光輝くんが過去のトータスに誘拐されました   作:夢見る小石

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ありふれたアニメ化決定!いえーい!


いしのなかにいる

 束の間の休息も終わり、本日より攻略再開だ。

 

 クラス全員集合し、三十層から七十層への転移魔法陣で下層へと移動する。

 

 ここからは完全に1日中前人未到のエリアとなるため、今まで以上に気を抜くことが許されなくなってきた。とはいえ、奈落に比べれば大したことはないのだろうが。

 

 ちなみに、騎士団の中でついてくるのはメルドさんだけ。他の人では実力的に共に来るのは不可能と判断されたのだ。精鋭の皆さんは現在七十層の魔法陣の守りについている。

 

「お前達、今日からは七十層以降の探索になる。おそらく、これまでと比べてペースは格段に落ちることとなるだろう。だが、それでも焦らずに慎重にいかなければならないということを忘れるな!」

 

「「「「「「「はい!!」」」」」」」

 

 メルドさんの言葉に威勢良く返事をする生徒達。全員が揃ってここまで来れるとは、意外と簡単に未来は変わるものなのかもな。

 

 俺は魔王の誕生を阻止し、世界の希望をなくしてしまったが、そのかわりに彼らがトラウマを負うこともなくなった。良かった悪かったで語れるものではないのだろうが、少なくとも無駄ではなかったと思いたい。

 

「今日の目標は七十五層だ!」

 

 メルドさんが威勢良く宣言する。未知の領域を五層クリアか、難しいがこのメンバーならばいけるかもしれない。

 

 七十一層への階段はすでに見つけてあり、迷うことなく次の層へと足を進めていった。

 

 七十一層。ここで出てくる魔物は確か狼系統だったはず。

 

 そう考えていると、早速新たな部屋の中に潜んでいた。

 

 斥候役の生徒が開けた扉の中に、灰色の狼が二体確認できる。

 

 相手側も気がついたのか、こちらに飛びかかってきた。

 

「鈴、頼む!」

 

〝結界師〟である鈴に防御魔法の指示を出す。生徒への指揮権は、メルドさんから俺に完全に移っていた。

 

 このままいくとメルドさんも途中でついて来られなくだろうという推測からだ。前もそうだったので、特に問題はない。

 

「うんっ!〝天絶〟!!」

 

 鍛錬を積んだ鈴は、すでに無詠唱での天絶を完全にものにしていた。狼の進行方向に魔法の壁が設置される。

 

 狼達の突撃は障壁に阻まれる、そう誰もが思ったのだが。

 

 ぶつかる直前に狼が急停止し、その瞬間姿が消えてしまった。

 

「えっ!? どこに行ったの!?」

 

 香織が動揺し、焦りの声を上げる。

 

 一瞬にして、その凶暴な姿は消えてしまったのだが、これは別に体が透明になったとか、瞬間移動をしたというわけではない。さすがにそこまで高度な固有魔法を使う敵が、表層に出てくるはずがないしな。

 

 洞察力や動体視力に優れている者は、すぐに何が起きたか気がついたようだ。

 

 狼が消えた後の地面には少し砂煙が起きており、まるで何かが地面を掘った時のよう。

 

 つまり。

 

「地面に潜ってるわ!」

 

 そう。七十一層の狼の固有魔法は、地面を泳ぐことが可能になるというもの。正確には自分の周りの土を極限まで柔らかく軽くできる、だったか。推測だから絶対に正しいとは言えないが、大きくは間違っていないだろう。

 

 その雫の声を聞き、南雲はすぐに地面に手をついた。反応速度からして、自分でもその結論にたどり着いていたらしい。

 

「〝錬成〟!!」

 

 南雲の両手から空色の魔力光が迸った。

 

 その後、特に何か変化があるわけでもなく、ただ南雲がそのままの姿勢で魔力を使い続けているだけだ。

 

 いつ狼が出てくるかと少し警戒しながら待っていると、南雲は地面から手を離し、拍手するように土を払った。

 

「よし、これで大丈夫。あの魔物達は地面の中に閉じ込めたよ」

 

 清々しい笑顔でそう告げる南雲。

 

 よくわからない事態に皆が何が起きたと問いかけると、南雲は苦笑しながら答えた。

 

「最初は錬成で魔物が地面から出てくる位置を誘導しようと思ってたんだけど、あの固有魔法って結構魔力を使うみたいで、すぐに抵抗がなくなっちゃったんだよ。今は上ってくることもできずに生き埋め中」

 

 あはは、と頬を掻きつつ伝える南雲。

 

 確かにあの固有魔法を連発している所は見たことがなかったので、消費が激しいのだろうとは思っていたが、それにしても酷い死に方だな。

 

「南雲くんすご〜い!」

 

 香織が満開の笑顔で南雲を褒め称える。

 

「南雲……。お前すげぇな、いろんな意味で」

 

 龍太郎は少し引き気味なようだ。……生き埋めとは、かなり残酷な倒し方だな。

 

 魔物相手にどんな攻撃をしても構わないし、効率的なやり方だとは思うのだが、敵の実力は全くと言っていいほど測ることができなかった。

 

 というかこの魔物、錬成師に相性が悪すぎるだろう。ステータスでは南雲よりも遥かに上だろうに。

 

「お前ら、油断はするなよ! ハジメ、同じ魔物が出てきたらもう一度頼めるか?」

 

「はい、大丈夫です」

 

 メルドさんが楽勝だと緩みそうになった空気に、一発喝を入れた。

 

 そして次の部屋に行こうとした時、後ろから声が聞こえてきた。

 

「……天之河」

 

 声の主は清水。ということは、ここで作戦を実行するのか。

 

 俺は清水に頷いてから、南雲の肩を叩いた。

 

「南雲、少し頼みたいことがあるんだが」

 

 南雲は振り向き、首をかしげる。

 

「頼み事って?」

 

「今の魔物を地上に出してくれないか?」

 

 そんなことを言ってみると、南雲は一瞬ギョッとしたような顔をした。そして、引きつった表情のまま、俺に聞き返す。

 

「えっと、なんで?」

 

 ストレートに行動の必要性を聞いてきた。いや、確かに意味不明なこと言ったな、俺は。

 

「清水が魔法で魔物を操れるようになったから、適当に弱っている魔物にかけたいんだよ。生き埋めで呼吸ができない上に、魔力も切れてるなら好都合だろ?」

 

 清水の方を見ながら、そう言った。

 

 話を聞いていた皆も興味深そうに清水を見つめている。

 

「わかった。一応まだ戦意がある可能性もあるから警戒しておいてね」

 

 その言葉を聞いた俺がしっかりと剣を構えたのを確認してから、南雲は再び地面に手をつき、錬成を使用する。

 

 するとすぐに、横たわって白目を剥いている狼が現れた。一応息はあるようで、腹がかすかに動いている。

 

「警戒の必要はなさそうだな。じゃあ清水、頼む」

 

 清水は頷いてから、二体のうちの片方の頭に手を当て、一度深呼吸をした。

 

 そして、厳かな声で詠唱を始める。

 

「聞け、我が声を! 受け入れよ、我が命を! 跪け、我が前に!〝奪魂〟!!」

 

 最後の叫びの後、清水はほっと息をつく。

 

 見た目上は変化無いが、どうやら無事に終わったようだ。

 

「よし、成功だ。死なないうちに誰か治癒魔法をかけてくれ」

 

 清水のその言葉を聞き、治癒師の香織が少しづつ魔法を使い始めた。一気に回復させないのは、清水が失敗していた場合にすぐ魔物を取り押さえるためだろう。

 

 だが、その心配は無意味だったようだ。

 

 生気を取り戻し起き上がった狼は、敵対意思を見せることもなく尻尾を振ってじっとしている。

 

「お、おぉ、すっげぇ! 清水お前やるな!」

 

 龍太郎が清水の背中を叩き、上機嫌に褒めた。他の皆も驚きながら喜んでいる。

 

 龍太郎の体育会系的な行動に少し眉をひそめて嫌そうにした清水だったが、皆からもてはやされ気分が良くなったようで、照れたように頰を赤く染めた。

 

「い、いや……まぁ……特訓したし? これくらいは当然っていうか……」

 

 褒められ慣れていないようである清水がちやほやされている様は、何故だかとても似合っているように見えた。よかったな、清水。

 

 その後、あまり経たないうちにもう片方の狼も操ることに成功し、俺達の攻略の共に二頭の狼が加わったのだった。

 

 

   ◆◆◆◆

 

 

 七十八層。七十層の攻略が思いの外スルスルと進んだお陰で、予定よりも進むことができ、今日は七十九層への階段を見つけたら終了だ。

 

 ……いや、七十層の敵が悉く生き埋めになっていったのだが、なんというか見ててすごい可哀想だった。南雲は淡々と錬成していたが。

 

 魔王の片鱗を見た気がする。

 

 七十層の後半の階層に来たわけなのだが、誰一人負傷はしていない。むしろまだ全員余力をかなり残しているようだ。

 

 既に八十レベルを超えている者が大半だからな。こんなものか。

 

 と、感慨深く思っていると、気配感知に何かかかった。

 

「皆、警戒してくれ。気配感知に一つ反応があった。この先に何かがいる」

 

 そう言うと、皆が立ち止まって緊張感のある状態になった。

 

「俺が先に行って見てこようか?」

 

 最高の〝暗殺者〟である浩介がそんな提案をする。通常、魔物に見つかるよりも先にこちらが発見した場合は、斥候系の誰かが先行して相手の戦力を測るのだが……。

 

「魔物が一体だけだろ? んなの確認するまでもねぇよ。速攻で叩きのめせばいいじゃねぇか」

 

 脳筋こと龍太郎が拳を鳴らしながらそう言って否定した。

 

 まぁ、この場合はそれでも大丈夫か。

 

「皆もそれでいいか?」

 

 念のため、生徒達に確認を取っておく。特に反対意見も出ることはなく、龍太郎の提案が採用されることとなった。

 

 そして、そのまま用心して進んでいくと、薄暗い通路の先に何かが見えてきた。

 

「人……なの?」

 

 その影を見た恵里が呟き、他のメンバーも驚愕しながらそこを見つめた。

 

 よく見てみると、そこにあるのは人間らしき物体。体の半分が壁に埋め込まれていて、長い髪を垂らしてうなだれている。

 

 その華奢な体からは女性だと判別できるが、暗い中では表情も見えないため、生きているかもわからない。

 

 そうだ。思い出した。これ罠だ。

 

 以前愚かにも碌に確認もせずに、あの人間らしき魔物を助けようとした俺は、ものの見事に罠に引っかかったのだ。

 

 今から考えれば、あれ怪しすぎだけどな。

 

 そもそも六十五層がこれまでの最高到達地だったわけで、もし転移系のトラップでここに来たとしても、埋まっているのはどう考えてもおかしいだろう。

 

「まさしく『いしのなかにいる』だね……」

 

 南雲が苦笑しながら呟いた。

 

「あ、それ知ってるよ! えっと、うぃ、ウィザーなんとかってゲームのだよね!」

 

 微妙に緊迫した状況だというのに、香織が無駄に明るくそう言った。雫が『ちょっと空気読みなさいよ』と少し睨んでいる。

 

「Wizardry、だな。昔のRPGだよ。白崎さんが知ってるのは意外だけどな……」

 

 そんな答えを返したのは南雲ではなく、意外なことに清水であった。

 

 あまり誰かと話すイメージはなかったが、魔物を操る術を身につけたことで自信を手に入れたのだろうか。

 

「よく知ってるね、清水くん」

 

 少し驚いたような表情で、南雲が清水に話しかけた。

 

「……一般常識だろ、俺らの世界では」

 

「え、『俺らの』って、もしかして清水くんこっち側……? 今までそんな気配なかったけど……」

 

「い、いや、それは……」

 

 南雲の言葉に、目を逸らして頰を掻きながら答える清水。何かよくわからないが、仲良くなったということでいいのだろうか?

 

「ところで、明らかに罠っぽいけどさ、俺の魔物を囮にしてみるか?」

 

 誤魔化すように清水がそんな提案をした。

 

 そうだよな! 明らかに罠だよな! 俺は思いっきり引っかかったけどな!

 

 本当……なんで引っかかったんだろうな……。

 

「いや、その必要はないよ」

 

 清水の使役する魔物を一瞥した後、南雲は首を横に振って否定した。何か策でもあるのだろうか、そう思っていると……。

 

「〝錬成〟!!」

 

 半分ほど出ていた体が完全に埋まった。いや、まぁ、なんとなく予想はできたが、それで解決しにいくのか……。

 

 というか、あれが魔物ではなく本当に人間だったらどうするつもりだったのだろうか。錬成したということは、それはないと確信していたのだろうが。

 

「あれ、あの辺りの地面、魔物っぽいよ」

 

 錬成中に違和感でも感じたのか、首を傾げている南雲。

 

 確かに魔力感知をしてみると反応がある。確かあそこにいるのはクレイゴーレムだったか?

 

「それなら、あの人が罠だったのは確定でしょうね。……光輝」

 

 雫が俺の目を見た。

 

「ああ、皆、準備してくれ。戦闘開始だ!」

 

 そんな俺の言葉が響くと同時に、呼応したように地面が盛り上がり、泥でできた人形に変化した。それも一体ではなく、あちこちから出現している。

 

 先手とばかりに、龍太郎がそのうちの一体に向かって正拳突きを繰り出した。抵抗はほとんどなく、その拳は魔物の体を貫いたのだが、すぐにクレイゴーレムは元の姿に再生してしまった。

 

「うおっ!? こいつら攻撃が効かねぇぞ!?」

 

 焦ったような龍太郎の声。雫や俺も攻撃を仕掛けてみたが、やはり効果はない。

 

 魔法でも同じ結果となった。

 

「さっきの人間っぽい姿をしていたのが親玉なんじゃないかな?」

 

 冷静に状況を判断していた南雲がそう言った。実際にそうだったはずだが、これは不味い事態になっているかもしれない。

 

 先程南雲が錬成で壁に埋め込んでしまったせいで、直接攻撃を加えることができないのだ。

 

 相手はゴーレム系の魔物であるようで、呼吸をしなくとも生きていける。これは埋め込んだのが完全に裏目に出たな。

 

「〝錬成〟! ……ダメだ、弾かれるっ!」

 

 すぐに南雲は錬成で引っ張り出そうと試みたようだが、無駄に終わってしまった。消耗戦になってしまうと、不死であるクレイゴーレムが有利だ。

 

 俺が高出力の攻撃で壁ごと吹き飛ばすという手もあるが、不測の事態に備えてできるだけ魔力は温存しておきたい。どうするべきか……。

 

「俺に任せろ! 行け、シルバーファング!」

 

 清水が張り切って指示を出し、それに応えて狼の魔物たちが壁の中に潜っていった。

 

 そうか、あの固有能力ならば壁の中の相手にも直に攻撃できる。

 

 その後、数瞬もしないうちに全てのクレイゴーレムが泥となって崩れ去った。親玉が討伐されたのだろう。

 

 意外とあっけなく戦闘が終わり、皆は胸を撫で下ろした。

 

「すごいな、簡単に倒すなんて」

 

 かなりの苦戦を強いられると思ったが、清水のおかげですぐに終わらせることができた。これはかなりラッキーだったな。

 

「そ、それほどでもない……」

 

 照れたようにそっぽを向く清水。

 

 この後は特に問題も起きずに、無事に階段を見つけることができたのであった。


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