転生者の魔都『海鳴市』   作:咲夜泪

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24/炎の道標

 

 ――昔々の話である。

 

 あの英米同時バイオテロ事件、別名『飛行船事件」より十数年後の出来事。

 第九次十字軍の壊滅的な被害により、力を失いすぎたヴァチカンは百年単位の立て直しを強いられていた。

 一夜の祭典の後始末に十数年経った今尚翻弄されながらも、『彼』は聖王庁のとある最高秘密区画に足を踏み入れようとしていた。

 

 ――あと十数年で、吸血鬼『アーカード』は主の下に帰還する。

 

 三百四十二万四千八百六十七の命を殺し尽くして、唯一人の王となって伯爵は帰還を果たす。

 それを知識として識っている『彼』が彼の不死王を殺し切る武器を欲したのは当然の成り行きであり、それを知らない余人が彼の凶行に待ったを掛けるのは当然の成り行きだった。

 

「……どうかご了承を。此処から先は幾ら貴方達『十三課(イスカリオテ)』でも通す訳にはいきません」

 

 最奥の区画にて立ち塞がったのは同じ神父服の男達であり、『彼』を前に緊張を隠せずにいた。

 第九次十字軍の敗残兵、武装神父隊の生き残り、アレクサンド・アンデルセンの再来と目される『彼』に無条件の畏怖を抱いていた。

 

「――特秘聖遺物管理局第三課『マタイ』、貴様等の役目は何だ?」

 

 腹の底から響き渡る声の重圧に、何人かの額から冷や汗が流れ落ちる。

 だが、言葉を喋るからには対話可能の相手という事であり、説得可能であるという無根拠を抱いた彼等の代表は一歩前に出る。

 

「我等の主に関連するあらゆる聖遺物を手段を選ばず蒐集する事が平常業務であり、貴方達『十三課』に対しては対吸血鬼戦術専門に特化した武装を調達する事ですとも」

「ならば、この先にある特秘聖遺物の受領は、何ら問題の無い筈だが――?」

 

 その配慮無き発言に、吸血鬼殲滅しか能の無い戦闘狂に対して怒りが灯る。

 同じ神を信仰する教徒でありながら、余りにも認識の違いに激怒する。

 

「問題? 問題ですって? あれの『真作(オリジナル)』が現存している事そのものが我々カトリックにとっての前代未聞の死活問題ですよッ! あれは門外不出、未来永劫に渡って人知れずに死蔵されるべきなのです……! いや、出来る事ならば鋳潰すべきだッ!」

 

 息切れしながら感情のままに吐露する彼の代表者に対し、『彼』は最初から同じ眼光を向けるのみだった。

 

「そんな事はどうでも良い。オレは貴様と宗教観を悠長に話し合いに来た訳じゃない。今、重要な事は、あれこそが吸血鬼『アーカード』をも真に殺し切る武器かもしれないという事のみだ」

「検証すら論外だッ! あれから導き出される真実は我々にとって致死の猛毒でしかないッ! アンデルセン神父の後継たる貴方でも、我等の神への信仰心を失う事になるぞ……!」

 

 はなからお話にもならない。それは不幸な事に彼等と『彼』の共通認識だった。

 

「――非常に残念だ。『第三課』が『十三課』を正しく理解していないとはな」

 

 そう、彼等は余りにもまとも過ぎた。宗教人としても、人としても正常過ぎた。狂信者が狂信者足る所以を何一つ理解出来ていなかった。

 

「何故に我等が存在せぬ十三番目の、裏切りの使徒の名を語っているか、ご存知か?」

 

 その時、彼等は初めて『彼』の目を直視してしまい――即座に折れてしまった。

 余りにも隔絶した最果ての狂信者を前に、理解を放棄してしまった。こんな化け物みたいな人間への相互理解を何処かに放り投げてしまった。

 

「我等は使徒にして使徒にあらず、信徒にして信徒にあらず、教徒にして教徒にあらず、逆徒にして逆徒にあらず、我等は死徒。教義の為ならば教祖をも殺す――その狂信こそが『ユダ』の名を持つ『十三課』の原理だ」

 

 カカシのように立ち尽くす『第三課』を素通りし、『彼』はヴァチカンにおける最重要特秘聖遺物の一つを受領する。

 『彼』は吸血鬼『アーカード』が帰還する数年前に病死するが、計らずも、その『切り札』は三回目の世界に持ち込めていたのだった――。

 

 

 

 

 死が溢れる。無数の死人が歓喜と狂気と共に行進する。

 吸血鬼『アーカード』の持つ全ての命を解放して攻撃に叩き込む拘束制御術式『零号』――その中心地は、もはや地獄を視覚化した凄絶な惨殺空間に他ならなかった。

 

「――『代行者』は!? 『シスター』はっ!?」

 

 数え切れないぐらいの死者が止め処無く溢れて、死の河は津波の如く押し寄せる。

 この地獄絵図を前知識として識っている転生者さえ実物を見れば慄くしかないだろうが、そうじゃない非転生者達にとってはこの光景は如何に映ったかは、語るまでもないだろう。

 

「何だこれは、何なんだこれはァッ!?」

 

 その彼等は『教会』の構成員、裏方として『神父』『シスター』『代行者』をサポートする、非転生者で構成された名も無き武装神父隊。

 魔都の闘争を乗り越えた百戦錬磨の兵どもは、されども想像以上の惨劇を前に狂乱し恐怖する。

 

「……こ、これが『神父』が言っていた……!?」

 

 これが『神父』の仇敵たる吸血鬼『アーカード』、脈動して動く領地そのもの――吸血鬼という規格を極限まで煮詰めた果てに突然変異を起こした不可避の災厄。

 

 ――敵が血を流す存在ならば、必ず殺せる。

 不死身の吸血鬼とて、再生力以上の攻撃を加えれば滅びるし、再生を無効化する法もある。そもそも律儀に一対一で挑む事もあるまい。

 圧倒的なまでに性能差が存在する人間の身でも、吸血鬼に対する下克上は可能なのである。

 

 だが、これは――一体一体が吸血鬼で、桁外れなまでに物量に勝る死徒の軍勢を前に、人間は何が出来るだろうか?

 

 神に祈りながら蹂躙されるのみだろうか。今までの矜持を全て捨てて逃走するのみだろうか。

 恐怖が臨界に達して、理性が崩壊する刹那、彼等の一人は在り得ない光景を目の当たりにした。

 

 怒涛の如く押し寄せる死の軍勢を前に、たった一人、正面から斬り伏せながら進撃する『神父』の姿を――。

 

「『神父』!? そんな、一人で突っ込むなんて無茶だ……!」

 

 勇敢を通り越して無謀、誰しもそう思った。

 如何に『神父』が超人的な武勇を誇った処で、それは人間の域に留まる。個として最強の武を誇っても、数の暴力を行使する軍の前には無力である。

 

「無理だっ、こんなの滅茶苦茶だッ! 絶対に敵いっこねぇ……!」

 

 いつか必ず疲弊して程無くして無意味に討ち取られる。誰しも思い描ける絶望的な未来図を前に、彼等の士気は崩壊寸前になり――。

 

 

「――情けない。それで『十三課(イスカリオテ)』の名を語るつもりか?」

 

 

 士気の崩壊を一時的に堰き止めたのは、とある女性の声だった。

 振り向けば、其処には黒いシスター姿の女性がおり――自分達の中に彼女のような人物が居たかどうか、誰しも疑問に思う。

 だが、胸元には十字架の首飾りが揺れており、『教会』の一員である事は確かなのだが――。

 

「目を凝らして良ぉく見ろ。あの死者が軍団を成して行進する『死の河』を、不死の吸血鬼の一部たる哀れな領民達を。――あの中に『神父』と一緒に参戦した『武装神父隊』の連中はいるか?」

 

 妙な事を言う。此処に居る全員は『神父』の世界での話を一度は聞いた事がある。『彼』の世界での事を、吸血鬼『アーカード』の事を――。

 

「見分けは付きやすい筈だ。揃いも揃って同じ神父服、同じ眼鏡、同じ手袋――そうだ、貴様等と同じ格好をしているのだからな」

 

 確かに特徴的な格好であり、この無数の死者の軍勢の中でも一際目立つ存在だろう。

 アラブ系市民の死者、全身鎧を身に纏って騎乗する騎士の死者、第三帝国の武装親衛隊たる吸血鬼の兵士、白衣を纏う十字軍の成れの果て――。

 

「い、いない……? 一人足りても、いないッ!?」

 

 幾ら探しても『武装神父隊』だけは、誰も見つけられなかった。

 黒いシスター姿の女性は当然だと言わんばかりに「ふん」と鼻を鳴らす。

 

「当たり前だ、誰奴(どいつ)も彼奴(こいつ)も地獄の驀地(まっしぐら)に突撃した。それで且つあの哀れな吸血鬼に誰一人血を吸われていない。何故だか解るか?」

 

 今の吸血鬼『アーカード』は脈動する領地そのものであり、彼がその気になればいつでも血を吸って再び『城壁』を築き上げる事が出来る。

 何とも巫山戯た存在である。吸血鬼『アーカード』はいつでも数百万の生命をストック出来る。殺害した敵対者すら自身の領地に招き入れて兵に出来る。

 今の吸血鬼『アーカード』は、『飛行船事件』での殺害数をも自身の命としている。故に、あの戦場で死亡した者ならば彼として存在している筈なのだが――。

 

「あ、あの地獄から生還したから、か……?」

「ああ、ほんの一部の者は生き延びただろうさ。『神父』もその一人だ。だが、大多数はくたばったさ。自爆特攻してアンデルセン神父の道を文字通り切り開きながらな」

 

 ――その答えが、これである。

 

 文字通り、血肉の一欠片すら残らず、アレクサンド・アンデルセン神父への挺身となったのだ。

 カトリックにおける自殺の禁忌、『最後の審判』における肉体の喪失がどれほど恐ろしい事なのかは語るまでもあるまい。

 それを誰よりも熟知しながら痛感しながら、『十三課』という狂信者は躊躇いなく逝ったのだ――。

 

 ――時到らば銀貨三十枚を神所に投げ込んで、荒縄をもって己の素っ首を吊り下げ、されば徒党を組んで地獄へと下り、隊伍を組みて方陣を布き、黙示の日まで七百四十万五千九百二十六の地獄の悪鬼と合戦所望する。

 

 『十三課』とは、嘘偽り抜きに、それを真に実践する最果ての狂信者の集団である。

 

「お前達は何だ? ただの腰抜けか? 女のように泣きながら虫のようにくたばるヘタレの根性無しか? 糞尿と血のつまった肉の袋か? それとも――」

 

 

 余りにも世界の違いを突き付けられ、矮小な己を顧みて――そして出た答えに、彼等の中の一人は力無く笑った。

 

「……オ、オレはさ、『教義』だとか『思想』だとか、全くもって訳が解らなかった。八百万の神がおわす日本生まれだからな、そんなのにはてんで『熱狂』も『狂信』も出来なんだよ――」

 

 彼等の中の一人から突如飛び出した大胆な告白に、誰もが聞き入る。

 それは皆が誰しも口に出さなかった事ではあるが、誰しも心の中にあった事柄である。

 この世界で最も宗教観に薄い日本人は、この世界で最も狂信者に成り得ない人種なのは明々白々である。だが――。

 

 

「でもさ、オレは『神父』に助けられて、あの姿に憧れたその日から、あの人の力になりたいって、そう思ってるんだ――」

 

 

 此処に居る構成員の大半は吸血鬼による被害者であり、生存者でもある。

 嘗て存在した名も無き転生者の吸血鬼に蹂躙され、辛くも――『神父』の手によって助けられ、生き延びた者達。

 彼等には無数の選択肢が与えられていた。見て見ぬ振りをして日常に戻る事も出来た。全てを忘れて目を背けて生きる事を誰が責めようか。

 

 ――だが、此処に残っている者達は総じて、ただの人間の身でありながら吸血鬼を屠る『神父』に憧れ、その力になりたいと切望した者達のみである。

 

「……何だ、お前もかよ? お互いとんだ不信者だなおい……!」

「おいおい、今更こんな事をカミングアウトかよ。後で宗教裁判だなお前等」

 

 『十三課』における宗教裁判が有無を言わさぬ処刑同然という事を知りながらも「はは、後で、か……!」と彼等は笑い合う。

 未だにあの理不尽極まる吸血鬼に対する恐怖は心の中にある。だが、それを上回る何かが既に彼等の心の中に燃え上がっていた。

 

「……全く、アイツは布教はとにかく下手だったが、人材を育てるのは大の得意だったな――」

 

 その女性は穏やかな表情で「東洋の辺境島国に異端開いて宇宙大統領サマでもやる気かァ?」と笑いながら背を向ける。

 よくよく見れば彼女の細部が透き通っており――それは何度か見た『思念体』が消える前の前兆だった。

 

「ア、アンタは……」

「――ふん、私の事などどうでも良いだろう。今はお前達が『十三課』なのだから」

 

 その存在感が儚く消え果て、足から順々に消失しながらも、黒いシスターは狂々と笑う。少し寂しげに、少し口惜しそうな顔で。

 

 

「行って、終わらせて来い。己の義務を果たせ。今宵は万願成就の夜、勝手に消え果てた夢の残骸への『返歌(リターンマッチ)』だ――」

 

 

 巡り合う事の無かった先達が消え果てて――彼等の表情は一つに定まる。

 目指す地点は単騎で先駆けた『神父』の下、今度は迷う事もあるまい。

 

「行くぞ野郎どもッ! 死力を尽くして『神父』を援護せよ!」

 

 号令の下、新生『十三課』の武装神父隊は一糸乱れず、一直線に地獄に直行する。

 

「オ、オレ、生きて帰ったら『シスター』ちゃんに告白するんだっ!」

「馬鹿野郎っ!? それ超弩級の死亡フラグだろうがぁ! あと『シスター』ちゃんはクロウちゃんの嫁だっ!」

「うっせぇ、あんなロリコン野郎に渡せるかっ! それにアイツ、はやてちゃんや紅朔ちゃんまでぇ……!」

「生きて帰ってからにしろッ! この大馬鹿野郎どもがッ!」

 

 

 

 

「前へ、前へ前へ前へ前へ――!」

 

 『神父』は真正面から死者の軍勢を斬り伏せながら愚直なまでに前進する。

 この無限大量の軍勢を突破せずして吸血鬼『アーカード』の前には立てない。陣の最奥で佇む吸血鬼『アーカード』は狂おしいまでの笑顔を絶やさずにひたすら待ち望む。

 

 ――時折飛翔してくる変化自在の魔弾を無造作に斬り伏せ、死者を両断しながら飛翔するトランプの群れに銃剣の投擲をもって対抗する。

 

 吸血鬼『アーカード』に取り込まれた吸血鬼の中でも指折りの使い手、『魔弾の射手』リップヴァーン・ウィンクル、『伊達男』トバルカイン・アルハンブラの猛攻は一度目撃しているが故に対処可能ではあった。

 

 ――問題はもう一人。縦横無尽に死の軍勢を掻い潜りながら猛攻を加える白い吸血鬼の存在が堪らなく鬱陶しかった。

 

「――ルーク・バレンタインッ!」

 

 嘗てロンドン郊外に位置する英国国教騎士団『HELLSIG』本部に兄弟で殴り込みした吸血鬼、その兄の方。

 噛ませ犬同然の扱いで吸血鬼『アーカード』が使役する黒犬獣バスカヴィルの餌になったが、『飛行船事件』の折に再び顕現して『アーカード』に認められて血を吸われた吸血鬼。

 そのヘタれた精神面はともかく、性能面ではなるほど、あの『アーカード』に認められるだけあって凄まじい敏捷性と反射能力を有しており、幾度無く『神父』の戦斧から逃れていた。

 

 一対一ならば遅れは取らないが、現状では一対数百万。如何とし難い差である。

 

 これら全てが前座であるが故に、負傷などしていられない。この程度の相手で手間取っては玉座に辿り着けない。

 無数の軍勢を斬り伏せながら、リップヴァーン・ウィンクル、トバルカイン・アルハンブラ、ルーク・バレンタインを対処して吸血鬼『アーカード』の下まで辿り着く。

 まさしく無理難題であり、その不可能を可能へと成し得ずして目的までは辿り着けない。否応無しに那由多の彼方に揺蕩う勝機を実感させ、否応無しに狂喜する。

 

 ――アレクサンド・アンデルセン神父は、見事辿り着いた。

 満身創痍で腕が千切れかけた状態から、である。そのたった一つの道標だけで、『神父』は十分だった。

 

 一人ばかり障害が増えた処でそれは同じ話。

 まずは辿り着かなければ話にもならない。自分の生涯を賭けた挑戦は絵空事だと鼻で笑われるだけである。

 

「――邪ァァ魔だァァァァッ!」

 

 斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。

 何物もその刃を妨げる事無く、斬り伏せ続けても、その数百万倍の物量が無謀な挑戦者を押し潰さんと脈動する。

 その様はさながら線香花火であり、一瞬の眩い閃光を放って消える存在に過ぎない。いずれ必ず消え果てる存在に過ぎず――。

 

 『神父』の前方に複数の爆発が起こり、幾許かの余白を作り出す。

 線香花火はいずれ消え逝くが、再び点火して希望という名の炎を灯すのは人間の仕業である。

 

「――『神父』っ!」

 

 複数の重火器を片手に、名も無き武装神父隊が続々と援軍に現れる。

 その様子が余りにも嘗てと酷似していた為、今度は逆の立場である事を強く実感した『神父』は苦笑し――嘗て、最も欲しかった、たった一言の言葉を口にする。

 

「ついて来いッ!」

 

 我ながら酷い人間だと『神父』は自嘲する。この地獄の只中に現れた馬鹿野郎達を諭して帰還させようとせず、地獄に突貫させる。

 『神父』の内に生じた刹那の苦悩とは裏腹に、援軍に現れた武装神父隊の面々は待ってましたと言わんばかりの狂った笑顔を浮かべ、次々と戦線に加わって直接火砲支援(ダイレクトサポート)を行っていく。

 

 ――だが、それでもまだ足りない。

 

 『神父』を吸血鬼『アーカード』の下に辿り着かせるには、まだ奇跡が一つ必要だった。

 『飛行船事件』の時の『アーカード』と比べて、『死の河』の存在規模が格段と増しているが故だ。

 

「ク、ケケ、ケケケケ――?」

 

 多少の負傷を覚悟で幾度目の突撃を繰り出したルーク・バレンタインの処理を決意した時、ジグザグに高速移動して最後のフェイントで正面に位置した彼共々、地面から突如噴出した炎の噴火が一直線に『死の河』を薙ぎ払った。

 

「ギ、イイイイイイイイイイイィ!?」

 

 第一級の吸血鬼たるルーク・バレンタインを瞬時に焼きつくす地獄の業火が誰の仕業なのかは、『神父』は意図的に思考から外した。

 今、この瞬間において重要なのは、この『炎の道』が何者にも遮られる事無く、最奥の『アーカード』へと続いている事のみである。

 『神父』は一切躊躇う事無く、『炎の道』を一直線に全力疾走する。

 

 

『――おやおや、進むべき道は明確なまでに開いておいでですよ?』

 

 

 もし、この場に彼が生きていたとしたら、そんな事を皮肉気に囀るだろうから――。

 

 

 

 

 


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