「――ふむ、大分回せるようになってきたじゃないか」
「最初の街から旅立つ前に死にそうな勢いだがなっ!」
感心したような『魔術師』の声に、オレは死んだ目をもって無言で答える。……回し方は大体解ったが、勝てるとは言ってない。
ユーリに後攻1ターンキルされてから他の人と代わる代わるデュエルしたが、いずれも酷いデッキばかりで粉砕・玉砕・大喝采されたのだった。
ディアーチェが言うには「かつての貴様はこの程度じゃなかったぞ!」
レヴィが言うには「ナオヤ、カードを信じるんだっ!」
シュテルが言うには「本当に別人のよう……ですが、容赦しません」
ランサーが言うには「HAHAHA! 悪く思うなよ小僧! 儀式魔法『覚醒の証』により降臨せよ、我が魂《覚醒戦士 クーフーリン》!」
エルヴィが言うには「サモサモキャットユニフォベルン――(超☆長過ぎるので省略)――ワンターンスリィクェーサー」
……あれ、何か途中からおかしくなっているような……?
「秋瀬直也、君の知っている『遊戯王』の環境は第九期以前のようだね。デュエルは日々進化し続けている。――そして、第九期以降のデッキテーマはかなりの割合でトチ狂っている。留意しておくんだな」
それは身を持って体感した。何であんなに1ターンが長いの? ソリティア(一人遊び)しすぎじゃね?
そして回してみて率直に思ったのだが――。
「……なぁ、『魔術師』。これ、ワイト全部抜いた方が回るんじゃ――」
「それを抜くなんてとんでもない」
……いやいや、これ、絶対ワイト系を全部抜いてアンデット族モンスターによるシンクロに特化した方が絶対回るだろ?
ワイト系全種が3枚ずつ入ってるからデッキ枚数が40枚より遥かに超過している訳で――。
「え? いやだって――」
「そ れ を 抜 く な ん て と ん で も な い」
「アッハイ」
……ああ、脳内に『ドラクエ』で呪われた装備をつけてしまった時のBGMが聞こえるような気がする。
皆から色々とサイドカードを貰ったが、ワイト系の15枚全部抜けないカードと化してしまったぞ……。
「……ああ、貸して貰う立場から言うのもあれなんだが、万能の蘇生魔法の『死者蘇生』は無いのか? どんなデッキにも必要カードだろう?」
お手軽に墓地からモンスターを特殊召喚する、まさに『遊戯王』を象徴するカードが見当たらないのに疑問に思うと――。
「――無いよ。それだけはこの『魔都』でも誰も持ってない。……いいか、秋瀬直也。それらのカードはデュエルじゃなくても使う事が出来る。だが、『死者蘇生』だけ無いとは何とも意味深な事だな――仮に持っているヤツがいるなら、ソイツが『黒幕』だ」
『魔術師』は何とも言えない表情になり、真剣に語る。
死んでまた生まれた『転生者』はいても、『死者蘇生』だけは不可能なのか。何とも皮肉めいた巡り合わせだ。
「さて、だ。最後に『サービス』しよう。私との『決闘』で勝ったら最後まで直接協力してやるぞ?」
と、真剣な表情から一変し、これまた邪悪な表情を持って『魔術師』はそんな提案する。というか『遊戯王』で『サービス』と言えばあの『ファンサービス』だよな……?
やっと最初の村から旅立つレベル1の勇者だというのに、何でいきなり『隠しボス』と戦わねばならないのだ……。
「え? いや、遠慮しておきます」
「おやおや、挑まれた勝負を逃げるとか『決闘者』の言葉ではないな。もう一度聞こう、『決闘』するか『決闘』するか、どっちだい?」
「……単にお前個人が『決闘』したいだけじゃねぇか!? あと選択肢が『はい』か『YES』しかねぇ!?」
い、いきなり此処に来て強制負けイベントかよ!?
……いや、待てよ。『魔術師』と言えば、あのランサーに匹敵するか、それを凌駕するほどの類稀な不運の持ち主。他人にその凶運を擦り付けなければ運否天賦の勝負は百戦百敗するであろう負の運命力の持ち主だ。
そんな『魔術師』がデュエルで勝負するとなれば――手札事故は間違い無し。幾らデッキパワーが異常だったとしても、勝てる可能性はある……?
「――よし、解った。『魔術師』、オレとデュエルだ!」
「ふふ、そうこなくてはなっ! デュエル!」
そうだ、元の世界法則での強者がこの改変後の世界での強者とは限らない。
……あの柚葉だって此処ではデュエルが全く解らないぽんこつキャラだ。『魔術師』がデュエルで役立たなくても、その知識だけでも千金の価値があるだろう。
――先攻後攻の判定は、『魔術師』が先行だった。
先行ならば攻撃出来ないので確実に次のターンが回ってくると安堵する。他のヤツらに散々1ターンキルされたからなぁ。
「――秋瀬直也、君の考えている事など私はお見通しだ。普段からの不運を考えればどんなデッキを使用しようが事故ると思っているのだろう?」
「……違うのか?」
自覚している……? ならば、その持ち前の不運を逆利用して初期手札を固定してくるとかやってくるのか?
「そんな道理、凡百の凡骨は縛られても超一流の『決闘者』には通用しない! 最強決闘者の『決闘(デュエル)』は全て必然! ドローカードさえも『決闘者(デュエリスト)』が創造する! シャイニング・ドロー!」
そして『魔術師』は意気揚々と初期手札の五枚をドローする。『オレのこの手が光って唸る!』と言わんばかりの右手で、目映いほど光り輝く5枚のドローって、おいこら待てェ!?
「え? ちょ、ま、何をした!? 今の不正行為だろそれ!?」
「何がだ? 単に力強くカードを引いただけだろ? ドローするカードが光り輝くとか『決闘者』では日常茶飯事だ――それに万能の不正探知機である『デュエルディスク』には何の反応も無かったぞ?」
う、た、確かに『デュエルディスク』からは何の警告音も鳴っていない。
さっき、しょっちゅうやっちゃ駄目な処理をしては警告音を鳴らしていただけに、単純な不正行為は完全にブロックされるだろうし――いや、逆なのか? 『デュエルディスク』が異常を探知しないなら、それらは全部逆説的に有効行為になっちゃうのか!?
「――まぁ引きたい時に引きたいカードをドローするぐらい『決闘者』として当然だろ?」
「いやいやいや、それおかしいから! その理屈はおかしい! やっぱお前完全に『遊戯王』に毒されてるだろ!?」
何だそのカードが並ぶ順番とかが勝手に変わる事が前提な異世界の法則を常識みたいに語る言い草は!?
「――私のターン、手札から速攻魔法『魔導書の神判』発動っ! 『魔導書の神判』は1ターンに1度しか発動出来ない。このカードを発動したターンのエンドフェイズ時、このカードの発動後に自分または相手が発動した魔法カードの枚数分まで自分のデッキから『魔導書の神判』以外の『魔導書』と名のついた魔法カードを手札に加える。その後、この効果で手札に加えたカードの数以下のレベルを持つ魔法使い族モンスター1体をデッキから特殊召喚出来る!」
神咲悠陽
LP8000
手札5→4
無し
魔法・罠カード
無し
「げぇっ『魔導』!? そして最初からよりによって歴代最速級で禁止制限にぶち込まれたぶっ壊れ禁止カード!?」
うわぁ、最初からそれかよ『魔術師』、他の誰よりも容赦ねぇ……。
「? 効果が多いだけで、エンドフェイズにだから弱いんじゃ? さっきまではセットした次のターン以降にしか発動出来ない罠カードも散々遅いって言ってたじゃない?」
「いや、違うんだ柚葉。あのぶっ壊れカードは1枚だけで当時中堅級のデッキテーマだった『魔導』を環境トップまで押し上げた、永久に禁止制限の檻に入るべき最上級の禁止カードなんだ……」
……しかもその環境は『遊戯王』の歴史上最悪とまで言われる暗黒期、『征竜』『魔導』の二強環境である。
「ん~、解らないなぁ。ポケモンで例えて?」
「フライゴンが一つのアイテムでガブリアスを超えてカイオーガと互角に戦えるぐらいヤバくなる」
「なっ!?」
……まぁ正確には違うのだが、危機感だけは共有して貰えたようだ。
しかし、『魔導』かぁ。此処から起こり得る事態は『魔導書』魔法カードを連発されてサーチ連打し、エンドフェイズ時にその数だけデッキからサーチされて更に魔法使い族モンスターをデッキから特殊召喚される。
本来の『魔導』はある程度考えて『魔導書』を使わなければ魔法カードが簡単に尽きてガス欠になってしまうが、『魔導書の神判』があれば魔法カードを使えば使うほど質が良くなる上に魔法カードが枯渇しないという意味不明な状況になる。
唯一の良心として『魔導書の神判』で『魔導書の神判』はサーチ出来ないが……『グリモの魔導書』以外の『魔導書』をサーチ出来る『グリモの魔導書』、除外された『魔導書』を回収する『アルマの魔導書』すらある為、毎ターン『魔導書の神判』を発動出来るのである。
(……うん、オレが祈る事は手札の魔法カードがあと2枚しかない、という手札事故だけだな。3枚まで行くと終わる。主にエンドフェイズに『アイツ』がデッキから出てきて)
……ちなみに『魔導書の神判』、速攻魔法だから相手ターンだろうと発動出来る。
相手ターンのスタンバイフェイズに牽制『魔導書の神判』とか頭おかしい事やって、相手の魔法カードの使用を妨害する事すら出来る万能っぷりである。
せめて万能サーチである『グリモの魔導書』が手札に無い事を祈りながら――されども、『魔術師』が次に場に出したカードは魔法カードではなかった。
「そして私はペンデュラムゾーンに《竜剣士ラスターP》と《Emヒグルミ》をセッティング、《竜剣士ラスターP》のペンデュラム効果発動、1ターンに1度、もう片方の自分のPゾーンにカードが存在する場合、そのカードを破壊し、そのカードの同名カード1枚をデッキから手札に加える。破壊された《Emヒグルミ》のモンスター効果発動、フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊された場合、手札・デッキから《Emヒグルミ》以外の『Em』モンスター1体を特殊召喚する。私はデッキから《Emダメージ・ジャグラー》を特殊召喚する」
神咲悠陽
LP8000
手札4→2→3
《Emダメージ・ジャグラー》星4/光属性/魔法使い族/攻1500/守1000
魔法・罠カード
無し
ペンデュラムゾーン
《竜剣士ラスターP》スケール5
え? デュエルディスクの両端に魔法カードと効果モンスターカードが組み合わさったような変なカードをセットして、謎の効果で片方のカードを破壊したと思ったらデッキから特殊召喚? なぁにこれぇ?
「ペンデュラム……?」
「ああ、それすら忘れ果てて、いや、違った。元から知らないのか。――ペンデュラムモンスターはモンスターカードとして扱えるだけでなく魔法カード扱いでペンデュラムゾーンに設置する事の出来る、モンスターカードと魔法カードが組み合わさったような種類だ。ペンデュラムゾーンに設置されている間は魔法カードとして扱い、カードに記されているペンデュラム効果が適応される。この時にモンスターとしての効果は適応されないが、今の《Emヒグルミ》の効果発動条件がフィールドにいる時に破壊された場合なのでモンスター効果が適応される。あとペンデュラムモンスターがフィールドから墓地に送られる場合、墓地からエクストラデッキに表側状態で加わる特性を持っている。――エクシーズ素材からペンデュラムモンスターが墓地に送られた場合はフィールドから送られてはいないのでそのまま墓地に落ちるし、『手札抹殺』された場合も同様だ。あと《マクロコスモス》や《奈落の落とし穴》で墓地に落ちた瞬間に除外される効果を受けるとエクストラデッキにいかないから注意しろ」
……異界の言語が聞こえる。まるで頭に入らない。
「――ふむ、情報が多すぎて頭に入らないという様子だな。まぁペンデュラムの特性はこのデュエルで嫌というほど思い知るだろうから大丈夫だ」
果たしてその時になってオレの精神が燃え尽きてないか、心配したい処である。
「続けるぞ。――手札から《EMドクロバット・ジョーカー》を通常召喚する。効果発動、このカードが召喚に成功した時、デッキから《EMドクロバット・ジョーカー》以外の『EM』モンスター、『魔術師』P(ペンデュラム)モンスター、『オッドアイズ』モンスターの内、いずれか1体を手札に加える。私がサーチするのは《EMペンデュラム・マジシャン》だ」
神咲悠陽
LP8000
手札3→2→3
《Emダメージ・ジャグラー》星4/光属性/魔法使い族/攻1500/守1000
《EMドクロバット・ジョーカー》星4/闇属性/魔法使い族/攻1800/守100
魔法・罠カード
無し
ペンデュラムゾーン
《竜剣士ラスターP》スケール5
道化師っぽい華やかな金髪仮面男が現れ、ハットからぽんと別のマジシャンを出して『魔術師』の手札に送られる。
「これで『魔術師』のフィールドにレベル4のモンスターが2体……来るぞ、柚葉っ!」
「え? な、何が?」
「――レベル4の《Emダメージ・ジャグラー》と《EMドクロバット・ジョーカー》でオーバーレイ! エクシーズ召喚、ランク4《ラヴァルバル・チェイン》!」
来たぞ、柚葉!
2体の同じレベルのモンスターが光となって重なり合い、空間に穴を空けて出現するは炎纏う海竜族モンスター、魔法・罠カードにも対応する生きる万能の墓地肥やし要因!
「えくしーず? 『融合』とは違うの? なんかレベルじゃなくてランクになってるけど」
「エクシーズモンスターはレベルの代わりにランクを持つモンスター、融合とは違って魔法カードが無くても自分フィールドの同じレベルのモンスター2体以上を重ねてエクシーズ召喚される。素材となったモンスターは墓地にいかず、エクシーズモンスターの下に重ねられ、主に効果発動のコストとして使われる」
「……えーと、『融合』とは違って専用の魔法カードを必要とせず、回数制限のあるエクストラデッキからのモンスターって事?」
柚葉の質問に対し、無言で頷く。概ねその通りであり、専用魔法カードの必要が無い事からシンクロと同じかそれ以上に利便性に富んだ召喚法である。
いや、チューナーとそれ以外のモンスターが必要なシンクロよりも簡単だ。何せ同じレベルのモンスターを2体並べるだけで大体召喚出来る。
今、『魔術師』がエクシーズ召喚した《ラヴァルバル・チェイン》の素材はレベル4のモンスター2体、他に制限も無い。レベル4のモンスターを並べる方法は幾らでもあるので、最も簡単に安易に出せる条件だ。
あとこれは余談だが――『魔術師』から渡されたこのデッキにエクシーズモンスターが一体も無かったのはあれか、遠回しの嫌がらせなのだろうか?
「《ラヴァルバル・チェイン》の効果発動、1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、デッキからカード1枚選んで墓地に送る。墓地に送るカードは《BF-精鋭のゼピュロス》だ」
神咲悠陽
LP8000
手札3
《ラヴァルバル・チェイン》ランク4/炎属性/海竜族/攻1800/守1000 ORU2→1
魔法・罠カード
無し
ペンデュラムゾーン
《竜剣士ラスターP》スケール5
ブラックフェザー? 一体何なんだこのデッキは。『魔導』と『EM(エンタメイト)』と『Em(エンタメイジ)』に更には『BF(ブラックフェザー)』? 統一感がまるで無い。
普通はある程度共通のカテゴリーを使わないと回らなくなるものだが……?
それに『魔導書の神判』を最初に使ったのに全然魔法カード使ってないぞ? 何を仕掛けるつもりだ……?
「エクシーズ素材として墓地に落とした《Emダメージ・ジャグラー》の効果発動、《Emダメージ・ジャグラー》の効果は1ターンに1度、自分メインフェイズに墓地のこのカードを除外し、デッキから《Emダメージ・ジャグラー》以外の『Em』モンスター1体を手札に加える。私がサーチするのは《Emミラー・コンダクター》」
ん? 今のサーチした《Emミラー・コンダクター》も色枠からペンデュラムモンスターか。《Emダメージ・ジャグラー》はペンデュラムモンスターではなかったが……同じカテゴリーでもペンデュラムモンスターであるのとそうでないのも混ざっているのか?
「墓地の《BF-精鋭のゼピュロス》の効果発動、デュエル中に1度だけ、このカードが墓地に存在する場合、自分フィールドの表側表示のカード1枚を持ち主の手札に戻し、墓地から特殊召喚して400ポイントのダメージを受ける。私はペンデュラムゾーンの《竜剣士ラスターP》を手札に戻す」
神咲悠陽
LP8000→7600
手札3→4→5
《ラヴァルバル・チェイン》ランク4/炎属性/海竜族/攻1800/守1000 ORU1
《BF-精鋭のゼピュロス》星4/闇属性/鳥獣族/攻1600/守1000
魔法・罠カード
無し
ペンデュラムゾーン
無し
「そして再びペンデュラムゾーンに《竜剣士ラスターP》と《Emヒグルミ》をセッティングし、《竜剣士ラスターP》の効果発動して《Emヒグルミ》を破壊して同名カードをデッキからサーチ、更に破壊された《Emヒグルミ》の効果で《Emトリック・クラウン》をデッキから特殊召喚する」
神咲悠陽
LP7600
手札5→3→4
《ラヴァルバル・チェイン》ランク4/炎属性/海竜族/攻1800/守1000 ORU1
《BF-精鋭のゼピュロス》星4/闇属性/鳥獣族/攻1600/守1000
《Emトリック・クラウン》星4/光属性/魔法使い族/攻1600/守1200
魔法・罠カード
無し
ペンデュラムゾーン
《竜剣士ラスターP》スケール5
……あ。《竜剣士ラスターP》のペンデュラム効果に1ターンに1度とは書かれているが、《竜剣士ラスターP》は1ターンに1度って一文が入ってねぇ!?
そのせいで手札にセルフバウンスさせて再設置した《竜剣士ラスターP》の効果が再度発動可能になり、更に設置した《Emヒグルミ》を破壊して同名カードをサーチしながらデッキから特殊召喚? この一挙動で何アド稼いでやがるんだ!?
「更にペンデュラムゾーンに《Emヒグルミ》をセッティングし、速攻魔法『揺れる眼差し』を発動! お互いのPゾーンのカードを全て破壊し、破壊したカードの数によって以下の効果を得る。1枚以上ならば相手に500ダメージ、2枚以上ならばデッキからペンデュラムモンスターを手札に加える。私は《EMリザードロー》をサーチ、《Emヒグルミ》の効果発動、2体目の《Emダメージ・ジャグラー》をデッキから特殊召喚する」
秋瀬直也
LP8000→7500
ぴしっと、小パンじみたバーンダメージが入るが、問題は其処じゃない。
また《Emヒグルミ》が破壊されてデッキからレベル4のモンスターが特殊召喚され、『魔術師』の場にレベル4のモンスターが3体も揃ってしまった事だ。
神咲悠陽
LP7600
手札4→3→2→3
《ラヴァルバル・チェイン》ランク4/炎属性/海竜族/攻1800/守1000 ORU1
《BF-精鋭のゼピュロス》星4/闇属性/鳥獣族/攻1600/守1000
《Emトリック・クラウン》星4/光属性/魔法使い族/攻1600/守1200
《Emダメージ・ジャグラー》星4/光属性/魔法使い族/攻1500/守1000
魔法・罠カード
無し
ペンデュラムゾーン
無し
「私はレベル4の《BF-精鋭のゼピュロス》《Emトリック・クラウン》《Emダメージ・ジャグラー》の3体でオーバーレイ、エクシーズ召喚! 現われろ、無慈悲な法の番人! 《No.16 色の支配者ショック・ルーラー》!」
神咲悠陽
LP7600
手札3
《ラヴァルバル・チェイン》ランク4/炎属性/海竜族/攻1800/守1000 ORU1
《No.16 色の支配者ショック・ルーラー》ランク4/光属性/天使族/攻2300/守1600 ORU3
魔法・罠カード
無し
ペンデュラムゾーン
無し
1ターン目から《No.16 色の支配者ショック・ルーラー》を出してくるか……!
レベル4のモンスター3体という重い召喚条件に相応しい効果を持つガチカード、あのエクシーズモンスターの効果はモンスター・魔法・罠から一つ選んで次の相手ターン終了時まで互いに発動出来なくする封殺効果、モンスター効果か魔法、どちらを封じられても痛いが、このターン、『魔術師』は魔法カードを『揺れる眼差し』の1枚しか使っていない。展開ももう終わりだろうし、まだ活路はある――。
「――待たせたね、これからがペンデュラムの真髄だ。私はスケール6の《EMリザードロー》とスケール3の《Emミラー・コンダクター》をペンデュラムゾーンにセッティング、これでスケールの間の数字、レベル4からレベル5のモンスターが同時に召喚可能! ペンデュラム召喚! 現われろ、私のモンスター達よ!」
「は? すけーる? レベル4からレベル5のモンスターが同時に召喚可能? な、何言ってるんだ、もう手札は1枚しか無いだろ!」
「確かに手札は1枚、先程サーチした《EMペンデュラム・マジシャン》だけだ。だが、エクストラデッキにはあるだろう?」
……え? あ、確かペンデュラムモンスターはフィールドで破壊されて墓地に行くと表側表示状態でエクストラデッキに行くんだっけ?
エクストラデッキに行ったペンデュラムモンスターは《竜剣士ラスターP》×2、《Emヒグルミ》×3だが――まさか? エクストラデッキに行くって、そういう意味――!?
「エクストラデッキからレベル4の《Emヒグルミ》2体、手札から《EMペンデュラム・マジシャン》をペンデュラム召喚する」
神咲悠陽
LP7600
手札3→1→0
《ラヴァルバル・チェイン》ランク4/炎属性/海竜族/攻1800/守1000 ORU1
《No.16 色の支配者ショック・ルーラー》ランク4/光属性/天使族/攻2300/守1600 ORU3
《Emヒグルミ》星4/炎属性/魔法使い族/攻1000/守1000
《Emヒグルミ》星4/炎属性/魔法使い族/攻1000/守1000
《EMペンデュラム・マジシャン》星4/地属性/魔法使い族/攻1500/守800
魔法・罠カード
無し
ペンデュラムゾーン
《EMリザードロー》スケール6
《Emミラー・コンダクター》スケール3
そ、そんなのありかよ!? ペンデュラムモンスターが墓地に行かずにエクストラデッキに行くのは、そのペンデュラム召喚で再び召喚出来るからだとぉ!?
「――《EMペンデュラム・マジシャン》の効果発動、《EMペンデュラム・マジシャン》の効果は1ターンに1度、このカードの特殊召喚に成功した場合、自分フィールドのカードを2枚まで対象に破壊し、破壊した数だけデッキから《EMペンデュラム・マジシャン》以外の『EM』モンスターを手札に加える。なお、同名カードは1枚までだ。私は《Emヒグルミ》2体を破壊し、《EMパートナーガ》と《EMドクロバット・ジョーカー》をサーチ。破壊された2体の《Emヒグルミ》の効果発動、デッキから《Emトリック・クラウン》と《Emダメージ・ジャグラー》を特殊召喚する」
神咲悠陽
LP7600
手札0→2
《ラヴァルバル・チェイン》ランク4/炎属性/海竜族/攻1800/守1000 ORU1
《No.16 色の支配者ショック・ルーラー》ランク4/光属性/天使族/攻2300/守1600 ORU3
《EMペンデュラム・マジシャン》星4/地属性/魔法使い族/攻1500/守800
《Emトリック・クラウン》星4/光属性/魔法使い族/攻1600/守1200
《Emダメージ・ジャグラー》星4/光属性/魔法使い族/攻1500/守1000
魔法・罠カード
無し
ペンデュラムゾーン
《EMリザードロー》スケール6
《Emミラー・コンダクター》スケール3
あ、あ、あ、あ、あっ――。
《EMペンデュラム・マジシャン》で《Emヒグルミ》2体破壊で2枚サーチして2体デッキから特殊召喚? 1挙動で4アド稼いでね? 何その……何?
「レベル4の《EMペンデュラム・マジシャン》《Emトリック・クラウン》《Emダメージ・ジャグラー》の3体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 生まれてきたのが間違いのランク4《星守の騎士 プトレマイオス》!」
またレベル4×3のエクシーズモンスター? しかもコイツは知らないエクシーズモンスターだから、やっぱり狂乱の第九期からの刺客か!?
「《星守の騎士 プトレマイオス》の効果発動、このカードのエクシーズ素材を3つ全部取り除き、『No.』モンスター以外の、このカードよりランクが1つ高いエクシーズモンスター1体を自分フィールドにこのカードの上に重ねてエクシーズ召喚扱いでエクストラデッキから特殊召喚出来る。この効果は相手ターンでも発動出来る。――現われろ、ランク5《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》!」
現れるは銀色の機械龍、新たな力を得た古の存在が猛々しく咆哮する――!
つーか、はぁ? レベル4から何でランク5が出てくるんだよ!? 『No.』以外という縛りはあるものの――ってあれ、《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》のテキストを良く見てみると……?
《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》
エクシーズ・効果モンスター
ランク5/光属性/機械族/攻2100/守1600
機械族レベル5モンスター×2
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。
自分の墓地の「サイバー・ドラゴン」1体を選択して特殊召喚する。
また、1ターンに1度、自分の手札・フィールド上の
「サイバー・ドラゴン」1体を除外して発動できる。
このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで、2100ポイントアップする。
この効果は相手ターンでも発動できる。
このカードが相手の効果によって墓地へ送られた場合、
機械族の融合モンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚できる。
首を傾げる効果である。『魔術師』の墓地に当然ながら《サイバー・ドラゴン》はいないので最初の効果は意味無いし、2つ目の効果も《サイバー・ドラゴン》がいないから無いも同然だ。更に3つ目の効果はオレが意図的にやらない限りまず発動出来ない効果だろう。何なんだ、この残念効果は……。
「……なぁ、『魔術師』。そのサイバー・ドラゴン、効果すっげー微妙じゃね? サイバーデッキでも使えなさそうなカードだけど――」
「そりゃそうだ。これは下敷きだからな」
「え?」
下敷き? どういう事だってばよ? と、思いきや――。
「――そしてェ! ランクアップ・エクシーズチェンジ! これがサイバー流が辿り着いた最強進化系ッ! ランク6《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》!」
神咲悠陽
LP7600
手札2
《ラヴァルバル・チェイン》ランク4/炎属性/海竜族/攻1800/守1000 ORU1
《No.16 色の支配者ショック・ルーラー》ランク4/光属性/天使族/攻2300/守1600 ORU3
《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》ランク6/光属性/機械族/攻2100→2500/守1600 ORU2
魔法・罠カード
無し
ペンデュラムゾーン
《EMリザードロー》スケール6
《Emミラー・コンダクター》スケール3
更に重ねて進化体が出てきた!?
なんかさっきの銀色の機械龍と同系統の進化版みたいなんだが、《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》と比べて禍々しさが半端無い気がするのは気のせいだろうか?
「《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》は1ターンに1度、自分フィールドの《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》の上に重ねてエクシーズ召喚する事も出来る。このカードの攻撃力はこのカードのエクシーズ素材の数×200アップする。1ターンに1度、フィールドの表側攻撃表示モンスター1体をこのカードの下に重ねてエクシーズ素材に出来る。1ターンに1度、カードの効果が発動した時、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いてその発動を無効にし破壊する」
――は ぁ ? な ぁ に こ れ ぇ ?
「頭おかしい事しか書かれてねぇ!? ライフコスト無しの『神の宣告』内蔵の上に相手モンスター除去も兼ねてコストを手に入れ放題だとぉ!? サイバー流は何処行っちまったのよ!? 明らかに方向性見失ってね!? 最強進化系じゃなくて突然変異だろッ!」
お、オレの知っているサイバー流は、『パワーボンド』を握って1ターンキルするか、握れずに潔く爆散するかの二択しかないリスペクト精神に溢れたデッキで――。
「最後に《No.16 色の支配者ショック・ルーラー》の効果発動、1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、カードの種類、モンスター・魔法・罠のうちの一つを宣言して発動する。次の相手ターン終了時まで宣言した種類のカードはお互いに発動出来ない――私は『魔法』を選択する」
もうやめて! オレのSAN値は0よ! もうこれでどうしろってんだ!?
「エクシーズ素材として墓地に落ちた《Emトリック・クラウン》の効果発動、《Emトリック・クラウン》の効果は1ターンに1度、墓地に送られた場合、自分の墓地の『Em』モンスター1体を、攻撃力・守備力0にして特殊召喚し、1000ダメージを受ける。私は《Emトリック・クラウン》を守備表示で特殊召喚し、ターンエンド」
神咲悠陽
LP7600→6600
手札2
《ラヴァルバル・チェイン》ランク4/炎属性/海竜族/攻1800/守1000 ORU1
《No.16 色の支配者ショック・ルーラー》ランク4/光属性/天使族/攻2300/守1600 ORU3
《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》ランク6/光属性/機械族/攻2100/守1600 ORU2
《Emトリック・クラウン》星4/光属性/魔法使い族/攻1600→0/守1200→0
魔法・罠カード
無し
ペンデュラムゾーン
《EMリザードロー》スケール6
《Emミラー・コンダクター》スケール3
ぐ、ぐぬぬ、《No.16 色の支配者ショック・ルーラー》で魔法カードを封じられた上に《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》で一回は無効化されて破壊されるだと?
だ、だが、まだやれる。超絶頑張ってトリシューラでも出せば次のターンのペンデュラム召喚も封じれる!
「お、オレのターン――」
「何勘違いしてるんだ?」
「ひょ?」
萎えた心を必死に鼓舞して奮い立たせようと勢い良くドローしようとした瞬間、『魔術師』は本当に懐かしい台詞を言い、思わず乗ってしまった。
「まだ私のエンドフェイズは終わってないぜ!」
「な、何言ってるんだ。もうお前はターンエンド宣言したじゃないか!」
え? もしかしてこの流れは……!?
「――エンドフェイズ時、『魔導書の神判』の効果でこのターン、発動した魔法カードの枚数分まで自分のデッキから『魔導書の神判』以外の『魔導書』と名のついた魔法カードを手札に加える。このターン、魔法カードが発動した回数は8回、よって8枚サーチ!」
ああ、最初に発動した『魔導書の神判』の効果をすっかり忘れていた。忘れ、――は?
「ちょーっと待てェ!? 魔法カードなんて『魔導書の神判』を除けば『揺れる眼差し』しか使ってねぇだろ! 何処からその8回という数字が出てきたアアアアアァ――ッ!」
「忘れたのか? ペンデュラムゾーンに設置されたペンデュラムカードは魔法カード扱いだ……!」
「な、なんだってぇー!?」
そういえばそんな大切な事をさらりと言っていたような気がするゥゥゥゥ――!
「『グリモの魔導書』『ゲーテの魔導書』『セフェルの魔導書』『トーラの魔導書』『ヒュグロの魔導書』『魔導書院ラメイソン』『魔導書廊エトワール』『アルマの魔導書』を手札に加え、手札に加えたカードの数以下のレベルの魔法使い族モンスター1体をデッキから特殊召喚する。私はレベル3の《昇霊術師 ジョウゲン》を守備表示で特殊召喚する」
……あ、ぽきりと心が折れた音が聞こえる。ダービー兄弟系のスタンド能力者が居たなら即座に魂を取られるぐらいの心折具合である。
「ちなみに《昇霊術師 ジョウゲン》の効果は言わずとも解っているよな?」
「……このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、お互いにモンスターを特殊召喚出来ない……」
魔法を封じられ、特殊召喚さえ封じられ、好きなタイミングで神の宣告効果を撃てるエクシーズモンスターがいる状態でどうしろと言うのだ!?
「おっと、手札が10枚で溢れてしまった。6枚になるまで捨ててターンエンド。さぁ秋瀬直也、君のターンだ!」
神咲悠陽
LP6600
手札2→10→6
《ラヴァルバル・チェイン》ランク4/炎属性/海竜族/攻1800/守1000 ORU1
《No.16 色の支配者ショック・ルーラー》ランク4/光属性/天使族/攻2300/守1600 ORU3
《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》ランク6/光属性/機械族/攻2100/守1600 ORU2
《Emトリック・クラウン》星4/光属性/魔法使い族/攻0/守0
《昇霊術師 ジョウゲン》星3/光属性/魔法使い族/攻200/守1300
魔法・罠カード
無し
ペンデュラムゾーン
《EMリザードロー》スケール6
《Emミラー・コンダクター》スケール3
「……あ、サレンダーで」
「サレンダーは認めない。『決闘者』がサレンダーして良い状況は八汰ロックを決められた時だけだ!」
「はぁ? ふざけんな『魔術師』ィ! この状況でどうしろって言うんだッ!」
「《昇霊術師 ジョウゲン》の守備力は1300、それ以上の攻撃力を持つモンスターを通常召喚してバトルで倒してから展開すれば良いじゃないか。『魔導書』がフィールドに無い今が最大のチャンスだぞ? 大丈夫、君なら出来るさ」
「出来るわきゃねぇだろぉぉぉっ! それやっても一回は確実に《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の妨害食らうじゃねぇか!?」
「そん時に《幽鬼うさぎ》投げりゃいいだろ。まぁ《星守の騎士 プトレマイオス》が効果発動した時に使わなかった時点で無い事は知っていたが」
「大体手札誘発効果のカードを必ず初手に握っている訳――」
オレ達が無駄に言い争う中、柚葉はぽつりと苦悶じみた声を零していた。
「……うっ、全く解らない……!?」
本日の禁止カード
『魔導書の神判』
速攻魔法(禁止カード)
このカードを発動したターンのエンドフェイズ時、
このカードの発動後に自分または相手が発動した魔法カードの枚数分まで、
自分のデッキから「魔導書の神判」以外の
「魔導書」と名のついた魔法カードを手札に加える。
その後、この効果で手札に加えたカードの数以下のレベルを持つ
魔法使い族モンスター1体をデッキから特殊召喚できる。
「魔導書の神判」は1ターンに1枚しか発動できない。
これ1枚であの『征竜』と互角に渡り合った、『魔導』というデッキを『神判』にした、遊戯王史上でもトップクラスの戦犯オブ戦犯、禁止の中の禁止カード。
この時代が暗黒期と呼ばれたのは魔導メタをすれば征竜に勝てず、征竜メタをすれば魔導に勝てないという史上最悪のニ強(クソ)環境だった事が上げられ、もはや『遊戯王』ではなく、『征竜』・『魔導』という別のゲームだった。
最強のライバルが最強の友とはまさに皮肉な話である。
《星守の騎士 プトレマイオス》
エクシーズ・効果モンスター(禁止カード)
ランク4/光属性/戦士族/攻550/守2600
レベル4モンスター×2体以上
(1):このカードのX素材を3つまたは7つ取り除いて発動できる。
●3つ:「No.」モンスター以外の、このカードよりランクが1つ高いXモンスター1体を、
自分フィールドのこのカードの上に重ねてX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
この効果は相手ターンでも発動できる。
●7つ:次の相手ターンをスキップする。
(2):お互いのエンドフェイズ毎に発動できる。
自分のエクストラデッキの「ステラナイト」カード1枚を選び、
このカードの下に重ねてX素材とする。
レベル4のモンスター2体出るデッキのほぼ全てに採用された最新の禁止カード。
登場から8か月も経たず、229日で禁止に至っており、下級征竜と『魔導書の神判』に次ぐスピード記録である。
作中では素直に三体素材から絶望の呪文『プトレ・ノヴァ・インフィ』だったが、コイツの害悪さは2体素材でもそのターンのエンドフェイズにエクシーズ素材を増やせて、相手ターンにランク5のエクシーズモンスターになれる事である。
ランク5のセイクリッド・プレアデスになって相手カードをバウンスさせるも良し、スタンバイフェイズにランク5の《外神アザトート》になって相手のモンスター効果を封殺するのも良し、左近のランク4エクシーズのインフレ具合を象徴するカードだった。
10月改定でプトレが禁止になったので現環境トップの『EMEm』でインフィを拝む機会は皆無となったが、今ではプトレの代わりに《フレシアの蟲惑魔》が並び、「デッキからトラップカードだとぉ!?」という理不尽を味わう事となる。