GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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こんばんは。クリスマスですね。私も昼はルースワール島でデートして来ました。楽しかったです。はい。
あ、ちなみにルースワール島は地図にない島です。はい。「よるのないくに」ってゲームをプレイすると行くことが出来ます。はい。

なんてことはさておき。何とか十二月中に叩き上げることが出来ました。本日は九話投稿です。ちょうど、ロミオ編部分ですね。
書きたい部分に徐々に差し掛かってきたおかげで、存外筆が進んでいたりします。
それでは、また後程お会いしましょう。


Chapter 5. 階
可燃性の暇


 

可燃性の暇

 

ナナさんがアナグラを飛び出し、ついでに私も鉄砲玉のように吹っ飛んでいった翌日。監督不行き届き、なんていうので臨席した榊博士諸共こっぴどく叱られた、そんな午後。

私は、この日二度目の呼び出しを受けた。

場所は神機保管庫。私の神機についての話らしい。

 

「……ふへ……」

 

訪れたその場所で見たのは、何というか……渾身の力作を完成させた子供だった。

にやけた口の代わりに言葉を入れるなら、ついにやったぜ、とか、そんな感じ。クマと油まみれの顔で、表情だけは妙にツヤツヤしている。このまま後ろに倒れ込んで寝ちゃいそうな雰囲気まで揃っていて……

そのくせ、見ているのはちょっと趣のある、アンティーク調のナイフ。持ち手の方が少し大きめで、何か仕掛けがあるのかな、なんて思う。

 

「リッカさん……?」

「へへ……へ?」

 

にへら顔のリッカさんは数秒目を合わせた後、ごしごしと顔をこすって表情を戻す。オイルでベタベタの手がさらに油を塗りたくるけど、全く気になっている様子がない。

 

「あー、ごめん。いろいろ思うところがあって。」

 

いつもの調子に戻ったのを確認し、近くに寄る。遠目からはナイフとしか見えなかったそれらは、よくよく見ればオラクル細胞で組まれているようだった。

神機にある物と比べ、かなり小さな球体……おそらくはコアもある。ということは、これは神機なのだろうか。

疑問を呈するより早く、説明が飛んできた。

 

「神崎式複合コアをベースにアレンジした、人工コア利用型神機のプロトタイプ。まあ、オリジナルは誰が見ても普通の神機レベルだったから、これはまだまだだけどね。」

 

……よく知らない単語がポンポン出て来た気がする。

 

「どう足掻いても少量でしか安定させられなかったから、いっそのこと小型化したんだ。その分コアとして神機を維持する機能は低下するから、こうして小さなものにする必要がある。その状態で火力を持たせるにはオラクル伝導効率と瞬間放出量を上げるのがベストでね。オラクル配列が密になるよう、刃の素材を厳選。加えてオラクル濃縮率を上昇させてるんだ。」

「……」

「ちなみに複合コアを利用した神機のオリジナルの場合、複合コアから供給されるオラクルが働きやすいパーツを用いることで特有の出力不足を補ってた。そもそもそれを作ったのは桜鹿博士とも交流のあった私のお父さんでね、この神機を作るときの参考にも……聞いてる?」

「……ふぇ……?」

 

無理ですリッカさん。なんか凄いんだってことしか分かんないです。

 

「そのくらいにしておけ。座学じゃねえ。」

「えー……」

「……神楽が帰って来ればいくらでも話せるだろ。ったく。……おい。」

 

最後のはどうやら私に向けられた呼びかけのようで、プシュプシュと音を立てる頭を無理矢理動かしてソーマさんの顔を見た。なんだか視界がパチパチしているのは……うん。気のせいじゃないと思う。

 

「単刀直入に聞く。これははっきり言って、安全性に関して保証はない。」

「作った側としては安全って言いたいけど、何せ初の試みだからさ。一定の危険性はどうしてもあるんだ。」

「その上で聞く。これを使う気はあるか?」

 

使えるのなら、別に断る理由があるわけじゃない。

けど、それは私が使っていいのだろうか。もっとちゃんとした人が使うべき物、なんじゃないだろうか。

そんな私の懸念を見透かしたように、二人は重ねて言う。

 

「お前が神機がなくても戦えることは分かっている。今の神機を使うというならそれでも良い。お前がこれを使いたいなら使えばいい、それだけの話だ。」

「補足すると、データを見る限り神機なしより神機ありの方が、君は格段に上手く立ち回ってる。オラクルの軸に使っているんだろうね。……で、作り手の自惚れがちょっとは入るけど、この神機はそれに向いているんだ。」

 

固定用のケースに触れながら、説明はさらに続く。

 

「さっきも言ったように、オラクルの伝導率が高いんだ。昨日の戦闘で使っていたようなオラクルの刃も、ローコストで発生させられると思う。」

 

……その説明は、もうあまり聞いていなくて。

もちろん、聞いても分からないっていうのが少しある。けどそれ以上に。

使っていいのなら、あとは一つだけ。リッカさんが触れている固定ケースに、私もまた触れて、一言問うた。

 

「いい?」

 

返事はない。そりゃそうだ。神機だもの。

だけど、確かに分かる。私がアラガミだからなのか、この神機が特別なのか。どちらなのか、はたまた別の理由があるのか。

そんなものはどうでも良くて、重要なのはその返答。

 

「……使わせてもらっても、良いですか?」

 

よろしくね、と。心の中で呟いた。

 

   *

 

「ふむ。では、一度患者の収容状況などを把握する必要がある、と。」

 

ラケル博士からのレポートに目を通し、おそらくはその内容を完璧に把握したであろう極東支部支部長。なるほど。ブラッドの局長殿と比べ、内部からの評価が高いことも頷ける。

噂によれば本部にも顔が利き、同時に敵も多い……それはつまり有能であり有用。かつ、我を通す人間と言うことだろう。見る限りとことん現実主義で、おそらくは現場主義か。

 

「ラケル博士からはそのように。フライアにもスペースは十全にあるものの、設備に関して足るか否かが問題であるとのことです。」

「承知した。状況に関しては……こちらから資料を出す程度で収まるようには思えないが、どうすると?」

「こちらから人員を派遣します。私と、ブラッドからもう一人。フライア付きの職員を数名。ついては、案内に極東支部側から人員派遣を願いたいのですが。」

「サテライト拠点の、か。アリサかコウタに指示を入れておく。日程などは追って沙汰しよう。」

「感謝します。」

 

……この男と駆け引きはしたくないな。知らず、思っている。

 

「時に、ブラッドの隊員は独断での行動が好きなようだが。」

「申し訳ありません。責任は、隊長たる私にあります。処罰は何なりと。」

「いいや、構わんよ。こちらも人のことをとやかく言えたものではない。」

 

では何を?と目で問う。彼にこれ以上は必要あるまい。

答える前に、あちらも目のみで……簡単なことだ、と。伝えてくる。

 

「カルネアデスの板を知っているかね?」

「己を助くか他者を助くか、ですか?」

「そうだ。君はどうする。」

「私は……」

 

ブラッドの隊長として。

 

「他者を。」

「なるほど。」

 

どこか寂しげに笑って、彼は続けた。

 

「覚えておくと良い。他者を犠牲に生き残った人間は、存外それについて自分を責めるものだ。」

「……」

「お互い、身勝手なのだろうね。」

 

身勝手。そうなのだろうか。

俺のことは二の次で、ブラッドの彼らを生かしたいと、それは身勝手な考えになるのだろうか。

……自分の根幹を占める何かに一石を投じられ、促されるまま退出した。

 

   *

 

これまでも数回入ったことのある訓練場は、いつにもまして賑やかだった。

それというのも、技術班が軒並み見物に来ていて……口々にやいやい騒ぎながら、その中心でリッカさんが誇らしげにしているわけだ。

 

「……あの……」

 

……タイプ6からシミュレーターが進んでない原因も、たぶん。

でもまあ、ある意味で良い訓練になる。複数の小型種と一体の中型種なんて構図は実地でもよくある光景だし。本来なら繰り返してまでやる意味は薄い気がするけど、使用感がまるで違う武器においては有用だ。

ナックルガードが付いたナイフ、なんてものを握ったのは初めてで……切る刺すに加え拳すら基本形にするそれは、主に三つ目のせいで非常に難しい。

加えて、刃が飛ぶ。

 

「あっ……この……」

 

親指で押すための射出ボタンは、鍔迫り合いになると予期せず押されやすい。これはまあ、慣れだろう。そもそも鍔迫り合いをするような武器でもないし。

これが、持ち手に組み込まれていた仕掛け。ワイヤーで結び付けられた刃を振り回す、リーチの短さを補う代物。なんだけど。

そのワイヤーがこれまた扱いづらく、終いには千切れてしまった。苛々したので鎖状のオラクルを操作綱に使っている。戦闘中に吹っ飛んだら面倒だし、ワイヤーはなくしてもらっちゃおう。

……恨めしいことに、そうして操作出来るようになると素晴らしく使える機能になった。基本的に展開させっぱなしの刃状のオラクルが相まって、攻撃力も申し分ない。

 

「……」

 

楽しいな、と、自然に思う。私が私に使える力を注ぎ込める、そんな感覚。

細く繋がった刃を回しながら、その様を夢想して……こそばゆくも、このトーテンタンツに昂揚した。

……昂揚、なのだ。ほんの少し前まで忌避と嫌悪を抱いていたものへ、私は今お腹の底から昂ぶっている。恐れるのでなく、畏れるのでもなく、ただ私の一部として認識し、研ぐ。その度に清冽な色を帯びる私自身を、さらに研ぐ。

誰も死なせないように。何もこぼさないように。

誰も、殺さないように。

私は自分自身を、一振りの刀とばかり鍛え、誂えるのだ。

……もうすぐ、この愛しい時に終わりが来ると。来てしまうと。何を持ってか理解出来てしまうから。

どうしてもそれを認めたくなくて、私は何一つこの手からこぼれない力を、こぼさない力を、欲してしまうのだ。


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