はい、というわけで大変お待たせしました。本日より更新再開となります。……いえ、活動報告に書いた通り、本当は昨日のうちに再開する予定だったんですが、気がついたら寝落ちしてた急用ができたので遅れてしまいました。申し訳ございません。
「南雲、あとどれくらいだ?」
「んー、二十メートルくらい先かな」
後ろを歩く南雲に俺は確認を取る。彼は一瞬の間を置いてから、そう答えた。
七大迷宮の一つ、オルクス大迷宮。その第一層にて、俺達異世界人一行はあるものを探していた。
あるもの――と意味深に引っ張ってみたが、まぁ大したものではない。いや、それは少し語弊があるか。『意外性がない』ものであると言ったほうがより適切だ。手にするのは必然でこそあれど、その効能は決して平凡とは言いがたいものなのだから。
南雲ハジメ。
今このとき共にいる彼ではなく、もともとの、前回のアイツだ。
俺のクラスメイトであり、異世界トータスに呼ばれたものであり、無能であり、奈落の化け物であり、神殺しの魔王。時には絶望を齎す悪魔でありながらも、愛する者には絶対的な希望となる。……俺? 絶望を齎された側ですが何か? まぁ、完全に自業自得だったからそれはいいのだが。
とにかく彼は、見る者の立場、状況によって多くの捉えられ方をしていた。
そんな彼の象徴と言えばなんだっただろうか。
白髪? 眼帯? 義腕? 紅い魔力? ハーレム? それらは確かに彼の特徴だ。間違ってはいない。だけれど、それだけで彼を、彼だけを連想する人はいないだろう。それはあくまで特徴であり、平凡な個性である。決して唯一無二ではない。
では、他に何が考えられるか。
愛? なるほど、それもまた彼を良く示した言葉だろう。ハーレムができているのも、彼女達が彼に全幅の信頼を寄せるのも、彼の愛ゆえだろう。愛、というのが小恥ずかしいならば、意思と置き換えてもいい。彼の意志の強さは、そのまま愛へと繋がっている。
それはきっと、彼の本質だ。いかなるときにおいても変わらなかったもの。いや、一度失っても取り戻すことができたもの、だろうか。彼を表すのにこれほどふさわしい言葉は内容に思える。
奇抜な、されどありふれた特徴ではなく、深く見通さなければ分からない本質でもない。
彼の代名詞である、この異世界において基本的に唯一であるそれは――
現代兵器。
銃をはじめとする、この世界に不似合いな無機質な武器だ。彼は
故に唯一。故に無二。
トータスにおいて彼の象徴であるのだ。
そんな武器の中で、彼が始めに作った拳銃。それはこの地で製造されたのである。
まぁ、散々回りくどい言い回しをしたが、要するに。前回において理不尽の象徴であったあの兵器を手に入れようとしているのだ。
南雲に材料を探してもらっており、すでに必要な鉱石の一つであるタウル鉱石は確保していた。残るは火薬の役割を果たす鉱石――
「あっ、燃焼石!」
一寸の間進んでいると、不意に南雲は声を上げた。少し興奮気味で、頬が紅潮している。どうやら見つけたようだ。
「えっと、あの黒い石?」
「そうそう、それだよ」
指を指してたずねる香織に首肯する南雲。目を期待で輝かせている。
やはり銃を使えるようになるというのは、今までロクな戦闘能力を有してこなかった身としては嬉しいのだろう。まるで誕生日プレゼントを選んでいる時の子供のような微笑ましさがあった。以前の南雲ならこんな姿は決して見せなかっただろうな。
「それじゃあ、どうする? ここで作る?」
「そうだな。そこそこの広さはあるし、見通しもいい。悪くはない場所のはずだ」
「わかった」
俺の答えを聞くと、南雲はその場に座ってタウル鉱石を取り出した。そして深呼吸をした後、赤黒い魔力光を放って錬成をはじめる。
その姿を確認してから、俺は皆に声をかけた。
「南雲が作業を終えるまで、全力で守り切るぞ!」
「「「「オー!!」」」」
気合いを入れる声が返ってくる。
どれくらいの時間がかかるかわからないが、時間をかける価値は間違いなくあるだろう。頑張らなければ。
「っと、いきなり敵襲だ! 二尾狼三体!」
浩介が声を張り上げる。もう来たのか。偶然ならばいいが、もし匂いを察知して寄って来たのだったら少々面倒だな。
まぁ何にせよ、戦うだけだ。
◆◆◆◆
「できたぁっ!」
南雲の喜びの叫びを聞いたのは、製造開始から一日後のことであった。想像よりも長かったが、そこまで正確な知識があるわけでもないだろうからむしろ上出来と言えるか。
南雲の方に顔を向けてみると、彼は黒光りする三十センチほどの拳銃を抱えていた。あれは、あれこそが彼の相棒であるドンナーだ。
「これ、本当に撃てるのか?」
「うん、一応試し撃ちはしたよ。〝纏雷〟を使ったレールガンの方も」
清水の疑問に南雲は頷いて答えた。何度か破裂するような音が聞こえてきていたから、その時に撃っていたのだろう。
「それにしてもすごいわね。異世界で銃を使えるなんて」
雫が感嘆の息を漏らす。彼女の瞳には尊敬と畏怖の色が混じっていた。
「……うん、本当にすごいよ」
南雲はうっとりとした目でドンナーを見つめている。その口元は愉快であるという心情を表すように綻んでいた。
まるで新しい玩具を手に入れた子供……いや、どちらかといえば普段冷たい恋人が珍しくプレゼントをくれた、そんな風な喜びかたな気がするが。とにかく、傍目からでも喜んでいるのが伝わってきた。
「――なら、早速使ってみるか?」
「え?」
浩介の突然の言葉に硬直し、聞き返す南雲。一体どうしたというのだろうか……。……ん? いや、これは……。
「グガァッ!!」
「っ!?」
突如迷宮内に響き渡る咆哮。そして同時に感じる、圧倒的に濃密な気配。強く大きくたくましい魔力。
それはかつて、南雲に絶望を与えた魔物。体の一部である左腕を喰らい、明確な死のイメージを見せた悪夢。
オルクス深層、第一層最強の存在である、爪熊がそこにいた。
「〝縛煌鎖〟!」
認識してから即座に、香織は魔法の鎖で爪熊を縛り上げた。
「グ……ガァ!!」
囚われながら咆哮をあげる爪熊。力を入れて暴れようとしているが、全く身動きが取れないようだ。さすが香織、とんでもない威力である。
自らの自由が侵される、そんな経験は初めてだと言わんばかりに困惑と焦燥の色を見せる爪熊。その態度からは憤怒も読み取れる。
「南雲っ、やってみろ!」
「う、うん!」
どもりながらも頷き、先程完成したばかりの拳銃を爪熊に向ける南雲。それを持つ右手はカタカタと震えており、とても狙いをつけられそうには見えない。
だが、彼は左手で右腕をつかんで無理やり震えを止め、息を止めながら引き金を引いた。
ドパンッ!
懐かしい音が階層中に響き渡る。数瞬して砲撃音が暗い空気の中に溶け込んだあと、残されていたのは首から上が弾け飛んだ爪熊の姿であった。
南雲ハジメ。
その身に宿した魔物の力と、己が手で作り上げた武器を手に、全ての理不尽を粉砕する。
もちろん俺の知る前回の彼には遠く及ばないけれど、その姿は、
どうしようもなく、『南雲ハジメ』であった。
そして、新たな力も使い、五十層ほどまで到達した時。俺達はついに見つけることになる。
吸血姫の、居る場所を。
すみません、次の話とのいい区切り場所が見つからなかったので、ちょっと短めです。
これからしばらくは、更新と並行して過去に投稿した分の手直しを進めますので、更新頻度は少し遅めになります。ご了承ください。
それではこれからもよろしくお願いします!