかないにしろ異なるが、容姿や細かな仕草がそっくりだった。

 

「彼女は?」

「渚さん……クレイドル隊の隊員です。えと、ソーマさんと同じような体、で通じますか?」

「おおよそは。……鼓、渚。ですか?」

「……以前お会いしたときは、ただ渚、と。」

 

複雑な事情がある。端的に言ってしまえばそういうことなのだろう。そもそも、腕輪のない神機使いがすなわちどういった扱いになっているのか、想像が全く及ばないわけでもない。

加えて、鼓はラケル博士が直々に連れ帰った子供だったと聞く。往々にしてそう言った子供たちは、特殊な環境に育っていたはずだ。姉と生き別れていた、程度なら十分あり得る。

 

「ブラッドの皆さんに伝えてもらってきます。ちょうど出払ってて。」

「出払っている?」

「……」

 

一瞬沈黙が流れ、続けられる。

 

「結意さんの、感応波、でしたっけ。そのせいでブラッド以外の人達が外に出られないみたいで、復旧作業をブラッド隊が全面的に引き受けているんです。ナナさんと、シエルさんと、ギルさん。」

「ロミオは……」

「……KIA、だそうです。」

「……」

 

そうか、と。俺は彼らを、二人も守ることが出来なかったのか。

もしかしたら、俺が守られた側なのかもしれない。そう思うと不甲斐なさに吐き気がする。

 

「とにかく、行ってきますね。皆さん心配していましたから。」

「……先に、榊博士に伝えて頂けますか。」

「分かりました。それじゃあ。」

 

……自分の身も守れない人間が、他人を守れるわけなどない。

 

「黒蛛病、か。」

 

これはつまり、その証明だったのだろう。

 

   *

 

「いっやー!やっぱ外は良いなおい!」

 

……アブソルは静かに面倒くさかったが、彼女は面倒でない分やかましい。

二人で足して割られていろ、と思いつつも、それを隠し会話する。

 

「ご機嫌ね。」

「ま、そりゃな。五年ぶりだ。」

「ご帰還早々厄介事をいくつも作ってくれちゃって。感謝するわ。盛大に。」

「お褒めに与り光栄だねえ。」

「貶してるのよ。」

 

アブソル。すなわち三年前の特異点から表出した意志は、特異点が極東の旧第一部隊と過ごした日々により、人間というものを愛するようになっていた。そもそもノヴァが存在しなかったなら、三年前の特異点は終末捕喰すら起こさなかったに違いない。アブソルはその感覚を強く受け継いでいる。

神楽・シックザールに付随すると思われる意志も、やはり神楽・シックザールとの日々から終末捕喰に反対している。こちらはノヴァのような器もないことから、やはり終末捕喰など起こすまい。

その意味で、彼女は理想的だ。終末捕喰を純粋に発生させる意志として動くことだろう。何しろ人や世界に悲観しているのだから。

 

「あなたの気紛れにも困ったものね。三人とも死なせた方が楽だったでしょうに。」

「ジュリウスは器になる。ロミオはあんたが黒蛛病キャリアに使えるだろ?」

「鼓渚は?」

「ありゃ別だ。潰しとこうにもお宅のロミオ君が邪魔しくさってね。」

「そういうこと。」

 

オラクル細胞の不活性化。停止と言って差し支えない。その状況の彼女に望むのは酷な話だったか。

 

「ま、ちょいと治すのが早かった。まさか起きるとは思わねえって。」

「私の作品よ?」

「へいへい。んで?あたしはこれから何すりゃいい。」

「そうね……しばらくは待機になるでしょう。こちらとしても、機を伺う必要はあるもの。」

 

明日はロミオの葬儀……そこでジュリウスを懐柔するのは簡単な話だとしても、ブラッドを極東に押し付ける作業がある。準備を整えるのはその後になるだろうし、そこそこ時間はかかるだろうか。

 

「了解だ女狐。」

「ずいぶんな物言いね。怪物。」

 

それにしても……

 

「外見が同じでこうも違うのは、なかなか面白いわ。」

「ん?ああ……結意も出てこねえしな。誰とも話したくないらしい。」

「だからあなたが?」

「あいつがそれを望み続ける限り、だが。別に不都合はねえだろ?」

「そうね。」

 

少し妬ましくなる。希望を叶えるため存在する意志、なんてものは、私にはなかったものだ。

 

「欲を言えば、甘えてくるあの子が可愛かったのに、かしら。」

「ははっ!あたしはやらねえぞ。」

「でしょうね。どうせ、あの子もそうしたくないんでしょう?」

「ご明察。」

 

まあ別に、そういう些事はどうでもいい。結意がどうであろうと意志が終末捕喰を肯定するのなら問題ない。

 

「さあ。お人形遊びを始めましょう。」




気付かれてる気がしますが。
バンダースナッチ書いてて楽しいれす(ウハウハ
こう、何と言いますか、いろんな意味で性格的に問題あるキャラクターって大好きです。はい。
基本的に表しやすいのもありますし、何よりテンション上がります。いろんな意味で。

さてと…んー…一応、2のお話も折り返し、になるのかな?
RB編追加の決定であちこち掘り起こすような組み方をしちゃったので、辻褄が合ってるかあちこち心配だったり。オリキャラが濃すぎるのが主な原因。

まあいいやたぶんなんとかなるよねええええ!(をい

そうそう。このチャプターを書いている間に、一個短編出してたりします。
もはや二次創作というよりノベライズになっちゃいましたが…まあ、うん。
こちらとは書き方を変えているので(というかいろいろ度外視しているので)、いつもと違う感じが見られるかもしれません。

次のチャプター、どこまで進むか未知数だったりします。2エンディングまで行っちゃうかもしれませんし、〇犬討伐までかもですし。〇犬までだと話数が大して行かない気もするんですよね。
そんな感じで…どのくらいですかね。また二ヶ月から三ヶ月くらいの間で投稿出来れば、ってとこでしょうか。気長に待っていただければ幸いです。
ではでは、また次回にー。

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