GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
世の中はポケモンGOで盛り上がっていますが、相変わらずGEやってる。そんな私です。
前回投稿時の予告通り、本日はルフス・カリギュラ戦+α。計六話の投稿となります。
朱の氷
極東支部に到着して一週間。私の神機の改修も終わって、ここ二日は任務にも出ている。
そんな頃にあって、何人かの神機使いが召集されていた。
コウタさんとハルオミさん、ジュリウスさん。ついでに私。
どうやら討伐部隊の上の方、を集めたようで、なんだか私だけ場違いな感じがする。
「過日より、極東支部周辺では赤いカリギュラの目撃報告が相次いでいるのは知っているかい?」
「……」
ハルオミさんだけ、その雰囲気が変わった。
……赤いカリギュラ。ギルさんがグラスゴーで遭遇した相手。
「実はその偏食場をレーダーが捉えてね。何かしら対応策は考えておこう、と、ソーマと話したんだ。」
「博士ー。カリギュラって赤だったっけ?」
「もちろん違う。だからこそ、注意すべき対象として見ているんだ。」
榊博士がモニターに情報を映し出す。一年前の抗戦記録、のようだ。
「こりゃ……あの時の……」
「そう。君を始めとする当時のグラスゴーの神機使い。それから、アナグラの神機使いが遭遇した際のデータだよ。」
「お前らの報告と、神楽からの報告を合わせてある。役に立つかは分からねえが、少なくともどういう相手かは確認出来るはずだ。」
「……恩に着る。」
「礼を言うくらいならコアでも回収してこい。意趣返しは結構だが、それもお前の仕事の内だ。」
「……」
ずいぶん突き放すように言うソーマさん。怒っている……のだろうか?少なくとも、機嫌が良さそうには見えない。
「まあ落ち着きたまえ。赤いカリギュラに関してはヒバリ君にもデータを渡してある。タイミングが合うようなら、彼女から討伐依頼が出されるはずだよ。」
「タイミング……とは?」
「ここ数日、赤い雨が多くなっているからね。無闇に出撃させられないのが現状さ。」
赤い雨の中でも、ソーマさんは戦えるらしい。聞いた話では半分アラガミだから、とか……
よく分からないけど、それはつまり、私も戦える、ということなのだろうか。
……もしそうなのだとしたら、やっぱり私はアラガミなのだろうか。
「さて。他に質問がないようなら解散としよう。」
……私は、どっちなのだろう。
*
「ソーマさんのここ数日間……ですか?」
「うん。討伐履歴見られるかな。」
リッカさんがこういう頼みごとをしてくるのは珍しくない。神機の状態から気になったり、そもそも本人の様子から、なんてこともある。
とはいえ、ソーマさんの任務歴を見たい、というのは久しぶりだった。
「五日前、グボロ・グボロ堕天種1、アイテール1。四日前、赤い雨につき出撃なし。一昨々日、プリティヴィ・マータ2、ヴァジュラテイル5。同日、コンゴウ2、クアドリガ堕天種1。一昨日、赤い雨につき出撃なし。昨日、ボルグ・カムラン堕天種1、スサノオ1。以上です。」
「……本当にそれだけ?実際にはもっと、とかない?」
「最終報告でも同じですけど……何かあったんですか?」
もっと多いはずだ、というような口振り。とはいえ、それ以上の記録がないのも確かだ。
「それがさ……ソーマの神機、異様に傷が多いんだよ。」
「傷?」
「うん。無茶した傷。前から無理してる傷はあったんだけど、無茶はしてなかったからさ。ちょっと気になって。」
確かに、ここ数日のソーマさんには疲れが見えていた。任務自体は特に厳しいものはなかったはずなのに……と感じていた部分もある。それが無茶にも繋がっていたのだろうか。
……だとしたら、何となく分かる気がする。
「……神楽さんが離れているから、かもしれませんね。」
「さすが恋人持ち。言うことが違うよ……」
「ちょっ……リッカさん!からかわないで下さい!」
全くこの人は……
そう思いつつ、タツミのことを考える自分がいる。定期的に連絡をくれるけど、やっぱり近くにいてくれた方が嬉しい。
「うん。でもまあ、それは私も考えたんだ。あの二人と来たら時間があれば引っ付いてたし。」
「そうですね……」
ここにいたって、私は一つ思い出す。
ずっと神楽さんから寄せられていたクレイドルの報告書の名義に、いつの間にか渚さんが加わっていたこと。
……前回の報告書……確か三日前。渚さんの名義しかなかったはずだ。
「……」
「どうかした?」
「あ、いえ。ちょっと引っかかることはあったんですが……たぶん思い違いです。」
「……?」
極東支部は、三年ぶりに困難に直面しているのだ。迂闊に波風は立てられない。
このことはまだ、私の胸にしまっておこう。
「まあ、何にせよソーマには注意しておかないと。神機壊さないでよって。」
「……あの二人、さすが夫婦ですね。」
「……うん。夫婦でよくまあ同じ注意をさせてくれるよ。」
片方は見事に壊しましたよね、とは、言わないでおいた。
*
「赤いカリギュラかあ……なあソーマ、それってほんとにいるの?」
「神楽も見たらしい。いると考えて間違いねえだろ。」
ブリーフィングが終われば任務。休みがないのはいつものことだけど、家に帰れないのはなかなか面白くない。
週に一回。せめて二週に一回。……いやまあ、週一回ってのは一度も実現できてないけど……もう少し暇があってもいいのに、と最近思う。
これをもっと厳しくしたスケジュールで、リンドウさんや神楽は動いていたんだなと思うと……いや、比べるのはよそう……
「アラガミの色が変わるってのは別に珍しい話じゃねえ。その特性が変わっていようがいまいが、色素さえ取り込んじまえば済むからな。」
「今回のは?」
「報告から考えるなら、おそらくは特性も変わってる。ブレードの伸長が見られたらしい。」
「うへえ……」
あれが長くなったのか……旧遠距離型にも盾付けられないかな……
「……話は終わりだ。いたぞ。」
シユウ種の群を削れ。これが今回の任務だった。
中型以上の群が見つかったのはしばらくぶりだ。元々群を作りやすいコンゴウなんかはともかく、シユウ種はそう多くない。博士は赤い雨の影響だと見ているらしいけど……それ以上は別言語だった。
「援護頼む。」
「OK!」
その群。目視できる範囲で三体の通常種、一体の堕天種……のようだ。
そこへ、ソーマは平然と突っ込んでいく。
「……っておいおい……」
手前に射線が通るのはありがたい。といっても、ソーマってここまで無茶なことする奴だったっけ?
……いや、そんなはずはない。飛び込みがちでも無茶はしないのがあいつのスタンス……のはず……
「ソーマ!あんま突っ込むなって!」
「問題ない!手前二体は任せる!」
視線からして、奥にさらにいるらしい。
「……だああもう!調子狂うな!」
胴体に狙いを定め乱射する。精度はよくないけど、まずは注意を引くところからだ。
「奥は!」
「セクメトと通常種が一体ずつだ!」
大きめの群に当たったか、と考える暇はあまりない。バラ捲きで気を引けた堕天種と通常種一体を引き寄せ、いったんその場を離れる。
シユウ種四体。さすがのあいつも、それ以上は骨が折れる。
アンプルからオラクルを補充し、追尾弾で再度狙っていく。……こっちも人のこと言ってられないか。
「こういう時は……新型が羨ましいな!」
旧型は旧型なりに。いつだかにアリサが言っていた言葉らしい。確かにその通りだ。
その時は悪口として言ったみたいだけど、今考えると、むしろ旧型使いはそうじゃないといけない。なんて思うようになった。
新型に出来ることは新型に任せる。俺は自分に出来ることを最大限にやっていく。たぶん、そういうことだ。
「ソーマ!あと三分あればそっちに行ける!大丈夫か!」
通信機に投げかける。応答はすぐにあった。
「来るな!」
「はあ!?」
予想外の言葉。その理由はすぐに分かった。
「感応種接近!反応照合結果より、イェン・ツィーと思われます!」
「まじかよ……予想到達時間は!?」
「交戦エリア二つの中間地点、一分後!コウタさんは当該地点から離れてください!」
「こっちは二分かかる!それまで見つかるな!」
「無理はすんなよな!」
この群……感応種のせいで集まってたのか?
もしそうだとすると、戦える人数が少ない現状だと非常にまずい。対策マニュアルがあるとはいえ……あくまで逃げられる状態を前提としたもの。使えない場合の方が多い。
……旧型は旧型なりに。つっても、出来ないのは悔しいな。
*
感応種の討伐もなんとか済んで、互いに疲れた表情を見せつつヘリを待つ。
「……ソーマさ、何かあった?」
「……」
会った頃だと、何でもない、とか言っていただろうけど。そう思うと、今のこいつは分かりやすい。
「やっぱりか……無茶すると思ったんだよ。」
「そうらしいな。リッカにも言われた。」
「ったくさあ、いちいち一人で抱え込むなよな。話聞くだけなら俺も出来るんだぜ?」
「……ああ。」
もちろん、こいつの悩みを解消できるとは言わない。言っちゃ何だけど境遇が違いすぎるし、背負っているものも全く別だ。
だからそれは他の出来る奴に任せる。俺は聞くところまで。
「……この間、渚から連絡があった。」
「渚?神楽じゃなくて?」
「ああ。」
「何て?」
「……神楽が、少しまずいらしい。……おい。なんだその顔は。」
「いやあ……仲睦まじいことで……」
「殴るぞ。」
拳が当たってから宣言される。
「ちょっ!それ殴る前に言う台詞だろ!」
「知るか。」
……一応、こいつの限界値は越えていないらしい。わりと冗談になっていないけど、冗談を飛ばせている。
「……それで、神楽がまずいって?」
「渚からの口伝えだからな。はっきりとは分からん……先に言っておく。あまり他の奴には話すな。下手に混乱していられる状況じゃねえ。」
「分かってるって。これでも第一部隊の隊長だぞ?」
「……そうだな。」
ソーマは言葉を選びつつ話し始めた。又聞きもいいところだから、俺がどこまで正確に理解できたかは分からないけど……あまりよくない状況なのははっきり分かる。
「……なるほどなあ……」
「いつか来るかもしれない、とは思っていたが……インドラはあいつには因縁が深すぎる。そうなったのも無理はない。」
「コアの照合とかは?」
「残っていなかったらしい。渚の推測だと、アリスが食らったんだろう、とさ。」
「そっか……」
神楽の過去は少しだけ聞いた。インドラとの戦闘の後、自分の体について説明するために……だったと思う。
あいつのコアのこと。家族のこと。まあ、説明自体は要点をまとめていた感じだったから、詳しく知っているわけじゃない。
それでも、神楽にとってのインドラがどういう存在なのか、は何となく分かる。アラガミ化した家族……よりもっと嫌なものかもしれない。
「感応種とか赤い雨とか、そういうのがなければ良かったんだけどなあ……」
「いきなり何だ。」
「いや、どっちもなかったらさ、お前も向こう行けるだろ?……って言うか、行きたくて仕方ないんだろ。」
「……」
「今は出来ることやってようぜ。お前がそんなだと、俺が困るからさ。」
「お前の都合で動かすな。ったく……」
*
「赤いの?感応種?」
「いや。報告を見る限りそうではない。堕天種に近いと見ていい。」
件の赤いカリギュラに関するブリーフィング。ブラッドだけで集まるの、久しぶりかもしれない。
「ふーん……」
「一年前こいつと戦ったときは、感応種特有の神機不活化は発生しなかった。目撃証言が頼りだが、おそらく形態も変わっていない。」
「一年の間に進化した可能性は?」
「ほとんどないだろう。あの時点で、形状やら性質やらは固まっていた。」
話し手はもっぱらジュリウスさんとギルさん。さすがと言うか……私よりずっと、報告からいろいろなことを見ていた。
私の何倍も長く神機使いとして戦ってきた。つまりはその実績なんだろう。
「カリギュラそのものとの交戦記録は多々あるが……ギル。差異はあるか?」
「俺もそこまで戦ったことはないんだが、大きな違いは少ない。ブレードがでかいのと、あとは……速いってとこか。」
「その他は概ね通常種と同じ、と見ていいな?」
「ああ、問題ない。」
追い付きたいな、という思いと、追いかけていたいな、という思い。反するようで意外と両立している。
追い越したいと思わないのは……甘えだろうか?
「では各自。遭遇した場合に備えておくこと。解散。」
ジュリウスさんの号令。これを聞ける、というのが、未だに現実味を帯びていない。
マグノリアにいた頃、ずっと憧れていて。そのジュリウスさんが今すごく近くにいる。
……まるで夢みたいだ。
そう。それを、他の全部と一緒に夢であってほしいって考える自分もいる。私が半分アラガミみたいなものってことも、全部。
赤ギュラ任務の直後に青ギュラ行くと、なんだか被弾率が上がるのは私だけではないはず。