GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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三話目。何と言うか、ジュリウスとソーマの口調…微妙に被ります。


序列

 

序列

 

「ハルさん。俺だって、この一年で努力してきたつもりです。」

「……」

 

赤いカリギュラを潰しに行く。そう決断……というより、無謀な挑戦をすると、つい一時間ほど前に聞かされた。

半分は俺もそうするつもりだったと言える。ただまあ、立場ってものもあって、さすがに実行には移せなかった。

だからだろう。こいつが突っ込んでってくれるってんなら、それもいいかもしれないとは思う。

 

「……なあ、ギル。」

 

……それでも、こいつにはまだ。俺にだって、一人であれと対峙するには早いのだと理解出来る。

だからヒバリには、緊急性がない限りは隠すように言っておいたわけだが……返ってこいつの決意を固めちまったのかもしれない。

 

「俺も、お前が努力してきたってのを否定するつもりはない。戦績やら何やらでも強くなったのは分かるさ。」

「なら……」

「ただな、それでも足りないってのも分かる。お前が弱いんじゃない。ケイトが強かったからな。」

「……」

「あいつは、あの頃の俺よりスキルは上だったんだぜ?今よりゃ弱いがお前もいたんだ。なのに勝てなかった。」

 

神楽……だったか。極東から来てくれてなかったら、ケイトはギルに介錯されていたことだろう。

そして、俺は何も出来なかった。これも間違いない。

正直なところ、こいつにはもっと何か出来なかったのかって想いもある。もっと頑張ってりゃあ、今頃ケイトと隠居暮らしでも出来たんじゃないかって考えもある。

それが無駄な考えだってことも、十分分かっている。あいつが生きているってだけで奇跡なんだ。

 

「……じゃあ、どうしろって言うんですか。指くわえて見てろって言うんじゃないっすよね。」

「当たり前だろ。……ただ、俺もお前も、まだ力不足だ。どうしてもな。」

 

ケイトがいれば、少しは違ったろうか。

 

「……ブラッドには慣れたか?」

「ええ、まあ。年下の扱いには困りますけど。」

「そーかそーか。一年前の俺の前で言ってみやがれ。」

「……すんません。」

「冗談だ。……そうか。そんならいい。」

 

ブラッドか……

 

「あの副隊長、面白い奴だよな。」

「結意っすか?どっちかって言うと、危なっかしい奴です。」

「そこがだよ。ケイトと似てる。」

 

半分アラガミだ、って聞いて、一瞬神楽のことも頭に浮かんだ。

それがどうだ。落ち着きはないわ、ちっちゃいわ、ろくに似ちゃいない。

……そのくせ、常に思い詰めているとこだけは共通する。そんな奴だ。

なんでケイトに似てるって思ったんだか……

 

「あいつにさ、頼もうかって思うんだ。」

「頼む?」

「……手伝ってくれって。」

「……やめた方がいいっすよ。」

 

ギルがこう言うのは珍しい。いや、赤いカリギュラ関連なら頷けなくはないが……

 

「神楽さんもあいつも、俺は間近で見ることが出来ました。まあ、あいつに関しては直接見たわけじゃないですが。」

「……」

「……あいつは、もっと別のもんです。神楽さんと同じだって見ちゃいけない……」

「ギル。」

 

……薄々感づいてはいた。

あの二人の明確な違い。

……自分を理解しているか否か。

だがそれでも、頼むならあいつしかいない、と。そう感じていた。

 

「お前の、今の仲間、だろ?」

「……」

「前は向けてないけどな、向く努力はしようぜ。」

 

   *

 

ジュリウスさんを除く全員の召集、という、珍しいものがかかった。

なんでも、私の血の力に関するものらしい。予め私だけは説明してもらったけど、他の人の血の力への目覚めを誘発するもの、とか……

その指定時間は五分後。なんだけど……

 

「ロミオとナナは任務からの帰投中。ギルは……何か用事でもあるのでしょうか。」

 

お義母さんが部屋の中で待っている……ものの、五人の召集に対し二人だけで入るのは忍びない。

……と、シエルさんに言われて、扉の前で待つ格好になっている。

 

「……結意さんとこうして二人で話すのは、久しぶりですね。」

「えと……」

 

二人だけでお話。というのに慣れていないせいなのだろうか。こういう時、どう会話したらいいのか分からない。

 

「私はこれまで……いえ、結意さんに助けてもらうまで、命令を至上のものとして生きてきました。マグノリア・コンパスではジュリウスの護衛として。フライアでは神機使いとして。」

 

護衛。それはつまり、私よりジュリウスさんの近くにいた、ということなのだろう。

羨ましいと思ったり、私みたいなのが近くにいるより、ずっといいとも思ったり……

 

「……だというのに、命令違反に私は助けられました。それも自分の身を省みない無謀な方法で。」

「……ごめんなさい……」

「あ、いえ。責めているわけでは……むしろ感謝しているんです。」

 

……私に、感謝される資格なんて、あるんだろうか。

感謝って、私みたいなのに向けられて、いいものなんだろうか。

 

「結意さんのおかげで私は……命令よりも、自分よりも、大切なものに出会えました。」

「……」

「……とても、あたたかい。」

 

シエルさんにとって、私は何なのだろう。

人?アラガミ?

……聞くのは、やっぱり怖い。

 

「あ、二人ともー。」

「おーっす。」

 

二人が帰ってきた……ものの、ギルさんはなかなか来ない。何かあったのだろうか。

 

「あれ?ギルは?」

「不明です。任務に出ているというわけでもありません。」

「んじゃあ、もう入っちゃう?時間過ぎてんでしょ?」

 

半ば無意識に頷いた。

待つのと、お義母さんと会うの。後者を優先したい私がとても強い。

 

「どうしますか?」

「えと……入って待ってても……大丈夫ですよね?」

 

……ブラッドのみんなは、とても大切だって思う。

けど……まだ、それ以上にジュリウスさんとお義母さんが大切だって、そう思っている。

 

   *

 

ブラッドの隊長との任務か。何度か顔は合わせているが、まともに任務に出るのは初めてだったな。

 

「……」

「……」

 

単独でもなしにここまで静か、ってのも、ずいぶん久しぶりだ。

こいつがわざわざ二人だけで任務に連れ出した理由は察しが付いている。おそらく、あの結意とかいう神機使いのことだ。

どこまでどう話したものかは悩むが、少なくとも、聞かれて隠す必要はあまり感じない。

 

「……何か聞きてえんじゃねえのか。」

「申し訳ない。それは確かだ……ただ……」

「何から聞けばいいのか分からないって顔だな。」

「全くその通り、と言わざるを得ない。聞くべきことは分かっているつもりだ。ただ、その順序に悩んでいる。」

 

順序、か。

そんなものがあるなら、神楽も俺も、ここまで苦しむことはなかっただろうな。

 

「……焦るな。お前があいつを追い詰めでもしたら、確実に最悪の状況を招く。」

「理解はしている。」

 

……大まかに言ってしまえばこいつ自身も同じものだ、とは気付いているのだろうか。

聞いてどうなることでもないが、いつまでも聞かずにいられる類でもないように感じられる。一番面倒なやつだ。

 

「帰投まであまり時間もない。聞けねえなら、もう一度まとめてから声をかけろ。」

「……なら、これだけ聞かせてもらいたい。」

「何だ。」

「いい言い方が思い付かないからな。率直に聞く。……暴走させない方法はあるか?」

 

……抑えろ。

こっちが聞きたい。ああそうだ。だが抑えろ。

俺が激昂する意味は、全くない。

 

「……確実な方法はない。」

「曖昧でいい。可能性だけでも、何かないだろうか。」

「二つ、あるにはある。一つは本人で出来ること。もう一つは本人に出来ないことだ。」

「それは?」

「自分の力を自覚すること。信用できる人間が傍にいてやること。あいにく、それ以上の方法を俺は知らねえ。」

 

だめだな。今はあまり、抑えられそうにない。

 

「逆に聞く。アラガミは人の中で、どう生きればいい。」

「……それは……」

「まずは理解しろ。ただの人間どころか、神機使いからも外れちまったんだ。同族以外に本当の意味での理解者もいねえ。」

「……」

「あの結意ってやつも、そこに足を踏み入れた。……結局はそういうことだ。お前は支えになれるかもしれねえが、救いにはなれねえ。」

「……ご忠告感謝する。」

 

……俺だって、神楽の救いになれているか自信はないんだ。




次回よりルフス戦。二話続きます。

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