やはり俺のDQ3はまちがっている。   作:KINTA-K

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ナジミの塔編。ターンバトルなんて無い。
魔法の契約はダイの大冒険がモデルです。


9話

 アリアハンを出て3日後、俺たちは岬の洞窟にやってきていた。

 光源は無い筈なのだが、洞窟全体がぼんやりと光っており、それなりに視界が確保されている。何でも大昔の魔法の産物だとか……まあ、ランタンとかもって移動しないで済む分楽でいいが。

「真っ暗じゃないが、足元には気をつけろよ。暗いこともあるが、単純に湿ってて滑りやすい」

「分かったわ」

 雪乃に一言注意して、先に進む。彼女は俺の言葉に従って、足元を注意しながら背後に付いてきた。

 海底を抜けてナジミの塔まで繋がっている洞窟なので、どうしても全体的に湿っぽくなる。転んで怪我くらいならまだいいが、モンスターに襲われている所で足を取られたら最悪だ。アリアハンは雑魚しかいないと言っても、油断はしない方がいい。

 しばらくは道なりに洞窟を進む。途中、何回か魔物と遭遇したが…

 敵の群れが現れた!八幡の先制攻撃、人面蝶は倒れた。フロッガー2体は倒れた。

 敵の群れが現れた!八幡の先制攻撃、バブルスライムは倒れた。フロッガーは倒れた。

 と言う具合で反撃させずに始末している。マヌーサや毒など使う暇を与えるものか。え?ターンバトル?知らんよ、そんなの。なんで敵が動くまで待ってなきゃならないんだよ。

「……相変わらず、私がやることはないわね」

「体力がなくなったらホイミを使え」

「……ずっとそれしかしていないのだけれど」

 あれから3日経ち、雪乃も多少は旅に慣れてきたが、そう簡単に体力が身に付くはずもなく、限界まで歩いてホイミで癒すを繰り返している。ここに来る前に遭遇した大アリクイ一体をメラで倒させたし、戦闘経験のノルマは終了しているしな。無駄打ちなどさせん。

 そうこうしている内に洞窟の出口が見えてきた。大きな鉄製の両開きの扉が道を塞いでいる。この先がナジミの塔の地下に続いている。

「鍵が掛かってないといいのだけど」

「ああ、こっち側の鍵はザルだから大丈夫だ」

 取ってに手を掛けて開かないことを確認した後、針金を適当に折り曲げて鍵穴に突っ込み、サクッと開錠する。因みに、反対側のアリアハン城に繋がっている方の扉は開けなかった。まあ、そっちまで簡単に開けたら泥棒が侵入し放題だし、当然だが。こっちの鍵が簡単に開けられるのは、冒険者の盗賊に対するテストみたいなものだかららしい。

「さて、開いたぞ……って、なんだ?」

 振り返ると、雪乃が胡乱な目で俺を見ていた。

「どうして鍵開けの技術なんて持っているのかしら?…比企谷君、悪いこと言わないから、自首しなさい」

「十分悪いこと言ってるからな、それ。つか、盗賊の修練積んでるんだから、これくらい余裕だ」

「盗賊……そう、語るに落ちたわね」

「いや、冒険者の職業的な意味での盗賊だから。絶対分かって言ってるだろ」

 そんなやり取りをしつつ、塔の中に入る。階段を上り塔の1階に出ると、周囲の窓から日の光が差し込んでいた。

「暗くなかったのはありがたかったのだけど……やはり自然の光の方がいいわね」

「まあ、その分夜になると面倒だけどな」

 洞窟はうすぼんやりと光っていたが、塔の中はそうはいかない。夜中に出歩こうと思ったら、燭台に火をつけて回る必要がある。

「確かナジミの塔の方が後から建てられたんだっけか?」

「ええ、エリック・ナジミ・アリアハン7世が海路に備えるために、ね。実際に完成したのは次の代になってからなのだけれど。岬の洞窟はアリアハン建国以前からあったと言われているわ」

 さすがに貴族の教養としてか、国の歴史には詳しかった。実際、雪乃の知識はかなりのもので、歴史の他にもアリアハン大陸の各地名や風土、特産品などを聞くとすらすら出てくる。……実地経験がないのが悲しいが。

 そして塔の中にも魔物は入り込んでいた。現れたフロッガーとバブルスライム、人面蝶をサクッと倒しながら先に進む。道中、一番多く遭遇したモンスターは、なぜかフロッガーだった。

「どうしてカエルが湿った場所から出てくるのかしら?いえ、数匹迷い込むくらいなら分かるのだけれども、2Fや3Fまで上がってくるなんて異常だわ」

「さあ?モンスターだし、そんなもんじゃないか?」

 そうこうしている内に屋上に到着した。結構時間が掛かったため、外を見るとすでに日が沈み掛けていた。…塔の上から見る日没の風景は中々に壮観だった。

「……綺麗ね」

「ま、こんだけ見晴らしが良ければな」

 夕日の赤い光に照らされならがら、見惚れたように呟く雪乃に、適当に相槌を打つ。

「こんな時くらい素直に頷けないのかしら、捻くれ谷君?」

「柄じゃないからな……別に、否定はしなかっただろ」

 ……沈む夕日を見つめて呟いた雪乃の横顔に、一瞬見惚れてしまったのは黙っておこう。

 

 

 

 塔の屋上に建てられている小屋に入る。昔は城の兵がここに駐在し、周囲を監視していたが、アリアハン大陸が封印された今では必要がないため兵はおらず、代わりに一人の老人がその小屋に住んでいた。通称、ナジミの賢者と呼ばれる、アリアハンで数少ない賢者の一人だ。通称から分かる様に、アリアハン大陸が封印される前にも小屋の一室を占有していたらしい。

「ふむ、お客さんかね」

 ノックをしてドアを開けると、一人の老人に出迎えられた。見事な白髪で、目じりには皺が多く、相応の年月を重ねていることを感じさせれるが、足取りはしっかりしている。若干たれ目で、目じりの皺と合わさって好々爺の雰囲気を醸し出していた。ゆったりとした深緑色のローブを羽織り、片手には樫の杖を持っている。

「久しぶりだな、爺さん」

 ナジミの賢者と呼ばれる老人に、俺は軽い口調で話しかけた。雪乃が驚いた様子で俺を諌めようとするが、それよりも早く相手の方が相好を崩して俺を歓迎する。

「おお、八幡、よく来たな。それと……む、以前とは違う女子(おなご)を連れてきているようじゃの。中々やるではないか」

「変な勘繰りすんな。どっちも、そんな相手じゃないから」

 促されるままに、小屋に入り客室の椅子に座る。雪乃も戸惑ったように後からついてきて、俺の隣に座った。

 ナジミの賢者は「ちょっと待っておれ」と言ってから、部屋を出ていった。

「……違う女子って、誰かしら?」

「盗賊訓練所の同期だよ。頻繁に組んでいた相手だ。野外訓練の折に一緒にここに立ち寄ったんだよ」

 野外訓練に出るようになり、川崎と一緒に2回訪ねたことがある。まだ2回しか来てないのに、この爺さんは随分気安い感じだが、最初っからこんな態度だった。

「そう。その人を仲間にしようとは思わなったのかしら?」

「あー、そいつ、小町のパーティに入ることが決まってたしな」

「……もし、そうでなかったら仲間に誘っていた、と?」

 その問いに、一瞬言葉を失う。いや、別に誘いはしなかった。ただ……

『私さ……小町ちゃんのパーティに入ることが決まったよ』

『へえ…まあ、良かったじゃねえか。小町の仲間になるなら、国から支援されるだろ。俺も、お前が小町の仲間になるのなら安心だしな』

『…確かに、いい話なんだよね。まあ…ありがと』

 不意に浮かんできたのは、1年前の、川崎が小町の仲間になることが決まった時の会話。あいつは、いい話だと言いながら、どこか泣き出しそうな顔をしているように見えた。

 己惚れるつもりは無い。ただ、少しだけ考えてしまうことがある。川崎は、小町の仲間になることにならなかったら、もしかしたら――

「……比企谷君?」

「……あ、ああ。悪い、なんだ?」

「いえ、今の反応だけで十分よ」

 何が十分なのか分からなかったが、何となく聞き返す気にならなかった。そこへ、お茶を盆に載せたナジミの賢者が戻ってきた。

「おや、何か取り込み中だったかね?」

「いや、何でもねえよ」

 お茶を出されて恐縮そうに頭を下げる雪乃を眺めながら、俺は何か疲れを感じて大きく息を吐いた。

 

 

 

「今日は爺さんに頼みがあってここに来た」

 お茶を出され、挨拶もそこそこに、俺はそう切り出した。ナジミの賢者は「うむ」と一つ頷いて、訳知り顔でつづけた。

「アリアハンの封印を解く方法を聞きに来たのじゃろう?」

「いや、違うけど」

 レーベにいる老人が持っているって情報は国からもらってるし。あいつら、いくら早く封印を解いてほしいからって必死すぎだろ。

「なんと!てっきり兄に言われてここに来たのかと思ったのじゃが」

「なんだって?」

 かなり聞き捨てならないこと言わなかったか、おい。

「いや、レーベにいる兄が封印を解く方法――まあ、隠す必要もないじゃろう。封印を解くための道具の、魔法の玉をもっているのじゃがな、封印を解く方法は儂が知っていると言う手はずになっておったのじゃ」

「おい、初耳だぞ、その情報。じゃああんたが魔法の玉を持っているのか?」

「いや、持っておるのは兄じゃ」

「…どういう事かしら?」

 要領を得ない話に、雪乃も口を挟んでくる。ナジミの賢者はおかしそうに笑った。

「何の苦労もせずに渡すのも癪だったのでな。まあ儂もたまには若い者と話がしたいしのう、試練とか適当な理由をでっち上げてからかってやろうと思っておった」

「性質悪ぃ、この爺ども」

 あれか、当初の予定通りまっすぐにレーベに行っていたら、適当なこと言われてナジミの塔に行くことになっていたのか?そしてここに来た後で、その魔法の玉はレーベの老人が持っていると教えられて往復する羽目になっていた、と。

 偶々別件で立ち寄ったから良かったものの、無駄足踏まされる所だった。雪乃もナジミの賢者の発言に呆れたようで、頭痛でもしたかのように片手で額を押えている。

「まあまあ、折角立ち寄ってくれたことじゃしの。一筆書いておいてやろう、それを見せれば兄も素直に魔法の玉を渡してくれるじゃろうて」

「……まあ、いいけどな」

 微妙に納得はいかないが、結果オーライとしておこう。

「それで、頼みたいこと、とは?」

「雪乃の……こいつのことだ。こいつに、魔法の契約をさせてやって欲しい」

「お願いします」

 俺の言葉を受けて、礼儀正しく頭を下げる雪乃。

「ふむ、何やら訳ありのようじゃな。話を聞かせてもらえるかの」

 ナジミの賢者に促され、簡単に雪乃の状況を説明した。訳あって魔法の契約の方法をしらず、ほとんどの魔法を契約していないこと。そして、メラだけでなくホイミまで使える賢者であること。ホイミは魔法の契約をしていないがなぜか使えることを説明した。…雪ノ下家の事情はさすがに説明できなかったから、かなり歪な説明になったが。

 ナジミの賢者は雪乃がレベル1の賢者だと聞いた時にはさすがに驚いていたようだったが、それから少し考えてこんな質問をしてきた。

「雪乃、と言ったか。お主、魔法使いの魔法と僧侶の魔法の違いは何だと考えている?」

「どちらもただのスキルよ」

 特に迷うこともなく、雪乃は即答した。

「へえ、陽乃さんと同じこと言うんだな」

 つい、そんな事を零す俺を、雪乃はキツイ目で睨んできた。

「あの人と同じ扱いをされるのは甚だ遺憾なのだけれども」

 そこまで不服か……やっぱり姉妹だな、とか言わなくて良かった。まあ、爺さんがいなけりゃ言っていただろうが。

「陽乃と言うと、アリアハンの大賢者じゃな。知り合いかの?」

「あ、いえ、それは……」

 しまったと言葉に詰まる雪乃。当然のことだが、雪ノ下家のことを説明できない以上、陽乃さんとの関係も説明できない。陽乃さんと会ったことがあれば、雪乃の顔を見ればそれだけで察してしまえるだろうが、ナジミの塔の賢者と陽乃さんは面識が無かったようで助かった。…まあ、あの人の性格上、ただ賢者って言うだけで会いに行くこともないしな。

「それより、爺さん。さっきの質問に何の意味があるんだ?」

 返答に困っている雪乃を見かねて、俺は助け舟を入れた。と言うか、つい余計なことを零した俺がそもそも悪い。ナジミの賢者も、特に気にすることなく話を戻した。

「おお、そうじゃったな。何、ちょっとした確認じゃよ。少なくとも、その言葉でそこの雪乃嬢が賢者であることは理解できた」

「それだけで、ですか?」

 驚いたように聞き返す雪乃に、ナジミの賢者は目を細めて頷く。

「うむ。どちらもただのスキルと断定してしまうことこそが、賢者に最低限求められる才能じゃからな。魔法の素養だの、信仰心だの、余計な想いが混じれば両者の魔法の壁は壊せん」

 ……俺にはよく理解できない話だが(魔法が使えないから当然かもしれないが)、何となく魔法の権威を鼻で笑って小ばかにする陽乃さんを思い出した。

「ホイミに関しては…まあ、賢者として目覚めた彼女に対する精霊の贈り物と考えればよい。儂も、僧侶から賢者になった折には、契約もせずにメラを覚えたしの。無論、その後はしっかり契約したが」

 なるほど。別系統の魔法の修得が賢者になった証明な訳か。特別な意味を勘ぐってしまった自分がちょっと恥ずかしい。

「それで、どんな魔法を覚えたいのか教えてもらえるかの」

「回復魔法はべホイミまで、攻撃呪文はベギラマまで契約させたいんだが」

 どの魔法まで覚えるかは事前に二人で相談して決めていた。基本的に、魔法は契約しても使えるレベルまで術者が成長していなければ発動することはできない。しかし、何事にも例外があり、術者が限界以上の力を出そうと無理をすると、発動できてしまうことがあるのだ。そうなった時、無理をした分の負担は術者の身に降りかかることになる。だから、安全策を取ってあまり無理な魔法は契約しないのが常識になっている。

 その観点から言うと、今の雪乃のレベルでベギラマとべホイミはやり過ぎではあるのだが……今後、魔法を契約できるチャンスがいつあるのか分からないし、本当に無理をしなければならない状況に遭遇した時、『できる』と『できない』では『できる』方がいいに決まっている。しかし、あまりに大きな無理――例えば、本来ならギラまでしか使えないのに、ベギラゴンを発動させるような――無理をさせてしまうと、最悪死に至る様なケースもあると言う。

 そのようなことを踏まえて考えた結果、1つ上の効果を出せる中級魔法のベギラマとべホイミまで契約させてもらうことに落ち着いた。いや、一番いいのは雪乃が魔法の契約方法を覚えて自分で契約できるようになることなのだが、それだと最短でも1年近くの時間が必要になると言う話だ。さすがにそれは時間が掛かり過ぎるためできない。今後、レベルが上がったら、さらに上位の魔法を覚えるために魔法の契約代行をしてくれる人を探さないといけないと思うと気が重いが、現時点でそれを気にしても仕方がない。

「ふむ。それだけ多くの魔法を契約するとなると、結構な時間が必要じゃが……」

「あー、明日の午前中だとどれくらいまでできる?」

「…どちらか片方で割とギリギリじゃな」

 そうか……なら半分に削って……しかしそれだと中途半端すぎるしな。と、そう言えば爺さんには兄がいるんだったか?

「レーベに居る爺さんの兄は魔法は使えるのか?」

「兄は魔法使いじゃな。魔法使いの魔法であれば契約もできるぞ」

 なるほど、なら決まりだな。

「じゃあ魔法使いの魔法はレーベで頼んでみるから、僧侶の魔法だけ頼む」

 俺の言葉に、しかしナジミの老人は難色を示した。

「しかし、ギリギリとは言ったが、一度にそれだけの魔法を修得するのは、術者の負担が大きいのじゃが」

「私なら大丈夫です」 

 きっぱりと答える雪乃。彼女の決意の顔を見て、ナジミの塔の老人は諦めたように頷いた。

「分かった。じゃが、先に夕ご飯にするとしよう。ちょっと待っておれ」

「いえ、そこまで賢者様の手を煩わせる訳には……」

「ああ、雪乃、気にしなくてもいいから。この爺さん、構うのが好きなだけだし。爺さんの作る飯は結構うまいぞ」

「八幡の言う通りじゃな。遠慮せずにごちそうになりなさい」

「比企谷君は少しは遠慮をするべきだと思うのだけれども……解りました。ご馳走になります」

 しばらくして出てきたナジミの賢者が作った夕食は美味しかった。後で出された唐揚げがフロッガーの肉だと聞いた時に、雪乃が小さく悲鳴を上げたけど。

 美味いのにな、フロッガー。

 


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