「……はぁ~、帰る場所があるって本当に素晴らしい事だよねぇ。失ってみて初めて実感出来るよ」
「死に物狂いで生き延びて、ミッドチルダとの通信が漸く回復したらクーデター勃発ですからねぇ。あの時はびっくりです」
オープンカフェにて寛ぎながら、アリアは弛れるようにオレンジジュースを飲み、対面の席に座るティセは砂糖ありありのコーヒーを飲んだ。
二人共、管理局の制服姿ではなく、現地のファッション――普遍的な洋服を着ている。それもその筈、今の彼女達は管理局員ではない。帰るべき国を失った敗軍の将である。
――端的に言うならば、ア・バオア・クー戦でホワイトベースを撃墜されたアムロ達一行といった処か。
あれから三ヶ月の時が経過し、随分と夏らしい気候となった。日本の暑くて鬱陶しい空気を二人は久方振りに味わう事となる。
――三ヶ月前、支点攻略戦に失敗し、多大な被害を齎したアリア・クロイツは死を覚悟したが、次元震の影響から回復した一報に眼をひん剥く。
ミッドチルダの本土で大々的なクーデターが勃発し、権力を握っていた最上層の粛清が徹底的に行われ、武力で管理局の中枢を奪取したクーデター一行は都合良く総員自決したという訳の解らない状況である。
『魔術師』の飼う使い魔エルヴィは、彼等の想像を超える働きをもってミッドチルダにおける支配構造と支配基盤を壊滅させたのである。
「……運が悪かったのか、良かったのやら。アイツらはお陀仏だろうし、生きているだけ儲けモンかねぇ?」
「ですねぇ。まずは再就職です」
就職広告に目を通しながら、ティセは爽やかな笑顔を浮かべた。その輝かしい笑顔を見て、アリアは『デスノート』の夜神月の父親を思い出した。
「……いやぁ~。物凄くポジティブだね、ティセちゃん」
「アリア中将はどうします? いっその事、学校に通ってみては?」
「元中将だよ。向こうじゃもうA級戦犯扱いで裁判のち処刑される類の」
今更中学校からやり直しとは世も末だ、と思いながら、アリアはオレンジジュースをストローからちゅーちゅー吸った。
「そうだねぇ、考える時間だけは沢山ありそうだわ」
――ティセ・シュトロハイム
ミッドチルダのクーデターで帰る場所を失ったが、心の故郷は日本だっただけに、意外と前向き。
『魔術師』との闘争は敵わないと理解したので、今後敵対する予定は無いし、『魔術師』の方も表立って敵対しないのならば放置する方針。
何だかんだ言って、海鳴市に順応し、裏関連の荒事を笑いながら解決していく。
――アリア・クロイツ
結局、戸籍などを偽造して、私立の中学校に通う。
裏関連の事には関わらないが、たまにティセに知恵を貸している模様。
柚葉との個人的な交友関係は続いているようで、よく惚気話と愚痴を聞いて大量の砂糖を吐いているとか。
――リンディ・ハラオウン
海鳴市撤退戦に総力を尽くし、多くの局員達を死地から救った。
現在は半壊した時空管理局を立て直すべく、殺人的に忙しい日々を過ごしている。
その際に、二度と暴走が起こらないように、三権分立の重要性を提唱している。
――クロノ・ハラオウン
母親の艦長に付き添い、エイミィと一緒に殺人的な仕事量に忙殺されている。
何気に『闇の書』事件が永久に解決してしまっているが、当人達は知る由も無い。
第九十七管理外世界への不干渉及び不可侵を声高に叫んでいる。
――ギル・グレアム
目まぐるしい状況の変化に着いて行けず、いつの間にか『闇の書』事件が解決され、失意の内に隠居しようとしたが、管理局の変革の為に忙殺され、退職のタイミングを完全に失う。
唯一人となった双子の猫の使い魔が必死にサポートしている。
『魔術師』は彼を破滅させる気満々だったが、今の忙殺されている現状がいい気味だと笑い、放置している。
――『神父』
孤児院の経営に力を入れ、精力的に活動する。
転生者の出生率と孤児は増える一方なので、割と繁盛している。
夜は異端狩りに吸血鬼狩りなど、相変わらず何の異能力も持たぬ人間ながら、全ての勢力から畏怖される。
――『代行者』
結局、『教会』に出戻りし、シスターに傍迷惑を掛けてキレさせている。
それでも虎視眈々と『魔術師』と秋瀬直也の首を狙っているとか。元主への忠誠心は変わらぬ模様。
――シスター&セラ・オルドレッジ
一日毎に代わり番こに人格を交代し、熱烈にクロウにアタックしている。
けれど、余り気付かれず、日々、二人の中で愚痴っている。
出戻って来た『代行者』の弄りはシスター限定であり、セラの時はまともに会話出来る事が発覚する。
――アル・アジフ
『闇の書』の暴走プログラムをデモンベインのレムリア・インパクトで跡形無くふっ飛ばし、その役目を全て終えて契約を完了し、元の世界に還る。
その際に令呪ニ画、『魔術師』の協力で自身の限り無く原本に近い写本をクロウに遺す。
大十字九郎を助け出し、邪神の策謀を完全に打ち砕いたと、クロウ・タイタスは信じている。
――八神はやて
亡き『過剰速写』の想いを胸に、日々精一杯生きていこうと前向きになる。
道具扱いした守護騎士達とも、今では家族同然の絆を育んでいる。
現在はシスターとセラを出し抜く為に守護騎士達を暗躍させたりと、『魔術師』の悪い部分が若干移った模様。
クロウは全力で嘆き、血の涙を流しながら『魔術師』への正しき怒りを胸に宿らせたとか。
――『ヴォルケンリッター』
夜天の守護騎士となり、最後の夜天の主に尽す所存。
デモンベインのレムリア・インパクトで防衛プログラムが昇華された後、『魔術師』が闇の書のバグのみを魔眼で視るという荒業で殺し尽くし、完全な状態でリインフォースが生存する。当人曰く、迷惑料だとか。
ヴィータはクロウと戯れて時々恥ずかしがってグラーフアイゼンで殴ったり、シグナムは鍛錬を名目にクロウを合法的にボコったり、シャマルは試食係にしてクロウを黄泉路に迷わせたり、リインフォースは申し訳無いと思っていても主はやての謀略に協力したり、ほぼあらゆる面でクロウに被害が及ぶ模様。
クロウにとって唯一無害なのは狼形態で主を見守るザフィーラだけであり、愚痴を言う仲に。
――ブラッド・レイ&シャルロット
たまに『教会』に遊びに来る。ヴォルケンリッターも加わって、大所帯となった『教会』の賑わいを気に入っている模様。
ブラッドの方はシグナムと模擬戦したりして存分に技を競い合い、戯れる二人を密かにシャルロットが嫉妬したとか。
料理が出来ない事が判明し、シャマルと一緒にシャルロットは料理修行に励む。被害者は主にクロウとブラッド。
――クロウ・タイタス
アル・アジフとの契約を終え、全てを無事に終わらせる事が出来て燃え尽きていたが、はやてやらシスター&セラやらヴィータやらシグナムやらシャマルやらリインフォースに揉まれ、落ち着く間も無い模様。
相変わらず際立った才能は無いが、皆の助けを借りて、これからも幾多の困難に立ち向かっていく。
彼の周囲で恋愛フラグが非常に乱立しているが、当人は余り気づいてない。
――湊斗忠道&銀星号
如何にして『善悪相殺』の戒律に向き合うか、日々真剣に思い悩み、どのような答えになるか、二世村正は静かに待ち望む。
組織の方は良くも悪くも繁盛しており、復讐の為に武芸を磨く者達を湊斗忠道は指南し、劔冑を鍛造する者達を二世村正は厳しく鍛える。
『善悪相殺』の抜け道を模索していた一派は、『魔術師』の横槍で壊滅した模様。外部からの物理的な自浄作用に湊斗忠道は引き攣りながら苦笑したとかしないとか。
――フェイト・テスタロッサ
エルヴィの頑張りによって母親を取り戻し、感極まって大泣きする。
漸く彼女を取り巻く歯車が正常に回り、なのはとも和解するに至る。……スターライトブレイカーは原作以上のトラウマとなったが。
今はアルフと一緒に死病に侵された母親を懸命に看病する。現地での生活は『魔術師』が密かに手回ししたとか。
――プレシア・テスタロッサ
遅すぎる和解を経て、残りの人生を娘と共に生きる事を誓う。
娘を亡くしてから消え去った平穏の日々を、余命僅かな彼女は最期に漸く手に入れた。
――高町なのは
今日も元気良く魔法少女をやっている。
最近『魔術師』の屋敷に足を運ぶ頻度が増えて、兄が嘆いていたとか。
月村すずかの下にも良く通っており、時々だが、すずかは笑顔を見せるようになった。
たまに魑魅魍魎な事態に巻き込まれ、悪戦苦闘するも、周囲の者に頼ったりして精一杯頑張っている。
――ユーノ・スクライア
フェレット状態でなのはと一緒に暮らし、魔法の指導をしているとか。……早くも師の教導を超えつつあるが。
ただ、彼女が『魔術師』の屋敷に踏み入る時は終始緊張するも、トラウマを克服するべく努力している。……ランサーの前では完全に石化するが。
――川田組の副長
残りのスタンド使いを纏め上げ、秋瀬直也に一切手出しさせなかった。
一際復讐心の強い赤星有耶が川田組から離反したのは別の話。また秋瀬直也に挑んで返り討ちにされたのも別の話である。
組織の方は『魔術師』とは距離を置き、たまにある秋瀬直也からの応援要請には全力で請け負った。『魔術師』はその様子を見て「何処のスピードワゴン財団だよ」と呆れながら言ったとか。
――神咲悠陽
海鳴市に足を踏み入れた時空管理局の勢力をほぼ壊滅させ、百年は手出し出来ないようにした。
大体の問題事が解決し、現在は海鳴市で発生する厄介事の全てを秋瀬直也に回して隠居気味。理想とする仙人生活に近づきつつある。
それでも問題事は常に湧いてくるので、芽の内に潰すべく、思う存分暗躍しているとか。数多の転生者にとって変わらず絶対的な死神の様子。
……あと、謎の事故で崩壊した私立聖祥大付属小学校に、匿名で膨大な復興基金を寄付した。
――エルヴィ
反乱分子をエロ光線(魔眼)で扇動したり、中将とか大将を暗殺しようとして中将の方には返り討ちに遭ったり、どさくさに紛れて冷凍保存刑に処されたプレシア・テスタロッサを回収したり、獅子奮迅の働きをした。
したのだが、本編では余り触れられていない事に大層不満を抱いているとか。
現在もまた『魔術師』の暗躍の尖兵となって、色々やっている。当人は神咲悠陽に仕えられて幸せな様子。
――ランサー
結果的に最後まで生き残り、『魔術師』に従うサーヴァント。
秋瀬直也が厄介事に巻き込まれた際の応援役だとか、釣りとかキャンプとかバイトなど、私生活の面でも充実した日々を送っている。
いつの間にか安定の幸運EランクがDランクに格上げになっていて、その唐突なステータス変動に『魔術師』は声も無く驚き、何故か「裏切られた! テメェは晩年Eランクだろう!?」と憤慨したという。
「は、はいっ、あーん」
「あ、あーん……」
お互いに真っ赤に照れながら、柚葉から差し出されたパフェを食べて、口に広がる甘さと幸せを同時に堪能する。
向かい側の席ではなく、同じ側の席で隣り合わせになりながらイチャつく。他人のそんな光景を見たのならば壁パンものだが、自分ですると何とも恥ずかしいものだ。
――この海鳴市に来てから色々あったが、この平和な一時を噛み締める。
そう思った矢先に、喧しく携帯が鳴り響く。
ポケットから取り出すと、よりによって電話の主は『魔術師』からであり――殺意すら滲ませる柚葉に奪い取られ、我が物顔で出られる。
それ、オレの携帯なんだが……。
『もしもし、緊急の案件があるんだが――』
「ちょっと。今、私達はデート中なの。邪魔しないでくれるぅ?」
二の次も言わせずに柚葉は不機嫌さ全開で抗議する。この至福の時間を邪魔された事が相当ご立腹な様子である。
『そうか、後にしろ。大事の前の小事だ』
「貴方の依頼こそ小事よ。二人の愛より大切なものなんて無いんだから」
……って、『魔術師』相手に何を言ってるんだ!? は、恥ずかしいだろ……。
『……お前、言っていて恥ずかしくないのか?』
「全然。……というか、自分でやりなさいよ。サーヴァントに吸血鬼も居るんだから」
『ふぅん、良いのかな? 私の記憶が確かならば、秋瀬直也の懐に収まっている泡銭はもう残り少なかった筈だが』
いやいやいや、何でその事を知っているんだよ!? 幾ら依頼主とは言え、此方の財務状況をほぼ完全に把握しているってどういう事だ……!?
柚葉は驚くオレの顔をまじまじと見て、それが真実であると悟る。
「え? 嘘、もうそんなに減っているの……!?」
『散財させている当人が何を言っているか。この傾国の魔女め』
呆れた声が携帯から鳴り響く。……九歳の小学生の身では、毎回のデート代の捻出は厳しい現実です、はい。
『さぁ、どうする? 私は何方でも良いのだが』
勝ち誇ったかのような声が携帯から鳴り響き、柚葉は猛烈に悔しそうな顔になる。
とても仲良さそうだろう? コイツら、三ヶ月前までは壮絶に殺し合っていたんだぜ?
「ぐ、ぐぬぬ。か、構わないわっ! 無視して行くわよ、直也君!」
『と、君の未来の嫁は言っているが、どうするんだ? 秋瀬直也。今日はちょっと色を付けようかなぁ? 夏休みも近かろう?』
……結局、オレが柚葉と『魔術師』の板挟みになるのは、最初から最後まで変わらないんだなぁと現実逃避しながら思う。
間もなく夏休み、此処ら辺で娯楽費を稼ぐのも悪くない。が、その前に冷静さを完全に失っている柚葉の説得が先か。とほほ……。
――豊海柚葉
絶対的な補正が消え果て、逆に簡単な事で死にかけるようになる。
けれども、彼女の傍らに『正義の味方』が居る限り、彼が万難を排するのは間違い無い。
暗躍をする事は無くなったが、秋瀬直也に近寄る女は絶対に許さない。絶対に。この時ばかりは往年並の補正が働くらしい。
一夫多妻制は認めていないので、手綱を握ってないと惨劇必須である。
――秋瀬直也
いつの間にか『矢』が手元に戻り、ほっと一安心。使う機会が無い事を祈りつつ『ファントム・ブルー』の中に保存している。
そしていつの間にかスタンドが成長し、完成していた。
日々、完全にデレた豊海柚葉とのバカップルぶりを周囲に見せつけている。相思相愛過ぎて誰もが呆れるとか。
『魔術師』から大量の厄介事を押し付けられるが、全てをこなして柚葉とのデート資金を入手しているという涙ぐましい努力をしている。
その際、柚葉と『魔術師』の間で板挟みになって、色々苦労している。
転生者の魔都『海鳴市』――完。
A-超スゴイ B-スゴイ C-人間並 D-ニガテ E-超ニガテ
『蒼の亡霊(ファントム・ブルー)』 本体:秋瀬直也
破壊力-C スピード-A 射程距離-B(10m)
持続力-B 精密動作性-A 成長性-E(完成)
見た目は変わらないが、完全体まで成長し、基礎能力や風の能力の持続時間が大幅に向上した。
……レクイエム時に制限解除した一部の能力値がそのままという疑惑が浮上するが、それはファントム・ブルーしか知り得ない事である。
スタンドは静かに佇みながら、己が主と共に歩む者を守るのみ――。