転生者の魔都『海鳴市』   作:咲夜泪

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33/一歩の価値

 

 

 ――私が『彼』に出遭った時、『彼』は私以上に悲観的で生きる気力が欠片も無かった。

 

 『彼』の惨状を篤と語る前に、まずは自分の状況から説明せねばなるまい。

 この時の私は前世において最も信頼していた人に裏切られた上に謀殺され、更には『三回目』のこの世界において実の両親から名付けられる前に捨てられ、産まれながら絶望の淵に立たされていた。

 名無しの『禁書目録(インデックス)』だった私の存在意義は嘗ての自分の記憶を取り戻す事のみであり、一生涯を賭けても叶わずに絶望して、生後は酷い無気力状態に陥っていた。

 

 ――そんな自分に『神父』がどう思ったかは定かではないが、意図的に引き合わせたのが『彼』だった。

 

 生まれつき、いや、若干語弊がある。

 後から『彼』の口から語られた事だが――『二回目』から全盲だったという『彼』には生きる活力と呼べるものがなく、要介護状態で他人の助けを否応無しに受けなければ一日たりても生きられない身で、他者とのコミュニケーションを完全に拒絶していた。

 失語症ならぬ無言症――此処から『彼』の出身世界を悟るのは酷な話だが――自分の絶望で手一杯なのに自分より絶望している人の世話を任せる『神父』の采配は、正直どうかと思う。

 

 ――その時の少年だった『彼』は、死を待つだけの孤独な老人と瓜二つだった。放っておいたら勝手に消え去るような危うさに満ち溢れていた。

 

 人間とは現金なものであり、自分以上に駄目駄目な状態な人間が隣に居ては腐っている暇も与えられまい。『彼』との奇妙な介護生活はこうして始まった。

 無論、全盲の人など介護した事無い私は悪戦苦闘した。

 足りない知識は『神父』の配慮から用意された介護用の教科書を丸暗記して十分となったが、そもそも要介護者である『彼』の受け答え無しの無言・無感情という泣かせっぷりに何度苦渋を飲まされたか、数えたら切りがない。

 それでも『彼』が何を心地良いと感じ、何を不快に感じるのか、些細な反応を見分ける内に徐々に解って来て――。

 

 

『――君の名前。まだ一度も聞いた事無いんだけど?』

 

 

 『彼』との記念すべき第一声は私にとって最も忌まわしき事であり、忙殺されていた私をただの一声で絶望のどん底に押し戻してくれた。

 

『……そんなの、無いよ。私は『禁書目録(インデックス)』で、嘗ての『私』を取り戻せずに殺されて……! この世界でも私は名付けられずに捨てられた……!』

 

 この世全てに対する怨嗟を籠めて、『彼』にぶつけずにはいられなかった。

 『彼』は私からの悪意と殺意、絶望などの負の感情を受け止めて――。

 

 

『……そうか。それじゃ今日から君の事を『シスター』と呼ぼう』

 

 

 白い修道服(『歩く教会』)を着ているから『シスター』――などという極めて安直なネーミングに文句を付ける前に。

 

『いつまでも『インなんとかさん』では格好が付くまい。本当の名前を思い出したら、改めて自己紹介してくれ――』

 

 ――結局、これはあべこべな話。

 

 自分より駄目そうな奴が来て、自分の事など構ってられなくなったのは『彼』も同じであり――強制的に立ち直る必要性に迫られた『彼』は一足先に勝手に居直り、全盲の障害者を完璧に演じ切って見せた。

 

 ――だから、その独り善がりの二人三脚が『彼』から打ち切られるのは当然の話だ。

 

 海鳴市を恐怖のどん底に突き落とした『吸血鬼』による連続殺人事件の終盤、その『吸血鬼』が居座る幽霊屋敷の最奥にて、私は『彼』と相対してしまった。

 

『――割りと早かったね』

 

 其処に居るのは『事件』の主犯の『吸血鬼』の筈なのに、『彼』はまるで屋敷の主のように椅子に腰掛けながら『ジョジョの奇妙な冒険』のキーアイテムの一つである『石仮面』を手慰めに弄っていた。

 

『悠陽……? な、何で此処に……!?』

 

 出遭う事の無い場所での遭遇は私の状況判断能力を極限まで下げた。否、目の前に突き付けられた情況証拠を理解したくなかった、というのが正解だろう。

 

『用済みの玩具を片付けに来たついでに今後の拠点確保かな?』

『何を、言って――』

『正確に説明するなら、この哀れな吸血鬼を使った『事件』の脚本を焼き払って、私の都合良く歪めたんだけどね』

 

 『彼』はくすくすと、今までに見た事も無い邪悪な笑顔を見せる。それなのに、その邪悪な笑顔は『彼』に妙なほど似合っていて――。

 

『前に言っただろう? 一連の『吸血鬼事件』には現地の『協力者』が存在するだろうって。――本物には海の底で永遠に眠って貰って『協力者』に成り代わった私は海鳴市に存在する『転生者』の情報をより詳しく正確に明け渡した。あの吸血鬼は無能ながら実に良い仕事をしてくれたよ。この『事件』の真の黒幕にとってはやり過ぎだったがね』

 

 その特異な手口から、今までに海鳴市に居なかった外来の犯行と推察されていたが、余りにも正確に『転生者』を惨殺する事から『協力者』の存在が朧気に示唆されていたが――本来の『協力者』に成り代わった『彼』が更なる惨劇を脚本する? もうこの時点で私の理解は追いつかなかった。

 

『な、何でそんな事を……!?』

『君は今の『海鳴市』の状況が正常だと断言出来るのかい? 揃いも揃って神秘の秘匿の意味すら解せない有象無象の『転生者』が我が物顔で闊歩してやがる。実に嘆かわしい状況だ』

 

 それも前々から『彼』が指摘した危惧であり、その盲目の貌に嫌悪を超えた憎悪すら滾らせる。

 

『――言って解らぬのであれば、速やかに盤上から退場して貰うしかあるまい。……まぁ私の『元』の世界の流儀だが、『管理者(セカンドオーナー)』としての責務を限定的に果たすとしよう。生前は『魔術協会』とは縁が無かったがね』

 

 その特徴的な専門用語は一度たりとも出身世界の事を話さなかった『彼』が初めて漏らしたあからさまな告白であり、『流れ者にその大役が回ってくるとは、人生とはままらなぬものだ』と苦笑しながらぼやいた。

 

『……悠陽、貴方は――』

『そういえば私の出身世界を一度も話していなかったね。神咲家八代目当主にして冬木での『第二次聖杯戦争』の勝者――『魔術師』神咲悠陽、それが本当の私の肩書きさ』

 

 『彼』の黒い喪服じみた和服の両袖の下から複雑な模様が赤く浮かび上がる。

 この世界から数多の『転生者』を通して再び手に入れた知識から、それがあの世界の魔術師が代々継承する『魔術刻印』であると認めざるを得なかった。

 

『……全部、嘘だったの……? 目が不自由で、一人では生活が困難だったのも……』

『この『魔眼(め)』を迂闊に開けれないのは本当さ。ただ、別に視覚が使えない程度では日常生活に何ら支障も無い。――出来る事ならば、あのまま埋もれていたかったのが偽り無しの本音かな』

 

 はぁ、と、『彼』は深々と溜息を吐いた。その最後に零してしまった本音の告白の意味を解する前に――。

 

 

『――今まで世話になったね、『シスター』。感謝の気持ちで胸が一杯だが、此処でお別れだ』

 

 

 私にとって受け入れられない、簡潔であるが故に何よりも残酷な別離の言葉が胸に突き刺さった。

 

『……やだ。悠陽、置いてかないで。私を『また』捨てないで……!』

 

 私の脳裏にフラッシュバックするは前世での終わり。みっともなく追い縋る言葉を絶対記憶持ちの私は忘れる事すら出来ない。

 

『……私は、悠陽の為なら、何でも出来るよ。これまでの事が全部嘘だって構わない……! ――私は『禁書目録』だよ? 悠陽が言うなら、何だって出来ちゃうよ。誰でも殺せる――』

 

 そんな私に向けた『彼』の表情は何一つ読み取れない無感情そのものであり――。

 

 

『ああ、やっぱり――『君』に『私』は必要無いようだね』

 

 

 とても残念そうに、『彼』はそう締め括った。

 そして『彼』から放たれた型月世界由来の初歩的な暗示の魔術を、私はそれがどういう類の魔術か一瞬にして理解した上で――『彼』が私に敵意を持って魔術を放つ訳が無いと無根拠に信じたくて無防備に受けてしまうという、あらゆる魔術の天敵たる『禁書目録』にあるまじき失態を犯してしまった。

 

 

『――さよなら『シスター』。君のその『力』は、本当に君を必要とする者に差し伸べるといい。自らの意思無く他人に依存するだけの『人形』など私には不要だ』

 

 

 意識が強制的に閉ざされる刹那、『彼』の辛辣な別れの言葉だけが脳裏に残った――。

 

 

 ――『彼』、『魔術師』神咲悠陽を語る上での最大の矛盾点、それは『第一次吸血鬼事件』を境に表舞台に立った事である。

 

 

 『彼』が真に自身の保身のみを追求する人間であるのならば、自身の正体を最後まで秘匿し続けながら暗躍するのが最上の選択だろう。

 事実、『彼』の能力面から考えれば容易に行えた。誰一人、盲目の『彼』を疑わずに縦横無尽に暗躍出来ただろう。――それを、他ならぬ『彼』が理解していなかったとはとても思えない。

 

 此処まで情況証拠が揃っていれば、様々な負の感情で判断力が鈍らなければ、答えは自ずと判明してしまう。『彼』は、最初から――。

 

 

 

 

 ――これは走馬灯である。

 人の死に際の時に見ると言われる一生涯の縮図。

 

 ひとえに絶体絶命の窮地に際して、人生の経験の中から対応手段を探し出す為の現象とも言われている。

 それが真実か虚実かは別問題として、現に『シスター』の記憶には『103000冊』の魔導書から幾百幾千の対応策が展示される。

 

 ――だが、其処に時間制限という条件で再検索すると、要求を達するオーダーは0件となる。

 

 彼女、『シスター』が装備している純白の修道服は『歩く教会』、『とある魔術の禁書目録』世界の絶対的な防御力を誇る霊装であり、『服の形をした教会』である。

 ただ、完全に無敵という訳でもない。――『幻想殺し』という極大の例外を取り除いても『シスター』自身の『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』で消し飛ばす事も可能であるし、過去にあの忌々しい『大導師』の攻撃の衝撃を完全には防げなかった実績がある。

 

 さて、此処で問題となるのは――墜落する『鬼械神』との激突に、『歩く教会』装備の『シスター』が耐えれるか否かである。

 

 奇しくも状況は『斬魔大聖デモンベイン』での、主人公『大十字九郎』とその宿敵『マスターテリオン』が初めて対決した際に、彼の本気を見定める為に――世話になっている毒舌金髪シスター『ライカ・クルセイド』のいる『本物の教会』に『デモンベイン』を意図的に突き落とした時の状況と極めて酷似している。

 

 ――違う点は、原作でのそれは子供めいた悪戯心による脅しだったが、今回の場合は不幸にも『直撃コース』である事のみである。

 人が小さな蟻を踏まないように立ち回れないように、かの神域の魔人にとっては人など蟻同然の存在だと言わんばかりに――。

 

 それが単なる50mの巨大な鉄屑なら余裕で耐えられるだろうが、唯一攻撃を通した者と同じ出身世界の、更にはその世界での魔術理論の極地にして叡智の結晶たる神の模造品『鬼械神』――この法皇級の守護すら余裕で突き通すだろう。

 流石に即死してしまっては『禁書目録』と言えども為す術も無い。同じ世界での他の魔術師と比べて『魔神』じみた即応性を持とうが、数秒の猶予も無ければ叶わぬ出来事である。

 

 つまり結論から言えば、『マスターテリオン』の駆る紅の鬼械神『リベル・レギス』の手によって吹き飛ばされたクロウ・タイタスと大十字紅朔が駆る『デモンベイン・ブラッド』によって、今、『シスター』は踏み潰されて呆気無く即死しようとしている。

 

(……冗談じゃない――!)

 

 考えうる限り最悪の死に様である。そんな出来の悪い笑劇のような死因も最悪に等しいが、何よりもクロウ自身の過失によって殺させるなど、何が何でも絶対に許容出来ない。

 何よりも――そんな事をさせてしまったら、クロウは絶対立ち直れない。永遠に、心折れてしまうだろう。

 

(――!)

 

 ほんの一瞬の猶予。それが『シスター』に許された余命である。

 魔術の構築すら間に合わない刹那を、彼女は一歩、前に足を踏み出すという行為の為に費やした。

 何も彼女は助かる見込みがあったから前に踏み出したのではない。最後の最期まで足掻こうと前に駆け込もうとしたのである。

 ……皮肉な話である。彼女の行使する『とある魔術の禁書目録』の世界の魔術は異世界の法則を現世界に適用し、様々な超常現象を引き起こす才能無き人間の為の技術である。

 それ故に、この場で彼女の命を救うような都合の良い『奇跡』など起こる筈が無いと誰よりも確信しているのに、彼女は絶望せずに最期まで足掻く。

 

 ――今の彼女の命を救うのならば、それこそ空から降ってくるような『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』が必要だ。

 

 非業の死を遂げようとするヒロインをあっさり救済する神の見えざる手のような『ご都合主義(デウス・エクス・マキナ)』が。そんな荒唐無稽な存在の極地である最弱無敵の『鬼械神(デウス・マキナ)』が死因になるのに関わらず、だ。

 ……そんな起こらない事が確定している『奇跡』を前提に足掻くなど、馬鹿馬鹿しいにも程がある。それは彼女自身が何よりも痛感しているだろう。もしも『彼』が今の『シスター』を見たら何と言うやら――。

 

 

『――それでもなお諦めを踏破するのならば、己の欲望のままに見果てぬ彼方の果てまで征けば良いさ』

 

 

 そんな想像外の幻聴が、耳元から聞こえた気がした。

 それと同時に背中からそっと後押しされるような――ではなく、背中を無遠慮に且つ全力で蹴りつけられたかのような強烈極まる衝撃が『歩く教会』を突き抜けて走り、一歩前に踏み出していた『シスター』の目算を大きく外れた瞬発力を生み――ほんの一瞬遅れて『大質量の物体(デモンベイン)』が落下した際の凄まじい衝撃を間近で受ける。

 

 ――そう、生きている彼女の『間近』にであり、こうも容易く『奇跡』は起こり得た。

 

(――今の、は……!?)

 

 それが如何なる類の『奇跡』だったのか、シスターは考えるのを止める。

 『歩く教会』を突き抜ける衝撃が都合良く生じる『奇跡』など在り得ないの一言に尽きるが、今はどうでも良い事である。そんな『奇跡』の種明かしをする余白は無い。

 

 

「――クロウちゃんッッ!」

 

 

 力一杯、あらん限りの声をあげてその名前を呼ぶ。その声は多種多様の炸裂音に遮られながらも、確かに届いた。

 

『……ッ、シスター!? 何でこんな処に……!?』

『クロウ、早く乗せてッ! 追撃が来る――!』

 

 『デモンベイン』に駆るクロウの驚愕の声は、大十字紅朔のいつもとは異なる余裕の一切無い切迫した声に遮られる。

 即座に『シスター』の視線が遥か上空の――全ての支配者の如く佇む紅の鬼械神『リベル・レギス』に行き、『マスターテリオン』が構築する異界の魔術理論を一目で見抜く。

 

 ――倒れながらも差し伸べられたデモンベインの掌に『シスター』は間髪入れず乗り上げ、開かれたコクピットに即座に搭乗させられる。

 

 それを見計らってか、直後に全てを押し潰す強力無比な重力結界が展開され、既に基点を逆探知出来ていた『シスター』が術式を一瞬にして破壊する。

 

 

『――ほう、あの術式を一瞬にして解呪してしまうとは』

 

 

 魔導図書館たる彼女の面目躍如に、『リベル・レギス』を駆る『マスターテリオン』は初めて純粋に感心する。

 その聲には歓喜さえ滲んでいる。嘗ての宿敵達の健闘を思い描くかのように。

 

「……それは『大導師』ので見ましたからね――」

 

 そんな正真正銘の余裕に対し、『シスター』の受け答えは苦渋に満ちたものだった。

 目の前の魔人は凡そ考え得る限り最強最悪の相手。世界どころか宇宙規模の脅威である。最初から解っていたが、見ただけで解ってしまう『大導師』の駆る『リベル・レギス』との戦力差に戦慄する。

 

 ――此処まで来れば、鈍いクロウ・タイタスでも理解出来てしまう。

 彼、『マスターテリオン』が意図的に自分達を『シスター』の下へと投げ放ち、意図せずに彼女達を潰しかけたという事実を。

 

「『マスターテリオン』ッ! テメェ……!」

『これはすまない、クロウ・タイタス。余は地に這い蹲る小虫を踏み潰さずに歩けるほど繊細では無いのでな』

 

 彼の悪意無しの謝辞に、腹立たしい事に悪意が無いからこそクロウの理性が一気に沸騰する。

 

「クロウ、落ち着いて……!」

「わぁかってるよ! オレみたいな凡人に怒りで我を忘れるなんて主人公のようなブチ切れタイムは用意されてないって事ぐらい……!」

 

 確かに彼のような神域の魔人にとって人間など踏み潰した事にも気づかない羽虫の如き存在に過ぎないだろう。そんな事は百も承知だ。だが――。

 

「――シスターとセラに何しやがるんだッッ!」

 

 それとこれとは話が別である。

 大切な人を理不尽に殺されかけて激昂しない男など誰も居ない。

 極限まで激情した闘争本能の赴くままに二挺魔銃を構築し、一発目から切り札である神獣形態のクトゥグァを撃ち放つ。

 灼熱の旧支配者の一柱は術者の怒りを体現するように荒ぶり、世界を焼く侵しながら進軍する焔の神獣は紅の鬼械神に襲い掛かる。

 

『――!』

 

 紅の鬼械神は先程と同じように回避行動すら取らずに防御結界を展開し――しかし、先程との違いは強固極まりない防御結界が一瞬にして飽和状態になって幾千幾万幾億の魔術文字が焼滅し、此処に至って機体の前方に竜の翼で覆ったままの『リベル・レギス』に先制打が炸裂する。

 

「……え?」

「うっそぉ~……」

 

 この闘い始まって以来の快打に誰よりも驚愕したのが怒りに我を失っていクロウと窘めようとした紅朔なのは皮肉である。

 クロウに至っては身を焦がした怒りの炎が世界の彼方まで吹っ飛んだ勢いである。

 

「……あー、これはあれか? 穏やかな心を持ちながら激しい怒りで新たな力に目覚めたとかいう主人公的な熱血展開?」

「まっさかぁ。生まれが野菜人ならいざ知らず、レベル上限カンスト済みのクロウに限って絶対在り得ないわぁ、絶対在り得ないわぁ!」

「このエロ本娘、わざわざ二度も言いやがったぁ!?」

 

 物凄くメタい事を言い合う二人に、何だか無駄に凄く息が合っているなぁと『シスター』は物凄く怖い眼差しで睨みつけた。

 

「クロウちゃん、呆けてないでしゃきんとする! シャンタクで飛び上がらないと街が全壊するよ! 大十字紅朔、私の席をさっさと用意しなさい……!」

「お、おう、解った……!」

 

 背部ユニットのシャンタクの吹かして飛翔し、クロウは『リベル・レギス』と一定の距離を保ちながら効果の程を観察する。

 紅の鬼械神の超鋼の一部が蒸発しているが、圧倒的な超速度で再生している。

 あれの再生力は想定通りなので言う事は無いが、間違いなく先程の攻撃が通っている。『シスター』が搭乗するまでは掠り傷さえ与えられなかったのに――。

 

「……貴女の仕業? いえ、幾ら貴女一人が加わっても――」

「? とりあえず私の魔術の再翻訳、出来ますね?」

「――っ、当然よぉ。『お母様(オリジナル)』が出来て私の出来ない事なんて何も無いわぁ……!」

 

 この時、紅朔が感じ取ったのは得体の知れない『後押し』だったが、そんなあるかないかさえ定かではない事を考える余裕など目の前の宿敵の事を考えれば皆無である。

 漸く見出した光明を如何に辿って希望を紡ぐか――目の前の絶望の権化を如何に打倒するか、今はそれのみに思考の全てを費やすべきである。

 

「――よしっ。紅朔、シスター、オレに良い考えがある!」

「……ねぇ、クロウ。それ、貴方の元の世界の元祖失敗フラグだって解ってて言ってるぅ?」

 

 

 

 

 

 


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