GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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さてさて。
…書くことが多過ぎてやばいです(汗)


α02.交錯

交錯

 

「ジュリウス隊長。少しよろしいですか?」

 

ミッションに出ようとした直後、フランに呼び止められた。……おそらくはここ最近の任務遂行効率に関する案件だろう。昨日も博士から相談を受けたところだ。

 

「……どの程度落ちている?」

「約30%、といったところです。特にシエルさんが主体として動いた場合は、最大で50%……」

「そうか。対策は?」

「模索中です。……正直、どうすればいいかだけなら簡単ですが。」

「だろうな。」

 

シエルに協調性が芽生えればいい。端的に言えばそうなのだが、強要できるものでもない。

 

「シエルは元々俺の護衛として訓練を受けたからな。その分、教科書を額面通りに捉えがちらしい。」

「その分……というと?」

「そのために短期間で英才教育を受けた。そういう意味だ。」

「なるほど。」

 

そしてそれ以上に、彼女が一人での戦闘に特化していることもある。誰かと協力しての戦闘や、総合的な状況の分析が苦手なのだろう。

 

「鼓には?」

「伝達済みです。結意さんも困っているようでしたが……」

「……」

「ナナさんはそれほどでもありませんが、ロミオさんとギルさんの不満はかなり寄せられているそうです。今回ばかりは、二人も気が合うようですね。」

 

半ば呆れ気味に告げたフランだが、彼女自身も困り果てていると見える。オペレートにも支障が出ているとするならば、早急に手を打つ必要があるだろう。

だが、問題はどうやるか、だ。

 

「……近々局長からの指令が降りるそうだ。それまでには何とかしよう。」

「はい。こちらでも、出来ることはやってみます。」

 

   *

 

「結意ちゃん!どうする!?」

「追撃します!」

 

廃棄されたダム上での戦闘……一本道のこの場所だと、標的に合流されやすいのが難点。

 

「ブラッドβ!もう少し引き離せますか!?」

『OK!やってみる!』

 

ヴァジュラとコンゴウ一体ずつ、どちらも基本種だから厳しい任務じゃないって思っていたんだけど……どうやらかなりの数のアラガミを喰らって強くなった個体だったらしく、苦戦を強いられている。

 

『副隊長。コンゴウは群で行動するアラガミです。移動時に他の個体に発見される危険性を鑑み、現区域での戦闘行動継続を進言します。』

 

……また、か。

 

「ヴァジュラが合流したときのリスクを考えろ!」

『対コンゴウ戦術マニュアルでは、他の個体が存在しないことが確認されている区域で、一体ずつ処理することが推奨されています。統制のとれた動きをするであろうコンゴウの群より、現在戦闘状態にあるものとの同時戦闘が安全であると……』

「実戦に教科書なんざ持ち込むな!」

 

ここ最近はいつもこんな調子だ。実戦的な判断を、シエルさんがマニュアル面から否定する。そこにギルさんやロミオさんが反論して……その繰り返し。

 

『ブラッドα。南西より、コンゴウ一体が接近中。間もなく戦闘区域へ侵入します。』

「くそっ……ヴァジュラは俺が抑える!お前等はコンゴウを引きつけろ!」

「はい!」

「りょうかーい!」

 

無線の向こう側では、未だに口論が続いている。

 

『いったん端まで行こう!』

『いいえ。こうしてコンゴウが来たという事は、付近に群がいる可能性が高いです。この場に留まって……』

『そんなこと言ってる場合かよ!早く行くぞ!』

 

ジュリウスさんみたいに出来れば、もうちょっと仲良くできるのかな……なんて、自分勝手でテキトウなことを考えてしまう。

 

「結意ちゃん!」

 

ナナさんが指さす方を見ると、今まさにコンゴウが私たちの横を通過しようとしているところだった。

 

「っ!」

 

右足を一歩後ろへ。力をためると同時に、神機を黒いオラクルが包み込む。

 

「えいっ!」

 

踏み込みつつ、神機を突き出す。纏っていたオラクルが棘状になって幾本も飛んでいき、コンゴウの胴体を貫いた。

……大したダメージは与えられていない。やっぱり、まだ上手く使えていない、かな。

 

   *

 

「……ひどいわね。」

「ええ。大きな被害にはなっていないけれど。」

 

大きいかどうかが問題じゃない。そう言った方がいいのかもしれないけれど、ならどこが問題なのか、と聞かれたら、あまり答えられる自信がない。

 

「最近はいつもこんな感じなの?」

「ええ。ジュリウスならもう少し上手く御しているのだけれど。」

「……彼女が副隊長になったのはつい最近でしょう?それでこんな……」

「いいえお姉様。これが結意にとってどれほど辛いものであれ、私の目的のためには必要だもの。」

 

目的。ラケルにとって、その目的が最優先なのだろう。私にとっても、そのために働くことが最優先なのだから。

 

「そろそろ極東支部に着くことを考えると、早めに対策するべきね。」

「もちろん。ジュリウスにはもう頼んだし、何より……」

 

言葉を切ったラケル。久しく見なかった光景だ。

 

「何より?」

「いいえ。何でもないわ。」

「……クジョウ博士は?」

「あと明日にはここに到着するそうよ。無人制御と有人制御……期待しているわ。お姉様。」

 

私に期待されてもね。そう告げる代わりに肩を竦めた。今回の実験は無人制御下にある神機兵の運用テストであって、無人と有人のどちらが優れているかの検証ではないのだから。

 

「シエルには、後でちゃんと話しておかないとね。」

「ふふっ。あの子に任せればいいのです。」

 

ほんの一瞬、言葉が切られた。

 

「結意に。」

 

   *

 

「でやあっ!」

 

ナナさんの神機が振り下ろされ、コンゴウの頭部を粉砕する。

……どのくらい経ったのだろう。結局、分断は成功し、複数のアラガミを相手取るなんて事は起こらないままに任務は終了した。

 

『付近にアラガミの反応はありません。すぐにヘリを向かわせます。合流地点はポイントA。』

『了解だ。そっちに向かう。』

 

ヴァジュラと一人で戦っていたギルさん。次々に聞こえる声の中で、一番疲れているように思える。

 

「あの……大丈夫ですか?」

『何とかな……お前らは?』

「痣だらけだよお……」

『ははっ!そんなことが言えてんなら問題ねえさ。』

 

ナナさんは比較的元気そう。とはいっても、いつもよりずっと息が上がっているし、服も埃まみれ……見た目よりも疲れているだろう。

だけど、それらを全く気にしない人だっていた。……シエルさんだ。

 

『副隊長。先ほどの指示の件ですが……』

『あの状況ではあれがベストだ。分からねえわけじゃねえだろ。』

『分かれてなきゃ大怪我してたかもしれないんだぞ。ジュリウスだって、きっと同じ指示してたし。』

 

ギルさんが割って入り、ロミオさんもそこへ続く。……私のせい、なのだろうか?皆が、シエルさんも含めた皆が納得できる指示を出せなかったから、こうなっているのだろうか?

 

「その……ごめんなさい……」

「結意ちゃんが謝る事じゃないってば。みんな助かったんだもん。」

「……」

 

……帰ったら、どうするべきだったのか聞いてみよう。ジュリウスさんやお義母さんなら、きっと何か教えてくれるはずだ。

 

   *

 

レアと入れ違いに、俺はラケルの研究室へと足を踏み入れた。

 

「よう。」

「珍しい。ちゃんと入り口から入ってくるなんて。」

「気分だ。……結意のやつなら、今そこでレアと話してるぜ。」

「そう……わざわざそれを言いに?」

「暇なだけだ。」

 

……嫌な笑みだ。正直言って、虫酸が走る。

あの日俺を“そうであるもの”として迎えたあいつの表情は、もっと気分が良いものだったってのに……同じ半人半神でこうも違うのか、と、半ば呆れ、半ば諦めつつ感じた。

 

「お姉様には、シエルのことをお願いねと言うように頼んであるわ。あなたが冷や冷やするようなことも少なくなるでしょう。」

「どうだか。何のきっかけもなしに、あのシエルとか言うのが変わるとは思えねえがな。」

 

ラケルの口角が上がる。嫌な笑み、が、とことん嫌な笑み、まで格上げされた。誰かが何かを企んでいるときほど、見ていて気分が悪くなる顔はない。

 

「彼女は萌芽の時を待つ種子にして、すでに女王の位にある。きっかけなんて向こうからやって来るわ。」

「……そうかい。」

 

もういい。話題を変えよう。

 

「……何度か聞いてるが、結意のやつが俺を認識するのはいつになる。あんたの当初の予測じゃあ、この間の暴走で可能になってたはずだろうが。」

「おそらく、結意の意識が判然としている状態で、あなたが前面に出る必要があるでしょう。」

「不可能だ。」

「不可能ではないはずよ。それが果てしなく困難であるだけ。あなたになら出来る。いいえ。出来ないわけがないのだから。」

 

腹が立つ、という感情を、俺はこいつから学んだ。というよりも、マイナスの感情の大半をこいつに対して抱いた。

プラスの感情をあいつらから。マイナスをこいつから。歪だが、そうして心の紛い物を得たことで、俺は人の紛い物としてこいつと会話しているわけだ。

 

「出来るのでしょう?世界を喰らうアラガミなのだから。」

 

……ちっ……腹立つ……

 

「……また来る。」




ところで皆様、お気付きの方はいらっしゃいますでしょうか。
こちらの小説、この回で記念すべき100話目を迎えました!
ここまで続けてこられたのも、読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございます。
そしてこのスーパー亀さんの私を、どうかこれからも温かい目で見守ってくださいませ。

と、まあこの話はここで切りまして…前話でお伝えした、ある企画についてのお話をさせて頂こうかと。
実は五月の終わり頃、「ウンバボ族の強襲( http://syosetu.org/?mode=user&uid=68721 )」という方からあるお誘いを頂きました。
アニメ化に際して、ハーメルンでGE小説を書いている人々でのコラボをしないか、というものでして…(喜び勇んで)参加いたしました。
ものとしては、参加する書き手が、各々一話ずつ作成し、短編小説のような形で投稿していく、という形式です(投稿はウンバボ族の強襲様が一手に引き受けてくださりました。ありがとうございます)。
私の書いたものは明日投稿される予定ですが、取り急ぎご報告&宣伝まで。
企画頁↓
http://novel.syosetu.org/55471/

ではでは、また次回お会いしましょう。

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