GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
人間ごっこ
独房から出た日。シエルさんに、私は呼ばれていた。
場所は庭園。そういえば、ジュリウスさんもシエルさんもここが好きなんだっけ。
ギルさんは部屋でビリヤードしてることが多いし、ロミオさんもゲームしてるし、ナナさんはとりあえず何か食べてるし……意外と、自分からここに来ることは珍しい。
「……前回の作戦……助けていただき、ありがとうございました。」
つきん、と胸が痛んだ。
話はお義母さんから聞いている。というか、私自身も何をしていたか覚えている。あまりにも深手を負ったことによって、体内のオラクル細胞が過剰に動いてしまった結果……と言われたけれど、どうあれ私はアラガミを食べたんだ。普通じゃない。
それを見ていたはずのシエルさんに、ありがとうと言われた。……どういたしまして、と、素直には言えない。
「……」
「あのことなら気にしないでください。私の不始末でもあります。」
「?」
「私が動いていればあんなことにはならなかったんです。結意さんの責任ではありません。」
……シエルさん、って、こういう人だっけ?
いや。それは今はいい。シエルさんが気にしないでいいと言ってくれたとしても、私は……
「どうしても何かで折り合いをつけたい、と言うことであれば、一つ頼みごとが。」
「え?」
そこで言葉を切っていた。シエルさんとしては珍しいかもしれない。
長い沈黙の後、彼女はこう言った。
「私と……友達になってください!」
がばっ、と音がするほどの勢いで頭を下げられ困惑する。私は絶対にどこかがおかしいのに、なぜそんな風に言ってくれるの?
……だけど、同時に嬉しかった。
「あ、えと……こ、こちらこそ……です。」
かっこつかないなあ、と、先日の発言を思い出しながら笑った。私は副隊長だから……だからって、変に気負うことはなかったんだな、と。
……極東に到着する、ほんの六時間前のことだった。
*
「ギル。一つ頼みがあるんだが……」
「わざわざ改まってどうした。ずいぶん重要そうだが。」
こいつが俺を呼び止めることは多くない。むしろ珍しい、と言った方が正しいだろう。いずれにしろ、それなり以上に重要な用事なのだろう。
……だとしてなぜ俺に?ロミオはバカだが、ジュリウスにとっては最も長く付き合いのある奴のはずだ。
「前に、半人半神の神機使いを探している、と言っていたが……実際にその神機使いとは会ったのか?」
「一応な。あまり話したわけじゃないが。……前も気になったんだが、まさか知らないのか?名前とか。」
「神機使いになる前はそもそもマグノリアの外のことは気にしなかったし、なってからはずっとフライアだ。たいして気にする理由もなかった。」
「なるほどな……その神機使い……神楽さんって言うんだが、さっきも言った通り、一応会ったことはある。半人半神ってのに頷けるくらいには。」
腕が神機になるような人だ。確かに、半分神、と言えるだろう。
「……なら話は早い。」
「は?」
何の話がだ、と聞き返そうかと思って、やめた。こいつの顔はそういうことをテキトウに聞いていい感じじゃない。何か、言ってはいけないことだが、言わなければならない。そんなことについて言う決心を固めようとするかのような……言わばそんな感じだ。
「鼓のことだが……おそらく、その神楽と言う神機使いに類似する部分がある。」
「……は?」
オウムか。俺は。そう突っ込みたくなるのを必死で堪えつつ、質問していく。というより、問い質していく。
「まず言わせてもらうが、あの人と同じだの、似ているだの、ってのはほぼあり得ないはずだ。助けてもらった側で言うのは気が引けるが、さすがにあれで人、と呼ぶのは無理だしな。」
「……一応これを渡しておく。暇な時に見てくれ。」
ジュリウスが渡してきたのは、あまり見なくなった紙媒体の資料。表紙だけだと何が書いてあるか分からないようになっている。こういう措置が取られているとすると……何らかの機密か、それに類似するもの、だろう。
「聞くが、これを読むことで何かあったりするのか?」
「いや。俺個人が秘匿しているだけだ。心配は要らない。」
「……ますます分からん……」
「読んでもらえれば分かる。……基本的に鼓には、俺かお前で同行するようにする。その理由もそいつで分かるさ。」
「まずは読め、と。了解だ。」
「すまない。」
こいつの様子を見るだけで、どこか嫌な予感がしたのは……言うまでもないだろう。
*
ジュリウスから受け取った資料に目を通し……俺は途方にくれていた。
結意が……言うなればやらかしていたこと。オラクル細胞を操ったり、アラガミを素手で討伐したり、果てはコアを食らったり……神楽さんでもこんなことはしていなかったはずだ。まあ最後に関しては、ある意味でやっているかもしれないが……
いや。にしたってここまでじゃない。直に食らう、なんてことはしないはずだ。神機越しに毎回食っているのだとしても、さすがにこれは……
或いは、この資料が嘘……それもない。ジュリウスはそんな無意味なことをするタチでもない。
どこかで改竄、もしくは誇張された可能性は?やはりないだろう。ソースは実録やシエル。誇張が発生する部分が思い付かない。
「……」
救いを求めるように、俺は端末を取った。
長いコール音の後、不意に声が届けられた。かなり懐かしい声だ。
「はい。神楽です。」
「ギルバートです。ギルバート・マクレイン。」
「んーと……あ、グラスゴーの?」
「はい。今はフライアですが……」
「……フライア?」
疑問符……だが、フライアが分からない、と言った様子じゃない。俺がフライアにいることだろうか?
「いろいろありまして……適合するようだったんで、そのまま。」
「ああうん。君に問題がないならいいんだけど……ひとまず、何かあった?」
「何かあったと言うか……何があったか自分でも整理がつかない感じです。」
「?」
概略を説明する。結意がひとまず何をしたのか、それに対して、何が起こったのか。
意外にも、神楽さんは驚いた様子がなかった。
「んー……うん。状況は分かった。」
「……なんか、驚かないっすね。」
「ソーマにね。ちょっと前に聞いたんだ。フライアに半分アラガミの人がいるかも、って。」
そういうことか、と一人納得する。確かにこのオラクル細胞を操った、というとき、ソーマさんはここに来ていた。
「まあ、そんなわけです。」
「……何が聞きたい?たぶん、君が疑問に思ってることくらいは答えられる。」
「……何が、ってほど、俺の中でまとまってなくて……一応、結意が本当にそうなのかどうかっていうのと、俺は何をすればいいかっていうのと……そのくらいしか。」
「この段階でそれが考えられるなら、だいたい大丈夫かな。答えはするけど、又聞きだから……本当にそれでいいかどうかは自分で確かめてね?」
「分かってます……っていうか、分かってるつもりです。」
……本当に分かっているか?俺は。
考えるだけ無駄にも思うが、一度自問した。残念ながら声は返せない。声が返せない以上、回答なんざ夢のまた夢だろう。
「まずその結意、って神機使いの子……ほぼ確定で、アラガミの部分を持ってる。ただ……変異があるわけじゃないんでしょ?」
「今のところは。素手でぶん殴ったりもしてましたけど……」
「……その程度……ううん。これはいいかな。何にしても、その子はいくらかアラガミだと思う。」
最初の発言について聞きたい気持ちはあった。ただ、同時にタブーのようにも感じる。
聞いていい範疇じゃないのだ、と。
「次に君が何をすればいいか、だけど……結意って子が暴走したら、何をおいてもソーマに連絡すること。フライアより先でいい。」
「それじゃ指揮系統が……」
「……あまりこういうの、好きじゃないけど……これは命令。神楽・シックザール少佐としてのね。この命令は、他の少佐以上から別命を受けない限り、持続するものとします。」
「……了解。なんか、変わりましたね。」
二年も前だが……こんな人だったろうか。ずいぶん押すようになったな、と感じる。
「いろいろあったから……フライアに関することでもね。」
「こっちに?」
「まだ確証もないし詳しくは言わないけど……ラケル博士には気をつけて。いい?」
「……分かりました。」
有無を言わさない、そんな雰囲気。いろいろあったのだと察するには十分だった。
「ソーマの連絡先、送っておくね。ソーマには私から伝えておくから。」
「頼みます。それじゃあ。」
「ん。頑張ってね。」
何と言うか……どこか、突き放すように話している気がした。突き放さなければいけない、と言いたいかのように。
次回から極東支部と合流の予定…変更する可能性もありますが、おそらくはαとしてまとめるのはしばらくなくなります。
また、少々忙しくなってしまい…今後も投稿ペースが落ちていくことが予想されます。申し訳ありません。
失踪せず、細々続けていく所存です。