やはり俺のDQ3はまちがっている。   作:KINTA-K

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12話

 程なくして、魔法の玉を持つと言う老魔法使いの家についた。以前レーベに来た時に場所は確認したてから迷わずこれたが、その時はこっちも時間に余裕が無かったから会わずじまいだった。まあ、ナジミの爺さんの兄と言うのならそれほど取っ付き難いと言うことはない…と願いたい。一応、爺さんの手紙ももってるし大丈夫とは思うが。

 宿決めも買い物もさっさと終わらせたため、時間はまだ3時前くらいだ。叶う事なら今日中に魔法の契約までやってしまいたい。

「比企谷君、ここが例の老魔法使いの家なのかしら?」

「ああ、間違いない…筈だ。俺も実際に訪ねるのは初めてだから少し自信ないけどな」

 とりあえず玄関に向かい、ドアノブに手を伸ばす。…何というか、初めて訪ねる人の家って緊張しちゃうよね。にこやかに「すみませーん」とか言いながら入っていくとかぼっちには難易度が高すぎるんだけど。ナジミの爺さんの時は、丁度小屋から出てきた時に出くわしたから問題なかったんだが。

「どうして固まっているのかしら、比企谷君?」

「よし、雪乃。役割分担だ。俺が玄関を開けるから、そしたらお前が声を掛けてくれ」

「……それは、本当に必要な役割分担なのかしら?」

「当たり前だろ。あれだ、辛気臭い男の声よりも、可愛い女の声で声を掛けられた方が気持ちがいいに決まってるだろ」

「かわっ……そ、そう。それなら、仕方がないかしらね」

 自分で自分を可愛いとか平然と言ってたのに、なぜそこで焦る。ちょっと可愛いと思っちゃっただろ。

 まあとにかく、無事声を掛ける役割を雪乃に押し付け……もとい、分担したので、今度こそドアを開けようと取っ手を…

「その、ちょっと待ってくれないかしら、比企谷君」

「何だよ?」

「私は貴族として一通りの社交界のマナーを修得しているのだけれども、その中に見知らぬ人の家に訪ねる時のマナーは無かったから……あの、何て声を掛ければいいの分からなくて」

「すみませーんとか、適当に声掛ければいいだろ」

「適当に、では済まされないわ。人との関係は第一印象で9割決まるのよ。何か失礼があってからでは遅いわ」

 こいつ、面倒くせぇ……なぜそんな些細な事に拘るのか。俺なんて最初から印象悪いから、何言っても変わらないから寧ろ何も言わないまであると言うのに。

 と言うか、俺が言うのもアレだが、その程度それなりに人と親交があればその場の流れで無難にできるのでは無かろうか?薄々気づいていたけど、雪乃もやっぱりぼっちなのか。もしかして、俺のパーティ、コミュ力低すぎ……?

 それはともかく、適当でない声掛けなんてぼっちの俺に分かる筈がない。まあでも、こんな時にこいつを乗せる言葉くらいなら知っている。

「ふぅん、怖いのか?」

「……馬鹿にしないで貰えるかしら。そうね、ただ声を掛けるくらい簡単な事よ。安心して任せなさい」

 自分で挑発しておいてアレだけど、たまにこいつのチョロさが不安になる。が、まあ結果オーライだ。

「よし、なら開けるぞ」

「……ええ」

 俺の言葉に、雪乃は一度ゴクリと喉を鳴らしてから頷いた。そして俺は取っ手に――

「……人の家の前で何やっておるんじゃ、お前さん方?」

 手を掛ける前に、向こうから扉が開いた。扉の向こうでは、緑色のローブを着た禿頭の老人が、呆れ顔でこちらを見ていた。

 えー、原作的に扉開けるまで中で待っているもんじゃないの?……って、原作ってなんだよ。

 

 

 

 あの後、すぐさま立ち直った雪乃がこれぞ貴族と言う感じの礼儀正しい挨拶をしたことで、何とか白けた空気を凌ぐことができた。

 とりあえず家の中に通され、今は客室のソファに雪乃と並んで座り、気難しい顔をした老人と向かい合っている。……あれー?ナジミの爺さんと全然雰囲気違うんだけど、おかしくない?

「で、お主がオルテガの息子、比企谷八幡じゃと?」

「ひゃ、ひゃい」

 思わず声が裏返ってしまった。いや、だって目茶目茶睨んでるし。……おい、雪乃、呆れたように額に手を当てるな。

「ふむ……確かに若いころのオルテガの面影があるの。そんなに目は腐ってなかったが」

 大きなお世話だ。て言うか、俺、糞オヤジに似てるのか?それ、八幡的にポイント低いんだけど。って、小町が移っちまった。天使だから仕方ないよね。天使が通り過ぎたとか言うし(使い方が間違ってる)。

「しかし、残念じゃが、儂はアリアハンの封印を解く方法なぞ……」

「あの、その前にこれを。ナジミの賢者様から預かったものです」

 その言葉を遮って、雪乃がナジミの賢者からもらった手紙を差し出す。

「なんじゃ、もうナジミの塔に行って来たのか」

 老人は手紙を受け取ると「ふむ…」と呟いて、やや表情を和らげた。相変わらず目付きはキツイが……待て、もしかしたら、これが地なのかもしれん。声色に警戒や不信は感じられないしな。え、俺ビビり過ぎ?

「なるほど、儂らの悪戯はもうバレておるか。なら素直に渡すかの」

 老人は言って、部屋の奥のタンスから何かを取りだし、こちらに持ってきた。渡されて素直に受け取る。特に重くもなく、同じサイズの石ころよりも軽いだろう。

 これが、魔法の玉…か?黒色の球体、としか言いようが無い物体だが、これでどうやって封印を解くんだ?

「これが、アリアハンの封印を解くのに必要な魔法の玉じゃよ。使い方は簡単でな、勇者――つまり、お主じゃな。お主が封印を解くと念じて、いざないの洞窟の封印の壁に投げつければいい」

 その言葉に、つい顔をしかめた。俺は魔法が使えない。念じるとか、魔法っぽい言葉が出てきたんだが、だとしたら俺には使えないんじゃないか?

「なあ、爺さん。俺、魔法使えないんだけど」

「ああ、オルテガの二人の子供のことはオルテガから聞いてるからの。それくらい知っておるよ」

「だったら、俺には魔法の玉は使えないんじゃないか?と言うか、魔法のって名前の時点で無理だろ」

 まさかここに来てこんなトラップが待っているとは……あれ、封印解けないと、俺かなり立場悪くなるんだけど、大丈夫なの?

「いや、使える筈じゃぞ」

 一瞬絶望仕掛けた俺に、老人は何でもないように告げる。

「魔法の玉と名付けられておるが、それを使うのに魔法は必要ないとオルテガは言っておった。なんでも、アリアハンの封印には精霊の力を借りているらしく、オルテガの子でなければ解けない様になっているらしい」

「……何でもありだな」

 呆れたように呟く。でもまあ、そもそもアリアハン大陸をまるっと覆ってしまうような封印だ。そんな規格外の封印なのだから、このくらいのご都合主義な設定はありなのかもしれん。

「そんな大がかりな封印ができるなんて……さすがは勇者様、と言う事かしらね」

 雪乃がそんな感想を述べる。――本気で感心しているのだろうと言うことは分かる。分かるが……

「悪いがその言い方は止めてくれ」

 気分の悪さが出たせいか、思ったよりも低い声になってしまった。

「――え?」

 驚いたように雪乃がこちらを振り向く。俺は、なるべく感情的にならない様に努めて、言った。

「勇者だからできるんじゃない。その力を身に付ける努力をしたからできるんだ。……まあ、出来損ないの勇者と呼ばれている俺が言うような言葉じゃないが、その言い方はできれば止めてくれ」

 言いながら、俺は本物の勇者と呼ばれている小町のことを思い出していた。

 小町は確かに天才だ。魔法も闘気も使いこなす才能を持っている。だが、それを発揮したのは小町の努力によるものだ。小町が何か才能を発揮する度に周囲は小町を誉めそやした。『こんな短期間で魔法を修得するなんて、さすがは勇者様です』『もう闘気を使えるようになるとは、さすがは勇者様だ』『もうここの騎士では誰も敵わないな。さすがは勇者様です』『なかなかできることじゃないよ』っておい、最後なんか変なの混ざったぞ。

 とにかく、そんな感じで、小町がしたことはすべて『勇者だから』で片づけられ、誰も小町を見ていなかった。言われるたびに、小町はプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。小町が俺に甘えるようになった大きな原因は、アリアハンで唯一俺だけが小町を勇者ではなく小町として見ていたからだ。母さんは出来損ないと呼ばれている俺と小町を分け隔てなく勇者として育ててくれたが……逆に言えば俺と小町が勇者であると言うことは、決して曲げなかった。母さんの立場的に仕方が無かったとは言え、そのせいで小町は母親に甘えられなかった。

 そう言う事もあり、俺は無条件に勇者だからと言うことが好きではない。勇者のくせに、だったら言われまくってるし、俺は自分自身が勇者だろうがなかろうがどうでもいいので気にはしないが。

「ごめんなさい、悪気があった訳ではないの。……でも、そうね。オルテガ様の努力によってなし得たことを勇者だからで済ませるのは間違っているわね。これからはもうそんな言い方は止めるわ」

 俺の様子から俺が本気で気を悪くしていると分かったのだろう。雪乃は素直に謝罪して撤回してくれた。いや、まあ糞オヤジのことはどうでもいいんだけどな。……むしろ、俺が激しく反応し過ぎた。普段だったらスルーくらいするんだけどな。

 それとも――正しいことに拘っている雪乃に、俺がそう言って欲しくなかっただけなのか。

「ふむ、お主は中々複雑な様じゃの。性格はオルテガにはあまり似ていないな」

 やべ、爺さんが居ること一瞬忘れてた。人前で今のやり取りとか、軽く黒歴史なんだけど。

「あーっと……まあ、俺は俺なんで」

 むしろ似てるとか御免被る。糞オヤジがどんな性格だったのかあまり覚えていないが、俺と小町をこんな境遇に追いやった時点で俺の中では碌な人物では無いことは確定しているからな。

「ふむ……」

 爺さんはそう言った俺の顔をしげしげと見つめてきた。な、なんだ?爺さんに見つめられる趣味はないんだけど……

「ところでお主、オルテガがアリアハンを封印した理由知っておるかの?」

 何となく気おされていたら、いきなりそんな話を振ってきた。いや、さすがに知っているけど。

「自分が失敗した時に、後を継ぐ勇者を守るためだろ」

「まあ、表向きはそう言われておるな」

 表向き?

「儂はな、オルテガに魔法の玉を渡された時にの、あやつに言ったのじゃ。アリアハンを封印するのは、いくらなんでもやり過ぎではないかとな」

 ――それは、俺も思っていた。アリアハンの国民は暮らしやすくなったと喜んでいるが、国政の立場から見ればむしろマイナス面の方が大きいくらいだ。強力なモンスターがいないために、他国と比べて兵が強くならず、最悪なのは封印にあたり他国と満足に連絡を取り合うことができなくなり(ルーラしか移動手段が無かった)鎖国状態になってしまったことだ。これにより、他国――とりわけロマリアとの間で盛んに行われてきた交易ができなくなり、国益を損ねている。少なくとも、その事態を見かねた国王が、せめて少しでも早く鎖国状態を何とかしようと出来損ない勇者を担ぎ上げるくらいには、アリアハンの封印は国にとってマイナスになっている。

 そもそも、そこまでやるのはアリアハンの騎士を信用できないと言っているようなものだ。アリアハンの騎士に対する侮辱とも思われる事をなぜあの糞オヤジはやったのか、理由は聞いていたが少し納得のいかない思いを抱いていた。

「オルテガの奴はこう答えたよ。何でもいいから、魔王退治を先延ばしする理由が欲しかった。そのために、それらしい理由をつけて、大して必要でもない上に時間のかかるアリアハンの封印をした、とな」

「……オルテガ様がそんなことを言ったのですか?」

 雪乃が驚いたように聞き返す。俺的には糞オヤジだが、オルテガは数々の偉業を残した立派な勇者だと言われている。世間一般のイメージとその言葉は程遠いだろう。かく言う俺も、糞オヤジは魔王退治の事しか頭になかったと考えていたから、意外だった。

「ああ、当然儂も驚いた。なぜ、そんなことしたのかとな。そしたら、何と答えたと思う?」

「……」

 答えられない。答えを推測できるほど、俺は糞オヤジのことを知りはしない。

「少しでも長く家族と過ごしたかった、そう言ったおったよ。これで、やることはなくなったから魔王退治に行かざるを得ないとぼやいていたがな」

 ……それが、どうしたと言うんだ。あいつが俺達を置いて魔王退治に行ったことには違いない。

 その言葉に受けた衝撃を誤魔化す様に、内心でそう言い訳する。何か分からないが、心中が意味不明な感情で荒れていた。

「オルテガの奴も勇者なんてやりたくてやっていた訳ではなかったのじゃろうな……あやつは儂の魔法の弟子でもあったが、特別真面目でも正義感にあふれた人物でも無かったよ。むしろ、ガキの頃は悪戯好きなやんちゃ坊主だった」

「……なぜ、そんな話をした」

 滲み出そうになる感情を必死で押えながら聞き返す。

「実の子供くらいは父親のことをちゃんと知ってもらいたかった、と言う年寄りのお節介じゃ」

 本当にお節介だった。……だが、知って良かったことなのだろう。

 それに、俺も糞オヤジの事は言えない。俺も、小町が一番大事だと言いながら、小町を置いて旅に出ている。

「比企谷君……」

「ああ、悪い。大丈夫だ。何でもねえよ」

 雪乃がいつの間にか心配そうにこちらを見ていたが、その視線に上手く答えることができず、俯いて首を横に振った。

 

 

 

 その後、爺さんには雪乃の魔法の契約を頼んだ。ナジミの賢者の手紙にも書いてあったのか、二つ返事で了承してくれた。

 今日中に契約を終えるつもりで、雪乃にはほとんど魔法を使わせていない。レーベから比較的近い位置で野営したこともあり、雪乃は今日は1回しかホイミを使っていないため、魔力も十分だ。

 ベギラマまでの魔法を契約し終えた頃には、すでに日は暮れて夜中になっていた。2回目だったこともあり、雪乃は多少ふら付きはしたが今回は気を失わずに済んだ。

 礼を述べて老人の家を後にし、宿に戻る。帰り際に老人は、あまり無理をしないようになと言って見送ってくれた。

 雪乃は魔法の契約の消耗が激しかったため、また背負ってやろうかと言ったら、そこまで迷惑は掛けられないと拒否され、代わりに肩を貸すことになった。肩を貸す、とは言っても俺の方が背が高いため、雪乃は俺の左腕に縋り付く様な格好で体を預けながら歩いている。俺的にはこっちの方が背負うよりも恥ずかしいんですが、それは。

 まあ、自分の足で歩きたいと思うことは悪いことじゃないし、夜中で人通りもないから構わない…と思っているが。べ、別に、意識してなんか無いんだからね!

「比企谷君」

「……な、なんだ?」

 一瞬上擦りそうになった声を何とかとどめて聞き返す。

「あなたは、オルテガ様の事を、どう思っているの?」

「糞オヤジだ」

 間髪を入れず答える。さっきの事があっても、俺の中でそれは変わっていない。だが…

「まあでも、多少は弁護の余地があるくらいには思ってやらないでもないな」

「……捻くれているわね」

「俺ほど自分の欲望に素直な人物はいないぞ」

「その答えが何よりも捻くれている証明だと理解していないのかしら、捻れ谷君」

「語呂悪いな、それ。なんでもなんとか谷ってつければいいわけじゃねえぞ」

 そこで雪乃は不意に黙り込み、しばらくしてぽつりと呟いた。

「勇者、ね……本当に、この世界は正しくないことばかりね」

 少し遠くを見ながら呟いた雪乃の言葉に、俺は同意も否定もせずただ黙っていた。

 




魔法科高校の劣等生ネタ。
一時期SS界隈を賑わせました(と思う)が、最近はバス女ネタは見なくなりましたね。

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