GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
信じたもの
外部居住区のベッド。初めて体験したそれはどうにも、堅さと頑丈さに絶大な信頼のおけるものだった。寝心地より耐久性を重視しているのだろうと分かるそいつのせいで、あちこち痛い。
が、まあ借り物に贅沢を言うわけにもいかず。と言うかむしろ感謝しなきゃいけない。いろいろな意味で、その堅さはむしろ温かかった。
「まだいたっていいんだよ?」
「あはは……ま、俺がいなくちゃすっげー暗くなるやつばっかだからさ。早く帰んないと。」
俺も、あいつらがいないと暗くなってるし。
「そうかい。気を付けてねえ。」
「ばあちゃんもな。高いとこにあんま物置くなよ?」
「困ったときは、また取ってもらおうかしらねえ。」
「え……俺その度に往復すんのか……」
ここも居心地は良いけど……
やっぱり、仲間のとこが一番なんだ。
「じいちゃんも、元気で。今度中に来るときはさ、いつでも呼んでよ。荷物持ちくらいにはなれるぜ?」
「ははは。そうだな。頼らせてもらうよ。」
夜中まで降り続いていた赤い雨も、朝日を受けて乾いている。ギルとも……雨降って云々って言葉があるらしいし。仲直りできるだろうか。
「んじゃ、そろそろ帰るよ。」
遠くでサイレンが鳴っている。アラガミが出た、ということだ。
俺は神機使いで、弱いけど戦えるから。戦えない人のためになんて殊勝なこと考えられるほど強くないけど、それでも戦うんだ。
「今度は食い物持ってくるから、旨いもの作ってくれよな!」
駆け出し、端末を手にとって。
「ごーめんごめん!とりあえず、神機持ってきて!」
決意新たに……とは言えない。正直まだモヤモヤしてるし、強くなった後も、時折悶々とするんだろう。
だから、今まで通り、頑張る。
*
駐留二日目。マグノリア・コンパスへ差し込む光は、天蓋で異常なほど乱反射していた。
それも、赤く。半透明のフィルターを通したかのように、あちらこちらが赤い光に包まれている。
「昨夜遅くから、赤い雨が雪に変化したそうです。」
「上空は低温だった……というわけでもない。」
「ええ。だったら地上付近ももっと寒かったはずですし、赤い雨そのものに何らかの影響が加わったとしか……」
黒蛛病患者収容施設も例外ではなく……あまり赤色を見せるのは精神衛生上良くないだろうとの判断から、青白い照明が増設されていた。
そこの係員からアリサを経由し、この事態についての説明を受ける。傍らでは鼓が施設についての説明をメモに纏めていた。
「幸い、積もった雪は溶け始めているそうです。午後には何ともなくなるだろう、と。ヘリの運用も可能です。」
「極東支部への影響は?」
「ありません。雪に変化したのは、ここを中心とした半径約3kmの範囲。誤差は大きめで、地形や風向きなどの影響が強く出ている模様です。」
感応種か、と、比較的理性的な思考が判断を下す。
そして……感覚的には、鼓ではないか、と。
「……では、予定通り本日中に施設の調査。間に合うようなら夜には戻ります。」
「分かりました。一応、総統さんに一報入れてきますね。」
アリサが出、こちらは二人になる。フライアの職員はさらに事務的な調査を行っているため、こうして話を聞くのは自然と俺たちの役割になっていた。
「ジュリウスさん。」
彼女の方の話も一段落付いたのか、メモを手渡してくる。経験不足からくる見辛さはあるものの、さして問題にはならない。
「大丈夫そうですか?」
「ああ。問題ない。……念のため、2ページと6ページについては実物を確認してくれ。」
「はい。」
だが、言いしれない違和感はついて回る。こういう作業は苦手だったのに、と。
こういった面でも変化が出ている……ということなのだろうが、これもまた他と同じく、良い変化と言えるかどうか分からない。普段なら成長したと思えることが、一連の流れを含めて考えると不安要素になっていく。
「……」
……いや。切り替えよう。考えずにいて良いことではなく、しかし今延々と思い悩むべき事でもない。
施設はどうにも安普請なものだった。元々仮設だったものを使い続けているような、十分とは言えない設備で回っている。
新しく建てられたものはもう少しマシかもしれないが、最も数を抱えている場所がこれというのは少々楽観できないものがある。フライアでの受け入れが必要というのは、かなり切羽詰まった段階での判断らしい。
「そうもなる……か。」
極東は、言ってしまえばブラックボックスの塊だ。フェンリル支部最大戦力にして、同時に暗部。大岩の寄せ集めの要石。なくてはならないが、あることが前提である故に注目されない。
頓挫したままのエイジス計画。腕輪のない神機使い。戦力的には支部に匹敵する独立部隊。大量の支部外秘事項。サテライト拠点。ネモス・ディアナ。
外部からの干渉を絶っている事柄に溢れた極東にとって、黒蛛病患者の受け入れ要請はしたくなかったことの一つでもあるだろう。ラケル博士やレア博士はともかく、局長は何らかの条件を出しておかしくない。
一枚岩のフェンリル……は、おそらく訪れないだろうな。
「ん?」
端末がメールの受信を告げる。
取り出せば、ロミオの文字。
やー悪い悪い!もう大丈夫!
「……全く。」
……俺達は、一枚岩でいよう。
「せめて、何が大丈夫なのかくらい書け。ロミオ。」
*
「ヘリの到着まで約十五分。合流地点で待っていてください。」
一日ぶりの通信に鼓膜が震わされる。インカムの感触も、少し離しているだけでどこか新鮮だった。
「その……俺……」
「目ぇ瞑れ。」
謝ろうと思ったところに被せるように、ギルがそう言ってくる。
「へ?目?」
「こういう時くらい黙って言う通りにしろ。」
よく分からない命令に渋々ながら従った直後、小さくも鈍い音が額から響いた。
いつだかに顎に叩き込まれた拳と、非常によく似た感触。額を抑えながら目を開けば、握り拳がそこにあった。
「休暇届は勝手に出した。貸しだ。」
「えっ!いつの間に!?」
「気付いてなかったんですか?ロミオが出てすぐ、支部長室に行ってましたよ?」
ああもう。三人でマイペースに進めやがって。
「……今日は良い動きだった。次も期待している。」
すたすた歩いていくギルを指さしながら、ナナとシエルはくすくす笑う。
「ギルねー。一番心配してたんだよ?」
「はっきりとは言いませんでしたが、静かだな、とか、どこ行ってやがる、とか。バレバレとはああいうのを言うのですね。」
あーあ。カッコ付けさせといてやろうぜ?あいつ、ブラッドで一番シャイだぞ?たぶん。
言おうと思った言葉は案外出ないもので、口をついて出たのはもっと別の話。
「にしても、ジュリウスも結意もいないと、なんかしまらないなー。」
「あ!それ私も思った!」
「いつも代理っぽくなるの、ギルですからね……私は堅苦しいそうですし。」
そうそう。シエルは堅苦しいんだって、何度も言ったの俺だったなあ。
「あー……根に持ってる?」
「耳にたこが出来たので、何かで意趣返しをしようと考えていました。」
「なるほど……じゃあ私も後輩扱いされた仕返し!」
「お前はほんとに後輩だろ!」
先輩面して、ろくに先輩らしいこと出来なかったけど。
「何だよもー。悩んでた俺がバカみたいじゃんか。」
「そりゃあ、ねえ?」
「違いますか?」
「だー!違わないです!すんませんした!」
ま、いいや。俺は俺らしく行こう。
「うっし!作戦終了!帰ろう!」
「おおっ!?なんかリーダーっぽい!」
「いいからさっさとしろ。置いてくぞ。」
「ギル。針路確認は私の方が向いてますよ。」
こんなでも、俺はブラッドだから。
みんなより弱いし、血の力だって目覚めてない。経験不足も良いとこで、知識だってろくにない。
それでもまあ、いいや。マイペースでも。それが俺で、そんな俺がいるのがブラッドだから、一人で頑張ろうとする必要もきっとない。
役に立てるようになるまでもう少しかかりそうだけど、それも俺らしい。かもしれないから。
「あ、そうだ。ロミオ先輩。チキン5ピースね!」
「は!?」
「いいですね。私は3ピース。」
「……8。」
「くそ……財布が軽くなる……」
うっし。のんびり、行ってみよう。
本日の投稿は以上になります。
ぶっちゃけた話、ここまでは一週間ほど前に書きあがっていたのですが…O tannenbaumを突っ込んだので、どうせならクリスマスにしよう、なんてノリが発生しました。
ドイツのクリスマスキャロルで、日本ではもみの木、として親しまれていたりします。キャロル系では珍しく、ちょっぴり物悲しい雰囲気だったり。
あ、余談ながら、ウムラウトは代用表記を用いています。ツールの関係上と、ページが対応しているか不安だったのと。
にしても…書いていて時系列が不安です(
計算してはあるはずなんですが…大丈夫かなあ…
…うん。まあ、たぶん大丈夫でしょう。たぶん。
次回投稿に関してですが、現状未定です。また何ヶ月か空くかなあ、と思いつつも、もしかしたらちゃちゃっと書けちゃったりするかも?という。オリジナル要素が一層深くなる段階に入ったので、いい感じで読めません。
そんなわけで、気長にお待ちいただければ幸いです。