GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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五話目。極東支部でのお話。
なんというか、可能な限り合わせているのですが、βとの時間差はどうしても出てきますね…


何にもない日

 

何にもない日

 

『神機の修復はおおよそ何とかなっているようだが、どうしても改修は必要だな。しばらく暇になるとは思うが、適当に過ごしていてくれ。』

 

昨日、ソーマさんに言われた言葉。一度も出撃しないって久しぶりだなあ……

そんなことを思いながらナナさんとロミオ先輩を見送って、ちょこっとラウンジを覗いてみる。ここでは昨日、私達の歓迎会を開いてくれた。

 

「驚きましたよ。あれから、ずっとここに?」

 

ギルさんと……誰かが話していた。昨日見たような見てなかったような……

 

「いんや。あちこち転々としてた……お、ブラッドのちびっ子。」

「ちび……」

「ハルさん……」

 

気付かれた、というか、半分呼ばれたようなので、その二人へと近付いてく。

 

「まともに自己紹介はしてないか。真壁ハルオミだ。」

「鼓結意です。」

 

背高いなあ……これなら、私はたしかにちびっ子だ。

そんなちょっぴり的外れなことを考えながら、ギルさんからの説明を聞く。

 

「ハルさんは俺がグラスゴーにいた頃の先輩、っつーか上司だ。一年前に別れたんだが……」

「俺としちゃあ、お前がここに来たことの方が驚きだっての。こちとら……」

 

少し言葉を詰まらせる。その後を、ギルさんが受け取った。

 

「……やっぱり、あいつを追ってるんすか。」

「まあなあ……目撃情報がある度に異動申請して、ここに流れてた。……って、結意ちゃんがついて来れないよな。悪い悪い。」

「あ、いえ……」

「赤いカリギュラ、ってのを一年前に見てな。わけあって追ってる。」

 

データベースの映像を思い返す。カリギュラって、青じゃなかったっけ?だから追っているんだろうか。

 

「それよか、昨日は寝られたかい?環境が変わるとどうって奴もいるからなあ。」

「俺は問題なく。」

「はい。何とか。」

「……さすが……若いな……」

「ハルさん、さては寝付けなかったとか?」

「……」

 

これが哀愁とか言うもの……なのかもしれない。ハルオミさんの様子は、なかなかに残念な人のそれだった。

とはいえ……一年ぶりに会うんだと、昔話とかの邪魔になっちゃうかな。

 

「ええと……それじゃあ、失礼します。昨日あまり見て回れませんでしたから……」

「ああ。のんびりして来い。」

 

極東支部。見て回れるところは、まだまだあるのだ。

 

   *

 

「うん。それはそっち。五番のパーツ持ってきて。」

 

神機保管庫。どうやら整備場も兼ねているらしいそこは、フライアとは比べ物にならないくらい大きい。それだけ神機使いも多いのかな。

 

「あとは装甲治して……あれ。いらっしゃい。ええと……」

 

そこで作業していた一人が声をかけてくれた。油まみれの顔を、同じく油まみれの手袋で拭っている。

 

「あ、鼓結意です。」

「結意ちゃんね。楠リッカ。ここの整備士だよ。」

 

この人、もしかしたらけっこう偉いのかもしれない。他の整備士に指示とか出してるし……

そのリッカさんが見ていたのが、私の神機だと気付く。

 

「私の……」

 

……使ったとき、何かおかしいな、とは気付いていた。

何と言えばいいのだろう。神機そのものの意思、だろうか。そういうものが、一切感じられなかった。

以前は何とはなしに受け取っていたそれがない。意外なほど空虚に感じるものだ。

 

「けっこう損傷は酷かったけどね。何とか直ったよ。」

「……」

 

さっきと言葉の感じが違った。治す、でなく、直す。

やっぱり、この神機は死んでいるのだ。

 

「……死んだ神機は、生き返りますか?」

 

そう聞くと、リッカさんは別段不思議な顔もせず答えた。

 

「さすがに気付かれちゃうか。君の予想通り、この神機はほとんど死んでるんだ。」

「……」

「アーティフィシャルCNSの破損。穏やかに使う分には問題ないけど、無理をすると動かなくなると思う。気を付けてね。」

「……分かりました。」

 

無茶するな、から、無茶できない、に変わっちゃったな。

私が感じたのは、それだけだった。

 

   *

 

出て行く結意ちゃんを見送る。勘がいい子、と言えばそれまで。だけど、おそらくそれだけじゃない。

神楽や渚と同じ……なのだろう。神機の、ひいてはアラガミの声を聞けてしまう。

経験則で聞こえるような気がする私と違って、そもそもで聞こえる。羨ましいな、と素直に思ってしまう。

 

「リッカ。頼んでいた件だが。」

 

ソーマが入ってきた。頼んでいた件。つまりは、結意ちゃんの神機のこと。

 

「一応ね。オラクル伝導効率は極限まで高めてある。……けど、その分じゃじゃ馬になったと思うよ?」

「それは問題ない。ジュリウスの奴に教導を頼んである。」

「それならいいんだけどさ。あ、あともう一つ。」

 

さっきの会話を掻い摘んで話す。ソーマの表情は、大きくは変わらない。

 

「……なるほどな。」

「誤魔化したけど……どうかな。誤魔化し切れたかは分からない。」

 

アラガミであることの危うさ。神機の暴走、とか、神機からの侵喰、とか。そういうものを見てきたから、彼らほどじゃないけど理解しているつもりではある。

だから、あまり彼女に戦って欲しいとは思えなかった。

 

「神機をリミッターにすることは出来るか?」

「試したことないからなあ……それに、実験するには危険すぎるよ。」

「そうか……」

「神楽が帰ってきたら、いくつか模索してみる。アラガミと神機、って面だと、私より上だからね。」

「……たしかに、あいつに勝てる気はしねえな。」

 

苦笑。そういえば、久しぶりに見た気がする。神楽が向こうに行ってからと言うもの、ソーマはどことなく昔に戻っていたから。

話していると、彼の端末が鳴る。着信らしい。

 

「悪い。」

「神楽から?」

「……いや、渚だ。」

 

……彼の表情は、どこか強ばっていた。

 

   *

 

「情報は集まらず……ですか。」

「まあなあ……目撃情報だけはあるんだが、なかなか一所に留まらない。」

 

一年……いや、もう少し経つだろうか。こうしてハルさんと酒を飲むのは久しぶりだ。

 

「ケイトの神機が突き刺さってるってのは確認してるんだ。奴で間違いない。」

「……」

 

奴。

俺が何も出来ず、ケイトさんを今の状態まで追い込んでしまった、奴。

ケイトさんが目を覚ます様子は、まだないという。

 

「ギル……気に病むな。お前のせいじゃないさ。」

「……それでも、あの時俺が何も出来なかったのは事実ですから。神楽さんがいなかったら、ケイトさんを殺すしかなかった。」

「今生きているならそれで十分だろ?無理に戦ってお前が死ぬ方が、あいつにとっても辛い。」

 

返す言葉を見つけられない。謝罪を言う場面でもなく、といって別のことを言える状況でもない。

俺がもっと強かったら……こうはならなかっただろうか。

 

「にしても、どう倒したもんかねえ……」

「……」

 

ケイトさんでろくに歯が立たなかった相手。

神楽さんを見て逃げるだけの判断力もある。

……俺とハルさんだけで勝てる相手ではないだろうことは、容易に想像が付いた。

 

「……副隊長なら……多少はいけるかもしれません。」

「さっきの子か。」

 

ハルさんは顎に手を当てて考えた後、平然と言った。

 

「いいかもな。」

「……意外と軽いっすね。」

「実際、けっこう強いんだろ。見りゃわかる。」

 

経験がものを言う、というのはこういうことなのだろう。この人は昔から、妙に聡いところがある。

 

「ただ、あの子に手伝ってもらうか決めるの、少し後でいいか?」

「いいっすけど……」

「……どうもな、空っぽな感じがするんだ。あの子の強さってのがさ。」

「空っぽ……ですか。」

「何だろうな。パンパンに膨れた風船みたいなんだ。ちょいとつつくと割れそう……少し違うが、まあそんな感じだ。」

 

虚構。

それは、あいつっていう人間を示す言葉なのかもしれなかった。

 

   *

 

任務から戻り、部屋に入って最初に聞いたのは……轟音だった。

おそらくはソーマの部屋から。

 

「ソーマ?大丈夫?」

「……ああ。」

 

彼の部屋……神楽と結ばれてから、修理を行ったその部屋は、壁が見事に抉れていた。

 

「……いや大丈夫じゃないだろ……何かあった?」

「……」

 

しばらく沈黙が続く。

……三年前、最初に会ったときのソーマって、こんな感じだったな。

 

「なあ、コウタ。どうすれば強くなれる。」

「へ?」

「どうすれば、あいつを守れるくらい強くなれる。」

 

うん。どうやら思った以上に重症らしい。俺にこんなことを聞いてくるのがいい証拠だ。

ソーマと俺を比べたら、どう考えたってソーマの方が強い。年季も実力も実績も、当たり前のようにこいつの方が上だ。

でもまあ……そういうことじゃないよな。

 

「全くさあ……昔からそうだけど。」

「……」

「強くなりたいならさ、もっと周りを頼ればいいじゃんか。」

「……頼る、か……」

 

守る、っていうのがどれだけ大変か、第一部隊長になってから嫌と言うほど思い知った。

エリナは突っ込みすぎだわ、エミールは無茶しすぎだわ。何度投げ出したくなったか分からない。というか、今でも投げ出しそうになる。

それでもやっていられるのは、もっとベテランの人達がアドバイスしてくれたり、励ましてくれたりするからだ。

ハルさんはルーキーとの関わり方を教えてくれるし、タツミさんはリーダーとしての立ち回りを見せてくれた。

戦闘の教え方はリンドウさんやツバキさんが叩き込んでくれたし、オペレートの生かし方はヒバリさんが説明してくれた。

しかも、俺が隊長になると決まったとき、神楽が各方面に根回しや下準備をしていてくれたようなのだ。

俺は支えられている。改めて、それを実感したのだ。

 

「おう!俺も頼れよ?」

「ふん。神楽の百分の一でも出来るようになってから言え。」

「え、まだ一パーセント未満っすか……」

「……冗談だ。」

 

期待に応えよう、ではない。

出来ることから、出来うる限りやっていく。

 

「……たまには頼るさ。」

 

……こいつ、何やかんや神楽より素直だよなあ……




次話で本日の投稿、終了です。

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