やはり俺のDQ3はまちがっている。   作:KINTA-K

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15話

 

 ドンッ、と大きな音が響き、反射的に「比企谷君っ!」と振り向きた時には、ほとんど既に終わっていた。

 振り向いた私の視界の端に何かの影が通り過ぎ――次の瞬間には、通りの向かいから破砕音が聞こえてきた。

 慌ててもう一度振り返りそちらを見ると、なぜか、比企谷君が先ほどの小型犬を抱いて露店の籠に背中から突っ込んだ姿勢で倒れていた。

(一体、何があったの…?)

 ――状況から推測することは容易だ。比企谷君はあの犬を救うために通りに飛び出し、そのまま勢いで向かいの露店の籠に衝突したのだろう。それは分かっても、納得できないこともある。

(今の比企谷君の動きは……?)

 視界の端に影が映っただけだから、断言はできない。だけど、比企谷君はあそこまでのスピードで動くことが出来ただろうか。

 ここまでの戦闘中、私は戦う比企谷君の姿をよく見ていた。いえ、それは比企谷君が自分の戦う所をよく観察する様に言ったからであって決して他意があった訳ではないのだけれども……とにかく、よく見ていたのだ。

 私では目で追うのがやっとだったのだけれど、それでも戦闘中の比企谷君のトップスピードはあそこまで早くは無かったと思う。彼は自分のできることを全て見せたと言っていた。今まで手を抜いていたとは思えない。

 何よりも、着地に失敗している。恐らく犬を救うのに必死だったのだとは思うのだけど、そんな所は初めて見た。分かることは、着地に失敗するほどの無茶をしたと言う事――

「サブレっ!」

 聞こえてきた声に思考を止める。見ると、先ほどの犬の飼い主の少女が比企谷君に駆け寄っている所だった。

(……あなたがしっかりとペットのことを見ていればこんなことには……)

 浮かびかけた嫌な考えを頭を振って追いやる。それは既に終わったことなのだから今気にしても仕方がないことだし、比企谷君もその件で少女を責めたりはしないだろう。

 そう、今優先すべきことは、無茶をした比企谷君が怪我を負っていないか確かめることだ。

 私は気を取り直して余計な思考を追いやると、先の少女に続く様に比企谷君の元へ駆け寄った。

 

 

 

 ****

 

 

 

 犬を抱いて露店の籠に背中から突っ込んだ姿勢で、俺は呆然と通りを見ていた。

 その犬は吠えられたり暴れたりしないのは助かっているが、のんきにハッハッと息を吐いてこちらの顔を舐めている。正直やめろと言って追い払ってやりたところだが、まだ碌に体を動かせないためされるがままだ。

 先ほどの暴走馬車の御者は何かが通り過ぎたことだけは察知出来たみたいで、当然ガシャンッと破砕音がしたこちらを見たが、俺と目が合うと怯えた様に顔を背け、慌てて先に行ってしまった。……おい、なんだその反応は?目が腐ってるからか。いや、残られて構われた方が鬱陶しいから別にいいんだが。

 しかし……

(やっちまった……)

 いや、犬を助けたことはどうでもいい。俺が勝手にやったことだ。だが、平塚先生から『禁じ手』と言われた技を使ってしまった。

 ……うん、禁じ手とか書くとなんか凄そうに聞こえるけど、単純に体の負担が大きいだけだからね?

 闘気の重ね掛け――それが、俺のどうしようもなくリスクが大きい奥の手だ。俺に闘気を武器に纏わせる才能が無いと理解した時に、何か別の方向からアプローチできないかと考えたものだ。闘気は身体能力を一時的に向上させることができる。なら、その状態でさらに闘気を用いて身体能力を上げることはできないのだろうか?と。

 言うまでもなく無茶である。闘気の発露自体が、そもそも火事場の馬鹿力的なもので、危機の状況に瀕した時に筋力のリミッターを外す行為なのだ。それだけでもかなり体に負担がかかるのに、それからさらに残りのリミッターを外そうと言う行為なのだから、ちょっと考えただけでもどれだけ危険なのか分かるだろう。

 初めて平塚先生との訓練の最中にこれを使ったとき、俺は遥かに各上であった平塚先生に匹敵するくらいのスピードを出したが、直後に両足が動かなくなり倒れた。後でこれの説明をしたら、平塚先生に滅茶苦茶怒られて二度と使うなと厳命されたのだ。

 ……まぁ、こっそり訓練して、なんとか準備万端な状態(体を十分に温めた上で膝のバネを十分に効かせられる状態)なら、行動不能にならなくなる程度にはすることはできたのだが、負担が大きすぎる為か一度やってしまうとしばらく闘気が使えなくなる上、失敗した時のリスクが大きすぎるからやはり自分的にも基本的に使わないことにはしていた。

 それを咄嗟に使ってしまった。いや、使わなければ間に合わなかったんだが……それでも、久しぶりに使ったせいか想像以上のスピードが出て、犬を捕まえるのがやっとだった。突っ込んだ先に露店の籠があったのは正直幸運だった。あのスピードで背中から固い石畳に激突してたらと思うと、正直冷汗が出てくる。――この後の露店への弁償額を考えても冷汗がでるけどな。

 って、いい加減他所事考えるのも限界だな。今は足の感覚がなくなっているが、間違いなくヤバイことになっている。あー、なんとかこのまま痛みが無いまま終わってくれないもんかね。

「サブレっ!」

 そんな風に現実逃避していることろに、そんな少女の声が聞こえてきた。この犬の飼い主の少女がこちらに駆け寄ってきたのだ。それに気付いた犬が俺の腕から出て飼い主の元に向かっていく。ふう、ようやく解放された。なんであんなに人懐っこいんだよ。

「サブレ……良かった。ごめんね」

 少女は目の端に涙を浮かべながら、飼い犬を抱き上げた。それから、慌てたように俺に向き直る。

「あ、あの、サブレを助けてくれて、ありがとうございます!」

「別に礼を言われる様なことじゃねえよ。俺が勝手にしたことだ」

 実際、目の前の少女(と言っても、同い年くらいだろうが)ためにした事ではない。礼を言われる筋合いなどどこにもない。

「で、でも、あの……」

 それでも納得行かないのか、何か少女が言い淀んでいる所に、遅れて雪乃もやって来た。そのまま隣の少女を無視して俺の方に駆け寄ってくる。って、マズイ!回復魔法を掛けるつもりか!?

「比企谷君、今ホイミを…」

「いや、それは止めてくれ!ちゃんと事情がある」

「え?…ええ、分かったわ」

 俺の言葉が必死だったからか、戸惑うように手を下げた雪乃にほっとする。俺の想像が正しければ、これはベホマならともかくホイミなら逆効果になる症状だ。べホイミなら大丈夫な可能性はあるが、雪乃は使えない上に確証がもてないからやはり止めておきたい。

「…って、あんた、店の品物に何してくれてんだ!?」

 そこで、事の成り行きについて来れずに呆然としていた店主が我に返って声を上げてきた。

 

 

 

 自分も払うと主張する少女の言葉を丁重に断って、雪乃に弁償を頼む。幸い直ぐに閉店する予定だったこともあり、それほど大きな金額にはならなかった。犬の飼い主の少女もその店主に事情を話し「由比ヶ浜の嬢ちゃんが言われるんなら」と原価分だけに値下げしてもらったことも大きい。つか、こいつ、なんでまだ居るの?

 雪乃と犬の飼い主が店主と交渉している中、俺は感覚が戻り激痛を訴えてきた両足を無視し、佩いていた剣を鞘ごと抜いて杖代わりにして何とか体を起こしていた。両足を地に付いているだけで激痛が走るため、剣に体重を預けていないと立っていることもままならない。あー、これは両足とも筋肉をやっちゃってるな。骨にヒビも入っているかも。ホイミを使わなくて正解だった。

 ――初めてこの技を使った時のことだ。俺は医者に通い一周間両足を使う事を禁止された。まぁ、両足とも肉離れと言う結構洒落にならん状況だったから仕方が無いのだが(むしろ一周間で治るのも魔法の治療ありきなのだが)、この時に平塚先生と医者の両名から説明された。

 肉離れのような体の内部で発生する症状をホイミで完治仕切れずに中途半端に治してしまうと、完治した際に違和感が残る危険があると言うことだ。日常生活には支障のない程度らしいが、戦闘職にとっては致命的な問題になりうる。特に俺の場合は機動力に重点を置いて鍛えていたから、両足に違和感が残るのはまさに死活問題と言えた。

 それならベホマで治せばいいじゃないかと思えるが、アリアハンでベホマのような高位回復魔法が使える程の人物はあらゆる魔法のエキスパートである陽乃さんしかいないのだ。ダメもとで頼んだところ「松葉杖ついてる比企谷君の姿が面白いから嫌♪」と極上の笑顔で断られた。見惚れる程可愛かったけど、絶対サドだろ、この人。

 因みに、ホイミがダメなのになぜ魔法の治療が可能かと言うと、医者は人の治癒力のみを高める特殊なホイミが使えるからだ。他にも風邪ひいた時とかも通常のホイミはマズイみたいで、免疫力だけを高めるキアリーとかもあるらしい。

 と言う訳で、この街にベホマの使い手が居なければ最低一週間の拘束は決定である。松葉杖を突きながらでもそれなりに動ける自信はあるが、当然だが戦闘は無理だ。ま、実際ベホマの使い手が居たとしても、ベホマによる治療は法外な値段を請求されるから、一周間滞在することを考慮しても安い宿を探せば普通に治療した方が安くつくんだけどな。

 しかし、最大の問題は――ここからどうやって移動するかと言う事だ。これ以上店に迷惑を掛ける訳にはいかんから立ち上がったけど、鞘を杖変わりにしているとはいえ立っているだけでも相当キツイ。これで歩いて移動とかマジ無理なんだけど、雪乃の力で俺を支えられるわけないし、となると誰かに医者呼んでもらって担架で運んでもらうしかないのだか……初めて訪れる街でそれやるとか、かなり無理ゲーじゃね?

 と、話が終わったのか、店主はバラバラになった籠と残っていた中身を大雑把に回収すると『じゃ、兄ちゃんも気を付けなよ』と一言残して店じまいして去って行った。

「……比企谷君、終わったわよ」

「あ、あの、ホントにすみません。あたしのせいで」

 入れ替わるようにお金の支払いを終えた雪乃と、犬を抱き上げたままの飼い主の少女が俺に話しかけてきた。

「雪乃、悪かったな。無駄な出費させて」

「仲間なら共有財産なのでしょう?なら、謝罪されるようなことではないわ」

「あー、最初に言った時の事か。よく覚えてたな、そんなこと」

「えっと、あの……」

 所在なさげに困惑した顔でこちらの反応を待っている飼い主の少女。別に無視している訳ではないが、特に言う事もないんだが。むしろ俺達に付き合ってここに残っているのが不思議なくらいなんだが。

 改めて少女の姿を観察する。肩まで届く桃色の髪で、片側だけを短く括っていう。顔は結構整っていて、雪乃程の整った美貌ではないが、目が大きく可愛らしい印象を受ける。困った様子で此方を窺っている様子はどこか小動物…ってか、犬っぽい。

 着ている服はパッと見で仕立てが良いと分かるもので、結構胸元をラフにしているから大変眼福…もとい、視線に困る。つか、抱いている犬の頭に二つの大きなお山が乗っているんだけどいいんでしょうか?……いや、そこ変われとか考えてないから。

 顔立ちが整っていて、仕立ての良い服を着ていて、ペットを飼う余裕があって、先ほどの店主の「由比ヶ浜の嬢ちゃん」と言う言葉からさっするに、間違いなくこの近所に住んでいる貴族なのだろう。だからどうだと言う訳ではないけどな。むしろ貴族にかかわるとか御免被りたい。

 相手の様子から、本気でこちらのことを心配していることも、申し訳なく思っていることも、ペットを助けたことの感謝も感じられるが、それだけのことだ。

 繰り返しの説明になる意味も込めて、俺は呆れたように嘆息してから言ってやった。

「さっきも言ったけどな、その犬を助けたのはただの成り行きだ。俺がしたかったからしただけで、お前のためじゃない。だから礼も謝罪も必要ない。ま、店の人に事情を話してくれたのは助かったけどな。どうしても気になるんならそれでチャラだ」

 こんなことで恩を売った気にはなりたくない。彼女だからしたことではないことで、礼を言われる筋合いはない。

「……そうね、彼が勝手に露店の籠に突っ込んだだけなんだから、あなたが気にすることではないわ」

 少女から微妙に離れた場所で俺の言葉に続く雪乃。なんで微妙に距離取ってんの?……やっぱ犬が苦手なのか、コイツ。

「で、でも、あたしはサブレが助かって本当に嬉しかったし、それをしてくれた人にあたしがお礼をするのって、間違ってるの?」

 俺と雪乃の言葉に、少女は少しショックを受けたようにたじろいだが、ギュッと唇を強く結ぶと、少し強い調子で言い返してきた。

 少々意外な言葉ではあった。あそこまで言った以上、適当に言葉を濁して去っていくと思ったのだが。……まあ、別に意地張って否定する様な話でもないか。

「……なんだ。まあ、礼くらいは受け取っとく」

「うんっ」

 少女は何がそんなに嬉しいのか、ぱっと笑顔に変わって頷いた。その笑顔にどうにも居心地が悪くなり、俺は誤魔化す様に顔を背けて雪乃に話を振った。

「雪乃、悪いけど医者を探してきて貰えないか?いや、なんなら宿屋でもいい。店員に事情話して金を渡せば運んで貰えるだろ」

 正直、世間に疎い雪乃一人で街を探索させるのは不安しかないが、もう時間も遅い。完全に日が暮れたらそれすらもままならないだろう。

「……剣を杖代わりにしていたから気になっていたのだけれど、そんなに酷いのかしら?」

「同じことやったことあるからな。多分、両足とも肉離れしてる」

 俺の言葉に、雪乃は一瞬驚いたように顔を歪めた。……あれ?もしかして誤解させたか?さっきの言葉じゃ以前も何かを助けるために無理をしたことがあるって思われそうだし。

「おい…」

「何をしたのかは後日聞かせて貰うとして、その……私が支えれば移動できるのではないかしら?いえ、本当はあなたに触れることには抵抗があるのだけど、以前私が倒れそうになった時も支えてくれたのだから、それくらいなら……」

 俺の言葉に被せて雪乃がそんな提案をしてくる。若干顔が赤いが、そんなに抵抗があるなら無理に提案せんでも…どうせ無理だし。

「悪い、足ほとんど動かせねぇから、支えてもらった程度じゃ無理だ。お前非力だし」

 これが逆の立場だったらこいつを抱えて移動するくらい訳ないが、雪乃の力ではそもそも支えるのも無理だ。俺が凭れ掛かったら一緒に倒れるのがオチだ。

「……そう。それなら、仕方がないかしらね」

「あ、あの!」

 雪乃が残念そうに嘆息したのと同時に、先ほどからこちらのやり取りを見ていたペットの飼い主の少女が声を上げた。

「そんなに酷い怪我だったら、何日かはここに居なきゃいけないんだよね?」

「あ、ああ。完治まで1週間は掛かるだろうな」

 俺の言葉に少女は小さく頷いて「うん、だったら…」と口の中でなにやらもごもご呟いた。と言うか、礼も終わったし、なぜまだここに居るのだろう?あ、いや待て、こいつに病院か宿屋の場所を聞けばいいのか。

「なあ…」

「あの!」

 言い掛けた俺の言葉がまた被せられる。なんなの?ぼっちには発言権が無いの?

「良かったら、あたしの家に来ませんか!?」

 え?何?出合ったばかりの男を自分家に誘うとか、こいつビッチなの?

「えと、空き部屋ならたくさんあるから、二人くらい泊めることはできるし、サブレ助けてくれたお礼もちゃんとしたいし、ママもそれなら分かってくれるし……あ、お医者さんも呼べるから!」

「いや礼なら…」

「こ、言葉だけだし!ちゃんとお礼したいから!」

 またも食い気味で被せてくる。と思ったら、今度はこちらの顔を窺うように上目遣いをしてきた。

「……お礼、受け取ってくれるんだよね?」

「う……」

 その態度に思わず言葉につまる。いや、屈んだことで余計に目立った大きな胸に圧倒されたとかじゃないから。思わず凝視しかけちゃったけど。なんか隣で雪乃が「くっ」とか言ってるけどそっちはスルーする。

 本来なら、そこまでされる義理はないと言って断りたいところだが、それはこいつのペットに対する思いをその程度ではないと勝手に決めつけてしまう事になる。それはさすがにできない。かと言って迷惑だと切って捨てるのもな……

 意見を求めるように雪乃に視線をやると、彼女は諦めたように嘆息して頷いた。……ま、仕方が無いか。

「分かった。そう言う事なら世話になる」

「ホント!?じゃあ、早速案内するからっ」

 俺の言葉に、少女の不安そうな顔が一転笑顔になる。本当にコロコロとよく表情が変わるな。礼ができるだけでこれだけ喜べるとか……きっと、性根が優しい少女なのだろう。それから、少女は「あっ」と声を上げて慌てて頭を下げてきた。

「ごめんなさい、自己紹介がまだだったよね。あたし、由比ヶ浜結衣って言います。よろしくね」

「あ、ああ。俺は比企谷八幡だ」

「私は雪ノし……雪乃よ」

 少女、改めて由比ヶ浜の勢いに気圧される様に思わず名乗り返す俺と雪乃。由比ヶ浜は雪乃の名乗りに一瞬怪訝そうな顔をしたが、すぐに気を取り直したように笑顔でになった。……苗字を聞かれたくないと察せられる程度には気を遣えるのだろう。雪乃が貴族であることくらいは風貌を見れば簡単に察せられるからな。

「比企谷八幡に雪乃か……じゃあよろしくね、ヒッキー、ゆきのん」

「「は?」」

 頭の悪そうな呼び名に、俺と雪乃の声がハモる。え?なに?ヒッキーって俺の事か?引きこもりって言いたいの?

「え?比企谷だからヒッキーで雪乃だからゆきのんなんだけど…ダメだった?」

「うっ……」

 あまりに不安そうに聞いてきて、言葉に詰まる。こ、断り辛え……どうせ短い付き合いだろうし、気にするほどのことじゃないか。

「あー、わかった。好きに呼べよ」

「……そうね。構わないわ」

 雪乃もちょっとした葛藤があったみたいだが、俺が認めたこともあって諦めたようだ。

「うんっ。よろしくねっ、ヒッキー、ゆきのん。あたしのことは結衣でいいから」

 それだけのことで、由比ヶ浜は本当に嬉しそうな笑顔になった。ころころ表情が変わるところといい、人懐っこい気安い性格と言い、さぞ周りから愛されてきたのだろう。うん、なんと言うか、俺や雪乃と違ってリア充っぽい。

「ま、よろしくな、由比ヶ浜」

「よろしくね、由比ヶ浜さん」

「二人とも他人行儀だ!結衣でいいって言ったのに」

 いや、実際他人だし。そこでショックを受ける理由が分からん。

「それじゃあ、早速案内するね」

「待て待て、俺動けないんだけど」

 由比ヶ浜はすぐに気を取り直して、自然に俺の手を取ろうとして来たので、慌てて遮った。俺今両手とも剣で体支えてて塞がってるから。と言うか、ナチュラルに距離詰めてくるとか勘違いしそになるんで止めて欲しいんだけど。

「そうね、出来れば人を呼んできて貰えないかしら。後、担架のような物があると助かるのだけれども」

 雪乃が少し焦ったように割って入って来てフォローする。って、お前も近えよ!対抗してんの?

「え?う~ん、でも直ぐ近くだし、メイドさんも帰っちゃってる時間だし……」

 由比ヶ浜はしばらく考えこんだ後、良いことを思いついたと顔を上げた。

「じゃあ、あたしとゆきのんで支えて行こう?それなら大丈夫だよね」

「「は?」」

 本日二度目のハモりである。いや、何が大丈夫だと言うのか?

「ヒッキー、ちょっといい?」

 由比ヶ浜は抱えていたペットを下ろしてリードを右手首に通すと、俺が答える前に俺の右隣に来ていきなり俺の肩を支えきた。いや、近いし!つか、体こっちに向けてるから当たってるから!?

「ちょっ……」

「ほら、ゆきのんは反対側お願い」

 俺の抗議の声を遮って、由比ヶ浜は雪乃に呼びかけた。先ほどから俺の発言無視され過ぎじゃないですかねえ…

「え?ええ……ではなくて、由比ヶ浜さん、それはその……」

 雪乃も珍しく状況に付いていけずにおろおろとしている。あ、もしかしたら自由になった犬が怖いのかもな。さっきから足元をちょこまか動き回って普通に邪魔だし。

「大丈夫だよ。あたし、こう見えても騎士見習いだから、それなりに鍛えてるし」

 そうなのか、意外……でもないな。ロマリアの貴族の子女は騎士養成学校に通うのが定例だとか雪乃も言ってたし。多分、その程度の理由で騎士養成学校に通っているのだろう。

「あ、ゆきのんが無理そうなら、何ならあたし一人で背負って……」

「そうね、こちら側は私が支えるわ」

 何故か急にやる気になって俺の左側に寄り添ってくる雪乃。って、なんで急にやる気になってるの?!……こっちは当たらないな。

「……比企谷君?」

「いや、何でもないですよ?」

 途端に絶対零度の視線で睨まれて思わず敬語になる。……なんでこう言う事ばかりやたらと鋭いのか。

「あ、ヒッキーも大丈夫なんだね。それじゃ、行こっか。あの道をまっすぐ行けばすぐだから」

 俺の言葉を絶妙に勘違いした由比ヶ浜がそう言って促した。さっきまで遮られてばっかりだったのに、なんでこんな時だけ都合のいい様に解釈されて伝わるのか。やはり俺のコミュニケーションは間違っている。

 ……と言うか、肩支えられても結局足を使わなきゃならんからキツイことには変わりないんだが。分かってるのか、この二人は?そりゃ、少しは楽になるけど。

「じゃあ行こう、ヒッキー、ゆきのん」

「そうね、行きましょうか」

 が、その気になっている二人の空気に今更水を差せる訳が無った。

(……ま、痛みには慣れてるから我慢できないことでもないしな)

 キャンキャンとのんきに吠えてチョロチョロ走り回っている犬(サブレだっけ?)を、少しだけ恨みがましい視線で一瞥してから、俺は覚悟を決めて足を進めた。

 




ようやく由比ヶ浜が登場。
怪我の治療に関してかなり強引な理屈にしましたが、あまり突っ込まないで頂けると助かります。
いや、怪我で入院とかしても『魔法で治せば?』になるし…

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