GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
えっと、理由は二つありまして、一つはリアル多忙(いつも通り)。そしてもう一つが、当サイト内での、あるGE企画に招待して頂いたこと、になります。
とりあえず詳細は後ほど。本日は二話投稿です。
重たい肩書き
「本日付けでブラッドに配属となりました、シエル・アランソンと申します。至らぬ点などあるかと思いますが、よろしくお願い致します。」
私の、というより、その場にいたジュリウスさんと本人を除く全員の感想は、堅い挨拶だなあ、だった。
「実戦経験こそ少ないが、演習や座学の成績はブラッド隊でトップクラスに入る。お前達も気を抜くなよ。」
ジュリウスさんとはマグノリア・コンパスにいた頃から知り合いだったとか……でも、特別クラスにはいなかったはずだし……上級クラスとかかな?
「彼女の入隊によりブラッドも六人になったわけだが、これに際して副隊長を任命しようと思う。」
話は聞いているけど興味なさ気なナナさんに、なぜか沸き立つ二人。そんなにすごいことなのかな?
「ま、やっぱ俺だよな。ブラッドじゃジュリウスに次いでベテランなんだし。」
「お前が?寝言は寝て言うもんだ。」
「何だと!だいたいお前はいつも射線考えずに出やがって!後衛の邪魔だっての!」
「誰の邪魔だ?言ってみろよ。」
「私じゃないよー。」
「その……私のでもないです。」
「うっさい!俺のだよ!バーカ!」
こんなことがあると、マグノリアではお義母さんが止めていた。そのお義母さんは今、クスクス笑いながら眺めている。
「……盛り上がっているところすまないが、副隊長は鼓に任せる。」
あ、ジュリウスさん、もう決めてたんだ。えっと、鼓……ん?私?
「えええっ!?」
「早くに血の力に目覚めたこと。皆からの人望も厚いこと。任せるに足る腕を持つこと。これらが鼓を選んだ主な理由だ。依存はないか?」
あるに決まっている。そう思っていたんだけど……
「なるほどな。了解だ。」
「結意ちゃんなら大丈夫だねー。」
「ちぇーっ。まあいいや。よろしくな!」
三人とも、賛同の意を示してきた。……そんな役目を担えるほど強くないし、上手く出来る気もしないし……
「心配するな。お前なら大丈夫だ。」
「だ、だって……その……」
「戦術理論はシエルに習うといい。俺より詳しいだろう。」
そんな私の思いに反し、ジュリウスさんは決定を変えるつもりがないらしい。お義母さんに至っては応援してくる始末……
「大丈夫よ。あなたならきっと、上手くやれるわ。」
「でも……」
「この人選は、私とジュリウスで話し合って決めたことよ。心配いらないわ。」
「うう……」
……断らせてはくれないらしい……
「では、これで解散とする。シエル。後で鼓と簡単に意見交換をしておくように。」
「了解しました。」
「はい……」
*
「なあなあ。いきなり副隊長なんて頼んで大丈夫か?結意のやつかなり困ってたぞ?」
「あれに関しちゃ俺もこいつに同意だ。指揮を執るには経験が足りなさ過ぎる。」
この二人のことだ。自分が適任だ、と思っているわけではないだろう。純粋に鼓が副隊長となることに、問題や疑問を感じていると言ったところか。
確かに二人の言う通り、あの人選には無理がある。あの判断に大きな間違いはないだろうが、それでもいささか性急と言わざるを得ない。
「その点については俺も博士に尋ねた。ただ、性格、技量、その他諸々を考えると、確かに鼓は副隊長として適任だ。博士の考えでは、早い段階から部隊指揮の経験を積ませようということらしい。」
「それは分かるんだけどさ……」
「当然、しばらくは俺達でフォローしつつということにはなる。……ギル。部隊指揮の経験は?」
「いや……まともにやったことはない。ブラッドでそれがあるのはあんただけだろ。」
……予想はしていたが、楽ではない、か。仕方ないな。
「……ところで、今は極東に向かってるんだよな?」
「ああ。それがどうかしたのか?」
「前に、極東の神機使いに会ったことがある。その人がいるかどうかを知りたい。」
ギルが聞いている人物……例の半人半神の神機使いのことだろうか?
「極東側に聞くことは出来るが……」
「そうか……いや。そこまではしなくていい。」
グラスゴーでの事件の際、極東の神機使いがそこにいたことは知られている。おそらくその時……
「……その神機使いとは?」
「俺の目標だ。……絶対に追い付けないがな。」
「そんなんが目標って……追い付けなきゃ意味ないじゃん。」
「はっ。かもな。」
……本人が良いというなら、俺が気にすることもないか。
*
「ふむ……では、神機使いとしての戦闘経験はまだ少ない、と……」
「は、はい……」
「立場上、結意さんが私の上にいます。敬語は必要ありませんが?」
「だって……その……」
下で繰り広げられる結意ちゃんへの質問責め。……大変そう……
「隊長、何で結意ちゃんにしたのかな?」
「オペレーターの目からにはなりますが、ナナさんは経験が足りませんし、ロミオさんは周りを見る目が足りません。ギルさんも前に出過ぎる傾向があります。そう考えると、結意さんはある意味で適任かと。」
「なのかなあ?」
こうして見ていると、シエルちゃんと結意ちゃんはいくつかの面で真逆らしい。はっきりと物を言うかどうか。自分の意見を前に出すかどうか。
……でも、仲良くなれないようにも見えないなあ……
「ここ最近のデータを元に作成した、各個人のトレーニングメニューです。実行許可を。」
「トレーニング?」
そんな結意ちゃんの雰囲気が変わった。
「……だめ。」
「問題はないはずですが……各々に不足している要素をすべて補うものにしてあります。」
「こんなの、みんなヘトヘトになっちゃいます。」
「神機使いの回復力であれば、これにより予測される程度の疲労はミッションに支障を来すレベルではありません。実行すべきです。」
……シエルちゃん、頑固だなあ。
「……ブラッド隊副隊長として命令します。このトレーニング案を破棄して下さい。」
「しかし……」
次の瞬間、空気が変わった。どす黒い怒りというか、憎悪というか……いつもの結意ちゃんからは信じられないような、殺気にも似た何かが感じられて……
「……聞こえませんでしたか?シエルさん。このトレーニング案は破棄。今後、こういった無理のあるメニューを作成することも禁じます。」
足がすくんでいる。フランさんに至っては、小刻みに震えているほどだ。
「りょ……了解……」
「ん……じゃあ、私は部屋に戻りますね。何かあれば来て下さい。」
結意ちゃんがエレベーターに入り、その扉が閉まった瞬間、フランさんはカウンターに手をつき、私は大きく息を吐いて、シエルちゃんはその場に膝をついた。
その彼女のところまで行くと、息を荒くしつつがたがたと震えているのが分かった。……あんな結意ちゃんを目の前にしていたら、そうもなるだろう。
「えっと……大丈夫?」
「……はい……ナナさん……でしたね。結意さんは、その……」
「あんなの初めて見たよ。」
ひどいことに、さっきのシエルちゃんが私じゃなくてよかった、って思っている私がいる。
「……アラガミと、神機なしで対峙している。そんな感覚でした。」
でも、結意ちゃんがあんなになるなんて……いったいどんなメニューだったんだろう?
そう思って、近くに落ちていた端末を拾い上げる。
「……ねえねえシエルちゃん。」
「何でしょうか?」
「これは怒るよ……」
……ちょっと、無理があり過ぎかな。
*
「……鼓が?」
「ええ。ナナとフランから。かなり怖かったそうよ。」
いったい何がどうしてそうなったのか。いや。何がどうしたのかは想像に難くない。あの二人の性格からして、ちょっとした言い争いのようなものは必然的に起こるだろう。
問題はそこではなく、フランが恐れるほどの行為を鼓が出来るかどうか、だ。
「シエルったら、かなり無茶な訓練メニューを提出したらしいわ。それに怒ったそうだけど……」
「あいつがそれだけのことで、そこまで憤慨するかどうか、か。」
「ええ。誰かが怖がるようなこと、する子ではないでしょう?」
少し困ったような顔で首を傾げる博士に向かって頷く。だいたいマグノリアでも、他人の喧嘩を見て泣き出すようなやつだった。明らかに彼女らしからぬ行動と言えるだろう。
「それで、少しお願いしたいのだけれど……」
「俺に出来ることであれば。」
「ありがとう。空いている時間だけでも、結意の様子を見守っておいてあげてほしいの。もしかすると、血の力に目覚めたことによる精神的な不安定化、なんてこともあるかもしれないわ。」
血の力はそもそもとして不確定な部分が多い。博士が言うようなことも考えられる。
特に鼓はあの前例のない状況下……極東の神機使いがいなければ、おそらく救出もままならなかったであろう形で覚醒を果たした。気にし過ぎにはならないだろう。
「了解した。可能な限り様子は見ておこう。」
「お願いね。」
やっとシエルを出せた…やっと結意が副体長になった…