やはり俺のDQ3はまちがっている。   作:KINTA-K

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平塚先生と陽乃さん登場と、八幡が偽物扱いされている説明回。
読み返すと平塚先生の立場で八幡の旅立ちの日を認識していないのは明らかにおかしいけど……わざととぼけたと言うことで。


2話

 

 王様との謁見を終えた俺は、まだ城内に留まっていた。

 周囲の俺を見る目がウザイ。明らかに『あの出来損ないの…』とか言いたげな視線を向けてくる。てか、実際言われてる。いつものことだから気にしないけどな。一方で小町は勇者として羨望の視線を向けられるまである。うん、お兄ちゃん、憧れまでは許すけど色目なんて使ったりしたら絶対に許さないリストに入れるから覚悟しておけよ。

 一応、勇者オルテガの息子として結構城には来ているが、俺に対する周囲の反応は昔からこんなものだった。

 いや、少し違うか。俺が魔法を使えない、と判明してからか。もの心ついた時には魔法の適性テスト受けてるから、それ以前の記憶などないが。

 勇者には魔法の素質が必要になる。まあ、当然のことだ。勇者にしか扱えない雷の魔法があるのだから、逆説的に魔法が使えない時点で勇者ではないと言うことになる。

 俺が魔法を使えないと判明した時の周囲の落胆は途轍もなかったのだろう。なまじ勇者オルテガの息子として期待されていた分、なおさらだ。だから、これは仕方がないことだと認識している。

 …そう、だから仕方のないことだ。魔法の素質を持ち、ライデインさえ覚えて勇者として証明して見せた小町に重責が掛かるのも。正直、自分が魔法を使えないことで一番辛い思いをしたのは、周りからの侮蔑の視線よりも周りの期待に押しつぶされそうになる妹を見ることだ。小町は周囲の期待に応えられるだけの才能を持ってはいたが…まだ齢14の少女に過ぎない。そんな少女に、周囲は勇者としての重い期待を与え続けている。時折、小町は俺にべったりと甘えてくるが、そう言った周囲の環境も影響しているのだ。

 さらに言うなら、この国で貴族階級に――騎士や文官になるためには魔法が使えることが必須となっている。つまり、城には魔法が使える者ばかりだ。魔法が使えない俺が出入りしているだけでも城に勤めている者にとっては噴飯ものだろう。

 結果として、俺は失格者の烙印を押され、気づいたら国中で『偽物』勇者と嘲笑されるようになった訳だ。なにそれ、笑えない。

 とにかく、こんな状況だから普段なら用が済んだらさっさと城を出ていく俺が、まだこんな処に留まっている理由は、旅立つ前に挨拶くらいはしておかなければならない相手がいるからだ。この時間なら城の詰所にいる筈だ。

 俺が詰所に行くと、目的の相手は机の前で書類を眺めていた。幸い、他の騎士の姿はない。俺も彼女も誰がいても気になどしないが、最後の挨拶くらいは邪魔者がいない状況でしたかった。

 彼女は俺に気づくと、長い髪を靡かせながら、実に様になる仕草で振り返った。

「おお、どうした比企谷。城に来るとは珍しいな」

「どうも。呼び出されたんですよ、平塚先生」

 この国で、俺が心を許している数少ない相手――平塚静が意外そうにこちらを見ていた。

 

 

 

「そうか、お前も16歳か……」

「ええ。それでまぁ、旅立つことになったんで、最後に挨拶でもと」

 平塚先生は「16歳なら大人…なら比企谷でも…」とかぶつぶつ言っていたが俺には何も聞こえていない。…平塚先生、確か20代半ばぐらいだったよな。20過ぎたら行き遅れって言われるくらいだから、焦るのも無理はないと思わんでもないが。

 この人、なんで美人なのに相手がいないんだろうなー?理想が高すぎるんだよな…旅に出る俺じゃ無理だから、誰か貰ってやってくれませんかねぇ…

 俺の腐った視線に気づいたのか、平塚先生は誤魔化す様に一度咳払いした。

「コホン。とにかく、お前もついに旅立ちの日を迎えたと言うことか…いや、迎えてしまったというべきか」

「どっちでも同じですよ。まぁ、俺が多少はマシな状態で旅立つことができるようになったのは平塚先生のおかげなんで、感謝してますよ」

「…比企谷…別に、私は当然のことをしただけだよ」

 その当然がどれだけありがたかったのか、この人は分かっているのだろうか…分かってもらいたくは無いが。

 俺は出来損ないだが、それでも勇者の息子として城の管理の元で訓練を受けることになっていた。そのことは糞オヤジこと勇者オルテガの願いでもあるため、俺が出来損ないであっても放り出すことはできなかったらしい。俺は予定通り王国の練兵所で訓練を受けることになったのだ。

 だが、訓練を受けさせはしても教官がまともでなければ結局同じである。7歳から訓練を受けさせられていた俺は、俺の才能を見限っていた教官に放置され、周囲の騎士たちの訓練を横目で見ながら見よう見まねでただ木刀を素振りしているだけだった。基本的には楽がしたい俺だが、小町のために強くなりたいと思っていた。だが、思っていてもまともに指導してくれる大人は何処にもいなかったのだ。

 それが変わったのは6年前のこと。平塚静がある人の手引きでアリアハンに訪れてからだった。

 彼女はかつて勇者オルテガに助けられたことがあり、彼の出身地であるアリアハンに興味を持っていて、丁度いいとやってきたらしい。彼女は魔法は使えないが、反面武術の才能がすさまじく、二十手前にしてバトルマスターの称号を得た凄腕の戦士だった。実際、ただ魔法が使えるだけの城の騎士など、束になっても彼女にはかなわない。

 アリアハンは士官に来た彼女を騎士にさせることはできなかったが、その能力を手放すのも惜しいと思ったようだ。特例で、彼女を接近戦の教官として城に迎え入れた。当初彼女は俺の訓練を担当する予定ではなかったのだが、俺の教官が俺を放置している所を見て、勝手に俺の訓練を担当することになった。それを国に諌められた時に「それならアリアハンを出る」とまで言い、止められたらしい。後の話なのだが、なぜそこまでしてくれたのかと聞くと、彼女は笑って「強くなろうと願う者を放置することは、私の信条に反するからだ」と言っていた。ヤバイ、男前すぎて惚れそうになる。

 それから、俺はようやくまともな訓練ができるようになり、さらに他にも色々と助けてもらったおかげで、少しはマシな状態で今日の日を迎えることができるようになった。いくら感謝してもし過ぎるということはないだろう。

「ま、それと感謝は別なんで、もらっておいて下さい」

「そうか…」

 俺の言葉に、平塚先生は苦笑を浮かべ、それから何かを考え込むように俯いた。一応、心配してくれているのだろう。戦闘技術や生きる術を多少身に着けたところで、俺が出来損ないであることには変わりない。もしくは、悔い、か。彼女の望むところまで、俺を鍛えきれなかったことの。もっとも、それはどこまで行っても才能のない俺自身の問題であり、彼女の責任ではない。むしろ平塚先生はその状況でベストを尽くしていたとさえ思う。

(ま、仕方ないか。俺は、平塚先生に恩を仇で返すような真似をしたのだから)

 言えば、彼女はきっと否定する。だが、事実だ。俺の才能の無さが、彼女の誇りの一部を確実に傷つけた。それは、俺を鍛えてくれた彼女に対する仇だ。

「なあ、比企谷。お前が望むなら、私は……」

 だから、彼女はそれを気に病む。だから、彼女は決して言ってはならないことを言おうとする。だが…

「やっはろー、比企谷君っ」

 それは、俺がとめるまでもなく、横から割って入ってきた場違いな程明るい声によってあっさりと遮られた。

「……陽乃か」

「……陽乃さん」

 振り返った先には、アリアハンに平塚静を連れてきた張本人、アリアハン最強の賢者、雪ノ下陽乃が仮面の笑みを張り付けて立っていた。

 

 

 

「しかし比企谷君もこれで大人の仲間入りかー。どう、大人になった感想は?」

「俺にとっては昨日からただ1日経っただけですね」

「うんうん、比企谷君ならそう言うと思っていたよ」

 ウゼェ…妙なテンションでこちらの顔を覗き込んで絡んでくる陽乃さんにげんなりする。対照的に、平塚先生は苦虫を噛み潰したような顔で黙り込んでいる。

 と言うか近い近い!なんでこの人いつも平然と距離詰めてくるの!?勘違いして惚れてしまいそうになるのでマジで止めて欲しいんだけど。

 雪ノ下陽乃。彼女は…まぁ、一応、彼女も俺の恩人とは言えなくもないが、ぶっちゃけ、苦手な相手だった。常に明るく社交的で、誰もが彼女を素晴らしい人物だと誉めそやすだろう。だが俺にはそれが仮面にしか見えず、その裏で何かを企んでいるような影を感じ取ってしまい、どうにも苦手なのだ。後、やけに絡んでくるのも苦手だ。あれだ、勘違いして告白したら笑い者にされる奴だ。

 そして、彼女について特筆すべきことは、この国の大きな派閥の1つを築いていることだ。雪ノ下家、の派閥ではない。雪ノ下家はアリアハンでも指折りの力をもつ貴族だが、彼女はその家の派閥から離れ、賢者陽乃として一人で大きな派閥を持っている。そんな我儘が許されるほど、彼女は優秀な賢者だった。既にイオナズンが使えるあらゆる魔法のエキスパートと言う時点で(さらに平塚先生を抱え込んでいることも踏まえて)察してほしい。特技にイオナズンとかかけるとか、ガチで羨ましいんだけど。と言うか、もうこの人が魔王バラモス倒して代わりに魔王を名乗ればいいんじゃないかな。

「で、比企谷君はこんなところでのんびりしてていいのかな?早くルイーダの酒場に行って仲間になってくれる人を探さないといけないんじゃないの?」

 そんな事を考えている俺をよそに、彼女はそんな驚愕の提案をしてきた。それ、絶対俺がぼっちなこと解ってて言ってるよね…

「別に俺ぼっちなんで。一人の方が経験値ウマーだし」

「でも比企谷君は魔法が使えないでしょ?一人ぼっちだと絶対途中で挫折すると思うんだけどなー」

「遺憾ながら、それに関しては私も陽乃と同意見だ。せめて一人だけでも仲間は探した方がいい」

 俺の弱い反論は陽乃さんどころか平塚先生にまで諌められてしまった。いやでも、酒場に言って見ず知らずの人をいきなり旅に誘うとか、難易度高過ぎなんですけど。

「そこは…まぁ、常日頃から鍛えたぼっち力でどうにかします」

「ぼっち力って何?」

 やっぱり比企谷君は面白いねと言って笑う陽乃さん。それから少し真面目な顔になり、言い含めるように続けた。

「とにかく、比企谷君は絶対にルイーダの酒場に行くこと。もし行かなかったら……どうなるか分かるよね?」

 え?どうなるの?ハチマン、分からない…

 うすら寒いものを覚え困惑する俺を、陽乃さんはつま先から頭までざっと見渡してから言った。

「まだ出発の準備もできて無いみたいだし、時間無いんでしょ?ほら、早く行った行った。比企谷君、約束は守ってねー」

「別に約束なんてした覚えはありませんが…分かりました」

 陽乃さんに追い立てられるように部屋を出ようとする。まあでも、正直、さっきは遮ってくれて助かった。平塚先生がさっき何を言おうとしたのかは見当が付いている。それは絶対に言わせてはいけないことだ。

 部屋を出る直前で振り返り、俺は最後に二人に頭を下げた。

「平塚先生、陽乃さん…小町をよろしくお願いします」

「…っ、あ、ああ。当然だ」

「勿論、小町ちゃんも可愛いからねー」

 平塚先生は一瞬酷く寂しそうな顔をしたが、すぐにいつも様子に戻り力強く断言した。陽乃さんはいつも通りの様子であっけらかんと言ってくれた。

 これで、いい。この二人になら、小町を任せられる。何せこの二人は、2年後に小町が旅立つ時、魔王退治の旅に付いていくことが決まっているのだから。

(もう少し話してもよかったが…これくらいの方が俺らしいな)

 少しだけ後ろ髪引かれる思いを感じながら、俺は踵を返して部屋を後にした。

 

 

 


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