GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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お待たせしました。春眠暁を覚えずがフライングかましやがりまして、朝起きるのがドンドン億劫になっている私です。
どーしてこう、季節外れって言うのは妙な魅力があるんですかね。眠い(
さて。本日はChapter 6の投稿。話数は十三話。多いわ私の阿呆。
だいたい7-6で二分出来るので、それがお勧めだったりします…


Chapter 6. 諧謔
共鳴


 

共鳴

 

「このくらいなら、フライアでほぼ全面的な受け入れが可能でしょう。」

 

ジュリウスが持ってきた資料に、分かり切っていた返答を返す。患者数を見ればこちらのキャパシティとの比較は簡単な話だったし、激戦区とは言え一支部に過ぎない極東に、設備面で劣るはずもない。

あくまで目的は二人……特に結意を、引き離しておくこと。

 

「設備を整えるよう、技術部に打診しておかないとね。お願いできますか?」

「了解。帰りがけに伝えておきます。」

「ありがとう。それから、結意のことなのだけれど……」

 

ロミオが悩んでいたのは知っていた。そのせいでブラッドがギスギスしていたことも。

仲裁役がいなくなれば勝手に進む段階に来たのなら、こちらから外してやればいい。最大の不安定要素も一緒に取り払っておけば、こちらのルートを逸れる恐れはない。

二人を調査に遣ったのはそのためであり、調査そのものは何一つ興味がない。黒蛛病患者を手に入れる段取りを整える程度だ。

 

「向こうで、何か変わった様子は?」

「……以前と比べれば、やはり大きく変化しています。望ましい変化である反面、急激であるのが気になる……」

「そう……やはり、と言うべきかしらね。」

「最近は、一人で思い詰めていることも多いようです。」

「思い詰めて?」

「決意しようとしているような……何がと言うわけでもありませんが。」

 

さて。しかし本当にどうしたものか。

正直なところ、彼女がここまで変化するのは想定外。もう少し小規模な変化は予想していたけれど……私の知らない何かがある、と言うことか、あるいはただ読み違えただけか。

後者ならいい。前者であったときが問題。そうであった場合、下手をすれば全てが止まる。

 

「ところで、ジュリウス。言葉尻が丁寧になりましたね。」

 

少し前まで、ですもますも使わなかったのに。

……そういえば、これも予想外ではあった。彼はずっとこのままかと思っていたのに。

 

「……俺も変わった、と言うことでしょうね。ブラッドはある種、そう言う力にも長けている節があります。」

「そう。」

 

当初の予定に対してイレギュラーが多い。ジュリウスは結意に引っ張られる形かもしれないが、それでもだ。

やはり一度、二人を追い込む必要がある。特に結意は……そう、壊さなければ。

全く。魚の卵から鳥が生まれたような気分だ。このままでは水槽から出てしまう。

 

「……結意を呼んできてもらえますか?あの子に任せたい仕事があるの。」

「仕事?」

「ええ。と言っても、今のあの子には大して難しくないでしょうけど。」

 

……極東も、徐々に何かしらに気付きつつあるようだし。

この辺りで一つ、盤面を入れ替えるとしましょうか。

 

   *

 

ピアノが静かに木霊している。

音の主は、ノリとテンションのまま演奏を任されたユノさん。周りにはコウタさんとアリサさん、シエルさん。

少し遠くではギルさんとソーマさんがビリヤードに興じていた。難しい顔で座っていたソーマさんを、ギルさんが誘った形だったと思う。

 

「……さすがに当たらないな。」

「手玉独占もここまでっすね。このゲームはもらいます。」

 

そんなゆったりした空間でちびちびと、コーヒーを飲む。なぜか紅茶や他の飲み物と比べ種類が充実していて……眺めていたら、ソーマさんから勧められたもの。ブラックはやっぱり苦いから、ミルクと砂糖をたっぷり。

 

「やっぱり、ピアノっていいですよね……ここのところコウタが……何でしたっけ?あのよく分からないの。」

「コイメカ!何度も言ってるだろ?」

「あーはいはい。まあその何とかっていうのを流してるせいで、どうも雰囲気が壊れていたというか……」

 

曲の合間に入る会話が、私は一番好きかな。

カウンターに肘を付きながら、そんなことを考える。

 

「でも、あのシプレさん。私もちょっと好きなんだ。」

「へ?マジ!?」

「うん。ほら、今はまともに知られている歌手が少ないから。……好きって言うより、気になるって言う方が正しいのかな。」

「確かに、昔からある歌を歌う人はいますけど、一から作るなんてほぼいませんからね。」

 

シプレ……シプレ……いつだかにコウタさんとロミオ先輩が盛り上がっていたっけ。

 

「……歌と言えば……」

 

不意にアリサさんがこっちを見た。

眺めていたから、当然ながら目が合って。それがちょっぴりバツが悪い。

 

「結意さん、ネモス・ディアナで歌ってませんでした?」

「……」

 

言われ、少し面食らう。

 

「……あ、その……聞いてました?」

「聞いたと言うか……窓開けたら聞こえたので。確か、日本ではもみの木、でしたっけ。」

 

もみの木。そうか、そういう名前なんだ。詩と曲調だけが記憶にあった歌の名前を、図らずも知る。

ああ、でもこれ、恥ずかしいな。聞かれてたなんて。

 

「もみの木なら、私弾けるかも。」

 

ちょっぴり誇らしげなユノさんは、軽くメロディーを確認して弾き始める。それはまさしくこの間歌った曲。

旋律が流れる度、あらがい難い衝動に襲われる。嫌な思い出がへばりついていたけれど、私が覚えている唯一の曲であることに変わりはなく。

自分の中から今度こそ消えてしまわないよう、もう一度刻みつけたくなって。

 

「歌う?」

 

そしてどうやら、演奏者にはばれてしまったらしく。

 

「……はい。」

 

勧められた伴奏者の隣なんて特等席に座り、一節一節。

 

「O Tannenbaum, o Tannenbaum……」

 

恥ずかしさから少し声を落としながら、歌うことにした。

 

   *

 

思いの外絵になるコンサートが始まると同時、俺はラウンジから出ることを選択した。

 

「……悪い。こいつは預ける。」

「ああ、はい。またいつか。」

 

要領を得ない顔のギルにキューを渡しつつ、急ぎ足に研究室へ。

……あの程度で、支部のレーダーは鳴らない。

 

「やあソーマ。これは、君ではないね?」

 

期待はしていなかったが、榊のおっさんがいたのは運が良い。機器を動かす手間が省けた。

頷きを返しながらモニターを確認する。

 

「どうなってる。」

「五番モニターに纏めてある。結意君は今何を?」

「ラウンジでも見てみろ。」

 

いくつかの観測データが表示されたモニターをこちらに向け、外付けのコンソールを繋いで操作する。

微弱な偏食場。その波形はブラッドの血の力に似ているが、これまで確認されたどれとも違う。

……が、見覚えの一つもないものではない。

 

「ふむ……なるほど。見る限り、完全に無意識のようだね。一応確認したいんだけど、それは先日のものと同じかい?」

「……いや。誤差の範囲内だが、少し違う。」

 

先日。アリサ達がネモス・ディアナに行っていた日の夜観測された、微弱な偏食場。

警報が鳴るほどではなく、距離故にデータ上でしか見ることのなかったそれ。はっきり言って、俺も観測機器の故障か何かかもしれないと考えていた。

が、そうでないことが確定的になった。図らずも本人からの言質も取れている。

 

「前回も、どうやら歌っていたらしい。」

「なら、結意君が歌った時にこの偏食場が確認される、ということになる。実に興味深いね。」

「アラガミの動きは。」

「影響はないと考えていいだろう。もっとも、これ以上強くなったら保証の限りではない。」

「だろうな……」

「それで、ソーマ。君の所見を聞きたい。」

 

飄々とはしつつも、声音の真剣味が深まる。

 

「なぜこの偏食場は、普段の結意君のものとは異なっていると思う?」

 

最大の問題はそこにあった。偏食場は多少の誤差こそあれど、個体、ないし種族で一定となっている。

この偏食場が結意のものだと判明した今、なぜ歌っている間に観測されているのかだの何だのを論じる前に解決すべき命題だった。

意図的に発することは出来ても、その根底には必ず、個体の波形がある。……なければならない。だが今、彼女の発する偏食場にそれは観測されていない。

 

「……コアが二つ。ないしそれ以上ある。あり得ないが、あるとしてそんなところだろう。」

「アラガミの基礎理論が覆るね。僕も同じ意見だけど、君の言う通りあり得ないし、そういう形跡もない。」

 

半アラガミ、という体質上、事あるごとに検査は行っている。先日のナナの一件がその最新データであり、コアが複数だのという異常は存在しなかった。

 

「さて。困ったね。」

「……ならそういう顔をしろ。」

 

いつものにやついた面構えで言う彼に嘆息し、現状での結論を保留した。


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