GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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主人公が主人公だけあって、なかなか他と絡ませにくい現状…


α03.骸

 

 

「……と、いうのが今回の作戦の大まかな概要だ。」

 

クジョウ、って人がフライアに来た数日後、ジュリウスさんが全員を集めた。

神機兵無人運用試験の監督及び護衛……神機兵、って、今使われているのは初めて見るかもしれない。プロトタイプだ、ってお義母さんが昔見せてくれたのはあったけど、画像のそれは似ても似つかなかった。

 

「基本は一機に一人なのか?」

「そうだ。α、β、γを結意、δをシエルに護衛してもらいたい。」

「了解しました。」

「分かりました。」

 

護衛、と言うか、半分は監督らしい。ちゃんと動いているかをチェック項目ごとに確認したり、暴走しないか見張ったり。

私の方では連携テスト、シエルさんの方で単独運用テスト、ということらしく、数の差はそこから来ているのだとか。

シエルさんは搭乗経験があるらしいけど……今回は無人試験だし、乗ったりは出来ないかなあ……

 

「ナナ、ギル、ロミオの三人は、各々で担当区域を防衛。演習区域にアラガミを入らせるな。」

「了解だ。」

「はーい。」

「任せとけって。」

 

やっぱり、ジュリウスさんはみんなへの指示が上手い。私もいつか、あんな風に出来るかな……

 

「出発は3時間後。準備を済ませておくように。」

 

   *

 

今のところすこぶる順調……なのかな。

通信を聞く限り、シエルさんの方も問題なく進んでいるらしいし……この調子ならたいしてかからずに終わるだろう。

 

『そっちはどうだ?』

『異常なーし。』

『俺の方も何もない。』

 

あまり格好いいとは言えないけど、性能はいいみたい。演習用ターゲットはすぐに壊せたし、機動性も高い。その内こういうのが主力になるのかなあ……

……そうなったら、私はどうなるんだろう。ジュリウスさんは?みんなは?お義母さんは?

なんとなく、欠点の一つでも見つかってほしい。そんなふうにも思えた。

 

『……あれ?』

 

不意に声があがった。ロミオさんだ。ずいぶん怪訝そうな声だけど……

 

『ロミオ、どうした?』

『いや。なんか変な雲が……』

『方角は?』

『えーっと……南西かな』

 

私もそっちを見てみる。確かに、そこだけ雲の色が違っていた。

 

『……赤い雨か。総員、作戦を一時中断。続きはまた別の機会に行おう。』

 

そのジュリウスさんの発言とどちらが早かっただろうか。

 

「……?」

『神機兵αより、異常な反応を確認!結意さん!気をつけてください!』

 

背中が弾け飛び、ギザギザとした部位が出現した。それだけじゃない。どこか獣みたいな態勢も取っている。

……雰囲気で何となく分かった。何がどうしたのか分からないけど、これはアラガミだ。

 

『隊長!βが機能停止しました!』

『まずいな……ひとまず、三人は帰投しろ。シエルは結意のカバーに向か……』

『何をバカなことを言っている!βが動かないならそれを死守しろ!』

 

誰だっけ。局長?だかが会話に参加してきた。……そこから先を、正直聞く余裕はなかったけど。

 

「っ!」

 

αが攻撃してきたから。

神機使いを相手取ったらこんな感じだろうか。アラガミとしか思えなくなったとはいえ、元が神機使いの戦闘データ。攻撃はとても鋭くて……壊す以外の止め方を思いつかない。その壊す、というのも大変そうだ。

 

「……」

 

一旦距離をとり、銃撃に移行する。追随してあちらもオラクル弾を放つ。

たいした威力にならないことを知っていてか、避ける素振りもなく弾丸と共に突っ込んでくる神機兵。私はと言えばその弾丸を避け、次の一撃をいなして、と、なかなか攻撃に入れない。

 

「?……あ。」

 

気付けば、βとγも同様の変異が発生している。

そこは赤い雨が降る戦場だった。

 

   *

 

「……勝手にしているといい。こちらはこちらの方法でやらせてもらう。」

 

グレム局長の説得を諦め、なおも喚く彼を無視して指示を出しに戻る。

 

「ジュリウス隊長!結意さん、シエルさん両名と通信途絶!周辺区域の反応も取れません!」

「赤い雨は。」

「すでに二人の担当域に入ったものと……」

「……呼びかけを続けてくれ。」

 

……最後に、鼓の息をのむような音と、金属同士が打ち合わされるような音とが聞こえた。神機兵αと交戦中と見て間違いないだろう。

反応からして、シエルの方にも複数のアラガミが向かっていた。βが動けばまだよかったが……

覚悟はしておく必要があるだろう、と、短くはない経験が告げていた。

 

『……た……長……』

 

……幾ばくかの時間の後、シエルから通信が入った。

 

   *

 

雨の音。自分の息づかい。ゆっくりと打つ心臓の音。

自分と屋根にしている神機兵。それから地形。あとは、赤い雲と赤い雨。

今私の周りにあるものは、これで全部。……これが、孤独、というものなのかもしれない。

 

「……私は、死ぬんでしょうか。」

 

今更ながら、なんだかんだで誰かが側にいたのだな、と。それを理解した。ラケル先生、レア先生、ジュリウス。ほとんどはその三人だけだったけど、最近になって他にも……

結意さんは大丈夫だろうか。最後の通信からして、たぶん私より大変な状況。なかなかに最悪の状態のはずだ。

……こちらも、人のことは言えないらしい。

 

「二体……」

 

シユウとボルグ・カムラン。通常種なのがせめてもの救いだけど、赤い雨の中で両方相手に出来るか、と聞かれると自信がない。一方を防ぐ間にもう一方に……というのはよくある話だ。

それどころか、奥の方にも数体見える。全てこちらに向かっているし……絶望的な状況だ。

 

「……動かないでいいですよ。シエルさん。」

「!」

 

……救援が来た。最初はそう思えたけど、お世辞にもそう言えた状況じゃなかった。

あちらこちらに傷を作り、若干覚束ない足取りで赤い雨の中を進んでくる結意さん。救援と呼ぶにはいささか問題がある。

 

「早く屋根があるところへ!それ以上は危険です!」

「大丈夫です……これ以上濡れても、たいして変わりません……」

 

半分に折れた刀身パーツからも、すでにかなりの戦闘を行ったのだと分かる。盾に至っては吹き飛んで……まさか、三体相手に戦ってきたのだろうか。

……そんなことは今はいい。今最善の策は……

結意さんが戦い、少なくともその間私は無事でいること……?

 

「……私は副隊長だから。守らなきゃ……だから命令です。動かないでください。」

 

私の中の何かが、命令という言葉に反応した。従わなければ。……最低だ。

……そんなことを考えている間に、結意さんは一撃でシユウを撃破していた。

腹部でコアごと両断されたそれ。振り抜いた勢いそのまま一回転しながら前進。着地点で突きの態勢を取り、ボルグ・カムランの口めがけて突撃する。

 

「くっ!」

 

……死に際の、といったところだろうか。尻尾の槍が私へ突き出された。

さっきの命令、と言う言葉の圧力で、反応が一瞬遅れていた。間に合わないと思った時点で、私は目をつむる。

 

「……?」

 

いつまでも襲ってこない痛みに目を開けば……結意さんの腹部を槍が貫いていた。

 

「結意さん!」

 

ああ、私にもこういう声が出せたのだな、と。場違いな思考というのは、本当に場違いに起こるものらしい。

悲痛、と言うのが似合う声音に返される。いや。返したわけではなかったのだろう。ただ私に聞こえる声だっただけなのだ。

 

「……おいしそう……」

 

   *

 

「それを報告書に書くかどうか、私に聞きに来たの?」

「はい。結意さんの行動は、ある種アラガミに近しいものがあったと判断しています。ただ平然と報告書にまとめていいものか判断が付かないため、まず先生に報告を、と。」

 

結意に存在するのは、ひとまずの彼女の人格と、アブソルの人格部分。それだけだと思っていたけれど……オラクル細胞自体にも何かあるということかしら。いい発見ね。

 

「いい判断だったわ。と言いたいけれど、理由はそれだけじゃないでしょう?」

「……」

 

沈黙。答えるかと思ったけれど、どうやら本人にも分かっていないようね。とはいえこれで、女王様の兵隊が一人増えたかしら。

 

「結意に黒蛛病は見られなかったわ。神機兵を壊した、ということで処罰は下っているけれど。」

 

シエルの話では、残ったアラガミを素手で倒し、そのコアを食らい尽くした、とか。傷が回復したのもそれが原因ね。

黒蛛病に関してはあの子がかかるはずもないし。行動からして、予想通り。少し前倒しは出来そうだけれど、おおむね計画変更はなしでよさそう。

 

「あの……結意さんは独房に?」

「ええ。面会も可能よ。」

「分かりました。……この件は……」

「報告書にはまとめなくていいわ。局長には私からごまかしを入れておくから。」

「了解。失礼します。」

 

……ええ。ごまかしておくわ。いずれにしろもみ消したもの。




引き続きα。次話でまた一区切り、ですかね。

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