GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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どもども。
今回、ちょっとだけアリサの性格が変わります。


確執

確執

 

任務も終わり、シャワーも浴び、部屋にいても暇を持て余してしまいそうだからエントランスへ。

 

「んー……ふう。」

 

身体の筋を伸ばしながらエレベーターから降りる。こんな風にすると結構気持ちがいい。のだけれど……

 

「何度言ったらわかるんだよお前はっ!」

「わっ!」

 

降りた瞬間にこんな罵声が飛んでいては……

 

「そちらこそ何度言えばわかるんですか?わざわざ軸線上から外れた位置から撃ち始めているのにいちいち斜線上に飛び込んで……自分のミスを考えもせずによく人の責任にしていられますね。」

 

またか……

アリサが来てから今日で五日。その間に他の部隊との合同任務もこなしていっているのだが、いかんせん馬が合わないらしい。

叫んでいるのは小川シュンさん。第三部隊唯一人の近距離型神機使いだ。……分不相応な任務を考えなしに受けてしまうことのある先輩というか……ごめんなさい。あんまり先輩とは思えないです。

そのシュンさんは……

 

「てめっふざけんな!」

 

拳を振り抜いた。いくらなんでも黙っているわけにはいかない。アリサとの間に入ってその拳を受け止める。

 

「シュンさん!それはいくらなんでもまずいです!」

 

こうなっているときのシュンさんは叫ばないと何も聞いてくれない。前にコウタが止めに入ってぶっ飛ばされていたこともある。

 

「……お前か……」

 

私にまで敵意を向けないでくださいよ……

 

「そのばかに言っておけ!まともに考えて動けってな!」

 

捨て台詞を吐きながら神機格納庫へと入っていった。

 

「さっきの言葉、そっくりそのまま返しておいてください。」

 

そう言いながらエレベーターへと消えるアリサ。

私は私でアリサの今日の同行者の一人であったソーマに声をかける。彼は下にいた。手足を組み、おもしろくなさそうにフードを被って座っている。

 

「何がどうしてたんですか?」

「……思い出すのもばからしいがな……」

 

そう言いつつも教えてくれた。

 

   *

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旧工業地帯の一角。

魚型のアラガミであるグボログボロ。はっきり言って口とヒレしかねえが。基本的に鈍重だが、額の砲塔から放たれる水球に関しては面倒だ。

そいつをジーナと例の新型、そこにシュンの奴を加えた四人で討伐していた。

戦闘開始直後に二人の銃撃が放たれる。どちらも近距離型にとって邪魔にならない位置からだ。

右の胸ビレを砕き、尾ビレを切断し……シュンの奴は砲塔を破壊しようとしていた。その右側をアリサの弾丸が通り抜けている。アサルトだけに連射性は良い。

そのシュンを狙って水球を放つ準備がされ始めた。鈍くせえが。

それに対してあいつが取った行動は……

_____

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   *

 

「……まさか、右に避けたんですか?」

「ああ。」

 

シュンさん……それじゃあ八つ当たりですよ……

 

「アリサは銃撃を止めなかったがな。」

 

えっ?

 

「あの、止めなかったって?」

「弾丸がでかいからあのバカが見えなかったんだろ。多分だが。」

 

だとすると……どっちが悪いと言うべきなんだろう?

……どっちが悪いもないか。結局のところはしょうもない二人、と言うくらいでとどまってしまうし。

 

「あら?どうしたの?」

 

カウンターの向こう側からサクヤさんが降りてきた。私たちが一緒にいるとは思っていなかったのか、どこか意外そうな口調だ。

 

「それが……またアリサとシュンさんがいざこざを起こしちゃって、ソーマに何があったのか聞いてたんです。」

 

そういうとサクヤさんの表情が驚きのものに変わった。

 

「ソーマに!?教えてくれたの!?」

「うるせえ……」

 

えっと、何がどうしてそういう会話が成立するのかがわからない私はどうすれば……

 

「ソーマが人と関わることなんて滅多にないのに……」

「……」

 

……彼が人と関わろうとしない理由には最近気が付いた。たぶん、私と同じような理由だ。でもそれは今どうでもいいのでは?

 

「それにしてもアリサも困ったわねえ……なかなかここの神機使いと馴染めないみたいだし……」

「ロシア支部でも仲の良い人はそんなにいなかったそうです。……仲のよかった人は、死んでしまったりしたって……」

「なるほどね……」

 

彼女とまともに話しているのはここではまだ私だけだ。他の神機使いは彼女を敬遠、あるいは無視する者すらいる。状況は芳しくない。

 

「まあとにかく、力になってあげてね。あなたにはある程度心を開いているみたいだし。」

 

出来る範囲にはなってしまうが……いつまでもそんなことを言っていられない。

 

「はい。」

 

はっきりと答えた。

 

   *

 

ってわけで今彼女の部屋の前に来ているのだが……

 

「何でサクヤって人といいあなたといいいきなり訪ねてくるんですか!しかも汗流していたときに限って!」

 

と言いながらかれこれ十分は経過している。どう考えても着替えとかではないドタバタとした音が響いているが、いったい何が起こっているんだろう?

 

「お待たせしました……」

 

部屋の扉を開けて顔を出したのは汗だくで息を切らせているアリサ。汗を流したって言ってたのに……

 

「う、うん……おじゃまします。」

 

通された彼女の部屋は何ともこざっぱりとしていて清潔感が漂っていて……タンスの隙間から服が飛び出ていてベッドの下から下着の紐らしきものが顔をのぞかせていて部屋の片隅に干された布団の後ろから段ボールが垣間見えていてとまあすさまじい……そうか。これが十分間の出来事か。

 

「紅茶しかありませんが……どうぞ。」

 

えっと……照れ隠し?なように思える。

 

「うん。ありがとう。」

 

おそらくは来客用の椅子に座っての会話。向かい合っているのだが……さてさて、どこから切り出したものか。

 

「これ、ロシアの?なんか普通の紅茶とは違う感じがするけど……」

「私、ロシア人ですよ?」

「なるほど。」

 

ふむふむ。こういう香りなんだ……味もちょっと変わってる。これもいいなあ。

 

「それで、何の用ですか?」

 

そうだった。

 

「まあ用ってほどじゃないんだけど……ここの暮らしには慣れた?」

 

とにかく当たり障りのないところから。

 

「さすがにまだ五日間しか経っていませんからどうとも言えません。」

「あははっ。確かにここって入り組んでるもんねえ。」

 

どこの支部もある程度の統一性はあるものの……極東支部は増改築を繰り返しているため、他の支部よりも入り組んだ形になってしまったという。初めの頃は私も苦労した。……まあ、今でも少し苦労するけど。

 

「そもそもここには調子に乗った人が多すぎです。」

「調子に乗った人?」

 

うーん……なんか自分から話し出してくれているから助かるんだけど……調子に乗った、かあ。結構すさまじいな。

 

「強くもないのに先輩面をしたり、お金のことしか頭になかったり、自分の狙撃以外全く考えずにいたり……」

 

シュンさんとカレルさんとジーナさん。うーん……辛辣だ……

 

「人を助けることだけ考えてアラガミの討伐を疎かにしたり、戦術理論だけ考えていたり、誤射以外に脳がまったくなかったり……」

 

タツミさんとブレンダンさんとカノンさんのこと……

 

「仕事しないくせにリーダー風吹かせたり、回復弾に集中してまともなダメージを与えるのを忘れていたり、バカなことばっかり言っていたり……」

 

リンドウさんとサクヤさんとコウタ……

 

「ちょっとばかり強いからっていつも人を小馬鹿にするような態度を取っていたり……」

 

……消去法で……ソーマ……

 

「ねえ……」

 

私の言葉は届いていない。

 

「誰も彼もふざけた人ばかり……そんなことでアラガミが倒せるわけがないのを全く理解してな

い。」

「ちょっと……」

 

……押さえられるかわからない……

 

「あんなことで神機使いを名乗っているなんて……」

「だから……」

 

……黙れ……

 

「笑わせてくれま……」

「黙れっ!」

 

バシッ……そんな音が響いた。

 

「うっ……つ……」

 

同時にアリサが吹っ飛ぶ。頬を押さえながら起き上がる彼女と、ピリピリとする掌。

でも、悪いとは思わなかった。

 

「……ちょうどいいから言っておく。あなたがそれぞれに感じていることは他の人も薄々と思っていることが多いけどね、シュンさんもカレルさんもジーナさんもアラガミと戦うことへの決意はあなたなんかよりももっとしっかりとしてる。タツミさんやブレンダンさんだってあなたが言うようにアラガミをすぐに倒したい。そうじゃないと被害はもっと大きくなるから。だけどあの人達は防衛班なの。目の前に襲われそうな人がいたら、アラガミを倒すよりも先にその人を助けるのが最優先事項とされている、ね。カノンさんだって誤射を減らす為に毎日二時間は練習場にいる。高い適合率故のものを直そうとしてる。リンドウさんもサクヤさんも、常に仲間のことを考えて動いている。だめな人に見られようと攻撃のチャンスを逃そうと、仲間を助けようとするからそうなるの。」

 

語気が激しくならないようにするのが精一杯。怒りまで抑えられるような状態ではなかった。

 

「……あなたの話だと、ソーマが人を小馬鹿にしてるってことになるよね。」

 

アリサの胸ぐらを掴んでしまう。怯えている彼女を無理矢理引きずり起こして……

 

「彼はあなたなんかと比べ物にならない物を負っている!あなたみたいに唯憎しみに駆られてアラガミを殺そうとしている奴とは違うの!……だいたい……」

 

止められない……ここまで激昂したのは久しぶりすぎて……思考は冷静なのに、感情が体を突き動かしてしまう。

 

「いい加減気付け!一番調子に乗ってるのは自分だろ!」

 

アリサを放りとばして部屋を出た。

 

   *

 

……自分の部屋に入って、鍵をかける。

 

「……はあ……」

 

何であそこまで言ってしまったんだろう……彼女が不安定なのは知っていたのに……

 

『ちょっとばかり強いからっていつも人を小馬鹿にするような態度を取っていたり……』

 

「っ!」

 

壁を殴る。そうか私は……ソーマが貶されたことが一番嫌だったんだ……

……ターミナルについているランプが点滅していた。個人の部屋にあるターミナルに備え付けられているメール受信時に点滅するランプだ。

 

「……あ……」

 

差出人はアリサ。すみません、と件名にあった。

 

『すみませんでした。今更ですが、シュンさんとのことがあって興奮していたようです。今後とも、よろしくお願いします。』

 

「アリサ……」

 

……彼女の方が大人だ。私なんかよりもずっと。

そう自分を窘めながら、返信画面を開いた。

 

   *

 

……何なんだあいつらは……急に仲良くなったみてえだが……

ついぼやいてしまうのは……あいつら。つまりは神楽と例のアリサとか言うくそ生意気な二人が妙に仲が良いからだ。

 

「ふふふ。雨降って地固まるね。」

 

……あ?

 

「お前……何かやっただろ。」

 

隣に来てニヤニヤとあいつらを見るサクヤ。間違いない。何かやってやがる。

 

「別にい♪ちょっとばかり偽装してメールを送っただけよ♪……はあ、やっぱり若いって良いわねえ」

 

……放っておくか。




うーん、サクヤさんがしたたかなお姉さんになって行っているが良いのだろうか?

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