転生者の魔都『海鳴市』   作:咲夜泪

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24/追憶

 

 

 ――私を、見て下さい。

 

 貴方に尽くします。貴方を愛します。貴方に従います。

 ですから、私を見て下さい。愛してくれとは言いません。私を、その眼で見て下さい。

 

 ――貴方は御自身が仇敵であると教えました。

 

 私の祖父を殺し、私の母も殺した。だから、私は敵討ちをしなければならない。

 祖父と母の無念を晴らす義務がある。故に貴方は貴方の殺し方を教授します。

 関係無いのです。私は生まれてから貴方しか居ないのです。顔も知らない人間の事など、私は知りません。

 それでも、これが貴方との絆である事を信じ、貴方の術をこの身に刻みます。

 

 ――成長しない私を、貴方は暖かく見守ってくれました。

 

 貴方は自身の殺し方の他に、沢山の事を教えてくれました。

 ただそれは私が復讐を終わらせた後に役立つ知識であり、私には永遠に必要の無いものでした。

 

 貴方を殺すぐらいなら、私は自らの生命を絶ちます。

 貴方を殺そうとする者がいるなら、私は率先して殺します。

 貴方無しでは、私は生きられないのです。

 私は死んでいて、貴方のお陰で生きているのです。

 

 ――そして、貴方はまたもや同じ結末を辿りました。

 

 どうしてでしょうか?

 私は貴方さえ居れば他に何もいらない。

 それなのに、貴方だけは私の掌から通り抜けてしまう。

 貴方だけは、手に入らない。

 

 私の声を、聞いて。

 私を、一人にしないで。

 

 ――私を、見て。

 

 

 24/追憶

 

 

『――例えば、その『聖杯』で死んだ者を蘇らせる事は出来るのかしら?』

「可能だと思うよ。過程を無視して結果だけを成立させる。例えそれが『魔法』の領域でも『万能の願望機』は可能とするだろう」

 

 此処は『魔術師』の屋敷の中、居間にて彼は寛ぎながら『紫の魔力光』相手にお喋りを講じている。

 中々どうして大魔導師の名は伊達でないと見える。

 死に至る病に蝕まれた身で、次元を超えて通信出来るこの魔導師の技量・才覚は尋常ではなく、『魔術師』は彼女、プレシア・テスタロッサに対する評価を若干以上見直す。

 

『断定、しないのね……?』

「生憎と一度も使った事が無いからな。私が保証出来るのはこの杯を鍛造したアインツベルンの魔術師の並外れた執念ぐらいだ」

 

 完全な杯を鍛造する事に成功しながら、あの一族は杯の中身を自分達だけで満たす事が出来ない。

 『聖杯戦争』の主催者から一参加者に成り果てて挑み続ける妄執は、彼の理解に及ぶ領域ではない。

 

『……娘を生き返らせたい。私の娘は――』

「アリシア・テスタロッサ。享年五歳、二十六年前の魔導実験の事故で死亡。母親というものは偉大だね、此処まで執念を燃やせるとは関心させられるよ」

 

 既にプレシア・テスタロッサは手詰まりに至っていた。

 『魔術師』が砕いたジュエルシードの数は、自身の三画、月村すずかの三画、地下神殿から奪い去った大導師の三画――合計九個であり、未使用の分は令呪として彼の右手に三画刻まれている。

 残りはフェイト・テスタロッサに刻まれていた三画、高町なのはが封印した三つ、クロウ・タイタスの二画と使用分の一つであり――ライダーとランサーを打倒しない限り、彼女の陣営には浮動票の三つを含めて六つしか手に入らない計算である。

 

 ――当然、その程度のジュエルシードではアルハザードには辿り着けず、プレシアの本願を果たす事は到底出来ない。

 

 それ故に望みを『魔術師』の持つ『聖杯』に託すのは当然の成り行きであり、『人形』に頼らず、自ら交渉に乗り出した次第である。

 

 

「――それで、貴女は娘をもう一度殺したいのかな?」

 

 

 『魔術師』ははち切れんばかりの嘲笑を浮かべ、プレシアは通信越しに顔を引き攣らせた。

 

 単純明快な理であり、それでも今まで一度も思考に及ばなかった事実であった。

 プレシアは五歳でこの世を去ったアリシアの人生を諦められない。あんな事故で失って良い生命では無かったのだ。

 だからこそ、彼女は残りの人生を全て死した我が娘に捧げた。娘と一緒に幸せだった日々を、この手に取り戻す為に。

 

 ――それでも、その当然の帰結までは考えが及ばなかった。

 どんなに言葉を飾っても、蘇らせるという事は「もう一度死ね」という残酷な宣告に他ならない。

 

「蘇らせるという事はそういう事さ。それに一度辿った結末を覆す事は容易ではない。おそらく彼女はまた事故死するだろうね。回避しても回避しても、より惨たらしく悍ましい死に様に至るだろう」

『……ッ、それでも、私はアリシアを……!』

「経験者として言わせて貰うが、死ぬのは余り気分の良い事では無いのは確かだね」

 

 『魔術師』は意地悪く笑う。次元越しで苦悩しているであろう、プレシア・テスタロッサの悲哀を想像して愉悦する。

 かの英雄王も言った事だが、人の身に余る大望を抱いて破滅する様は見ていて飽きない、格別の娯楽である。

 

 ――ただ、今回に限っては彼とて心穏やかで居られないが。

 

「まぁそれだけが問題では無いけどね。――魔術の基本法則は等価交換だ。『万能の願望機』に見合う代価を、貴女はどうやって用意するのかな?」

 

 『魔術師』は試すように問い掛ける。

 それは最初から答えの無い、悪辣過ぎる問いだった。

 人の到達出来る領域では叶わぬからこそ『奇跡』に追い縋ったのに、それ相応の代価を如何に試算すれと言うのか。

 

『万能の願望機を手にしながら、使わずに死蔵する。それは貴方に託す願いが無いという事かしら? 貴方は『聖杯』に如何程の価値も見出していない』

「――然り。これを手に入れるまでは何かあったような気がするが、今の私に叶えたい願望など無い。それで?」

 

 狂気に身を委ねていても、その知性に陰りが無い。

 『魔術師』は愉しげに次の言葉を待つ。その顔は悪魔的なまでに歪んでいた。

 

『私に出来る事なら何でも用意するわ。――あの娘が欲しいのならば、喜んで差し上げるわ』

「本物の『娘』が願った『妹』を平然と差し出すか。随分と魅力的な提案だね」

 

 プレシアは沈黙する。その苦悩と悲哀、己の矛盾に鬩ぎ合う葛藤は極上の美酒であり――それを上回って尚余る憎悪を『魔術師』は燃え滾らせていた。

 

「――揺り籠で永遠に眠り続ける『娘』を、貴女は蘇らせたいと願った。けれども、私は違った。揺り籠で永遠に眠り続ける『彼女』を手放せなかった。貴女は『娘』の亡骸で私は『彼女』の魂、違いはそれだけだ」

 

 独白するように『魔術師』は綴る。

 その瞑られた両眼の先は此処ではない何処かを見ていた。

 

「私から『聖杯』を奪いたくば、覚悟する事だな――全身全霊を賭けて破滅させよう」

 

 右手をきゅっと握り締め、通信機代わりだった『紫の魔力光』を空間ごと握り潰す。

 酷く疲れ果てた表情で、まるで老人のように枯れ果てた顔を浮かべ、『魔術師』は意識を此処から自身の内に移す。

 

 ――届かぬ領域の悲願に手を伸ばし、その過程で狂ってしまった、己が人生をゆっくりと追憶した。

 

 

 

 

 ――神咲家八代目当主、それが彼の生まれ持った肩書きである。

 

 彼の家系は古くから魔術の探究に明け暮れ、西洋式の魔道を取り入れて新たな東洋式の魔道を確立させた異端の一派だった。

 日の本において最も古き魔術師の血筋を受け継いだ、名門中の名門と言えよう。

 

 その家に生まれた彼の魔術師としての素養は歴代一であり、更には宝石級の魔眼を保有する稀有な麒麟児だった。

 唯一つ、惜しむべきは強大過ぎるが故に魔眼を制御出来ず、魔眼殺しさえ焼き尽くしてしまうという欠点である。

 ただ、それは人間が持ち得るには破格の大神秘であり、彼こそは一族の悲願を果たすであろう、完全無欠の後継者として先代から多大に期待された。

 

 ――その宝石級の『魔眼』が、彼の人生を根本から狂わせる事を、この時点で誰が予想出来ただろうか。

 

 神咲悠陽の適応性は極めて高かった。

 この世界が『型月世界』である事を瞬時に悟り、ひたすら神咲の魔術をその身に刻み、また戦闘及び殺害用に開発・発展させた。

 彼の本願を叶える大儀式が始まるまで凡そ十数年。無駄に出来る時間は一秒足りても無く、彼は己を極限まで苛め抜くように切磋琢磨した。

 

 ――彼にこの世界で骨を埋める気は更々無かった。

 

 何が悲しくて幕末の時代に生きて死なねばならないのか。

 こんな訳の解らない時代で、訳の解らない魔術をその身に刻んで、自身もまた子孫に先代の呪いを託して死ぬ。全くもって在り得ない生き様である。

 しかし、魔術師の家系に生まれた彼に魔術師以外に生きる道は無く――だからこそ、彼は魔術師の領域を超えて『魔法使い』に至ろうとした。

 第二次聖杯戦争に勝ち抜き、『聖杯』を手に入れて『大聖杯』を起動させ、根源への孔を切り開く。

 第二の魔法、平行世界の運営を彼はひたすら求めたのだった。

 

 ――そして運命の夜は訪れた。

 

 彼の右腕には令呪が刻まれ、『聖杯戦争』に参加する。

 彼の父親は戦いに臨む事を反対したが、既に後継者は用意してある。説得の甲斐あって惜しまない協力を彼に注ぎ込む。

 この『聖杯戦争』を勝ち抜く為には自身の魔術師としての技量よりも、召喚するサーヴァントの格に左右される。

 彼の父親は最強の英霊を呼び出すべく、触媒になりそうな聖遺物を求めたが、彼は首を振って拒否した。

 

 ――確かに、触媒があればそれに縁のある強大な英霊が簡単に呼べる。

 だが、その英霊と自分との相性が良いとは誰が保証出来ようか。

 彼は英雄の格よりも、相性の良さを選んだ。

 英雄に縁のある触媒を使わず、自らの手で最高の相性のサーヴァントを呼び寄せた。

 

 ――そして、彼はその英霊を『眼』にして心を奪われた。

 何物も見る事が叶わぬ彼が、その聖女に一目惚れをした。こんな笑い話があってたまるかと彼は憤然と憤った。

 

 第二次聖杯戦争はたった一週間で完結した。

 神咲悠陽は殺し尽くした。アインツベルンのマスターを殺して聖杯の器を奪い、間桐のマスターを行き掛け上に葬り、遠坂のマスターを殺して宝石剣の設計図を略奪した。

 自身と同様の外様のマスターを殺し尽くし、遠坂邸での降霊の儀式を経て、正純な『聖杯』をこの手にした。

 彼とそのサーヴァントを止められる勢力はおらず、勝利者の居ない筈の第二次聖杯戦争において唯一人の勝者となった。

 

 ――彼は最後に選択を強いられた。

 

 『魔法』に至る為には六騎ではなく、七騎のサーヴァントの魂を『聖杯』に注がなければならない。

 つまりは彼のサーヴァントをも最後に自害させなければならない。

 

 出来なかった。その手に令呪は二画残っていても、彼には命じる事が出来なかった。

 神咲悠陽はどうしようもないぐらい、その聖女を愛してしまっていた。

 この世で唯一人、自分が見る事の出来る少女を、この世で最も美しき人を、失いたくなかった、手放したくなかった。

 

 その苦悩を、彼のサーヴァントは誰よりも理解していた。

 自身が死ななければ、己の主に救いが無い事も、彼よりも理解していた。

 

 ――だから、その終幕はきっと必然であり、神咲悠陽は何度もこの結末を嗚咽しながら悔やんだ。

 

 そして杯には七騎のサーヴァントの魂が注がれ――彼は致命的なまでに間違いを犯した。

 無色の魔力に分解される筈の魂を、彼は永遠に保存した。その行為に果たして意味があったのかは、本人さえも無意味と断じるだろう。

 

 ――それでも、彼女を手放す事は彼には出来なかったのだ。

 こうして『万能の願望機』は無意味に使い潰され、彼の破滅への道筋は静かに開いたのだった――。

 

 

 

 

 ――金色の魔力光と桃色の魔力光が熾烈に激突する。

 

 これが高町なのはとフェイト・テスタロッサの初対戦だという事実は絵空事のように思える。

 素人同然だった高町なのはは呆気無く落とされ、初戦はフェイトに軍配が上がる。自分の知っている正史はまさにそれである。

 

 ――だが、現実はどうか?

 

 フェイトの魔力不足が祟って動きに精彩を欠けているが、それ以上に、高町なのはは的確な戦術を選択してフェイトと互角に渡り合っていた。

 

 高町なのはが二十以上のアクセルシューターで牽制する。

 何が何でも接近戦に挑まれぬように戦術を組み立てて、隙あらばバインドなどで拘束して砲撃魔法による一撃必殺の機会を虎視眈々と待ち侘びている。

 

(フェイトの牽制球を一切回避せず、防御魔法を突き抜ける攻撃のみ迎撃及び回避行動に移っている……? というよりも、今現在でアクセルシューターを二十以上同時に操る芸当を平然と実行している事がおかしいよな!?)

 

 だが、それは一朝一夕で至れる境地ではない。明らかに今までの彼女では其処まで出来ない筈なのに、何故か出来てしまっている。

 

(――まさか、未来の自分を垣間見た事で、経験を憑依・追体験して継承してしまったのか?)

 

 衛宮士郎と第五次のアーチャーまで劇的では無いが、自身の完成形から得た教訓をモノにし、少々拙いが型を取得してしまったというのか。

 

(対するフェイトも負けていない。いや、今のなのはの動きは読み切っている……?)

 

 そう、先程から付き纏う違和感の正体は――二人は手の内が発覚しているかのような、相手を熟知した戦術を繰り広げているという事だった。

 フェイトはなのはの牽制球の一発一発が自身を撃墜するに足る威力だと知っており、絶対に真正面から防御せず、鋭利角を付けて受け流すように終始している。

 

 ――この戦闘の歪みは、まるでこの街の象徴であるかの如くだ。

 

 彼女達の戦闘は、何処で着地点を迎えるのか、全く解ったものじゃない。

 見守る事しか出来ない自分は、ただただ上を見上げるばかりだ。

 

 ――彼女達の空中合戦は激しさを増す一方であり、被弾覚悟の特攻が目立ってきた。

 

 互いに譲らず、何方かが堕ちる結末しか用意されていない。

 オレも小さなアルフも固唾を呑んで見守る中、一際激しい接近戦の応酬の時に何かが割って入った。

 

 

「そこまでだ!」

 

 

 ……えぇー。よりによって其処で介入してくるのかよ。

 その黒いバリアジャケットを身に纏う新たな魔導師は、二人の間に割って入って、なのはとフェイトをバインドで拘束する。

 

「時空管理局、執務官、クロノ・ハラオウンだ。事情を聞かせて貰おうか」

 

 当然、管理局の執務官を一目見たフェイトは即座にバインドを解除し、一当して即時離脱を敢行、小さいアルフはいつの間にか撤退していた。

 見事な引き際だと言わざるを得ない。

 

「――興醒めだな。出し物の佳境ぐらい静かに鑑賞しろというのに」

「ああ、全く――って、えぇ!? 『魔術師』!? 何で此処に……!?」

 

 いつの間にか、オレの横には大層不機嫌な『魔術師』と、エルヴィが笑いながら手を振っていた。

 空に集中していたとは言え、全然気配を感じなかったぞ……? まぁ今は見えないが、恐らくランサーも一緒だろう。多分、霊体化している。

 

「なのは、大丈夫……!?」

「? えと、何方様で……?」

「僕だよ、ユーノだよ!」

「え、えぇ!?」

 

 民族衣装みたいな衣服を纏った見知らぬ金髪の少年が高町なのはと会話しており――何処に行っていたか不明だったユーノが人間形態で其処に居たのだった。

 アイツ、居ないと思ったらアースラと一緒に行動していたのか?

 なのはと一緒にユーノとクロノも此方に降り立ち――『魔術師』とエンカウントする。魔王が出歩いて平原で出遭うような、そんな感じである。

 

「――さて、管理外世界である地球に極めて悪質なロストロギアをバラ撒いた管理局の言い分をまずは聞こうか?」

 

 初手からエンジン全開、熱気溢れる殺意を撒き散らして『魔術師』がラブコールする。

 なるほど、高町なのはを管理局の支配下に置かせない為に彼自らが赴いたのか。

 

「ジュエルシードは純粋な事故で此方にバラ撒かれて――」

「最近の事故というのは『直接配達して始末される』事を言うのかな? 此方は世俗に疎いものでな、ミッドチルダ式の冗談は生憎と通じないのだが」

 

 のっけから急所を抉るストレートをぶちかます。

 それにしても直接配達して始末される? 原作通りに船の事故(もとい次元魔法での撃墜)ではなく、直接届けたというのか?

 そして始末というのは――『魔術師』自身の手で配達人が葬られ、ジュエルシードによって聖杯戦争が勃発した、という流れになるのだろうか?

 

「二年前の吸血鬼といい、君達管理局は厄介な物しか密輸しないね。これは遠回しに此方に対する宣戦布告なのかな?」

 

 『魔術師』は凄絶に笑う。体感温度が二度から五度ぐらい上がった気がしたが、錯覚じゃなかったようだ。

 あの『魔術師』を中心に燃え滾るような陽炎が発生し――此処に至ってクロノは、目の前にいる人物がミッドチルダ以外の魔法技術を有している現地人である事を眼を疑いながら認識する。

 

 一触即発の空気が『魔術師』によって意図的に構築され――目的の主は導かれるままに空間に浮かぶウィンドウ画面に出現する。

 アースラの総責任者、リンディ・ハラオウンである。

 

『どうやら話の行き違いがあるようで。詳しい事情をお聞きしたいので、彼等をアースラに――』

「残念だが、敵地に無手で赴くような趣味は無い。貴殿達が此方に赴くのが礼儀であろう? 何なら私の屋敷に招待するが? 盛大に歓迎しよう」

 

 あ、これは不味い。まさかと思ったが、有無を言わさず殺すつもりだ。

 『魔術師』が自らの『魔術工房』に敵を招待するなんて、その処刑設備をフルに使って始末すると公言しているようなものである。

 しかし、次元世界の果ての魔導師が魔術師の魔術工房の危険さを知る由も無く――。

 

『――あはは、ご冗談を。貴方の屋敷なんかほいほい着いて行ったら其処で全員処刑されるじゃないですかー。それ笑えないですよ』

 

 ――そのまさに在り得ない人物が此処に居た。

 新たなウィンドウに出てきた、翆髪で眼鏡の童顔な女性は、ほぼ間違い無く自分達と同じ転生者であり――『魔術師』は待ってましたと言わんばかりに挑発的な笑みを零す。

 

「おや、これはこれは。初めまして、ティセ・シュトロハイム二等空佐殿」

『はい、初めましてですね。神咲悠陽殿。あと二ヶ月前に一等空佐になりました。何だかお決まりですね、解っていて階級間違えました?』

「其方の事情には疎いもので。貴女が如何程殺して出世したのかまでは把握出来ておりませんよ」

 

 ……何とも白々しいやり取りである。

 クロノとユーノ、そしてリンディさえも驚きの表情を浮かべている。

 二人共表面上は笑い合っているが、目に見えるほど負の感情しか無い。互いが互いに不倶戴天の敵対者として忌み嫌っている様子である。

 

『それじゃ立ち話もあれですし、会合場所を指定して下さいな。無論、貴方の屋敷以外の場所ですが』

「それなら絶好の場所がありますよ。ええ、気に入ってくれるでしょう」

 

 ……あれ? これってオレも強制的に巻き込まれる流れなの?

 この、胃に穴が飽きそうなほど辛辣な交渉戦に……。

 

 

 

 

 

 


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