――深夜、二つの影が影絵の魔都を暗躍する。
無人のビル街の頂上を足場に、追跡者のオレはビルからビルへと飛び舞っていく。常人離れした逃走速度に、『スタンド』を装甲して必死に喰らいつきながら、決死の追跡劇が此処に執り行われていた。
(――っ、アイツの目的はオレを誘き寄せる事か)
『矢』を奪った未知の敵との追跡劇の最中、オレは現状のまずさに眉を顰める。
逃げ切られる危険性を承知で速度を落としてみれば、前に走る敵は頼まれずとも同じだけ速度を落として一定の距離を保つ。
振り切る事よりも、誘導する方を主眼と置いている動きに、オレは一つの選択を迫られていた。
――このまま不毛な追跡劇を続行するか、危険を犯して打開策を取るか、この敵を無視して他に回るか。
最初の選択肢は絶対に選べない。相手の目的である時間稼ぎを達成される上に、誘導されて辿り着く場所は間違いなく相手にとって有利な、自分にとっては死地となる場所だ。今、この瞬間も生命よりも重要な時間が出血しているという認識で良い。
最後の選択肢もまた選べない。この敵を放置すれば、『矢』を使われる危険性をみすみす放置する事になるし、此方としても『切り札』を失った状態で事に挑まなければならない。
――それは『矢』を使う事を最初に示唆した柚葉の意見を全面的に無視するという、最大級の愚行を犯す事になる。
それ故に、オレには最初から、あの敵に奪われた『矢』を取り戻し、自身の『スタンド』をレクイエム化させて事に挑むという選択肢しか無いのだ。
(相手にとって都合の良い場所まで誘導されるのも面白く無い。危険だが、先に仕掛けるか……!)
装甲する『スタンド』をステルスで姿を隠し、此方を見失った相手に奇襲して『矢』を奪還し、一撃離脱する。
――その思惑は、ステルスをしたと同時に相手が振り向いた事で崩壊する。
あろう事か、ステルスして光学迷彩的に隠れたオレを、あの敵は確かに『視』ていた。それと同時にオレ自身も、ヤツの異様な左眼がスタンドの視覚に入り――此方を見えて当然かと最大級の危機感と共に納得する。
――その左の魔眼は、鮮血の如く赤かった。更に言うならば、その万華鏡の如く桔梗模様には見覚えがあった。
(アイツの左眼だけ『万華鏡写輪眼』だと……!? それにあの模様、『うちは一族』の『転生者』と同じ……?)
ヤバい。何がヤバいって、『万華鏡写輪眼』の視界の中に一秒でも居る事そのものがヤバい……!
風の能力を使い、瞬間的な風流で重力に逆らって飛翔し、ヤツの左眼の死角に緊急回避しようとし――その程度では視線を振り払えず、オレの顔の間近に『黒い炎』が予兆無く現れた!?
「っっ!?」
即座に、高密度に超圧縮した空気の塊たるステルスを部分解除し、気圧の違いから局所的な暴風が吹き荒み、当たれば焼滅必至の『黒い炎』を咄嗟に回避する。
(危ねぇッ! ステルス纏っていなかったら『天照』で焼死だ畜生ッ!)
『矢』を奪ったフードの男は前を変わらず走りながらも憎々しげに、左眼から血を流しながら此方を睨みつける。
あの『黒い炎』は『万華鏡写輪眼』の瞳術の一つの『天照』。見ただけで対象を焼き尽くすまで消えない『黒い炎』を発生させる火遁系最強の瞳術――。
冷や汗流れたが、それもこれまでだ。この初見殺しを回避出来た時点で、事の優劣はオレに傾きつつある。
(……あの『万華鏡写輪眼』の瞳術が『天照』である以上、そんなに脅威には――!?)
ステルスを纏っている最中に限れば、『天照』を回避する事は至極容易――などという楽観視は、涙のように流れた奴の血が巻き戻るように消えて――背筋に氷柱でも突っ込まれたような説明不能の危機感が発せられる。
(――治癒能力? いや、今のはむしろ時間の逆行による復元の類? 真っ当なプロセスじゃなかったぞ……?)
何か引っ掛かる。喉元まで出かかっているが――今は出て来ない。
ヤツの左眼は依然、ステルスを纏うオレを捉えており――この視界の良い戦場では余りにも分が悪すぎる。
「――!」
オレは奴の視界から物理的に外れる為に、脇目も振らず、ビルの屋上に着地せず、意図的に落ちてビルの窓を突き破って一旦離脱する。
ガラスの砕け散る音が鳴り響き――追跡する相手を逃しかねないこの愚行は、されども、オレの生命を奇跡的に救う結果となった。
(……まじかよ?)
確かにオレは見届けた。先に走るヤツの左眼からまた血が流れて、オレの本来の着地点の空間一帯が歪んで何処かに飛ばされた感覚を、風使いだからこそ感じ取れた恐怖を余さず味わった――。
(『神威』だぁ!? おいおい、話が違うぞ。一つの『万華鏡写輪眼』に一つの瞳術じゃなかったのか?)
何処かの会社のオフィスなのか、デスクがズラリと並んでいる暗闇の社内、遮蔽物に身を隠しながら内心毒付く。
その『神威』もまた『万華鏡写輪眼』の瞳術の一つ、術者の任意の範囲内の物質を別空間へ転送する、これもまた明らかに致死級の瞳術である。
――はたけカカシと同じ瞳術を使える事はともかく、問題は一つの『万華鏡写輪眼』で二つの瞳術を使った点にある。
一つの瞳に宿る瞳術は一つの筈。奴のもう一つの瞳は少なくとも『万華鏡写輪眼』じゃなかった。
それはつまり、はたけカカシのように『うちは一族』以外の者に移植されたという形であって――あの『うちは一族』の『転生者』と瞳の模様が同じという事は、『うちは一族』の『転生者』の瞳は既に交換済みの『永遠』の『万華鏡写輪眼』の状態で、今のフードの男の方には抜き取った元々の瞳を移植したという事なのか?
――違う。今はそんな複雑な事実関係を推測するだけの余力が無い。
今、全力で気づかなければならないのは、一つしか使えない筈の『万華鏡写輪眼』の瞳術を何故二つも、いや、もしかしたら二つ以上使えるかもしれない点を考えなければ勝機を掴めないだろう。
(……いや、待てよ? これは最悪の想定だが、アイツの『万華鏡写輪眼』に宿る瞳術は、『万華鏡写輪眼』の瞳術すらコピーする写輪眼の完全上位互換版なのでは?)
その推測は本当に最悪の想定であり、何の解決にも至らないが――現状では、その前提で動いた方が良いだろう。
(『天照』や『神威』の他に、精神世界で殺戮する『月読』や『須佐能乎』も使えるかもしれないと想定した方が良いか――という事は、あの瞳の本当の持ち主である『うちは一族』の『転生者』も使える上に、右眼の方に未知の瞳術が仕込まれていると……どんだけよ?)
敵のチートっぷりにげんなりとしながらも、オレは奴の次の行動に意識を集中させる。
ビルに逃げ込んだオレを追わずに去るなら全力で追跡しなければならないし、それともオレを殺す為にビルに侵入してくるなら――遮蔽物が幾らでもある此処で決着をつけるしかあるまい。
――二度、此方を追跡する秋瀬直也は、二度も『万華鏡写輪眼』の瞳術を初見で回避した。
(……此処で仕留め損なうか……!)
『彼』の左眼の『万華鏡写輪眼』に宿りし瞳術は一つ。その一つで複数の瞳術と同じような効果を起こしているに過ぎない。
――『主』の左眼に開眼した他に比類無き究極の瞳術の名は『不完全模写』。
日本神話に因んで名付けられる『万華鏡写輪眼』の瞳術の法則に従わなかったのは、それが異端の『うちは一族』である『主』のみの瞳術であり、「単に適当な神様の名前を見繕って名付けるのが面倒だった」とは当人の身も蓋も無い言である。
――この瞳術の素晴らしさ、いや、規格外さを一言で説明するのならば、実際に見た事の無い術でもコピー出来るという点にある。
見て写して我が物とする写輪眼の前提を覆す、規格外揃いの『万華鏡写輪眼』の瞳術の中でも尚馬鹿げた瞳術である。
つまりは、知識として知っているだけで、術者の想像力が追いつけば術として成立してしまえるのだ。
それ故に『彼』の『主』は見た事の無い『万華鏡写輪眼』の瞳術である『天照』『月読』『神威』『須佐能乎』が使用可能であり、永らく彼女自身、自分に宿った『万華鏡写輪眼』の瞳術の効果を誤解する羽目となった。
ただ、この瞳術が何故『不完全模写』と名付けられたかというと、厳密には同じような効果になる全く異質の術に過ぎないからであり、全く別の経緯・法則によって想像通りの効果を齎すという、詐称行為に過ぎないからだ。
――ただ、この瞳術の真の悪辣さは、『贋作』が『真作』に劣る道理は無いと言わんばかりの副次効果にある。
だからこそ『主』が執り行う『口寄せ・穢土転生の術』は一定量の個人情報物質を必要とせず、情報を媒介にするだけで発動可能など、正規の『口寄せ・穢土転生の術』とは細かい前提条件が違っていたりする。
(……尤も、僕は『主』とは違って、『万華鏡写輪眼』の瞳術は『天照』と『神威』しか『不完全模写』出来ないけどね――)
どう足掻いても術の構成が想像出来ない『月読』と『須佐能乎』は使えず、自分が使用可能の手札を全て晒してしまい、『彼』は心の中で激しく舌打ちする。
(……偶然。彼の運が異常なほど良すぎた、と思えたら良かったのだが――)
相手の能力の相性上、最初の『天照』は悪手だった。自分の世界との違いを痛感した処である。
彼の世界では『火遁』を『風遁』では防げない。五行の相性上、『火遁』をより強化してしまう性質があるからだ。
相手が使うのは忍術ではない、その前提が欠如していたが故の失敗だった。
(……だが、『神威』の方はそうではない。『万華鏡写輪眼』に宿る瞳術は一つ、その事を知っているのならば、心理的な盲点だった筈だ)
完全な初見殺しの『神威』を、偶然回避した、と片付けて良いのだろうか?
それが偶然以上の何かに見えて、『彼』は歯痒く思うと同時に、秋瀬直也を絶対に取り逃してはならないと自身に言い聞かせる。
(何たる理不尽か。まるで『奴』のようだ……!)
――『彼』は今際の、最期の怨敵を思い起こす。
あの侍の真似事をしていた木ノ葉隠れの忍の一人を、『主』の『右眼』を移植されたのに、真逆の『瞳術』を開眼させた忌々しい宿敵を――!
あれに自分ほどの素養や才覚があったとは到底思えない。忍としての才能は、あの『九尾の人柱力』以下だろう。
負ける要素など欠片も無かった。素養も違う、自力も違う、経験も違う、同じ『主』から『万華鏡写輪眼』を移植され、外付けされた『血継限界』は同条件だった筈だ。百回やって九十九回、己が勝つ勝負だっただろう。
それなのに自分は敗れた。『英雄』たる本領を発揮され、百回の中の一回を掴まれて、最終的に乗り越えられた――。
(――だが、秋瀬直也の『矢(きりふだ)』は此方の手の中。いや、蛇の胃の中か……)
ビルに逃げ込んで身を潜めたのならば、本来の目的である『矢』の奪取は容易に達成出来る。だが、最早それだけでは足りない。
この敵の生存を『彼』は許せないし、認めない。今の『彼』が『主』に届くとは到底思えないが、『英雄』たる存在はいとも容易くその領域まで数段飛ばしで駆け上ってしまう。
可能性がある限り、『英雄』は『魔王』に必ず勝利してしまう。
――此処で、何としても秋瀬直也の息の根を止めなければならない。
それこそが、無様に朽ち果てた前世での償いであると『彼』は頑なに信ずる。
(……隠れ潜む建物ごと『神威』で消し飛ばすか? 失明を覚悟すれば可能だが――)
幾らこの身が穢土転生体であっても、瞳術の代償に光を失った『万華鏡写輪眼』は失明したままであり、切り札の一つを失う。
あの秋瀬直也さえ殺せられればそれでも構わないのだが――どういう訳か、それで殺し切れる確信が欠片も湧かない。
(この手で直接縊り殺さない限り、生存出来る可能性の隙間を絶無にしない限り、何度でも這い出て来そうだね。嗚呼、何とも悍ましい……!)
ならば、逃げる術を皆無に、理不尽と不条理が介入する余地をゼロにしてから『神威』を執り行えば――如何に『英雄』と言えども殺せる。
『彼』は目に止まらぬ速度で印を刻み、不自然な煙が突如発生し――六体に『分身』した『彼』は同時に四方に散って、最後に残った一体は秋瀬直也と同じルートでビルの内部に侵入したのだった。
――ビルの内部に侵入した『彼』は左眼の『万華鏡写輪眼』で注意深く見回す。
視る事に関して最上級の魔眼を持つと同時に、『彼』にはもう一つ、感知系能力に分類される変温動物の爬虫類じみた熱源探査も得意としている。
その二つの超感覚を以ってしても、隠れ潜む秋瀬直也の居場所を察知出来なかった。千里を見通せる透視眼たる『白眼』とは違い、『写輪眼』は視界に入れなければ効果を発揮しない。
(……チッ、あの『ステルス』は地味に厄介だな)
この『万華鏡写輪眼』の視界に居るのならば幾らでも視認出来るが、圧縮した空気の層を纏う『ステルス』は内部の人間の体温も外界から遮断してしまうのか、副次効果的に『彼』の熱源探査から逃れてしまっている。
(隠れ潜んで機を窺っているか。猪口才な――!)
フードの中に潜む大蛇が鎌首を上げて周囲を見回し、それとは別に口寄せた蛇が複数体、地を這いずり回る。
ビルの部屋中に配置した後、自身と繋がる大蛇を使って、デスクというデスクを片っ端から薙ぎ払う。
超越的な暴力が破壊の猛威を振るう。このまま隠れ潜む場所ごと薙ぎ払われるか、炙り出されて出てきて苦し紛れを行うか――何方にしろ、発見した瞬間、全周囲から口寄せされた大蛇に襲われ、絶命するだろう。
――さぁ、何処からでも出て来い、と駆り立てる中、不意に『彼』は背後を振り向く。
音も無く、気配も無く、存在感すら無く、既に拳を振り上げた亡霊の如き『スタンド』が其処には居たのだった。
「――!?」
掌打、掌打、掌打! 無数の掌打が全身に瞬時に叩き込まれ、内部の骨が数箇所以上砕け散ったが、穢土転生体の『彼』にはその程度の損傷など意味が無い。
時間さえ経過すれば幾らでも勝手に復元する。ノコノコと誘い乗って姿を現した秋瀬直也を絞め殺すべく部屋中の大蛇が殺到し――その全てが空を切る。
「……っ、なん、だと……?」
消えた。其処に居た筈の『亡霊』は瞬く間に『万華鏡写輪眼』の視界から消え果てた。自分は元より、口寄せした大蛇達も見失っていた。
(――超スピードではない。如何なる速度でもこの『万華鏡写輪眼』からは逃れられない。ならば、催眠術や幻術の類? 馬鹿な、それも『万華鏡写輪眼』なら看破出来るし、あの秋瀬直也は此方の世界の住民ではない『スタンド使い』――『スタンド』?)
ふと、その単語から『主』の言葉が鮮やかに蘇る。
『――そう、『スタンド』。『傍に立つ (Stand by me)』が語源かな。守護霊のように術者の傍らに立つ生命のビジョン。秋瀬直也のは珍しく自身の身体に装甲出来るタイプのようね』
本来の『スタンド使い』の『スタンド』は本体と分離した人型の像が多い事は予備知識で知っており、『スタンド』を装甲する秋瀬直也のようなタイプは稀だと言うが――自分の迂闊さに舌打ちする。
秋瀬直也の場合、必ずしも自分の身体に装甲する必要はなく、必要となれば分離して通常の『スタンド使い』のように運用出来る。
その射程距離内ならば、幾らでも出したり消したり出来るものであると、『彼』は寝惚けているのかと自責しながら思い出す。
(確か秋瀬直也の場合、射程距離は十メートル、その範囲内に本体が居、る――?)
侵入した窓際から一面を無造作に薙ぎ払った為、十メートル以内に本体が居るのならば巻き込まれてなければおかしい。
いや、それ以前に――ステルス化出来るスタンドと本体が別離したのならば、その体温を知覚出来なければおかしいのである。
(……秋瀬直也は十メートル以内、だが、本体の居場所を熱源感知出来ない場所に居る?)
見渡す限りに居ないのに半径十メートル以内に居る、一体何処だと混乱し、『半径』という言葉を脳裏でもう一度口ずさみ――遅れながら、『彼』は気づく。秋瀬直也の現在の居場所は……!
「――し、」
『彼』が秋瀬直也の現在位置に気づいたのと、下から床を透過して『ファントム・ブルー』が現れたのは、ほぼ同時だった。
秋瀬直也のスタンドの掌には拳大の球体の塊があり、それが何かを悟る前に胴体に打ち込まれて――極限まで空気を圧縮されて乱回転させた球体が炸裂して究極の破壊力を発揮する。
(螺旋、丸――!?)
それは『彼』にとって馴染み深い、自身を殺した忌々しい術と瓜二つであり――『彼』の身体は煙と共に消失したのだった。
(……なっ、影分身の術だと!?)
一本食わせて仕留めたと思いきや、食わされたのはオレ自身だと気づく。
――影分身の術。それはNARUTO世界で最も有名な忍術ではないだろうか。
通常の分身の術とは違って残像ではなく、実体を作り出し、物理的攻撃の可能な上忍級の高等忍術。落ちこぼれだった主人公、うずまきナルトが最初に習得した禁術である。
分身体の数だけ本体のチャクラも分割されてしまうという重い欠点があるが、考えてみればその欠点、穢土転生体と思われる『敵』はチャクラが無限に等しい状態なので有名無実と化している。
(っ、本体は何処にいやがる……!?)
即座に『スタンド』を手元に戻して装甲し、『ステルス』を展開する。
能力の持続時間の関係上、残量が実に心許ないが――狩る立場から狩られる立場に逆戻りし、身構えるが、予想外にも敵の追撃が来ない?
(影分身を倒した事から、その影分身体の経験は本体に蓄積され、此方の居場所は知られたようなものだが――)
何故、追撃の手が来ない。いや、そもそも、あの行為事態が単なる時間稼ぎに過ぎなかったとしたら――。
「……やれやれ、もうやられたか。よりによって『螺旋丸』で仕留められるとは忌々しい。だが、君を屠る準備は既に整ったよ」
一方、『本体』は秋瀬直也が立て篭もるビルを見通せる場所に立っていり、残り四体の影分身はビルの外から地上に降りて、四方に位置していた。
――四体の影分身は等しく同じタイミングで印を刻み、紫色の壁がビルを完璧に覆う。
忍法・四紫炎陣。嘗て『木ノ葉崩し』の折に三代目火影を隔離する為に、大蛇丸が配下の音の四人衆に使わせた結界忍術。
この紫の境界に触れし者は焼け死ぬ末路しかなく、脱出不可能となったビルを、『彼』の『万華鏡写輪眼』が嬉々と視る。
「それじゃさよならだ、秋瀬直也――!」
左眼から止め処無く血が流れ落ち――指定された空間、隔離されたビル全てを潰さんと、はたけカカシの瞳術『神威』が無慈悲に発動する。
巨大な建物が塵一つ残らず消え果てるまで、視界が霞んで光が消えるまで瞳術を行使し、――勝利と共に『万華鏡写輪眼』の模様は消え去って失明した。