『ZOIDS Genesis 風と雲と虹と』第十部「ヴィア・ドロローサ」   作:城元太

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第百弐拾話

 川口村の戦いに臨む小次郎側の全兵力を確認する。

 村雨ライガー(平将門;指揮、棟梁)

 デッドリーコング(伊和能員;上兵)

 ソードウルフ(平将頼;上兵)

 サビンガ(文屋好立;上兵)

 エレファンダー・コマンダータイプ・ガトリングユニット装備型(興世王;兵)

 ディバイソン(平将文;兵)

 レオゲーター(平将武;兵)

 ディメトロプテラ(平将為;兵)

 ランスタッグブレイク(藤原玄明;従類)

 ランスタッグ量産型(兵、従類)×33 

 予備兵力にレインボージャーク、及びバンブリアン・自走砲装備型。

※藤原重房率いる霞が浦湖賊のバリゲーター部隊は、ドラグーンネストの閉塞によって参集することは適わず。

 一方の秀郷・貞盛連合部隊の主だった編成は以下の通り。

 エナジーライガー(藤原秀郷;指揮、棟梁)

 ライガー零シュナイダー(平貞盛;上兵)

 ダークホーン(平公雅;上兵)

 ダークホーン(平公連;兵)

 アイアンコングPK(橘遠保(たちばなのとおやす);上兵)

 ホワイトジャーク(土魂)×30以上(※総数未確認)

 バイオプテラ(土魂)×4

 バイオトリケラ(土魂)×2

 バイオケントロ(土魂)

 主力となるゾイドの数こそ拮抗しているが、ソラよりの追捕状と朱紫(しゅし)(ひん)に誘われた無数の伴類が小型中型ゾイドを引き連れ続々と参集し、追討軍総勢は計八百機に及ぶ大部隊に膨れあがっていた。これに陸上空母ディグと貞盛のドラグーンネスト、遠保のホバーカーゴが加えれば、兵力差に於いて小次郎軍を遥かに陵駕する。

 小次郎が兵力を鎌輪に集中させたため、国衙にはネオカイザーの除目によって派遣された兵は残っていない。坂東統一は朝露の如く夢と散り、秀郷は空白となった下野国衙に入居し陣を構える。

 無頼の伴類達は、軽率に参集したことを悔やんだ時には遅すぎた。秀郷は激烈な軍事訓練を行い、指示に従わない、若しくは指示通りに動けない伴類を容赦なく粛清したのだ。演習による死傷者は裕に百人を超え、予想外の苛烈さに脱落を図る者も現れる。だが脱落者が小次郎軍へ合流することを恐れ、秀郷の配下によって有無を言わさず処刑された。下野周辺であればバイオプテラにより空から捕捉され撃破、運良く下野を脱出することが適おうとも、何処ともなく現れるメガレオンの連装エネルギー砲によって討ち取られた。

 烏合の伴類は命の代償を払った上で、戦《いくさ》の前日には精強な軍団へと変貌する。練兵によって疲弊仕切ったゾイドと兵はディグに搭載され、途中離脱はできなかった。移動中に充分な補給と休息を得て、戦場となる川口村に赴くのである。

 

「流石は俵藤太、見事な布陣だ。付け入る隙が見当たらぬ」

 大利根の源流に展開された秀郷の陣形を一目見た小次郎は、思わず呻り声を上げた。嘗て秀郷は『悪と狂気と毒を持たぬ変革の思想など、結局は現状の権力擁護に加担するに過ぎぬ。愚民の命に(かま)けていては、己の身の破滅を招く』と言い捨てた。血まみれの恐怖と暴力によって、圧倒的な兵力を短期間で纏め上げたのだ。

 矢合わせの空砲が下野勢から放たれる。小次郎はムラサメブレードの柄に装備されたソードキャノンを構えた後、村雨ライガーの頭部に立ち上がり肉声で全軍に告げた。

「俵藤太は強敵だ。だがこれは、絶対に勝たねばならぬ戦だ。みんな、俺に力を貸してくれ」

 雄叫びが怒涛となって湧き上がる。全員が小次郎を慕い、小次郎を信じる証しである。

 人を信じぬ者と、人を信じる者との闘争。矢合わせに応じ村雨ライガーのソードキャノンが放たれる。決戦の火蓋が切られた。

 

 

 アーカディアが中央大陸を過ぎアクア海に到達する頃より、純友のタブレットには奇妙な量子暗号通信が次々と入電していた。

「神経伝達系の回路図を要求しているだと」

 佐伯是基の報告に、純友は半信半疑の表情を浮かべる。

「将門殿にお渡ししたタブレットよりの報せなのですが、発信者は将門殿に非ず〝桔梗の前〟を名乗っています。彼の女がタブレットを盗み、アーカディアの情報を秀郷に漏らそうとしているやもしれません」

「情報を漏らそうとする者が、自ら名乗ると思うか」

「そこが私にも解せぬのです」

 拱手する純友の脇でタブレットを盛んに操作しながら、是基が頻りに首を捻る。

「量子の干渉によって暗号解読の途中で情報が破壊されてしまい、解読に時間がかかりましたが、どうやら桔梗の前はアーミラリア・ブルボーザの構成まで察知し、クラスターコアへの接続をも要求しています。これを知ったところで、サークゲノムがなければ役に立たぬものを」

「伝えてやれ」

 意表を突く答えに、タブレットに視線を落としていた佐伯是基が顔を上げた。

「宜しいのですか。アーカディアの構造を桔梗の前に晒すことになります」

「減るものでもあるまい。将門に惚れた女の願い、叶えてやれ」

 海賊衆を統べる魁師は、時に理不尽な指図をする。だがその理不尽さにも必ず意味あるを知る是基は、反論はしなかった。

「では直接クラスターコアに接続致します。〝庭の澱み〟を迎えぬ内は、所詮空虚な容器に過ぎぬので」

 是基の告げる此れまでにない最高の皮肉である。「まだゾイドになっていない以上、ゾイドコアになりきれないクラスターコアに接続しても意味はない」という事である。建議の意味を知ってか知らずか、純友は拱手した姿勢のまま東方大陸の方向を見詰めたままであった。

 純友の眦が決した。雲海の切れ目に、螺鈿色の輝きと玻璃の青が垣間見える。警戒警報が艦内に響く。

「前方、ギルドラゴン出現」

 アーカディアの前方に、再び白い天空龍が現れた。蒼穹に浮かぶ翼が日光を乱反射させ、神々しい輝きを纏う。

「動きが違う。あれは摂政忠平ではない」

 誰もが気が付いた。優速を活かしてアーカディアの周囲を旋回する姿は、成層圏で対決した時と異なり洗練されている。

「ギルドラゴンより入電、読みます。

『従五位下の位階を賜るにも関わらず、ソラの承認無く東方大陸に戻ること許さず。

 正五位下・右近衛少将・追捕山陽南海道両凶賊使小野好古』。以上です」

「遂に現れたな、好古め」

 読み上げの間に、ギルドラゴンの周囲に雲霞の如き黒点が取り巻く。胸部格納庫より、翼を持つ無数のゾイドが出現していた。見慣れた黒い蝙蝠型に混じり、薄緑に光る獣脚類が2機発艦する。

「敵機体より多数のゾイド発艦。機種、ザバット及び……バイオメガラプトル」

「氏彦、秋茂、時成、エアウルフ発艦準備。三辰はストームソーダージェットで先行せよ。全艦迎撃態勢。バイオメガラプトルと言ったな、陸戦用ではないのか」

「機体認識に誤りはありません。機影拡大します」

 投影装置に映し出された画像には、無数のザバットに囲まれ浮遊する骸骨竜の姿がある。その背中には、薄紅色に光る翼が生えていた。

「あれは子高のグリアームド、なんだあの翼は」

 画像を食い入って睨んでいた佐伯是基が看破する。

光子翼(フォトンウィング)、あの様なものまで装備させたとは。

 船長、光装甲(ホロニックアーマー)への実体弾攻撃は無効です。エアウルフはザバットとギルドラゴンに攻撃を集中、メガラプトルはアーカディアのビームスマッシャーでしか倒せません」

「どうあっても将門に合流させない魂胆か」 

 アーカディアの行く手を遮り、ギルドラゴンが宙を舞う。光る身体と翼を持つ骸骨竜と無数の蝙蝠型ゾイドが周りを取り囲む。

 川口村で小次郎が秀郷と戦端を開いた同時刻、大気圏内で黒い怪竜と白い天空龍との激突も開始された。

 


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