やはり俺のDQ3はまちがっている。   作:KINTA-K

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16話

 豪華なシャンデリアが照らす謁見の間。

 ここで、俺は勇者としてロマリア王に謁見していた。

「……ふむ、何と言うか、今時の勇者は随分珍しい格好でやってくるのだな」

「不作法でスミマセン」

 困惑しきったロマリア王の言葉に、俺は『足を宙に浮かせたまま』頭を下げる。つか、今時の勇者ってなんだよ?

 隣で王に対する礼として片膝を付いた雪乃が、こちらにだけ見えるようにこっそりと嘆息する。いや、今の状況がおかしいのは分かるが、この場合は仕方が無いだろ?

 普段よりも少し高い位置から雪乃を見下ろしながら、俺は体の両脇を支えている『松葉杖』に視線を落としてなぜこんな状況になったのか思い返していた。

 

 

 

 由比ヶ浜の家……と言うか屋敷に案内された後。

 そのまま客室のベッドまで案内されて、遅い時間だと言うのに医者まで呼んでもらい診察してもらった。

 結果は予想した通り両足ともに肉離れ。どうやったら両足同時に肉離れなんてできるんだと少し呆れられた。それから、由比ヶ浜と由比ヶ浜の母親の勧めもあり、俺と雪乃は俺の両足が完治するまで由比ヶ浜の家に世話になることが決まったのだった。

 ……と、まあそこまではまだ良かったのだが、問題はロマリア王との謁見の事だった。

 俺と雪乃がこの街に来たことは、詰所に居た騎士が馬を走らせたのだからもう聞き及んでいるだろう。まあ、城まで時間はかかるし、今日はロマリア王との謁見に行かなくても大丈夫だろう。しかし、明日はどうだろうか?

 当然のことながら、相手は俺がこの短い期間に大怪我を負って不自由になったことを知らない。怪我が治ってからゆっくりに挨拶に行く、なんてことをやれば勇者が消えたとして騒ぎになりかねない。一応、勇者はその国で活動することを報告するために一度は謁見する義務があるからな。マジで面倒なんだけど、これ。

 かと言ってわざわざ『怪我をしたから謁見はまた今度でお願いします』と城に連絡するのも気が引ける。街中で怪我をする勇者とか大丈夫なん?とか思われること間違いなしだ。

 幸いと言うとあれだが、俺は松葉杖だけで移動する技術を持っている。以前、やらかした時に平塚先生の指導の下で身に付けさせられたのだ。松葉杖だけで体を全部支えてまったく地に足を付かずに移動する訓練とか、マジで頭おかしい。いや、良い腕力の訓練になったしバランス感覚も良くなったから役に立ったけどな。

 ロマリア王に俺が城下町に来たことを知られている以上、とりあえず連絡もせずに黙って怪我が治るまで放置するのは不味い。だが、怪我をしたため完治まで先延ばしすると連絡を入れると普通に侮られるだろう。今の俺の状態を見られても「大丈夫かこいつ?」とか思われるだろうが、結果として同じならさっさと済ませたい。

 そう言う訳で、俺は城の付近まで行く待合馬車を由比ヶ浜に教えてもらい、何かしでかした時のフォローが期待できる貴族の礼儀作法バッチリの雪乃を連れて、松葉杖を突いてロマリア王に謁見することにしたのだ。

 

 

 

「と、とにかくよくぞ封印を解いてくれた、偉大なるオルテガの息子、比企谷八幡よ!お主の訪問を歓迎しよう!」

 明らかに誤魔化す様に咳払いしてから、ロマリア王は強引に話を戻した。どうでもいいが、偉大なるオルテガとか言う枕詞って必要か?

「これで、いざないの洞窟の封印も解かれた。アリアハンとの国交も正常化するだろう」

「はぁ、どうも」

 あまりにどうでもいい言葉に、思わずおざなりな返事をしてしまう。その態度に反応した雪乃が俺を睨みつけてきた。

(比企谷君、いくら何でもその返事はどうなのかしら?)

(いや、でも、この程度でありがたき幸せとか、なんか違わんか?)

(あのような適当な返事をするのだったら、黙って頭を下げた方がマシよ)

 視線でそんな会話を交わす。……いや、想像だけど。そこまで以心伝心じゃねえし。でもまあ、俺の態度が雪乃のお気に召さないのは十分伝わった。

「ふむ、その格好と言い、中々面白い男のようだな」

 おい、なんかウケたんだけど。が、ロマリア王は急に渋い顔になった。

「じゃが、お主はこの国での実績はない。いざないの洞窟を抜けてやってきたことを鑑みれば勇者としての素質は十分だろうが、それだけでは勇者とは認められぬ」

「……一応、正式にアリアハンから認可は受けていますが」

 不敬にならない様に言葉を選びながら答える。この発言……アリアハンから出来損ない勇者とでも聞かされてるのか?まあ、勇者の認定自体は本物だから何を言われても気にはしないけどな。

「それは当然理解しておる。そこでじゃ、お主に頼みがある」

 ……頼みとか、なんか嫌な流れになってきたぞ。

「カンダタと名乗る盗賊が、この城からワシの金の冠を奪って逃げたのじゃ」

 はぁ、それは何とも間抜けな事態ですね。この城の騎士たちは何をやっていたんでしょうか?とか思ったが言わない。

「そこで、お主に頼みがある。カンダタから金の冠を取り返して貰えぬか?それができれば、お主を勇者として認めよう」

 なるほど、そう言うシナリオなのね。てか、あからさま過ぎだろ。……しかし、断る訳にもいかないか。

「今怪我してるんで、完治してからでもよければやりますよ」

 勇者として認められるとか糞どうでもいいが、今後ロマリアで活動することを考えると、国のトップに刃向うのは明らかに不味い。いくら勇者認定を受けているとは言っても所詮アリアハンだけの話だ。国境を自由に行き来する資格も、国王がその気になれば無効にするくらいは簡単だろう。

「うむ、それでよい。カンダタを追った騎士達の話では、ロマリアの街を出て北の方へ逃げて行ったそうだ。では頼んだぞ、比企谷八幡よ」

 そこまで追っておいて逃がすのかよ。無能すぎだろ、騎士達。……ま、事実だったら、だけどな。

 ロマリア王は最後に王様らしく、偉そうに俺と雪乃に向かって告げた。そこで謁見は終わりとなり、俺と雪乃は謁見の間から退出させられた。

 他に用事も無かったのですぐに城を出て、待合馬車の駅へと向かう道すがら、俺は雪乃に国王とのやり取りに付いて問いかけた。

「どう思った?」

「そうね、あなたの国王に対する礼儀がまるでなっていないことは分かったわ」

「そっちじゃねえよ」

 それは途中に睨まれた時に察していた。

「冗談…ではないのだけれど、言いたいことは分かってるわ。カンダタの話でしょう?」

「ああ」

「……あなたはあの話を、まさか事実だとは考えていないわよね?」

「当たり前だろ。いくら何でもタイミングが良すぎるし、話が出来過ぎだろ」

 俺の言葉に、雪乃は頷いた後で「それでも」と付け加えた。

「一応、話が本当であると考えられる根拠も無いわけではないのだけどもね」

「へえ?」

「金の冠と言えば国王の象徴でもある装飾具よ。それが盗まれたとなれば国の威信にも関わるわ。周囲に秘密にするために目立つわけにはいかないから、あまり大々的に騎士団を動かすことができない。そこで、秘密裏に問題を解決するために丁度都合よく現れたよそ者に依頼した、とも考えられるわ」

「ふむ……なるほどな」

 確かに、そう考えればそれほど変な話ではない。最初に盗まれた城勤めの騎士が間抜けだと言うことには変わらないけどな。

「で、結局雪乃はどう思うんだ?」

「本当である可能性は薄いわね。あたなたも言っていたけれど、タイミングが良すぎるわ。大方、新しく現れた勇者の腕試し、と言った処ではないかしら?」

「だよなぁ……」

 そりゃ、ぽっと出の若造に世界の命運を任せる気になれないことは分かる。だからと言ってそんな面倒な小芝居なんぞしなくても模擬戦の一つでもやらせればいいのに。今の状態じゃどっちにしろ出来んけどな。……ただまあ、それよりも気になることがある。と言うか、むしろこっちの方が大きいのだが。

 話の筋通りで行けば、俺はカンダタを盗賊……職業と混同しそうでややこしいな……とにかく、悪党だと思っていなくてはならない。悪党だから殺してもいいと簡単に言うつもりはないが、世間に害をなす悪人だと思っていれば、殺すのも辞さない覚悟で討伐に当たるのは当然だろう。

 つまり、このカンダタ役の相手は俺が本気で殺しに行っても自分が死ぬことはない、と考えているのだろう。まさかこんな小芝居に命を懸ける覚悟で挑むなんてことがある筈がない。それが意識してか無意識かは分からんけどな。

「……気に入らないな」

 別に侮られるのは構わない。自分が出来損ないと言う事は自分が一番よく知っている。ただ、そんな風に一方的に上から目線で見られるのは少々癇に障った。

「比企谷君?」

「ああ、いや、なんでもない」

 怪訝そうに聞き返してくる雪乃に、首を横に振ってこたえる。

 ……うん、冷静になると今の考え過ぎだから。それで「気に入らないな」とか呟くとか黒歴史が増えちゃったじゃねえか。ハチマン、反省。

「でも、カンダタを名乗らせるなんて、中々思い切ったことをしたわね」

「あん?お前何か知ってるのか?」

 聞き返すと、雪乃は少し意外そうな顔をした後、何かに納得したように続けた。うん、大方俺がカンダタを知らないことに驚きかけて一人で無理はないと納得したんだろう。雪乃の常識イコール世間の常識じゃないから。むしろ他国の有名人とか一々知っている方が非常識だから。

「ローマ帝国の末期に帝国を騒がせた……何と言えばいいのかしら、一応、義賊なのかしら?」

「なんでそこで疑問形なんだよ」

「……まあ、ローマ帝国を騒がせた盗賊団の首領の名前よ」

「なぜ義賊から言い直した?」

 聞き返すと、雪乃は楽しそうに微かに唇を歪めてクスリと微笑んだ。

「しばらくは由比ヶ浜さんのお屋敷に居候するのでしょう?貴族だけあって書物の揃いは中々だったわ。これを気に自分で調べてみるのもいいのではないかしら?サボリ谷君」

「おい、あまりぼっちを舐めるなよ。俺は読書は結構好きなんだぞ。他人と関わらなくて済むからな」

 あと、そんな見惚れるような笑顔を不意打ちでするのも止めてね?間違って惚れちゃいそうになるから。

「……悲しい理由だけど、否定できないわね」

 ぽつりと呟いて同意する雪乃。まあ、読書って究極のぼっち時間つぶしだしな。教養も深まるし、むしろ大勢でたむろしてウェイウェイ騒いでいる集団よりも余程有意義な時間の使い方だと言える。

「ま、一週間近くのんびりできることなんて中々ないしな。久々に読書とでも洒落込むとするか」

「……お礼とは言え、立場は居候なのだけれど」

「だからだろ、本読んでれば無駄に絡まれずに済む」

 お怪我の具合はどうですか、とか何か必要なものはありますか、とか一々聞かれても困るし。今読書中なんで、って言えば簡単に回避できるからな。

「あなたは本当にブレないわね……」

 俺の言葉に、雪乃は呆れたように額に手を当てて嘆息した。

 

 

 

 奇異の視線に晒されながら馬車に乗り(足付かずに松葉杖だけで歩く男なんて目立って当然だから仕方が無い)、日が傾きかけた頃に由比ヶ浜の屋敷に戻ってきた俺達は、居の一番に由比ヶ浜に出迎えられた。

「ヒッキー、ゆきのん、お帰りなさい」

「お、おう…た、ただいま?」

 どもりながらなんとか応えると、由比ヶ浜は嬉しそうに顔を輝かせた。

「うんっ。お帰り」

 ……なんか、こういうの気恥ずかしいんだが。

「ほら、ゆきのんも」

「え?あ、あの……ただいま」

「お帰り、ゆきのん!」

 おお、なんか由比ヶ浜から犬の尻尾がぶんぶん振られてる幻覚が見える……雪乃の奴も押されっぱなしだな。と言うか、いきなり出迎えられたんだが、もしかして待ってたの?

「二人とも、良かったら一緒にサブレの散歩にいかない?」

 なるほど、散歩に誘いたくてわざわざ待っていた訳か。まぁ、それは構わないんだが…

「……俺はこんな状態なんだが」

「あ……」

 松葉杖に視線を遣ると、由比ヶ浜がしまったと口を押え、慌てて頭を下げてきた。

「ご、ごめんなさいっ、あたしのせいで怪我したのに、考えなしで誘っちゃって……」

「ああ、いや。だからお前のせいじゃないし。ちょっと嫌味っぽい言い方だったな、こっちこそ悪かった」

 由比ヶ浜の謝罪の言葉に慌ててフォローする。こいつ、考え事が顔に出るから、謝られるとこちらの罪悪感が半端ない。

「で、でも……」

「あれだ。松葉杖で平然と動き回ってた俺が悪い。ま、なんだ。俺ならこの状態でも散歩くらいなら余裕だからな」

「え、じゃあ……」

 途端に嬉しそうに顔を輝かせる由比ヶ浜。やべ、失言だった。

「と言っても城に行って来て疲れてるから、今日は勘弁してくれ」

「そっか……うん、無理言ってごめんね」

 俺が断ると由比ヶ浜は少し寂しそうに笑った。……なぜ俺の態度にここまで一喜一憂するのか。なんか、勘違いしちゃいそうになるだろ。

「あー、俺の代わりに雪乃が付き合うらしいぞ」

 なんとなく気まずさを覚えた俺は、代わりに雪乃に話を振った。

「えっ?」

 心底意外そうにこちらを振り向く雪乃。あー、やっぱりこいつも断るつもりだったか……だが、雪乃の微妙な反応に気付かずに、由比ヶ浜は嬉しそうに雪乃に詰め寄った。

「ゆきのん、一緒に来てくれるの?」

「……ええと、それは、その……」

 なぜか助けを求めるようにこちらにチラチラと視線を向けてくる雪乃。ははっ、馬鹿め、この件では俺はむしろ由比ヶ浜側だ。

「雪乃、お前、犬が苦手なんだろ」

「……苦手ではないわ。ちょっと得意では無いだけよ」

 うん、それを苦手って言うんだからな?だからと言って見逃すつもりは毛頭ないけどな。

「ロマリア周辺にはアニマルゾンビって言う犬の腐った死体のようなモンスターが現れるんだが、それでも平気か?」

 ロマリアに来るのは俺も初めてだから見たことは無いが、肋骨とか内臓とか見えている分、見た目的には腐った死体よりもエグイと言う話だ。この話は雪乃にも効果覿面だったようで「え゛」とちょっと女の子が出してはいけないような声を出して顔をひきつらせた。

「そう言う魔物に遭遇する度に硬直して動けなくなるようじゃ困るんだけどな。まぁ、苦手なものは仕方が無いし、怯えるくらいなら構わんけど、恐怖で体が竦んで動けなくなるとか止めてくれよ」

「だ、だから別に苦手ではないと言っているでしょう?」

「そっか、じゃあ得意でないから普通レベルになるくらいには馴染んでおけ。いい機会だろ?まあ、怖くてどうしても無理だと言うのなら仕方が無いが……」

「馬鹿にしないで貰えるかしら。そうね、犬の散歩くらい余裕よ。任せなさい」 

 あっさりといつもの挑発に乗る雪乃。うん、本当チョロいな、こいつ。

「ヒッキー!いくらなんでもサブレとアニマルゾンビを一緒にするとか酷過ぎだし!」

 が、俺の言葉を聞いていた由比ヶ浜がぷりぷりと怒っていた。ま、雪乃と一緒に散歩に出て行った時にはご機嫌な笑顔になってたけどな。あと雪乃、たかだか犬の散歩に行くだけでそんな悲壮な決意に満ちた顔をするのはヤメレ。

 

 

 

「あら、ヒッキー君、お帰りさなさい」

 改めて玄関に入ったところで由比ヶ浜のママ、略して由比ヶ浜マに出迎えられた。……対して略してない上に上手くもないな。因みに、由比ヶ浜が俺と雪乃をヒッキーとゆきのんと紹介したおかげで、由比ヶ浜の母親にまでその呼び名が浸透してしまった。雪乃はゆきのんちゃんと呼ばれている。最初に呼ばれた時は顔を赤くしてプルプル震えていた。

「ごめんね~、うちの子がはしゃいじゃって。同年代の子たちと遊ぶのなんて久しぶりだったから」

 ……成人した16歳に向かって同年代の子と言うのはいかがなものだろうか。まぁ、母親からしてみれば子供なんだろうけど。しかし、由比ヶ浜が同年代と遊ぶのが久しぶりと言うのが少々意外だ。今の言葉のニュアンスは成人したから遊ばなくなった、と言う感じではなかったしな。

「あいつなら、仲の良い同年代の相手なんていくらでもいるでしょう?」

 あの人懐っこさは誰かと一緒に居ることに慣れている証拠だ。まあ、見た目も結構可愛い方だし、ぼっちの俺や雪乃と違って友達なんていくらでもいるだろ。

「ええ~、結衣は私に似て可愛いから~」

 ぽやっとした笑顔でうなずく由比ヶ浜マ(心の中ではそう呼ぶことにした。他に良い呼び方もないし)。さり気なく自分も可愛いアピール入っているが、子を通して言うと自慢や嫌味な感じがしないのが不思議だ。まぁ、この人の人徳的な部分もあるだろうけど。癒し系っぽいんだよな、この人。年齢的に俺の母親と変わらんくらいだろに、雰囲気的におばさんと呼べねえ。

 しかし、由比ヶ浜マは少し顔を曇らせて、困った様に続けた。

「でも、あの子にも色々あってね~」

「そうなんですか」

 言われてみれば思い当たる節はある。先ほどの由比ヶ浜は、出迎える速さから察するにこちらが帰ってくるまでわざわざ玄関付近に待機していたのだろう。人懐っこい性格とは言っても、やり過ぎな気がしないでもない。……俺の言葉にも過剰なくらい反応していたしな。なるほど、はしゃいでいると言う感じがする。

「ねえ、ヒッキー君」

 不意に、由比ヶ浜マは真面目な声で此方を見た。

「もし、結衣があなたに何か相談して来たら、力になって貰えないかしら?お礼で来てもらっているのに図々しいお願いだとは思うんだけど…」

 それは、真剣に子供を心配する母親の顔だった。……まあ、内容にも寄るが、別に無理に否定するような話ではない。正直、医者呼んでもらって一周間食事付きで居候させてもらうとか、お礼を貰い過ぎているようにも感じてたしな。

「まあ、あいつから言ってきたら、そん時は考えますよ」

「うんうん、それで十分よ~。ありがとうね、ヒッキー君」

 由比ヶ浜マは本当に嬉しそうに礼を言った。子供と同じくらい歳が離れているのに真面目だなと思うが、性格なのだろう。よく表情が変るところと言い、由比ヶ浜によく似ている。いや、あいつがこの母親に似たんだな。

「ああ、そうだ。俺からもお願いがあるんですけど……」

 雪乃に言われた宿題(カンダタのことな)を思い出して由比ヶ浜マに頼んだところ、快く了承してくれてローマ帝国の末期からロマリア建国に掛けての書物を、俺が使わせてもらっている客室まで使用人に運ばせてくれた。

 部屋に戻った俺は、ようやく松葉杖の移動から解放されてベッドに横になった。ある程度自由に動けるとは言っても、やはり松葉杖だけで歩行するのはそれなりにしんどいから、開放感があった。

 ベッドに寝そべりながら、先ほどの由比ヶ浜マの言葉を思い出す。

(しかし、由比ヶ浜にも色々ある、か……)

 勝手に能天気なリア充だと思っていたが、そんな簡単な話ではないらしい。

(ま、誰でも何かしら問題の一つや二つはもってるよな)

 そもそも、由比ヶ浜の性格なら城まで付き合っても不思議では無かった。そうなると、城に行きたくない理由でもあったのかもしれない。

(……そうだな。由比ヶ浜から相談してくるのなら、話を聞いてやるくらいは構わないか)

 力になれるかは保証できんが、まぁ、余裕があったらちょっとくらいなら力を貸してやってもいいしな。由比ヶ浜マにも頼まれたことだし。

 そんなことを考えながら、俺は雪乃からの宿題をこなすべく、時間潰しも兼ねて準備してもらった書物を手に取った。

 




後日舞台裏で詳細を説明するつもりですが、原作と違って由比ヶ浜は第4子で、上に兄が3人いる設定です。その3人の兄を作中に出すつもりはありませんが、話の都合上由比ヶ浜の相続権を低くしたかったのでそうなってます。
八幡は『年齢的に俺の母親と変わらんくらいだろに』とか言ってますが、実は八幡の母親よりも10歳近く年上だったりします。
(一子の八幡と4子の由比ヶ浜が同い年くらいなのだから当然ですが)

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