やはり俺のDQ3はまちがっている。   作:KINTA-K

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13話

「これが、いざないの洞窟の封印……」

 文字通り道を塞いでいる壁を見つめて、雪乃が呟く。

 レーベを出て3日後、俺と雪乃はいざないの洞窟まで来ていた。

 因みに、いざないの洞窟からすぐの場所に通称いざいないの街と呼ばれる中継点があるのだが、特に用は無かったのでスルーしている。物流の中継点見たいな場所で封印される前はそれなりに賑やかな街だったと言う話だが、ロマリアとの交流がなくなった時に住民のほとんどはレーベに移住したため、ほとんどゴーストタウンみたいになっているのだ。一応、町を通りがかったものの、建物は並んでいるのに人気が無いのがかなり不気味で宿も取らずにさっさと通り過ぎてしまった。

 それはともかく、ついにここまで来た。アリアハンの封印を解く――俺が、唯一国に期待された仕事だ。これを終えたら俺は正真正銘アリアハンにとって用済みになるのだが、こっちも戻るかどうか分からん国に思う所なんてない。

「雪乃、下がってろ。今から封印を解くけど、何が起こるか分からないからな」

「分かったわ」

 素直に一歩下がる雪乃を見届けてから、俺は魔法の玉を取り出した。手のひらサイズの黒い球体を握りしめて、封印を解くと念じる……って、念じるとか具体的にどうやるんだよ。封印を解くって思えばいいのか?

「……比企谷君、それ」

「うおっ、なんか光りだしたぞ」

 雪乃に指摘されて、黒い球体が淡く光りだしたことに気付いた。……変化があったってことは、これでいいんだよな?

 そう判断した俺は、大きく振りかぶって封印の壁に向けて、魔法の玉を投げつけた。

 魔法の玉は俺の投げた力に従って壁にぶつかった途端、目を焼く様な白い閃光を発した。あまりの光の強さに反射的に目を閉じてしまう。直後――

 ドォォォォン!

 耳をつんざくような轟音が鳴り響き、凄まじい爆風が俺達を襲って来た。

「…くっ!」「きゃっ!」

 咄嗟に後ろに居る雪乃をかばう様に前に立ち、雪乃の両肩に手を置いて下手に動かない様に押さえ付けながら、爆風に対して背中を向ける。強い爆風が背中を襲ってきたが、なぜか壁の破片などが飛んできたりはしなかった。

 それからどれくらい経っただろうか?爆風が収まったのを感じて振り向くと、奥まで続く洞窟の道がぽっかりと広がっていた。交易に使っていたことも納得できるくらい広く、天井が高い。そして岬の洞窟と同じように洞窟全体がぼんやりと光っているため、視界はそれなりに良好だ。この先にある旅人の扉自体が大昔の魔法技術の産物であるため、当然、この洞窟も大昔から存在しているから、岬の洞窟と同じように洞窟が光る仕掛けが施されているのだろう。

「……あの、比企谷君。その、肩を」

 そう言えば肩を押えっ放しだった。慌てて手を放して開放する。やべ、結構力入ってたかもしれん。

「あっ、わ、悪い。痛かったか?」

「いえ、その……私を庇ってくれたのよね?なら、むしろ私が礼を言うべきだわ。ありがとう、比企谷君」

「お、おう」

 素直な礼の言葉に、思わず言葉を噛んでしまう。いや、雪乃は結構素直に礼を言うようになった気もするのだが、なぜだか未だになれない。

 雪乃もなぜか顔を合わせない様に俯いていたが、やがて気を取り直したように顔を上げると、洞窟の奥へと視線を向けた。

「それにしても凄いわね。あの壁はかなりの質量を持っていたと思うのだけれど、それは一体どこに行ったのかしら?」

 あの爆発を前にして最初に疑問に思う所はそこなのか?いや、確かにそこも相当不思議だけど。

「……まあ、精霊の力って話だし、不思議なことの一つや二つくらい簡単に起こせるんだろ、多分」

 雪乃の疑問に適当に答える。俺としてはあの爆発の演出は本当に必要だったのか甚だ疑問ではあるが。精霊の悪戯って訳じゃないよな?だとしたら、演出過剰にも程があるだろ。

 とにかく、無事に封印は解かれた。この道を進めばロマリアへと続く旅人の扉にたどり着くはずだ。雪乃に目配せして彼女が小さく頷いたのを確認してから、俺は洞窟へと足を踏み入れた。

 

 

 

「結構道が荒れてるな」

「そうね、これでは道を整備しないと馬車で通ることは困難よ。ロマリアとの交易の再開はもう少し時間が掛かりそうね」

 洞窟には石畳が敷き詰められていたが、何か所かひび割れて穴が開いていた。雪乃の言う通り、これでは馬車はまともに進めない。まあ、アリアハンからは封印されていたから整備できなかったし、ロマリアだって封印されている洞窟を整備する義理など当然なく、そんな状態で10年も放置されていたのだから当然と言えば当然だが……少々疑問もある。

「でも、大昔の魔法の技術で作られた洞窟がたかだか10年近く放置されただけでこんな風になるもんなのか?」

「それは違うわ。確かに、洞窟自体はアリアハン建国以前から存在していたのだけれど、洞窟の道を石畳で整備したのはアリアハンが建国されてからよ」

「そうなのか?」

「ええ。それを手掛けたのが雪ノ下家よ。それもあって、雪ノ下家はロマリアとの交易を優位に進めることができて、最終的にはほぼ独占するようになったの」

 そんな会話をしながら洞窟を進む。今日もユキペディアさんは絶好調だな。

 しばらく進むと、複数の魔物が行く手を塞いでいた。一本道であるため逃げ場は無く、向こうもこちらにすぐに気づき、殺気を向けてくる。

 お化けアリクイ3体が手前に居て、それから少し奥にサソリ蜂が2匹とアルミラージが1体いる。サソリ蜂はアリアハン大陸にも生息する魔物だが、お化けアリクイとアルミラージは初めて見る魔物だ。確か、アルミラージはラリホーを使ってくるんだっけか?

「比企谷君?」

「雪乃は後ろで控えてろ」

 初めて戦う魔物に多少は緊張しないでもないが、大して強い魔物ではないと聞いている。警戒し過ぎる必要は無いだろう。

 鋼の剣を抜き、お化けアリクイに向かって駆ける。お化けアリクイは向かってくる俺に対し、長い舌を鞭のように撓らせて攻撃しようとした。…大アリクイと攻撃パターンは同じだな。これなら対処は簡単だ。

 さらに加速して相手の攻撃の内側に入り込み、鋼の剣を一閃する。お化けアリクイの首が落ちるのを見届ける前に、すぐさま残りの2体に斬りかかる。抵抗させる間なんて与えるかよ。

 3体のお化けアリクイを瞬く間に倒した俺は、両足に闘気を使い、一気に奥に居た魔物との距離を詰めた。次の標的はラリホーが厄介なアルミラージだ。魔法を使われる前に仕留める!

 闘気を使った高速移動でアルミラージへと向かう間に、サソリ蜂が一匹割り込んできた。別に驚く要素は無く、最初からこちらに向かって来ていた相手だ。下から鋼の剣を振り上げて迎撃し、そのまま振りかぶった姿勢でアルミラージの目前に肉薄する。が、それと同時にアルミラージが「キィー!」と奇妙な鳴き声を上げて、角から煙のようなものが噴き出てきた。

 俺はその煙に見覚えがあった。魔法の訓練で陽乃さんに掛けられたことがあったから分かる。これは、ラリホーの魔法だ!

(マズイっ!)

 真正面から踏み込んだ俺は、まともにその煙に突っ込んでしまった。急速に遠くなる意識を繋ぐように全身に闘気を漲らせ、アルミラージを斬りつける。闘気によって強化された力で振り降ろされた俺の剣は、呪文を唱えて硬直しているアルミラージを容易く両断した。術者が居なくなったことでラリホーの煙が消える。陽乃さんが使った時は、もっと広い範囲に煙が広がっていたから完全に広がる前に潰すことは出来たようだが、それでもすでに掛けられた効果は消えない。

(闘気を…漲らせて、いるのに……意識が……)

 闘気は魔力と反発する。だから、闘気を漲らせれば魔法に対して抵抗できる筈なのだが、ほとんど効果があるように感じられない。――陽乃さんは、俺は特に魔法に対する抵抗力が弱いと言っていた。だから、魔法には気を付けるようにと。

 これは、完全に俺のミスだ。つい、一角ウサギを相手にするような調子でアルミラージに向かってしまった。恐らく、俺がお化けアリクイを倒している時にはラリホーを使う準備をしていたのだろう。だから、俺の突進と魔法の発動が重なってしまったのだ。

(く……そ……)

 急速に襲い掛かってくる睡魔に必死で抵抗しながら……ふともう一体サソリ蜂がいたことを思い出した。

 ふらつきながら振り返ると、俺を無視して雪乃の方に向かっていくサソリ蜂の姿が視界に入った。

 

 

 

 ****

 

 

 

「……っ!」

 こちらに向かってくるサソリ蜂を見て、私は思わず息を飲んだ。

(まさか、比企谷君が仕留めそこねるなんて……)

 今までは一度も無かったことだ。手前にいる敵を片づけて、闘気を使って残りの相手との距離を詰めて片付ける。アリアハンでは、比企谷君はその戦法で難なく魔物を撃退していたし、今回も当然そうなるものだと思っていた。

 前衛のお化けアリクイを瞬く間に片付けて、その勢いで残りの相手に向かう。その時点で私はもう勝負はついたと気を抜いてしまった。――比企谷君が、アルミラージのラリホーの煙を受けて、ふら付くところを見るまでは。

 そちらに気を取られて、そして気づいたらすぐ近くまでサソリ蜂が接近していた。……私が気を抜かなければメラで迎撃も出来たのに、ここまで近づかれたらそれも間に合わない。

「くっ」

 向かってくるサソリ蜂に向けて、私はほとんど反射的にひのきの棒を振り上げていた。同時に、これを渡してきた時の比企谷君の言葉を思い出す。

『もし、敵が接近して来たら、敵に当てない様にひのきの棒が自分と敵の間に来るように振り回せ』

『でも、それでは敵を倒せないわ』

『むしろ倒そうと思うな。接近戦の訓練を積んでない奴が武器で魔物を倒せる訳ないだろ。武器で倒すのは俺の仕事だ。お前は少しでも時間を稼げばいいんだよ。その間に俺が駆けつけて敵を倒せばいいんだからな』

(……当てない様に、敵の目の前でひのきの棒を振り回す)

 ひのきの棒の先端をサソリ蜂に向けて8の字を書く様に小さく振り回す。サソリ蜂はひのきの棒にぶつからない様に、その場に動きを止めた。

 滞空しながら左右に移動するサソリ蜂に向けて、こちらも先端をサソリ蜂に向けるように移動しながら、兎に角振り回す。お世辞にも、格好のいい戦い方とは言えないだろう。でも、これでいい。私のすべき事は時間をかせぐことなのだから。

 サソリ蜂はしばらく左右に飛んでいたが、やがて焦れたように上方に飛んだ。この洞窟は天井が高い。高い位置まで飛ばれたら、簡単に頭上を取られてしまう。

「あっ!」

 急に縦に動かれたことで、私はとっさに反応できなかった。そんな私に対し、サソリ蜂は尻尾の針を向けて、まっすぐに急降下してくる。私は思わず目を閉じて衝撃に備え――

 ズドッ!

 突如として飛来してきたナイフがサソリ蜂を貫き、サソリ蜂はそのまま絶命して墜落した。

 

 

 

 ****

 

 

 

 口の中に血の味を感じながら、俺は無事にサソリ蜂を仕留められたことに安堵していた。

 サソリ蜂が雪乃に向かっていったのを見た俺は、睡魔に耐えるために咄嗟に下唇を思い切り噛み千切り、その痛みでなんとか睡魔を退けたのだ。雪乃の纏う魔術師のローブならサソリ蜂の針くらい防げただろうがその衝撃は受けただろうし、ローブで覆われていないところを攻撃されていたら最悪だ。本当に間に合ってよかった。

 ひのきの棒を振り回して疲れたのか、肩で息をする雪乃に駆け寄る。

「比企谷君…」「スマンっ!雪乃」

 俺に呼びかける雪乃の声と、俺の謝罪の声が重なった。意外そうにこちらを見る雪乃に、俺は言葉を続ける。

「勝ちを焦った俺のミスだ。アルミラージがどのように魔法を使うのか、確認しておくべきだった」

 例えば、アリアハンに生息するまほうつかいと呼ばれる魔物なら、杖の動きを見ることで魔法に対して反応できる。アルミラージがラリホーを使うことは知っていたのだから、警戒しておくべきだった。知らず内に慢心していたのだろう。自分が出来損ないってことくらい十分理解しているのに、馬鹿か俺は……

「いいえ、私が気を抜いていなければ魔法で迎撃出来たわ。私も悪かったのよ」

 雪乃は首を振ってそんなことを言ったが、そもそも魔法を無駄打ちをするなと制限させていたのも俺だ。そのことで雪乃が自分を責めるのは間違っている。

「それに、私も初めて敵と接近戦……あれをそう呼んでいいのかは分からないけど、間近で戦うことが出来たわ。その経験は必要なことよ」

「俺は、それを実際に戦闘で役立たせるつもりは無かったんだけどな」

 ひのきの棒による自衛は、本当に最後の最後の手段だ。大体、魔法使いが(雪乃は賢者だが)敵に接近された時点でパーティとしては負けだと言ってもいい。

「それでも、それは……って、比企谷君!血が」

 突然雪乃が驚いたように声を上げた。同時に、俺も唇の左端が濡れた様な感触に気付く。手の裏で拭うと血が付いていた。先ほど下唇を噛んだ時の血が、まだ止まっていないのだろう。ま、しばらくすれば止まるから気にすることでもない。

「ああ、これくらい大したことないから……」

 大丈夫だ、と告げる前に、不意に雪乃が俺の左頬に手を伸ばしてきた。…って、顔近っ!

「お、おいっ」

「動かないで」

 そう言われて、思わず硬直する。そんな俺の左頬に、雪乃はいたわる様に手を添えた。左頬を通して、雪乃の手のひらの柔らかい感触が伝わってくる。って、そんなことされると勘違いしちゃいそうになるんですけど!?

「ホイミ」

 俺の動揺をよそに、雪乃が呪文を唱えた。同時にまだ少し残っていた痛みが消えて、下唇の傷がふさがり出血が止まった。

 ……って、これくらいの傷にホイミは勿体無いだろ。まあ、原因が俺の失策だし、感謝しない訳でもないが、それでも一言くらい注意しない訳にはいかない。そう思い、口を開きかけて……、

「初めて、あなたにホイミを使うことができたわ」

 俺の頬から手を放し、嬉しそうに微笑む雪乃に、文句の言葉を飲み込んだ。

 くそっ、その笑顔は卑怯だろっ……!

 

 

 

 その後は大して問題なく進んだ。アルミラージも、角から魔法がでると分かってしまえば対処は簡単だった。横から回り込めばいいし、そもそも投げナイフで倒してしまえば問題は無い。

 順調に洞窟を進み、大体一時間後くらいに旅人の扉にたどり着いた。

「これが、旅人の扉か」

「……綺麗ね」

 雪乃が魅入ったように溜息を吐く。確かに、幻想的な光景だった。常に波紋を広げている泉から青白い光が立ち上っている。あれは実際には泉ではなく魔力の重なりによる縞だと言われているが、波打っているように見えるそれは、泉と言う表現がしっくり来た。

「比企谷君は、旅人の扉を使ったことはあるのかしら?」

「さすがにねえよ。アリアハンにある旅人の扉はここだけだしな」

 旅人の扉は世界で何か所か確認されていると言う話だが、アリアハンにはここにしかない。アリアハンを出たことがない俺に使った経験などある筈が無かった。

「そう、初めて同士と言う訳ね」

 その言い方は誤解を招きそうなんで止めて欲しいんですが。と言うか、なんでちょっと嬉しそうなの?

「……行くぞ」

「そうね。折角だから、同時に旅人の扉に入りましょう」

「何が折角なんだよ。別にいいけどな」

「どうして素直に『ご一緒させてください』と言えないのかしら?」

「おい、なぜ俺が卑屈になる必要があるんだよ」

「可愛い女の子と初体験できるのだもの、むしろ頭を下げてお願いされるくらいだと思うのだけれど」

「……その言い方は誤解を招くから他所ではするなよ、絶対だぞ」

「……?分かったわ」

 軽口を叩き合いながら旅人の扉に向かう。

 

 そして、俺達は並んで旅人の扉に足を踏み入れた。




アリアハン編完結…ではなく、次回は13.5話になります。その後、舞台裏話を挟んでロマリア編になります。
ロマリアでようやく二人目の仲間になるヒロインが登場します。誰かはここで書かなくても分かると思いますが。

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