やはり俺のDQ3はまちがっている。   作:KINTA-K

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pixivで1年ほど放置していたので、再開決意記念に。
公開済みの分を1~3日くらいの間隔で更新して、追いついたら最新話を更新する予定です。



1話

「起きなさい、八幡。今日はあなたの16歳の誕生日、勇者として旅立つ日よ」

 …起きたくねぇ。

 ついにこの日が来てしまったかと嘆息する。そもそも、16歳の誕生日が何だと言うのだ。アリアハンでは16歳から大人として扱われることになっているが、そもそも昨日の俺と今日の俺で何が違う?1日分余計に過ごしただけだ。ただそれだけの変化を、俺は特別とは呼ばない。

「……zz」

 だから俺は断固とした意志を示すために寝たふりを敢行した。

「起きなさい、八幡。…優しく声掛けている内に起きな、バカ息子」

「ひゃ、ひゃいっ!」

 低くなった声に慌てて飛び起きる。あれだ。ビビったとかじゃないから。声が低くて怖いとかちょっとしか思ってないから。…思ってるのかよ。

「なんて声出してんだい?ま、いい。さっさと王様のとこ行って報告してきな」

「…わーってるよ」

 捨て台詞を残して部屋を出ていく母さんに、欠伸交じりに気のない返事を返す。

 そして、昨日の内にしかたなく準備しておいた旅人の服に着替えて、俺はもう一度大きく嘆息した。

 

 

 この世界は魔王の脅威に晒されている――

 今から数十年前、突如として魔王バラモスが現れ、世界に魔物が溢れるようになった。

 人々は常に凶暴な魔物の影に怯えることになり、実害として各国、都市間での往行も多大な費用とリスクを抱えることとなった。街の外に出れば魔物に遭遇するため、開発は遅れ、人間は世界居住区に閉じこもって暮らすことを余儀なくされるようになった。

 俺の住んでいる国、アリアハンも例外では無かった。――十年ちょっと前までは。

 一人の勇者の出現が、アリアハンの状況を変えた。

 その勇者の名は比企谷オルテガ。大規模な魔物によるアリアハン襲撃事件が起こった際、ただの一介の兵士に過ぎなかった彼は、戦死した部隊長に代わり兵を率いて自らも前線に立ち、魔物を蹴散らして見事アリアハンを守り抜いた。騎士どころか下級兵士としての訓練しか受けていなかった筈のその男は、誰よりも剣の腕が立ち、誰よりも上手く魔法を扱った。

 そして、魔物を撃退した功績を認められたオルテガは、国の支援を受けてダーマ神殿に趣き、そこで精霊の加護を受けて勇者と呼ばれるようになる。

 その先のことは大分端折るが、とにかく勇者になったオルテガの活躍で、アリアハンは凶悪な魔物が一掃され、危険な魔物がほとんど残っていない世界屈指の平和な国になった訳だ。

 で、その数年後、今から10年前くらいに勇者オルテガは本命の魔王バラモス退治に向かい――そのまま音信不通になった。いまだ魔物の脅威がなくならないということは、多分、そう言うことなのだろう。勇者オルテガは、魔王退治に失敗したのだ。

 そして、その勇者オルテガの息子が、何を隠そう俺だったりするのだ。……あんな糞オヤジ、認めたくないけどな。

 

 

 着替えを終えて階段降り食卓に向かう。そこには、珍しく俺の好物ばかりが並べられていた。おいおい、一体何の記念日だ?え、誕生日?俺の誕生日って記念日じゃないよね?

「あ、お兄ちゃん、おはよう!」

 そう言って部屋に入ってきた俺ににこやかに声を掛けてきたのは、天使…じゃない、俺の二つ下の妹の小町。…案外、オヤジは余裕扱いて二人も子供こさえてるからバラモス退治に失敗したのでは無かろうか。いや、さすがにそれは無いか。

「おう、おはようさん」

「今日は旅立ちを控えるお兄ちゃんのために私が腕によりをかけて作ったんだよ!あ、今の小町的にポイント高い!」

「これは八幡的にもポイント高いなー」

 俺のためとか…やはり天使か。そんなことを考えつつ、小町の隣の席に座る。

「母さんも手伝ってるから母さん的にもポイント高いわねー」

 うん、そっちは無理だから。…まぁ、不肖の息子に多少は気を使ってくれたのだろうくらいは汲んでおこう。

 頂きますと手を合わせて、俺は朝食を食べ始めた。

 美味い…はぁ、このままずっと飯くってれたらいいんだけどな。城、行きたくねー。

 

 

「じゃ、行ってくる…」

「いってらっしゃい。王様に失礼の無いようにするんだよ」

 母さんに見送られて家を出る。母さんの隣を見ると、小町が不安そうな顔でこちらを見ていた。…食事中は元気そうだったけど、空元気だったか。

「お兄ちゃん…」

「そんな顔するな。一応、謁見の後にまた家に寄るから」

「…うん」

 俺の言葉に、まだ小町は不安そうに小さく頷く。俺はシスコンだと言う自覚はあるが、小町も大概ブラコンだからな。まぁ、小町は俺なんかよりも重責を背負っているから仕方がないんだが。出来損ないの兄として、周囲の期待に押しつぶされそうになる小町を支えている内に少し共依存のような関係になってしまっていた。

 仕方がなかったことだが、今日からは小町は俺に甘えることができなくなることを思うと、どこかで突き放すべきだったのかもしれないと考えてしまう。…そんなこと、できたはずもないけどな。

「じゃ、行ってくる」

 頷いた小町の頭を軽く撫で、俺は少しばかりの未練を振り切るように城に向かった。

 

 

「よくぞ来た偉大なる勇者オルテガの息子、もういいよ」

 おい、リアルでもういいとか言われたんだけど、マジなの?ネタじゃなかったの?て言うかオルテガの息子って何なの?俺の名前知らないの?

 話は本当にそれで終わりのようで、王に付き従っている近衛兵から旅立ちの餞別にと銅の剣と100Gを渡された。うわー、俺の価値安ー。勇者オルテガの息子って言うなら、オヤジが残していったバスタードソードくらい寄越してくれませんかね?ま、あんな長物俺には使えないから、仮にもらっても売り払って金に換えるけど。

 因みに、そのバスタードソードは『本物』の勇者である小町が旅立つ時に渡されることになっている。

 ただ勇者オルテガの息子というだけの出来損ないの『偽物』の勇者、『本物』の勇者小町が旅に出るまでのただの繋役。

 それが、今日から旅立つことになった俺に貼られているレッテルだ。

 


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