GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
RB編を組み込む、となると、何やかんや変えないといけない部分が多いことに気付き…改めて読み返していたらこんな時期に。
とまあ計画性に問題のある話はさておき、本日は六話投稿です。
世界で一番危険な保護区
世界で一番危険な保護区
極東支部中央施設へとヘリで移動した私たちを、白髪の人が迎えてくれた。腕輪してないし、白衣っぽいし……科学者なのかな。
「久しぶり、になるか。フライア及びブラッド隊、極東支部に到着した。」
「ああ。……初対面の奴もいるな。極東支部クレイドル隊所属のソーマ・シックザール。こんな形だが神機使いだ。」
右腕を軽く上げつつ、さも当然のごとくそう言った。腕輪なしで神機って使えたっけ……?
「……道中いろいろあったらしいな。」
「?」
なぜか私を見ながら言っている。初対面だと思うんだけど……
「その辺りの話も含めて、まずは支部長にお会いしたい。いい時間があれば合わせよう。」
「いや。このまま案内する。こちらとしてもいくつかやりたいことがあるしな。」
「了解した。お願いする。」
マグノリアとフライア以外に入ったのはいつ以来だろう。幼い頃の記憶はひどく曖昧だ。
いつだかにお義母さんに拾ってもらったのは覚えているけど……それ以前は漠然と嫌だったなあ、と思うだけで、具体的に何があったかは覚えていない。
そうこう考えているうちに支部長室までたどり着き、入るよう促される。
「失礼します。」
ジュリウスさんを先頭に入り……ソーマさんに似た人と、細い目の人を確認する。
「フェンリル極致化技術開発局所属ブラッド隊、極東支部に到着しました。これより当地での任務を開始します。」
「うむ。遠路はるばるご苦労だった。極東支部支部長、ヨハネス・フォン・シックザールだ。」
「ジュリウス・ヴィスコンティ君、だったかな。よろしく頼むよ。まずは……」
「ペイラー。話中だ。」
「そう硬いことを言わないでくれたまえ。僕だってすぐやることがあるんだから。」
そう言いながら、ペイラーさんは私を見た。
「ちょっと来てくれるかい?ソーマも。」
「分かっている。……心配するな。ちょっとした検査だ。」
ジュリウスさんの方を見たけど、私に頷くのみ。元々話が通っていたのかもしれない。
「はい……」
そのまま、私は上の階へと連れられていった。
*
「さて。ひとまず君達に頼みたい仕事に関してだ。」
鼓が二人と連れ立って出た後、ヨハネス支部長が切り出した。
「無駄に有名なだけあって知っていると思うが、ここ極東は激戦区だ。自慢するわけではないが、他のフェンリル支部とは比較にならないほどのアラガミを抱え、やはり比較にならないような高レベルの神機使いを保有している。最近では赤い雨にも悩まされているが……それ以上に感応種だ。君達に頼みたいこと、というのもこれに関連する。」
「感応種に対する戦力として働いてほしい、と?」
「端的に言えばそうだ。」
概ね予想通り……戦力としては若干不十分とも言えるが、感応種に対抗出来る力、というのは大きい。やはりそこを目的としているのだろう。
ソーマの話では極東支部で感応種に対抗出来るのは彼を含め三人。うち二人はユーラシアに行っている。こちらに期待するのも頷ける、というものだ。
「感応種への対応。及び非ブラッド神機使いにおける対処法の模索。これらをお願いしたい。」
「前者は了解しましたが、後者に関しては正直難しいかもしれません。一般の神機使いが戦える相手か、と聞かれたら、かなり厳しいものがあります。あの能力を抜きとしても。」
個体そのものがあれらは強い。ただの神機使いが対応できるかどうか……というのが、俺個人の感想だった。一人で相対したいとも思わない。
「承知の上だ。だから模索でいい。」
「了解。可能な限り遂行します。」
やり手だな、と素直に感じた。同時に危険な人だとも。彼が何か企んだとしたら、最後まで気付く自信があまりない。
「それともう一つ。これは仕事ではなく指示、が正しいだろう。」
「……」
「鼓結意、だったかな。彼女が任務に出る場合、単独出撃を禁じる。可能な限り君かソーマが同行するように。」
「分かっています。こちらでも、ギルバートにはそう伝えました。」
「彼か。神楽君とは会ったことがあると聞いている。」
記憶が正しければ、ソーマはこの支部長の息子。その妻である神楽という神機使いは、彼にとって義理の娘になるのだろう。それを君付けで呼ぶ。つまりは、それほどの実力者であり影響力を持った人物、ということなのだろうか。
いずれにしろ、全面的に信用出来るか、顔を合わせていない今は分からない。
「少し前に配属された神機使いが、グラスゴーの出身だったはずだ。もしよかったら会わせるといい。」
「了解。伝えておきます。」
仕事はいつまでも山積か。隊長の宿命だな。
*
「あの……」
戸惑っていた。何にかと言えば、状況に。
「いつも通りやっていいよ。成績を付ける訳じゃないからね。」
「いや……ええと……検査じゃ……」
「ああ。こちらとしてもブラッド隊と共同戦線を張ることになる。各々の戦い方は見ておきたい。」
連れて来られたのは訓練場。ダミーターゲットが数体配置され、神機を持つ私の方を向いていた。
要するに戦って見せてほしい、ということみたいだけど……
もちろん、ダミーだから怖くはない。危なくなったらちゃんと止めてくれるし、止まってくれるから。困ったのはそこじゃないのだ。
「でも……その……」
またおかしくなったりしないだろうか。
またアラガミになったりしないだろうか。
また我を忘れて暴れたりしないだろうか。
私の中で渦巻いているのは、そういうどうしようもない不安達。
「……心配するな。お前みたいなののプロフェッショナルが二人いる。」
「……?」
「半分アラガミなのは俺も同じだ。まあ、お前がどのレベルかは知らねえが。」
……じゃあ、大丈夫なのかな。
私は怯えながら、神機を握りなおした。
*
結意の戦闘を見つつ、俺と博士はやっぱりな、と目で会話していた。
彼女の神機は、すでに壊れている。
アーティフィシャルCNSの損壊。リッカに見せたが、修復は難しいそうだ。
だが、俺は形状だけでも直せないか、と頼んでいた。理由は単純だ。
「データはこう出たよ。」
「……だろうな。俺も同じだ。」
俺の目と、オラクル検知用の機器。どちらも同じ結果を見出している。
形だけ直っている張りぼて神機がオラクル細胞を纏っている、と。
神機の刀身は、その刃にオラクル細胞を展開することで喰い裂いている。通常の刀では全く傷を与えられないアラガミに、有効な手段としてある所以だ。
銃もまた同じ。オラクル細胞を弾として撃ち出すことで、その効果を持つに至っている。
楯の場合、その表面をオラクル細胞で覆うことで、攻撃を喰って防ぐ。つまるところ、全てオラクル細胞を利用しているわけだ。俺、神楽、渚。半神面子は、そもそもオラクル細胞で武器を象るわけだが。
そしてこいつはと言えば。
「自分のオラクル、だろうね。」
「ああ。厚くはないが、間違いない。」
張りぼての周囲にオラクルの粒子が見える。神機使いまでなら見えもしないような小さな粒だ。
俺が見ているそれと連動して、計器が示すオラクル反応も形を変える。
「どう見る。」
「何とも言えないね。データが少ないし、君達と質が異なるのだってある。ある意味で神楽君には近いけどね。」
「あいつのは神機の延長だ。神機ってものを理解し尽くした上で、それを最大限以上に引き出すよう使ってる。だがこいつは……」
「神機を神機として扱う、という意味では変わらないだろう?彼女の場合、ある種の本能でやっているのかもしれないね。」
自覚のない力。
困ったことに、それを自覚させる術を俺達は持っていない。
「無意識か。」
「あくまで僕の推測さ。とはいえ、もしそうなら由々しき事態と言える。」
「気付かせる方法は?」
「君達の方が詳しいんじゃないかな、と言いたいけど、そうだね。三人とも、最初からアラガミの力については自覚があったし……」
「そういうことだ。あいにく、何も分かってねえ奴の教官は出来ねえぞ。」
神楽は、多少なり知識がある状態であの体になった。その時点で一度暴走し、自分の力については痛いほど分かっていたはずだ。
俺は元々そうあるように生まれた。さすがに初めからこうってわけじゃなかったが、アラガミの力ってものについては一定以上の理解があった。
渚でも、俺や神楽のような基盤がなくとも、シオだった時代に培ったものがある。自分を御す方法には長けていたわけだ。
つまり俺達は、最初を知らない。
「で、どうする。」
「乱暴なことを言ってしまうと、意識のある状態で暴走するのが一番かもしれないね。あるいは、暴走直後に意識を取り戻すか。」
「要するに暴走させろ、とでも言うつもりか?」
「結論から言えばその通り。君も神楽君も、暴走を経験しつつアラガミの体と折り合いを付けた。違ってはいないだろう?」
「……」
「……心配しなくていいよ。僕だって、意図的に暴走させようとは思わない。むしろ暴走なんてしない方がずっといいからね。」
弾丸を作り出して撃つ彼女を見ながら、俺達はそれ以上、言葉を交わすことはなかった。
次話以降、三話分がβとなります。
キリのいいところまで、と考えている方、ご留意ください。