転生者の魔都『海鳴市』   作:咲夜泪

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49/晴れのち爆発、局地的に銃弾の雨

 

 

 

 

(……『オレ』は、奴のスタンドに打ち砕かれ――?)

 

 次に『彼』が意識を取り戻した時、其処は清廉な病室だった。

 赤ん坊の泣き声が妙に響き渡り、その事が『彼』を余計混乱させる。

 

(何だ? 何なんだこの状況は……ッ!?)

 

 秋瀬直也のスタンドに打ち砕かれ、気づいたら赤ん坊に憑依していた。

 余りの突拍子の無い状況に、『彼』は混乱の極みに達したが、やがて一人の看護婦が訪れ、この赤ん坊の名前が発覚した時、全ての謎は一つに繋がった。

 

(秋瀬、直也――!)

 

 信じられない事態だが、今のこの状況は二人共生まれ変わった状態であり――『彼』は迷わずスタンドを繰り出し、その無防備な赤ん坊の頭を全力でかち割った。

 

 そして、自らのミイラ化したスタンドもその瞬間、頭がうち砕かれ、一緒に絶命する――。

 

(え? な、何イイイイイイイイイイイィ――ッッッ!?)

 

 断末魔は時の巻き戻りに打ち消され、死亡する十秒前に巻き戻る。

 『彼』は秋瀬直也の中で、人知れず、自分の置かれた状況を理解しつつあった。尤も、受け入れたとはとても言い難い状況であったが。

 

(馬鹿な、能力が発動して十秒間巻き戻った……!? そんな馬鹿な事があってたまるか――ッ!)

 

 またしてもスタンドを繰り出して、赤ん坊の秋瀬直也の殺害に成功し、同時に自身のスタンドもまた同じ死に方で死亡して十秒前に巻き戻ってしまった。

 

(……また、まただと!? 『オレ』の手で秋瀬直也を殺害したら自殺判定だと!? この『オレ』の本体が、秋瀬直也だと言うのかアアアアアアアアアアァ――ッ!)

 

 そして肉体の主導権は自分にはない事を、『彼』は心底絶望しながら認めざるを得なかった。

 まさかの前世の宿敵と一蓮托生、殺しても殺せない関係。されども、他の誰かに殺されたら一緒に殺される運命。知れば知るほど巫山戯た状況だった。

 

(……ッ、クソ、クソクソクソクソクソクソォッ! 落ち着け、今は耐えるんだ。スタンド使いは必ず惹かれ合う。いずれ他のスタンド使いが秋瀬直也の前に現れよう。その時にソイツの身体を乗っ取れば良い……!)

 

 魂を八つ裂きにするほどの屈辱に焼かれながら、耐え忍ぶだけの苦渋の日々が始まる。

 数年、十数年後に訪れるであろう反逆の機会を、宿敵の中に潜みながら虎視眈々と待ち続ける。

 

(この屈辱、一時足りても忘れはせんぞ。いつの日か必ず晴らしてくれよう……! 貴様との奇妙な因縁を清算し、『矢』を支配して世界に君臨するのはこの『オレ』だァ――!)

 

 もはや『彼』と秋瀬直也は魂の兄弟だった。互いの手では絶対に殺せず、その前世からの因縁に決着を着ける手段は唯一つだけ――『矢』しか無かった。

 

 

 49/晴れのち爆発、局地的に銃弾の雨

 

 

「作戦を説明するわ。指定の狙撃地点まで移動し、相手の射程距離外から砲撃魔法で一撃でノックダウン。やれるね、なのは」

「は、はいっ。ですけど……良いのかなぁ?」

「うわぁー、すっげぇ身も蓋も無い作戦だなぁー」

 

 駅で電車に乗って隣町に到着したオレ達一行は柚葉の単純明快で身も蓋も無い作戦を聞かされる。

 いや、まぁ、それが一番の安全策という事は解っているのだが、やられる方からすれば物凄い理不尽だぞ?

 

「居場所が判明しているスタンド使い相手に馬鹿正直に戦う訳無いじゃない? 馬鹿なの、死ぬの?」

 

 心底小馬鹿にしたような口調で、柚葉は「何か反論ある?」と凄む。

 オレとなのはは無言で首を横に数回振って、異論が無い事を伝え、柚葉は物凄い良い笑顔になる。こういう笑顔って怖いよな……。

 

(でもまぁ、確かに……高町なのはの戦力を近接距離で運用するなんて、馬鹿のする事だよな。最大射程からの砲撃魔法こそ真髄みたいなもので、戦艦並みの防御力とかはついでだし)

 

 ……『魔術師』とコイツに、なのはを使わせたらこうなるのかと身を持って実感する。

 敵としては恐ろし過ぎる脅威が、味方ならこの上無く頼もしい限りである。

 言うなれば、弱体化せずに味方になったラスボス級のキャラクターみたいなものだ。スパロボでいう『ネオ・グランゾン』とか、FFTでいう全国のアグリアスさんファンを涙目にした『雷神シド』とか。

 

「冬川雪緒を仕留めた後は『魔術師』に丸投げするわ。自分の下位組織の尻拭いぐらいやって貰わないと割に合わないわぁ」

 

 ……確かに、それをやって貰わないと、いつまでもスタンド使いの襲撃に悩む事になる。今度は敵討ちという最悪の補正付きで。

 『魔術師』としても、いつまでも自分の手足みたいな組織が命令不能の事態に陥っているのは不味いだろうし、その辺は期待して良いのだろうか?

 あれこれ考えていると、なのはがやたら緊張して悲壮感を漂わせていたので、ある事に思い至る。

 

「なのは。非殺傷設定で良い。奴を仕留めるのはオレがやる」

「で、でもっ……冬川さんは、私のせいで――!」

「これはオレの責務だ。例えなのはでも譲らないし、渡さないぞ」

 

 やはり、責任感の強い彼女は内に溜め込んでいたか。

 バーサーカーに襲われ、瀕死になったなのはを救う為に、冬川雪緒は率先して囮になり――帰らぬ人となった。

 

 ――彼の死因は、自分のせいだと高町なのはは思い詰めていたのだろう。だが、それはオレも同じ事だ。

 

「この街に来て、冬川雪緒に出逢わなければオレは呆気無く死んでいたし、身を呈して生命も助けられた。だから、彼の意志を踏み躙り、穢す者は絶対許せない。最後の最期に、オレに恩返しをさせてくれ」

 

 オレは淡く微笑み、なのはは何も言えなくなって、こくりと一筋の涙を流しながら頷いた。

 

「……うん、解った。でも、私にも手伝わせて。冬川さんに救われたのは、私も同じだから――」

「……ああ、頼む」

 

 それに――人を殺める業を、こんな純粋な少女に背負わせる訳にはいかない。これはオレが果たすべき義務である――。

 

「……殺す事が恩返しか。報われないものね。でもまぁ、安心したかな? これでまだありもしない冬川雪緒の助かる可能性に縋っていたのならば、真っ先に抜け出す処よ」

「……そんな阿呆みたいな楽観視は、流石のオレも出来なかったがな。人の精神を操るスタンドよりも、死体を操るスタンドの方が数倍は効率良いからな」

 

 冬川雪緒を操っているスタンド使いを打ち倒して、彼も正気に戻ってハッピーエンドか――到底無理だな。

 そんな甘い気持ちで挑めば、いざという時に躊躇して返り討ちにされるだろう。最初から殺す気でいかなければ、殺されるのはオレだろう。

 

(……今考えれば、糠喜びだった訳か。オレ達が逃げ去るまでアイツ一人で時間稼ぎして、バーサーカー相手に助かる訳が無かった――)

 

 ……それはバーサーカー戦の時に、冬川雪緒が死亡していたと受け入れる事であり、何とも遣る瀬無くなる。

 遠因が廻って今この状況に至った、という訳だ。両手で自身の顔を強く叩き、意志を強く持つ。

 

 ――そんな時だった。この三人の中で一番悠然と構えていた柚葉が一瞬にして驚愕の表情へと豹変したのは。

 

「――なのは、シールドで防御ッ!」

 

 柚葉の言葉に即座に反応し、一瞬にしてセットアップしてバリアジャケットを着用したなのははオレ達を守るようにシールドを展開し――猛々しい爆発が眼下を覆い尽くした。

 

「っ、こんな街中で仕掛けて来るかッ!」

「ああもう、スタンド使いという人種はこれだから嫌になるわッ!」

 

 ……敵襲、新手のスタンド使い――!

 緊張感が走る。爆発はなのはの防御魔法で完全に防いだが、風の流れが入り乱れて敵対者の存在を掴めない。一体何処から――?

 

「一体何処からだ!?」

「残念だけど、私も掴めてない! 性質の悪い事に遠距離型のスタンドみたいね! なのは、同時進行でエリアサーチを!」

「はいっ、レイジングハート!」

 

 ただ、一つ言える事は爆発の規模が大きい。こんなのをまともに浴びたら一発で再起不能というか、即死するだろうが――右手を前に出して、防御魔法で必死に防いでいるなのはの胸元に赤い光が生じ、オレ達は驚愕を以ってそれを凝視する――!?

 

「……ッ!?」

 

 その赤い光は防御魔法の内側から瞬時に爆発し、なのはを塵屑のように吹き飛ばした。

 

「なのは――!?」

 

 何処からか、小気味良く指鳴り音が生じ、本能的な危機感に従ってこの場から離脱する。

 

 ――居た場所に凄まじい爆発が生じ、間一髪で回避する。

 肉の焼け焦げる匂いが生々しく、死の予感を叩きつける。

 

 柚葉もまた絶対的な危険性を感じ取ったのか、なのはが吹き飛ばされた方に疾駆していた為、難を逃れたが――今から合流するのは極めて困難だろう。

 

「意識は失っているけど、なのはは無事よ! それよりも――!」

「――あのスタンド使いはオレが此処で仕留めるッ! 先に行ってろ、柚葉ッ!」

 

 どういう原理か、敵のスタンド使いの姿は未だに確認していないが、このスタンド使いは放置するには余りにも危険過ぎる。真っ先に始末する必要がある。

 

(……防御魔法の内側から爆破されたって事は、直接触れずとも空間指定で爆破出来る『キラークイーン』って事か!? 此処で仕留めなければ全員やられる――ッ!)

 

 今、此処で仕留めない限り、オレ達に活路は在り得ない。

 この見えない敵との戦闘が今、此処に始まる――。

 

 

 

 

「高町なのはを任せるわ」

「おやおや、戦線離脱した無力な駒に随分とお優しいのですね。護衛は要らないのですか?」

「あの『赤髪』を仕留められなかった癖に、台詞だけは立派ねぇ」

 

 バリアジャケットの恩恵か、高町なのはの受けたダメージは致命傷には程遠かったが――彼女達の中で最も突出した戦力を使用不能にされて、豊海柚葉は壮絶に舌打ちする。

 

 ――敵のスタンド使いは、憎たらしいほど正しい選択をした。

 現状で、この三人の中で最も脅威になるのは『高町なのは』に他ならず、真っ先に戦闘不能にした的確な判断力から敵の手強さを自然と感じ取った。

 

 意識を失った彼女をその手に抱き抱えているのは、黒服のコートにサングラスを掛けた金髪の青年――影から護衛していた『代行者』であった。

 

「これは手厳しい。いやはや、クロウ君にサービスしたのが仇となりましてねぇ」

 

 対物ライフルに仕上げた『第七聖典』が手元にあったのならば、空中に逃げられても『過剰速写』を狙撃出来たが、と『代行者』は楽しげに弁解する。

 

「確かに私も貴方の身は心配してませんが、今回ばかりは秋瀬直也とて分が悪いのでは?」

「あの程度の敵を退けられないのならば、それまでだったという事よ」

 

 ――そう言って、豊海柚葉は無表情のまま、指を軽く折り曲げる仕草をする。

 

「――っ!? ぐ、がぁ……!?」

 

 それだけで彼女達の背後から忍び寄った別のスタンド使いは、不可視の強烈な力に首を絞め上げられ、グギッと――窒息死する前に首の骨が折れて絞め殺された。

 名も解らないスタンド使いは、その秘めたる能力を発揮せぬまま――無惨に死に果てる。それがさも当然の如く、『代行者』も見向きすらしていなかった。

 

「戦艦並に堅牢なシールドを内側から空間指定で爆破出来るような『スタンド使い』をあの程度ですか! 秋瀬直也を随分と信頼されているようですねぇ!」

 

 ケタケタと『代行者』は狂ったように笑い、豊海柚葉は不機嫌そうに睨み返す。

 相変わらずこの男は人の癇に障るのが大好きなようであり、彼女は苛立ちを籠めて無言で凝視する。

 

「おぉ、怖い怖い。私まで殺されてしまいそうだ。――では、私は私の役目を今度こそ果たすとしますか。ご武運を。仕えるべき主が居なくなってしまっては退屈ですからねぇ」

「誰に物を言ってるの。私を殺せる者なんて最初から存在しないというのに――」

 

 ――そう言い残し、豊海柚葉は唯一度も振り返らずに走る。

 秋瀬直也はこの敵のスタンド使いを倒し、必ず駆けつけると絶対的に信じて――。

 

 

 

 

「……女の子に八つ当たりするなんて最低」

「ぐはっ!? だ、だけどよぉ、シャルロット――」

「……言い訳しない。男の癖に女々しいし、見苦しい」

 

 ジト目で睨むシャルロットからの重圧に屈し、オレは項垂れるように地面に跪いた。

 流石にオレには年下の女の子に罵られて喜ぶ性癖とか無いんで、割かしマジで凹んでいる。

 

 ……自分でも解っている。普段から調子が狂って、見苦しいという事ぐらいは……。

 

「……オレだって大人げないって解ってんだよ。けれどよぉ、オレがあれを認めたら、シスターはどうなる? 忘れ去られるんじゃないかと思って仕方ねぇ……」

 

 だから、何が何でもオレだけはあれを――セラ・オルドレッジの存在を認められない。シスターを取り戻すと誓ったからには、あれとは絶対に相容れない。

 シャルロットの顔が陰る。……難しい問題だ。当人の記憶の問題だ。突破口すら、頭の悪いオレには掴めていない。オレの傍に居るアル・アジフは無言で考え込んでいた。

 

「クロウ兄ちゃん!」

「はやてか。どうしたんだ、声を荒げて――」

 

 振り返った先には車椅子に乗ったはやてと、車椅子を押す『過剰速写』と、微妙な顔をしているセラ・オルドレッジが居て――早くもオレ自身の表情が硬くなったと自覚する。

 

「ぱんぱかぱーん! まずは自己紹介をしよう!」

「は?」

「へ?」

 

 はやては満遍の笑顔でそんな事を言い出し、オレとセラは揃ってその提案に驚いたのだった。

 

「まずは互いの相互理解が大切だと思うんや。クロウ兄ちゃん、セラちゃん。という訳で、名前、年齢、趣味、好きな異性のタイプからや!」

「……うわぁ、最後の最後に地雷を投入してきたよ」

 

 『過剰速写』は後ろに立ちながら、呆れ顔でそう呟く。

 はやての引率で「ささっ」とセラはオレの目の間に配置し――オレ達は気まずい空気に表情を曇らせた。

 

「……コンニチハ」

「……コンニチハ」

 

 まだ朝だが、お互いに片言で挨拶を交わす。

 ……非常に険悪な空気であり、溜息が零れる。だが、はやての配慮を無駄にする訳にもいかず、まずはオレから話す事にした。

 

「クロウ・タイタス、十八歳、趣味は推理小説の鑑賞、好きなタイプはお淑やかな大人の女性だ」

 

 そう言った矢先に、この場に居る全員、はやて、セラ、アル・アジフ、『過剰速写』、シャルロットから「え?」と疑問の声が揃って上げられた。

 ……って、何でだっ!? どうして全員が全員、在り得ない事を聞いたような表情になってやがるんだっ!

 

「ちょっと待ていッ! ――「え?」ってなんだよ!? 特にはやてっ! 何でお前まで驚いた表情してんだよ!」

「……だ、だって、クロウ兄ちゃん……ち、小さい女の人好きなんでしょ? ……シスターさんもアルちゃんもそうやし、私もその……」

「お前までオレをロリコン扱いするか!? つーか、コイツが永遠の幼女なだけで、オレの性癖には全くもって関係なーい!」

 

 後半部分は良く聞こえなかったが、全くもって事実無根だと宣言する!

 何で誰も彼もオレをロリコン扱いするんだ!? オレだって、オレだってなぁ、大人の女性と甘い関係とか憧れたりするんじゃいっ!

 はやては何故だか知らないが、物凄く不機嫌そうにジト目になって、こほん、とわざとらしい咳払いをして仕切り直す。

 

「……まぁええわ。それじゃお次はセラちゃんやでー!」

「……余り意味があるとは思えないけどなぁ」

 

 セラは呆れ顔になりながらも、それでも律儀に答えた。

 

「セラ・オルドリッジ、十歳……じゃなくて、この身体は十四歳だっけ? 趣味は……ぬいぐるみ集め。可愛いものに眼が無かった、かな。好きなタイプは……自分を守ってくれる人? 前世じゃ終ぞ居なかったけど」

 

 歪な自己紹介が終わり、訪れたのは無言の沈黙――解り切っていた結果だけに、自然と心が重くなる。

 

「……はやてちゃん。悪いけど、彼と私が解り合うのは無理だから」

「……それだけは同感だ。オレ達は最初から相容れねぇしな」

 

 互いに譲れず、オレはセラと睨み合う。

 ……自分にとってセラ・オルドレッジは明確な敵だが、彼女自身は許されざる『悪』ではない。運命に翻弄された一人の犠牲者だ。

 それ故に完全に敵だと割り切れず、此処最近の苛立ちの原因になっている。煮え切らない思いで一杯だ……。

 

「――未練がましいね。そんなに贋物の私が大切だったの?」

「――贋物なんかじゃねぇ。前から思っていたが、それは訂正しやがれ……! アイツは、贋物なんかじゃねぇんだよ……!」

 

 売り言葉に買い言葉、挑発的に笑うセラと一触即発の険悪な空気まで発展してしまう。

 だが、アイツを贋物呼ばわりされるのは我慢ならねぇ。今まで必死に頑張ってきたシスターを、お前にだけは否定されたくない――!

 

「ふーん、どう表現して欲しいのかな? 『名無し』のシスター? それとも用無しの別人格かな?」

「テメェ……!」

 

 ブチ切れて張り倒そうとした矢先――咄嗟に庇って地に伏せさせる。

 一瞬遅れて無数の銃撃が教会の扉を蜂の巣にする。なんか似たような事が前にもあったような気がしたが、何でまたこんなに襲撃されやすいんだこの教会は――!?

 シャルロットもまた逸早く反応して礼拝堂に並ぶ席の影に隠れ、『過剰速写』ははやての前に立って真正面から銃弾の嵐を叩き落として行く。

 

「アル・アジフ!」

 

 オレの掛け声と共にマギウス・スタイルとなり、頁の翼をバリケード代わりにして未だに状況判断出来ていないコイツ、セラ・オルドレッジを不本意だが守る。

 

「――『過剰速写』! はやてに傷一つ付けさせるなよ! 死んでも守れッ!」

「誰に物を言ってんだ。それよりテメェ自身の事を心配しろ――!」

 

 生意気な物言いだが、今は頼もしい限りだ。

 困惑したように此方を見上げるセラを無視しながら、シャルロットの安否を確認しようとし――程無く銃声が止まる。

 蜂の巣になった教会の扉を蹴り破って、ごっつい銃火器を肩に背負った茶髪の少女が床に倒れ落ちた扉を土足で踏んで、堂々と侵入してきやがった。

 

「やぁやぁ、久しぶりだね『過剰速写』。――ミサカを殺した責任、取って貰いに来たよぉ……!」

 

 さも愉しそうな狂った笑顔で茶髪の少女は笑い、名指しされた『過剰速写』の表情が鬼気迫るものとなり、無言で此方に視線を向け、即座に頷く。

 

「うわぁっ!?」

 

 セラをお姫様抱っこで持ち上げて、はやての下に即座に馳せ参じ、『過剰速写』は代わりに前に出た。

 いつもの仏頂面の無表情は掻き消え、獰猛な殺意を撒き散らす極悪人の顔立ちとなっていた。

 

「清々しいほど素敵な宣戦布告を有難う。何で生きているとかお決まりの台詞は言わねぇが、もう一度ぶち殺して綺麗さっぱり清算してやるよ……!」

「ありゃま、通じないか。まぁ転生者じゃないし、ネタが古いからかねぇ? ミサカちょ~っとがっかりしてみたり」

 

 ――此処に、教会勢力と学園都市勢力の戦端は唐突に開かれたのだった。

 

 

 


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