短編ってどのぐらいの文字数が良いのだろう?
とりあえず、最初のは本当に短めの舞台説明。
01/舞台装置
01/舞台装置
「――やぁ、こんにちは。いえ、此処には朝も昼も夜も無いから、おはようでもこんばんはでも無いか。それじゃ万能の挨拶の『御機嫌よう』でも使おうかな?」
――本来、この次元世界に生まれた転生者は、彼女一人だった。一人の筈だった。
この物語は最古の転生者から始まる。この世界での一代目の彼女から――。
「一応、外見は『豊海柚葉』だけど、僕達に姿形なんて関係無いよね。僕は君が『解放』しようとした『豊海柚葉』の『補正』さ。――誰に説明しているかって? 此処には居ない、有象無象の観測者さん達だよ」
一体どういう理屈でこの世界に転生したのか、彼女は理解出来なかった。
転生の秘術で新たな個体に生まれ変わる際、誰かに謀殺された可能性を真っ先に疑う。幾ら彼女が最強のシスの暗黒卿でも、産まれる以前は無力に等しい。その時に母体を殺されてはさもありなんである。
そういう風に彼女は納得したが、実はこれには明確な理由がある。……尤も、彼女はそれを永遠に知り得ないが――。
「それにしても君は、いや、君達は稀有な存在だね。後天的に『補正』を得るなんて驚きだし、君に至っては僕を消滅させる為に随分とまぁ凶悪な能力を発現させたものだ。『ボス』用じゃなくて僕用だろう? それ。――尤も、君の本体はそれすら必要としなかったけどね」
――彼女の世界には、もう彼女を打倒する存在は居ない。その可能性さえ千年の歳月を経ても芽生えて来ない。
銀河皇帝の至高の座は、彼女を死から徹底的に遠ざけた。神聖不可侵の座は余りにも盤石過ぎた。それは彼女自身の絶対的な補正が保証する。
「いじけない、いじけない。君ほど忠義深いスタンドは見た事が無いよ。それは僕が保証するよ。……あれ? 余り嬉しくないようだね。最高級の賛辞だったんだけどなぁ」
死による救済を望む彼女にとって、この状況は何物にも勝る苦痛だった。
だから、彼女は無意識に願った。この望みが叶う世界に行きたいと――それが、最期まで滅びなかった彼女が世界を飛び越えた真相である。
「君達は呼び寄せた転生者の中でも、余り期待出来ない部類だった。『ジョジョの奇妙な冒険』のキーアイテムである『矢』はあれども、君の本体は支配者足り得なかった。相応しきスタンド使いに託すぐらいが関の山だと思っていたけど、何が起こるか解らないものだね」
長年掛けて構築した権力基盤を全て失い――されども、これでは足りなかった。
また一からやり直している内に、誰一人敵わない至高の座に到達して、同じ事となる。その無駄な繰り返しでは本末転倒過ぎて誰も報われない。
「一応、これでも選別していたんだよ? 僕は『豊海柚葉』が『悪』である限り、絶対的で理不尽な『補正』で世界すら改変出来る。無意識の存在に過ぎないけど、『両儀式』や『涼宮ハルヒ』のように、最も神様に近い出鱈目な存在だからね。『豊海柚葉』を殺せる存在は、事前に弾いていたよ」
――彼女は無作為に引き寄せた。自分と同格に成り得る存在を、自分さえ打倒出来る存在が居る事を願って。
「――三回目の転生者は完成しているが故に、劇的な成長性なんて無かった。僕の見立てでは君には成長の余地が残されていたけど、そんなのは微々たるものに過ぎなかった」
まるで引力のように吸い寄せられ、この世界には大量の転生者が生まれた。
果てには、彼女と同じように別の世界で人生を終えた転生者さえ、死による消滅の理を覆して引き寄せた。
「僕の手をすり抜けて、僕と同じ領域まで辿り着いちゃうなんて、そんな抜け道があるなんて知らなんだよ。先天的のは全部弾いたのになぁ」
――巨悪と相討ちになった転生者が居た。
――至高の聖遺物と共に焼身自殺した転生者が居た。
――記憶を取り戻せずに失意の内に死んだ転生者が居た。
――悪に屈せずに殉じた転生者が居た。
――病魔に屈して本願を果たせなかった転生者が居た。
――因果の彼方に忘れ果たされた転生者が居た。
これが『三回目』の転生者という在り得ない劇物が発生した原因である。
その行いが『悪』であるならば、世界の改変すら彼女は可能とする。自覚して行使出来る類の能力では無いが――。
――彼女は其処に舞台があったから暗躍しただけではなく、この舞台装置そのものだったという話。
「僕は『豊海柚葉』が『悪』である限り、絶対的に味方だったけど、今は違うから――結局、彼女を殺すのは僕になりそうだ」
だが、豊海柚葉を秋瀬直也は救ってしまい、彼女は『悪』でなくなってしまった。
それでもその『補正』は無くならない。彼女自身の為に働かず、むしろ『悪』である事を裏切った彼女を殺す為に脈動する。
――転生者を招き入れろ。裏切った彼女を殺すべく、より強大な転生者を寄越せ。
「元々僕は無意識且つ無自覚な『補正』に過ぎないからね、幾ら不本意でもこればかりは変われない。――唯一つの例外を除けば、だけどね」
そして、彼女は話し掛けても終始無言で佇んでいる『蒼の亡霊』を、期待の目で見る。
「君の能力ならば、僕を跡形無く消せる。どうだい? 君の本体の伴侶の為に、一肌脱ぐ気は無いかな?」
彼女は両手を広げて、自らの死を受け入れるように淡く微笑み――反面、『蒼の亡霊』は微動だにせず、ただ其処に佇むだけだった。
それは、これ以上無いほど明確な拒絶であり、彼女は溜息を吐いた。
「……つれないなぁ。いや、やはり君は『秋瀬直也』のスタンドという訳か。本体と同じ結論とはね――」
「つくづく君と君の本体は思い通りにいかないなぁ」と、彼女はその皮肉を大層気に入って、晴れやかに笑った。
「まぁいいか。どうせ僕が全力で殺し掛かっても、君の本体は全部防いでしまいそうだし。此処で見届けるさ。憧れながら、羨ましがりながら、二人の歩む物語を見届けよう――死が二人を分かつまで」