GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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六話目(サブタイに捻りがないとか言わない)
極東支部だと、誰視点にするか悩みます。


雨の日

 

雨の日

 

「……」

「……」

 

極東支部に着いて数日。赤乱雲が観測されているこの日、結意がフライアに来た。

何かあったろうか、と思えば、膝枕してほしい、とか。ホームシックに近いのだろうか。

私としてはある意味好都合で、企みの手を休めるのに異論はなかった。

 

「……んで、どうなってる。」

「ずいぶん焦っているのね。それでどうにかなる問題でもないでしょう?」

「分かっている。だからどうなんだと聞いてんだろうが。」

 

本人は気付いているだろうか。アブソルの意思自体は、結意が暴走する度に明確な物になっていく。

結意からアブソルが見えないのでなく、アブソルの側でその準備が整っていない。私の予測はそこにある。

はっきり言って結意が彼を知覚しないのが最も望ましいのだけれど、したとして大きな影響もない。要するに、私としてはどちらでもいいのだ。

 

「さあ。どうなっているのかしら。」

「ったく……とぼけるな。どうせ予想は付いてんじゃねえのか。」

「確証のない話は好きじゃないもの。」

 

膝の上で安らかに寝息を立てる結意。私の愛しい女王。最後に全てを喰らうのは、あなたとジュリウス、どちらかしら。

 

「だいたい、私よりあなたの方が理解しているでしょう?あなたの体なんだから。」

「支配権はまだそいつだ。……いや、まず一つはっきりさせておく。」

「何かしら?」

「俺はそいつを支配する気なんざない。俺がやるのは、喰わない終末捕喰だ。」

「ふふっ。相変わらず惚れ惚れするような矛盾ね。喰らわずにどう起こすつもりなのかしら。」

「それを模索するためにこいつと話そうってんだ。」

 

喰いたくない、と願うアラガミ。それがなぜかは、彼はなかなか話そうとしない。

もちろん、そんなものは計画に関係などしない。とはいえ興味はある。

聞き出そうとしても無駄なのは分かっているし……らしいものが出てきたらカマでもかけようかしら。

 

「ところで、あんなことをして何をするつもり?」

「……インドラのことか。」

「ええ。あのアラガミのオラクル細胞は三年前に完全に消滅しているはず。再出現したなんて有り得ないでしょう?」

 

どうやったか、は判然としない。それでも彼がやった、というのは分かる。

資料を見る限り、あのインドラとやらのコアは桜鹿理論による複合コア。その原料に、ロシアで採取されていたジャヴァウォックの細胞片が使われていたことは確認している。

ならば簡単なことだろう。アブソルはそのジャヴァウォックのコアの一つなのだから。

 

「……三人、とっとと極東に来させたいのがいる。」

「三人?二人かと思ったのだけれど。」

 

あとの一人も予測は出来る。といっても確証がない。

彼は彼で教えるつもりはなさそうだし、こちらに影響がない限り好きにさせておこう。

 

「それで、その三人で何をするつもり?」

「来てから話す。」

 

……食えないやつ。いずれこいつは、消滅させる方が無難かもしれない。

 

   *

 

赤い雨で外に出られないからか、久しぶりに射撃訓練場でコウタに会った。

 

「よっす。」

「珍しいですね。ここで会うの。」

「あー……確かに。アリサ、忙しいもんな。」

 

寝る間も惜しんで作業しても終わらないサテライト拠点関連の雑務。それさえも、赤い雨の前では一時的な収束を見せてしまう。

彼も彼で、この雨では任務に出られない。

それでもここに来る、ということは、何となく体を動かしていないと気が済まないのだろう。

 

「お互い様です。」

「かもなあ。」

 

赤い雨。感応種。ジャヴァウォック。問題が山積しすぎていて、何から手を着けていいか分からない。

クレイドルとして残っているのはいいけど、リーダー達が大変らしい今、何も出来ないのが歯痒い。

何かすることはないか、と考えて、何もないと結論づけられてしまうことが、どうにも悔しいのだ。

 

「そういえば、エリナちゃん達は?」

「暇持て余してる。訓練場、ブラッドの人達が使ってるみたいでさ。」

「へえ……」

「ほら、例の……血がどうとかって。」

「……血の力です。」

「そうそれ。」

 

感応種に対抗しうる力。幾度となく辛酸を舐めさせられた側からすると、羨ましくもある。

ただ……神楽さん達からのP63因子に関する報告を聞いた身としては、諸手を上げて、とはなかなかいかない。

 

「なんか、もう一人使えるようになったらしくてさ。その訓練中。」

「現状は三名、ですか。」

「かな。隊長と副隊長はここに来る前から使えてたらしいし。」

 

安定していようとも暴走の危険をはらんだ神機使い。

 

「……危ういですね。」

 

懐疑心、とまではいかないものの、全面的に信じていられる力ではない。そう感じていた。

 

   *

 

「……そうか。」

 

渚から、再度連絡を受けていた。

神楽のことだ。

 

「軽度のPTSD、だってさ。しばらく休めば改善はするだろうけど、根治出来るかどうかは分からないって。」

 

戦闘中、必ずと言っていいほど荒れるらしい。

詳しくは言わないが、おそらく発言に関してはいつも通りなのだろう。ただ、アラガミを駆逐すること。それに強く囚われている……なんて辺りだろうと想像が付く。

会敵と同時に滅多切りにしている、とか。端的にはそんなところか。

 

「あいつは何て?」

「血の気ゼロで大丈夫とか言ってるよ。」

「……まあ、だろうな。」

「しばらくは私が励ませるけど、正直その限界も近いと思う。ツバキが極東に戻れないか掛け合ってるとこ。」

 

掛け合う。

少し前なら、そんな必要はなかっただろう。

俺達のような存在を疎ましく思う連中は多く、また手元に置いておきたいと考える奴もいない。あまりに御せずあまりに強大な物など、利用価値がないからだ。

だが今は違う。

ジャヴァウォックの脅威に晒されている、本部を含む欧州各支部からすれば、神楽と渚は極大戦力でしかない。

なくなればこちらが困る。多少荒れた程度で帰してなどいられない。要するにそういうことだ。

 

「……チッ。」

「落ち着きなよ。気持ちは分かるけどさ。」

「……分かってる。」

 

……はっきり言えば、分かろうと思うことすら煩わしい。

だが俺が取り乱すことで何が起こるわけでもない。神楽の耳に入れば、むしろあいつを追い詰めるだろう。

 

「……そっちに行ってやれればいいが、そうもいかなくてな。感応種は元より、赤いカリギュラが接近してやがる。」

「神楽達が戦った奴だっけ?」

「ああ。わけあって知らせてはいねえが。」

「あー……ハルオミ、だっけ。恋人やられたんだって?」

「教えりゃ何もかもかなぐり捨てて行くだろうからな。討伐の必要が出るまでは明かさないように言ってある。」

 

向こうに行ければ。何度考えたか分からない。

感応種さえいなければ、今頃ここにいないだろう。

 

「……もうしばらく頼むぞ。」

「はいはい。全く。君らって夫婦で弱いよね……」

「手厳しいな。」

 

……俺もあいつも、幸せ者だ。

 

   *

 

仕事の少ない保管庫の中、結意ちゃんの神機を見ていた。

 

「……コアの再生と破壊、かあ……」

 

数回のテストを経て、分かったことがある。

アーティフィシャルCNSの傷の位置が毎回変わっていたのだ。

考えられる要因はいくつかあるけど、中でも有力なのが、再生され、破壊された、というもの。

博士から渡されたデータでは、CNSに流れ込むオラクルの流れが確認できる。

治すために流し込んで、むしろ内側から喰い破った。のだろうか。

いずれにしろ、初めて見る光景だった。

 

「うーん……動作は完全に停止してるし……」

 

修復して、喰う。

……喰って、修復する。

逆にすれば、まるで終末捕喰の一ページだ。

地球全体を喰い尽くして、人もアラガミもいない、まっさらな星にする。壊れた地球を治すかのように。

だとして……彼女は、特異点だとでも言うのだろうか?

 

「……やめやめ!帰ってきたら神楽に聞こっと。」




終了。
次の投稿は、赤いカリギュラ関連+アルファくらい…になるでしょうか。

そういえば。この作品のUA数を時折確認したりするのですが、投稿直後に見て下さっている方がとても多いようで…お気に入り登録もして頂いているのでしょうか。感謝の至りです。
亀更新が続きますが…きっと、たぶん、おそらく、次は早めに投稿できるかと。

それでは、また次回お会い出来ることを願っております。

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