GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
お待たせいたしました。ナナ編、及びChapter 4、開幕です。
おそらく、過去最長になるでしょうか。本日は十話纏めての投稿となります。小出しにしようと思っていたのに、切り所が見付からなくて書き抜くしかなくなった阿呆の例がこちら…
歌姫
歌姫
「じゃあ、これ。頼まれていたものです。」
「ありがと。これで何とか進められるよ。」
「よくまあ……歌姫を運送業者代わりにするもんですよ。おたくの技術者は。」
「そう言わずに。一応、オラクルリソースと交換なんでしょ?」
「それはそうですけどね。」
エントランスに降りると、見覚えのない二人がリッカさんと会話していた。
釈然としない様子の女の人と、苦笑するリッカさん。それを見てニコニコしている女の人。
……それを見るなりテンションが上がるロミオ先輩とナナさん。つまるところ、知り合い……ということなのだろうか?
「あ、みんな。久しぶり。」
「ユノさん久しぶりー!おでんパン食べる?」
「うおおお!ユノさん!」
「はいはい。騒いだら罰金取りますよ。」
「うえっ!?」
「……馬鹿が……」
見回してみれば、いつもより少しだけ活気があるように思う。このユノさんって人が来たのが要因……なんだろうか。
「あの、ジュリウスさん。久しぶりって……?」
「以前マルドゥークと戦闘した前後にフライアにいらしたことがある。ちょうど、お前の意識がなかった時だ。」
「あ……」
そういえば、私はいろいろあって気を失ったんだっけ……それなりに寝てたから、覚えていないのも不思議じゃないかもしれない。
「えっと……結意さん、かな。初めまして。」
「あ、えと、えと……は、初めまして。鼓結意……です。」
綺麗な人。こういう人のことを、住む世界が違う人、とか言ったりするんだろうか。
年上の人ばかりの環境だけど、それでもこういう感じの人はあまり見ない気がする。
「ごめんね。前に行ったときに会えればよかったんだけど、あまり長居出来なかったから。」
「いえ……」
そう言われても、自分の意識がなかったときのことだから何とも答えづらい。
……こういう時は、自分の人見知りが恨めしくなる。
「ユノさん。支部長が報告について聞きたいと……?」
もう一人、初対面の人がいた。この人は……神機使いみたい。
「その腕輪……ブラッド隊の方々ですね。クレイドル所属、アリサ・アミエーラです。」
「ブラッド隊隊長、ジュリウス・ヴィスコンティです。隊員との挨拶はまた時間のあるときに。」
自然な動作で握手を交わす二人。このくらい出来るようになったら、もう少し初対面でも話せるようになるんだろうか。
「本当はもっと早く挨拶出来たらよかったんですけど……なかなかそうもいかなくて。」
「サテライト拠点、ですか?」
「作業が進むようで進まないんです。頓挫しないだけマシですけど。」
「資材の面で問題が出ている、と聞いています。よろしければ、フライアから提供できるよう掛け合いますが。」
「いえ。極東管轄外に援助を求めるとなると、もっと上でゴタゴタしますから。」
聞いていて頭がこんがらがりそうな話……見る限り、ナナさんやロミオさんも同じみたい。
人見知りもそう。こういう頭を使うのもそう。
なかなか、ジュリウスさんに追いつけない。
「ただ……そうですね。近々サテライト拠点周辺で、大規模掃討戦を行う予定なんです。それを手伝っていただければと。」
「了解しました。どうか遠慮なく。」
「感謝します。それじゃあ、ユノさん。」
「うん。じゃあみんな、また後で。」
連れだってエレベーターに向かう二人を見ながら、私はどうにも、もやもやしたものを抱えていた。
*
「よーし次。D7からD11までを5マイクロ単位で連続投入。その後、三回に分けて遠心分離。」
「ああ。」
ソーマに指示を出す、って、結構新鮮だなって思う。
もちろん、ソーマ以外に任せられる類の仕事じゃない。機械で出来ないような精密作業で、かつ彼じゃないと危険極まりないのが難点……
その作業を最低でも百個単位で行った研究者が、八年前にいた。
「桜鹿博士って、やっぱり偉人だと思うよ。」
「……」
着手した複合コア作成実験。ヒトDNAを組み込む勇気も技術も理論体系もないから、ごく純粋なコアを作るところから始めている。
使えるとしたら……ソーマか、神楽か、渚か。普通の神機使いじゃ触ることも出来ないかもしれない。
それでも、これが完成し、実用段階までこぎ着ければ……
「希望する人間が皆神機使いになり、望まない徴用がなくなる……」
「前者は、少なくとも可能だろうな。」
今やっているのはそういう研究。桜鹿博士が完成させたものの、その多くが失われた技術。
それを神楽が五年、加えてソーマと二年かけて、基礎理論までを構築し……私が受け取ったもの。お願いしますと、ただ一言だけ言って頭を下げていた神楽の様子は、今も記憶に残っている。
「完成次第、実地運用に回そうと思うんだ。」
「……結意の神機か。」
「うん。本人が希望すればだけど。」
思えば、人工のコアを利用した神機なら、作ったことがあるんだな。なんて今更な感傷を抱く。それとしての形は残っていないにしろ、神楽が使っている右腕は、元はと言えば桜鹿博士の複合コアの神機だ。
今度は一から作る。コアも、神機本体も。アーティフィシャルCNSとは規格が異なるから、形状もずいぶん違う物になるだろう。
……技術者の性だろうか。わくわくする私がいた。
是非とも研究者としての桜鹿博士と話してみたかったな。この技術に触れる度、そう思う。
「ま、その前にお伺いを立てないとね。」
「……喜ぶさ。あいつなら。」
お父さん。神崎との繋がりは、互いの娘にまで波及してるよ。桜鹿博士なんてたまに来るおじさん程度の人だったのにね。
*
件の掃討戦のためにジュリウスさんが話し合いで抜け、ギルさんも血の力に関するメディカルチェックへ。トレーニングメニューを組んでいたロミオさんも出ない。
そんなわけで、私とシエルさん、ナナさんの三人で任務に出ていた。
「小型の足止めを!」
「はい!」
赤いカリギュラと戦ったときみたいなことをすると、簡単に動けなくなるというのには、復帰前になんとなく気が付いた。ソーマさんが言うには、アラガミとしての力の副作用……だとか。
それでも、きっとこの力は。ジュリウスさんに追いついて、あの誰かを捜すのにきっと役に立つ。そう思う。
だから無理のない範囲……自由に動かせる盾。みたいに使っている。
「はっ!」
デミウルゴスに斬りかかるシエルさん。その背に数体の小型が迫っていた。
「……落ち着いて……」
ヴァジュラテイルの火球を半球状に展開したオラクルで防ぎつつ、ドレッドパイクを狙撃。
以前は周りの攻撃に警戒して上手くいかなかったスナイプも、こうしてオラクルを使えるようになって格段に上達したように思う。
シエルさんに教えてもらったこともしっかり組み込みつつ……うん。今度、バレットの作り方も教えてもらおう。
「っ……」
とはいえ、さすがに近接攻撃を完全に防げるほどの密度で張っていられるわけじゃない。特に中型以上となると、一カ所に集中させておかないと簡単に抜かれてしまう。
コンゴウ堕天種の突進を回避しつつ、ナナさんに声をかけた。
「ナナさん!お願いし……ナナさん?」
何となく、フラフラしている。
「……あ……ごめん。ぼーっとしてた。」
少し調子も悪そうだけど……大丈夫だろうか?
「いやー……お腹減っちゃって、っとお!」
言いながらコンゴウを叩き飛ばす。一応、なんとかなりそう……には見える。
「あの、無理しないで……」
「だいじょーぶだいじょーぶ!」
結局その後はいつも通りで、損害もほぼなく任務は終わった。ナナさんも何事もないように見える。
……ううん。何事もないと信じていたい。私は私で、しばらく考えたいことが多すぎるから。
*
日が落ちて少し経った頃合いのエントランスに、いくらかの面々を集めていた。
俺、ジュリウス、アリサ、コウタ、ハルオミ。そこにヒバリが加わっている。大規模掃討戦への作戦会議だ。
アラガミの数が多いわけではない。が、その展開範囲が広い。手の限られているこちらからすると、かなり厄介な状況になる。
「なるほど。では我々は、芦原ユノをネモス・ディアナへ護送した後、周辺のアラガミを掃討する、と。」
「ああ。護送は空路で行う。進路上に関しては先に掃除を済ませる予定だ。第四部隊はサテライト拠点間を移動しつつ、進路周辺のアラガミを撃破。案内を兼ね、これにアリサが同行する。第一部隊にはアナグラ防衛を任せる。」
サテライト拠点が増えたことで、確かに人の収容率は格段に上がった。だが同時に、神機使いの負担が増えたことも否めない。
三年前まで六つの部隊が常駐していたアナグラも、サテライト防衛のため人員を割いた結果、現在は二つに留まっている。
「OK。ソーマは?」
「あくまで感応種を優先しつつ戦局の厳しいところに入る予定だ。俺を宛てにした展開は避けろ。」
「現在までのところ、近隣に感応種の反応は確認されていません。が、万が一遭遇した場合にはネモス・ディアナ担当のブラッド隊。もしくは遊撃にあたるソーマさんに対応をお願いすることになります。」
「把握した。我々以外の二地点以上で同時に感応種が現れた場合は?」
「可能な限り俺一人で対応する。ネモス・ディアナ周辺は他と比べてアラガミが多い。下手に割いて全体が崩れるようなら、そもそも作戦の意味がねえ。」
人の数に比例して……とまではいかないながら、人が多い場所にはアラガミが多い傾向にあることは確かだ。
だからこそ頭数のあるブラッドを配置するが、これは同時に感応種への対応難を意味する。難しいところと言うしかない。
フライアから回されたレポートによれば、結意との同行によってブラッド以外でも血の力を発現出来る可能性があるらしい。ただそれも、何かと病室に放り込まれがちな現状ではそれも進んでいない。本人が内向的なのもまた要因の一つだろう。
だいたい、そもそも不安定な代物である血の力に頼っての作戦展開は無謀だ。フライア側の判断はともかく、俺はそう考えている。
……俺の力も、神楽や渚の力も、だ。
「私達のルートはどうしますか?」
「ネモス・ディアナに近いサテライトから順に回るのを基本とするが、指定はしねえ。状況に応じて決めてもらうことになる。」
……どこかのタイミングで、ラケル博士に会う必要もありそうだな。
「作戦については以上だ。発動は近日中。決定次第連絡する。確認されているアラガミの情報についてはヒバリに聞け。」
解散し、ソファに腰掛ける。こういうのはどうも慣れねえ。
「お疲れ。何か飲む?」
「いや、いい。……ったく。面倒だ。」
「そうは言っても、階級はかなり上の方じゃないですか。相応な責任ですよ。」
「好きで上がったわけでもねえ。」
俺の他にアリサとコウタが残った。考えてみれば、旧第一部隊員が三人も揃うのは久々になるだろうか。
「まあでも、けっこう重たいよなあ。上にいるのって。」
「コウタはそういう厳しさを学ぶべきです。」
「え。」
「え。じゃありませんよ。神楽さんの百分の一でも仕事してから言って下さい。」
「アリサもそれ言う!?俺の扱いひどくね!?」
……この面子だからこそ、話せることもある。
「……ブラッドの副隊長。どう思う。」
「どうって?この間のこと?」
「ああ。記録は見ただろ。」
俺達が俺達でいられる場所を作ってくれたこいつらだからこそ、俺はこういう話題も振ることが出来る。
何かしらの判断材料にするには弱いだろう。それでも、俺以外の意見がほしかった。
固定観念の混じらない、とでも言えばいいか。ごく普通の神機使いから見た、あいつの印象。
おそらくは、その意見こそが適当となる場面も存在する。
「すげえな、って思ったよ。あの赤いカリギュラ、データは見たけど強そうじゃん。」
「そうですね……ただ、どこか振り回されてる気もします。あまり知識もないですし、下手なことは言えませんけど。」
「あー。なんか、ソーマ助けに行った時の神楽みたいだよな。」
よく見ている。口にこそ出さないが、暴走寸前だったことにも察しは付いているかもしれない。
「まあ、やばいことにならなければ大丈夫だと思うよ。前例見てたからかもしれないけどさ。」
「少なくとも何のきっかけもなしに暴走、なんてことはなさそうですし。危なくなったら考える、でいいんじゃないですか?」
俺達はもしかすると、自分の危険性を過大視しているのかもな。
そう考えるべきでないのは重々承知だが、こいつらと話しているとそんな思考にも行き当たる。
「そうか……悪い。時間をとらせたな。」
「いいって。……つっても意外と遅いのか……」
「始まったのも遅かったですからね。今日はもう休みましょう。」
「だな。」
こいつらがこう考えていてくれることを、吉と取るか凶と取るか。
……どちらにも転ぶ。今はそう、考えることにした。
さすがに、十話分も書くことがないです…新作はほぼ情報出てないですし、紙スペックなスマホさんはGEO動きませんでしたし…
というわけで、次は125話後書きにて。