モンスターハンター 閃耀の頂   作:生姜

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第一章終話 黎明の狩人

 

 密林の高地から帰還したハンター達を、ジャンボ村の人々は歓喜でもって出迎えた。

 ダレンら先遣隊は密林山頂の安全を確認した直ぐ後、伝書鳥を使ってジャンボ村にも未知(unknown)の討伐を伝えてはいたのだが、村人達の喜びようは想像以上のものだった。いざ実際にダレン率いる先遣隊が姿を見せた時の歓声など、テロス密林の端々にまで響いたに違いない。

 村の人々や村長、レクサーラから出頭してきているという竜人族の女性等々。それだけでなく、ミナガルデからの指示に従い巨龍砲を運び込んでいた《巡る炎》の猟団員達までもが祝福してくれたのに対しては驚きを隠せなかった。特にダレンはミナガルデ陣営にあれだけ喧嘩をふっかけてしまったのだから、恐恐である。

 ただ《巡る炎》の団員に曰く。彼ら彼女らは立地柄ミナガルデに恭順してはいるものの、一部の強硬派以外においては偏見もさしてなく、ハンターが大功を成した事を喜べないほど狭量ではない、と快活に笑ってくれていた。猟団の利益という観点からみても、ヒシュ達が見事に討伐を果たしたおかげで、巨龍砲を密林の山中へ運び込む巨額の費用が浮いたのだそうだ。

 加えて彼らは(本来は大砲を運ぶ用途として手配していたため)手すきとなった船団を使い、収穫祭の資材調達までをも請け負ってくれていた。豪快に笑う副団長から背を叩かれているダレンが、申し訳ないとひたすらに頭を下げていたのは、仕方の無いことだろう。

 

 ジャンボ村は、収穫祭の期間を延長した。ハンター達の狩猟成就と、高難度依頼の達成を兼ねて祝した宴である。

 村の危機は救われた。宴を催すには十分過ぎる出来事である。食料も人手も収穫祭のものをそのまま流用出来るという事もあり、宴は三日三晩続けられた。村を包んでいた緊張が解かれた今、何かしらにかこつけて騒ぎたいというのもあるだろう。その辺りは鼻の高い竜人族の村長による采配である。

 また、村の中にはこの祭を機会として立ち寄る旅人達の姿も多く見られていた。ジャンボ村とは、その未来に交通の中心部としての役割を見据えた土地。いずれ行き交う旅人達に、こうして村の賑やかな様を見せられたのは、興行としても良い傾向と言えるだろう。

 

 そうして、未だ賑わうジャンボ村の西の橋。

 ハンターズギルドの窓口を兼ねた酒場の席からふたり。

 人間と獣人。ダレン・ディーノとネコは酒を片手に深く腰掛け、人々が行き交う祭の様子を眺めていた。

 

「これにてやっと ―― か。どうにかこうにか、村の危機もヒシュの命題も解決することが出来たようだな」

 

「ええ。ダレン隊長とノレッジ女史の助力には、感謝の念が絶えませぬ」

 

「やめてくれ、ネコ。書士の一員として力を借りたのは此方だ。礼を言うのは此方の方だろう」

 

 そう言って首を振るダレンの顔には、明らかな疲労が見て取れた。

 疲労の割合としては、体力よりも気力の面が大きい。ダレンはこの3日間、未知の鳥竜の狩猟を成した一隊の隊長として、休む間もなく顔通しをする羽目になっていたのだ。

 

「近隣の村長達。協力してくれた猟団の代表達。四分儀商会を含む、行商の一団。観測隊の派遣員。何故か海路を通じて交流のある火の国やジオ・ワンドレオのハンター達まで居たからな。挨拶しない訳にもいくまい」

 

「それだけの大業を成し遂げた、という事ですよダレン殿。胸を張って良い結果でしょう」

 

「ああ。その点については、私としても安心しているよ。そしてその挨拶回りも、こうして3日を費やして、ようやく一息つけたからな」

 

 朗らかに笑みを浮かばせたダレンの樽杯に、ネコが酌をする。深みのある黄金色をした酒が並々と杯を満たす。密林を挟んで向こうの大陸から運ばれた、タンジアビールである。

 一通りの挨拶を済ませた現在、既に祝宴も最終日の夜。何とも趣のない結末ではあるが、ダレンとしては3日間も祭をぶらぶらする訳でもない。暇を持て余すよりは仕事が詰まっていた方が……と考えてしまうのは、彼が彼、実直な隊長たる所以であろう。それでもこうして最後に、美味い食事と酒にはありつけたのだから、上々である。

 ダレンは酒をぐいと喉に流し、向かいのネコに向き直る。

 

「しかし、流石に3日間も祝宴の主役をこなすというのは慣れないものだな……」

 

「ですが ―― ダレン殿はこれからそういった物に慣れて行かねばならぬ立場(・・)のお人でしょう? 何事も経験ですよ」

 

 どこか飄々とした調子で、自らもタンジアビールを掲げるネコが問いかけた。

 驚きが顔に出る。思わず言葉が詰まってしまう。流石にネコは耳が早い。

 

「……私の昇進の話まで聞いているのか? ネコは」

 

「ええ。というか、ダレン殿もご存じでしょうに。あのギュスターヴ・ロンめが、これだけの成果をあげた人物を利用しないはずがないじゃあありませんか。あとは伝手を辿るだけ、という件ですよ」

 

「そうか……そうだな」

 

 ダレンは諦念の表情で項垂れた。

 ネコの語った内容は、大方がその通り。ダレンは寒冷期の季節明けにも、一等書士官という身の丈に合わない(と、思っている)立場に据えられる予定となっていた。

 

「……ハンターとしても書士としても動けるのが私、ダレン・ディーノという人物だ。ハンターとして未熟であると重々承知してはいるが……それでも……王立古生物書士隊の内において、ハンターとしても書士としてもやっていける人物というのは、確かに希少なのだからな。昇進を蹴る訳にも行かなかったのだ」

 

「ええ。ダレン殿を旗頭に。かのジョン・アーサーを次ぐ物として取り立てて、引き籠もりに傾倒しつつある書士隊の空気を入れ換えようというのでしょう。……全く、ロンめ。自らが引き籠もりなのを良いことに、ダレン殿に丸投げではにゃいですか!」

 

 アイル―族の「にゃ」の語尾が飛び出すほど憤慨しながら、ネコは樽杯をぐいぐいと勢いよく傾けてゆく。以前からネコはギュスターヴ・ロンに対して人一倍手厳しい。彼女は筆頭書士官である彼と、どうも折り合いが良くないようだ。

 

「はははっ。私のためにと怒ってくれるのは有り難いが、ネコ。ロン筆頭書士官だとて……引き籠もりだとて必要な派閥だよ」

 

「ふーむぅ。それは判りますが……ですがね。結局は仕事を此方に寄越すだけでしょう、アイツは。引き籠もりは」

 

 笑って流したダレンに、ネコは未だ頬を膨らませたまま。毛並みの良い耳をぴんと立て、ぶつぶつと文句を続けている。

 王立古生物書士隊に存在する「引き籠もり派」と呼ばれる派閥は、その名の通り実地に向かわず文献と資料を読み漁り情報を集積する事を主とする集団である。その筆頭こそがギュスターヴ・ロン。今の筆頭書士官だ。

 本来、書士隊は「ハンター」という職と切って離す事の出来ない間柄。「実地のハンター」と「裏方の書士隊」という構図が出来上がっているのが、ハンターという社会だ。しかしそこへ昨今、「観測隊」というモンスターの動向を観測することを主題とした部隊が登場した。観測隊の登場によって、書士隊が現地へ向かう必要性は激減したのである。

 そのため今の書士隊は、引き籠もり派が多数を占めている。かつての前筆頭書士官であるジョン・アーサーを知る、今となっては数少ない派閥が、ダレンとノレッジが属する現地派の現状だった。

 

「引き籠もり派はどうせ今も、王国からの天下りや捻くれ人事の集まりなのでしょう?」

 

「上は、な。そうかも知れん。そこを少しずつでも改善しようというのが、今回ロン殿が選んだやり口なのだろう」

 

「ああもう……まだるっこしい! 陰険! 根暗! ロンめ! ロンめ!」

 

 ネコが荒れている。酒精の荒い酒には慣れていないのだろうか。それとも、疲れのせいなのかも知れない。

 とはいえ衆目を集めるようなことは無かった。ネコがこうして大声で騒ぎ立てても周囲の注目を集めはしないほど、ジャンボ村の祭りは賑わいを見せている。

 ここは聞きに徹するのみ。ダレンはそう決め込んだ。ネコはそのアイル―族の小さな身体で、これまでずっとヒシュのお供を務めてきたのだ。あの破天荒なヒシュのお供である。狩猟は成した。後片付けも終えた。息抜きは必要だろう。不満も怒りも、無理に溜めておく必要は、無い筈だった。

 

「むーぅ……ふーむぅ……イモート、お前までがお供になる必要は……むにゃん」

 

 やはり疲れていたのだろう。暫くすると、ネコは机に突っ伏して寝息を立ててしまった。

 普段はあれだけ大人びて振る舞っているネコだが、こうして寝てしまえばアイルーの愛嬌をしっかりと感じられる。その様子を微笑ましくも思いながら、ダレンは丁度近くを通ったパティを呼び止めた。

 

「忙しいところ済まない、パティ。籠と布団はあるだろうか?」

 

「あ、ネコが寝ちゃったのね。判ったわ。そっちはあたしが受け持つから……それよりダレン。1人、貴方に挨拶に来てるわよ?」

 

 ギルドガールズの制服を着たパティは、カウンターの側を指さした。

 毛布を掛けられたネコを横目に、ダレンもそちらを見る。

 

「……あのご婦人か?」

 

「ええ、そうよ。あの、大きな杯を持ってる女の人ね」

 

 パティが指さす先に居たのは、耳の尖った竜人族の女性であった。

 彼女はカウンターの奥で優雅に……しかし蓮の葉よりも大きな酒の器を掲げて、飲み比べを挑んだ男どもを次々と負かし続けていたらしい。周囲は突っ伏した男どもと吐瀉物で大変な事態になっている。

 

「あの人。ダレンを待っている間に好き放題やってくれちゃって、拳骨をかまそうかと思ってる所なんだけど。貴方が相手をしてくれるなら、このいきようのない怒りは酔いつぶれた男どもにぶつけてあげるわ!」

 

 相手は明らかに高価な衣類を纏った竜人だ。パティの拳骨は余計な軋轢を生みかねない。

 わかったと端的に告げ、責任は重大だなと独りごちながら足を向ける。

 妙齢の竜人族の女性は、先に挙げた通り傍目にも高価だと判る衣類を身に付けている。ビロードだろうか。艶のある赤に染められた滑らかな衣類を着流し、これまた煌びやかな宝飾で耳を飾りたてている。このような装いの人物がダレンを訪ねてくるあたり嫌な予感はあるものの、隊長として避けては通れない。

 ダレンが近づくと、件の竜人族の女性は「はぁい」と小さく杯を振って見せた。

 

「飲み比べ……じゃあないわよね。貴方がダレン・ディーノ隊長かしら?」

 

「はい。お初にお目にかかります」

 

「いい返事ね。私はラー。普段は古龍観測隊の意見番なんかをやっている、まぁ、中央の潤滑油みたいなものよ」

 

 腰を折ったダレンに、ラーと名乗った女性は悪びれもせず笑ってみせる。

 古龍観測隊。ドンドルマやミナガルデに置かれた観測隊の中でも、古龍占い師と呼ばれる専門家達が所属し、より危険度の高い生物の情報を集積する部門である。

 そのご意見番、と彼女は言った。この場合のご意見番とは、所長やそれに近い立場にある筈だった。古龍観測隊ほど「箔と実力」が必要な職場は、他に類を見ないからだ。

 

「あら。判っちゃった? ご明察。確かに立場は上だけれど、私はフットワークが軽い方よ。ふふ。緊張しないでくれると有り難いわ」

 

「……善処致します」

 

「ふふふっ。善処ですって! 誠意を示したのでしょう? その単語も久しぶりに聞いたわ! ふふ、ふふ。やっぱり貴方は面白い人。一定以上の考察力があって、観察もできて、それでいて前線にも立てる。うん、うん。稀有ねぇ。ギュスターヴの家を継ぐあのロンが、是非にと紹介するだけはあるわねぇ」

 

 竜人として1つ少ない、四つ指で口元を抑える女性は、その笑いのツボは別にしろ、言葉の通り堪え切れないという表情で笑ってみせた。

 しかしやはり、困った筆頭書士官から辿ってきた人物か……とダレンは嘆息する。ドンドルマでの修行を通して、変人の類いはロンの元に集まるかそれと近しい人達であると理解できていた。決して、理解したくは無かったが。

 軽い挨拶とからかい(主にダレンがからかわれる側である)を挟んでいる内に、酒場のカウンターの周辺から人が居なくなっている。祭の喧噪に乗って、音楽と手拍子が聞こえてくる。村の中央部で行商が連れてきた楽団や百技が腕を振るっており、人波はそちらに流れているようだ。

 ここまでを予測していたのだろう。頃合いとみたラーは小さく手を捻り、巨大に過ぎる杯をカウンターに置く。

 カウンターに背をもたれる。何処までも妖艶な仕草だった。それは何処か、あの未知の鳥竜を包んでいた黒さに似ているように感じられる。魅力的でいて近寄りがたい ―― だからこそ人の好奇心を煽る仕草。

 

「今日は、ダレン・ディーノ隊長にお願いがあって来たの。……ええ。お祭りもお酒も楽しみだったけれど、此方が主題なのよ? 一等書士に昇進するのにも、私達(・・)が後衛となって口添え(・・・)するわ。引き受けてくれるならね」

 

「いえ、栄達は私が望んだ訳ではないのですが……兎も角、それでは、ひと先ず。……ラー観測官殿の用件を伺いましょう」

 

 からかわれるのを嫌ったダレンが話題を急かしたのは、悪かったのか。良かったのか。

 気になる単語達を切って流して。ダレンの事務的に努めた返答を受けて、ラーは再び笑みを深めた。艶めかしくも、鈍く、確かに。

 そして彼女はダレン・ディーノの運命の舵を切る一言を、口にする。

 

「貴方に調査を依頼したい件があるわ。それも、長丁場のね。―― ねえ、貴方は、伝説っていうものを信じているかしら?」

 

 

 

 

 □■□■□■□■

 

 

 

 

 ネコとダレンから離れたふたり。

 祭りと聞いて落ち着いては居られないのが、ヒシュとノレッジである。両者が黙っていられたのは帰還後の初日のみ。祭りの雰囲気と楽しさにあてられ、視線も挙動も落ち着かないこのふたりを見かね、ダレンとネコは、仕方なく自由行動を言い渡す羽目となっていた。

 結果として外回りは全てダレンとネコに圧し掛かることになった……のだが、それは2人がいたとて同じ事。むしろ目を掛ける必要がなくなった分、重荷は減ったと考えるべきなのだろう。

 そうして放って置かれたヒシュとノレッジに関しては、2日間を遊び倒し、疲れながらも充実した休暇を過ごすことが出来ていた。

 

「はー。お祭り、楽しかったですね。ヒシュさん」

 

「ん」

 

 はしゃぎにはしゃいだ収穫祭兼祝宴も、間も無く終幕を迎えようかという頃合い。ヒシュとノレッジはジャンボ村を一望できる村の高台に立ち寄り、人々の様子を眺めていた。

 曙光に染まり始めた寒冷期の空の下。祭りに集まっていたジャンボ村に収まりきらない程の人々も、今は村の河川や入口へ、ぽつぽつと散り始めている。夜通し騒いでいた人々ではあるが、太陽が顔を出す前に村を発たねばならない。祭りとは終わるからこそ楽しいのである。

 旅の途中で立ち寄った彼ら彼女ら。客として呼ばれた誰しもが、笑顔で路を行き船に乗り、ジャンボ村から次々と旅立ってゆく。

 それだけでも価値はあった。そう、思わせてくれる光景だ。

 

「……ウン。頑張って、よかった」

 

 ノレッジの横で手すりにもたれ、警戒色に塗れた仮面越しにかくりと頷くその様は、出会った時と変わらない。

 ヒシュ。仮面の狩人。王立古生物書士隊の新人二等書士官。ハンター。

 村に戻ってきた後、ヒシュはノレッジとダレンに全て(・・)を話した。この場合の全てとは、仮面の狩人が未知の鳥竜に挑まなければならなかった本当の理由であり、書士隊がこの件に絡んでいた原因でもある。

 しかし、そこはダレンの事。ヒシュの理由はあれど、変わらない。ギュスターヴ・ロン筆頭書士官が絡んでいたとなれば、それはどうあろうと書士隊の仕事には違いない。むしろ一石二鳥だ、構わない……という一言でもって簡素に結論付けられていた。

 ノレッジとしても、特に思う所はない。今こうして人々の笑顔を眺めていられるのは、今年を通して駆け抜けたハンターとしての活動があればこそだ。心境的にはむしろ、礼を言いたい側である。

 ありがとう。祭りの最中にも帰路の道中でも連呼していたため、ヒシュにはお礼はいらないと返されてしまうだろうけれど。

 

「えーと、その。……改めまして。有難うございます、ヒシュさん」

 

「んー……ん。お礼はいらない、かも」

 

 想像通りの返答をして、ヒシュは仮面をちょいと摘まんで持ち上げた。

 続ける。素顔が覗く。

 

「ジブンこそ、ありがとう。ここでの目標は、ノレッジとダレンが居てくれたおかげで何とかなった。ん。ありがとう」

 

 そして、笑顔が覗く。

 仮面の下に隠されていた『()』の、何処かぎこちなくも晴れやかな笑顔。

 正面から見るにはまだ、ばつが悪い。そう感じてしまったノレッジは、視線をやや斜めに向ける。

 

「まさかお礼を返されるとは思っていませんでした……あ、いえ、やっぱり何となく思っていたかもしれません。お礼を期待していた……の、ですかね? ちょっと自分でもこの感じ、はっきりとはしないんけど……」

 

 視界の左でふらりと揺れた、編まれた髪のひと房を指で摘まむ。

 顔が熱い、ような気もする。釈然としないこの感覚は、目前でかくりと傾ぐ、不思議の塊の様な……この人のせいなのだろう。予想は出来ていたとはいえ、未だ慣れはしない。こうして隣にいる限り、慣れることなどないのかも知れなかった。

 

「? お礼は言う。ジブンの我が儘、みたいなものだったから……」

 

「いえいえ。あのお話を聞いて我が儘だとは思いませんよ。わたしも、それにきっと、ダレン隊長もです」

 

「そうなの?」

 

「そうです!」

 

 力強く返答したノレッジを、ヒシュはぼうっとした眼で見やる。

 そうだ。我が儘だなんて思っているはずはない。ヒシュにとってもダレンにとっても、そしてまたノレッジ・フォールという少女にとっても。お供のネコについては、語るまでもない。ハンターとはきっと、誰もがそうして自分で選んだ生業なのだから。

 或いは、漠然とハンター業を務めている人ならば違うのかもしれないが。ハンターではない何かを目指して身を窶した者にとって、狩猟と言う生業は苦行であるのかもしれない。ただそれは、未知の鳥竜の狩猟を成し遂げた4者には当て嵌まる筈もない。後悔する暇があるのなら、暗雲に包まれたテロス密林を見上げたその時に、脱兎の如く逃げ出していたことだろう。

 世間慣れしていないヒシュは、そういう部分にはまだ疎い。かくりと傾ぐその姿が、面白おかしくも思えてくる。耐え切れず、ノレッジの腹から笑い声が漏れた。

 

「あはは! ……すいません。ふふ。でも、きっとヒシュさんになら判りますよ」

 

 ノレッジは確信をもって言葉にする。

 誰にでも染まる、何でも写す。赤ん坊の様な無垢さは、様々な世界を見てとった色彩は、やがて混ざり合い、自分の色となってゆく。

 人にとって、それは自然な事だ。筆をとるのが、ヒシュの場合は遅かった。それだけの事なのだ。

 

「そう? だと、嬉しいけど」

 

「ええ。そうして嬉しいと思えるのなら、いつかは」

 

 ヒシュとノレッジは小さく笑い合う。

 しばしそのまま笑い合い、ぽつり。

 

「―― 寒冷期が明けて、通商路が解禁したら、ジブンはフラヒヤに向かう」

 

「はい。昨日仰っていた、次のお仕事のため……ですね?」

 

「ん。『魔剣』の調査……っていう題目。実際には、もうちょっと厄介になる……と、思う」

 

 ジャンボ村を発つ理由。それはヒシュが大陸を渡った、元来の目的である。

 もとよりジャンボ村で未知を相手取ったこれまでの出来事が(その一言で片付けるには濃密だったが)、寄り道の側なのだ。

 ヒシュが目的地と語るフラヒヤとは、この大陸の北側を東西に渡って広く遮る高峰の名である。極冠のアクラ地方を囲うように聳え連なる山々。年間を通して雪に覆われる程に寒冷な地域。それがフラヒヤである。住まう人々の数は辺境のテロス密林よりも更に下って少ないが、代々雪山に土地を持つ幾つかの部族は、今もフラヒヤの山々を居と定めているらしい。

 

「わたしは行った事ありませんけど……フラヒヤはこの村から遠くありませんからね。同じ大陸の東側です。何かあれば呼んでくださいね、ヒシュさん」

 

「ん。そうだね」

 

 ノレッジの屈託ない言葉に、ヒシュは頼りにしてる、と続けた。

 しかし、そう。ジャンボ村を離れるヒシュに対して、ノレッジは暫くジャンボ村に留まる予定とした。その理由は幾つかあるが、1番は「ドンドルマがうるさいから」である。

 ノレッジ・フォールという少女は、何と遂に4つ星(ランク4)のハンターへと昇格することが正式決定してしまったのだ。目の前の、師匠でもあるヒシュを差し置いて。

 これには割と世情に無頓着なノレッジも、苦言を呈したい。

 4つ星ハンターは「上位」という位付けがなされ、より強大な……ハンター慣れしたモンスターや、成体以上の熟達した個体の狩猟依頼を受諾することが可能になる。ただ、「可能になる」という部分は題目に過ぎない。上位ハンターは、要請されてしまえばそれまで。狩猟依頼を断る権利を殆ど持たない、というのがハンターの現状である。

 ココットの村で発祥して未だ数世代(・・・・・)。世界に広がりつつあるとはいえ、現在のハンター市場は途上の最中。ノレッジが候補とされてしまう程に曖昧な基準で選定される「上位ハンター」など、年中人材の不足に悩まされている状態なのである。

 

「そういう位付けをしてハンターを煽るのは良いですけど、もうちょっと人が増えないと過労で大変な事になりますよ。その点、わたしはまだジャンボ村居着きのハンターですからね。ドンドルマの要請を優先的に応える謂れはありませんよー、っていう感じです」

 

「良いと思う。そういうのはペルセイズとか、グントラムに任せても。それに忙しくなれば、リンドヴルムも狩場に出られる。きっと、喜んでると思う。タブンね」

 

「あはは。ハンターズギルドには疎まれるかも知れませんが、それはそれ。いざとなったら書士隊でも食い扶持は稼げますからね。……わたしはまだハンター歴1年ちょっとの新米。ハンターだけでなく書士隊としても頑張りたいですし、申し訳ないですが、ドンドルマの屈強なハンターの皆さんにはもうちょっとだけ頼らせて貰おうかと思います」

 

 駆け足でここまで来たのだ。いざという時に立ち向かう覚悟はあるが、少女一人が少しばかりの休憩を挟むくらいの猶予はあるだろう。

 ダレンはドンドルマへ。ヒシュと、勿論ネコもフラヒヤへ。そして、ノレッジはジャンボ村に。

 未来は枝葉の様に拓けている。

 そうした再びの岐路を前に……ノレッジはふと、聞いておきたいことがあったのを思い出していた。彼の、ヒシュという名前についてである。

 

「ヒシュさん。って、あのう、先日仰っていましたけど……実は偽名だったんですよね? 本当の名前って、教えて貰えたりしないかなぁー……なんて思ったり思わなかったり」

 

「……んー」

 

 ノレッジの問いかけに、ヒシュは首ではなく唇をややも傾けた。ばつが悪そうだ。

 何か不味いことを聞いたか……と焦り始めたノレッジを他所に、かくり。

 

「……ん。ヒシュっていうのは必要で付けてもらった名前だけど、ジブン、元々、決まった名前も無い」

 

「あ、えっ、そうなんですか!? それじゃあどうやって……」

 

「出自は、ジブンでも覚えていない。だから部族では、役職で呼ばれてた。ジブンは奇面の人間の狩人 ―― 『被り者』。刃物の匕首(あいくち)。抜身のヒシュ。鳥とか獣とか竜とかと、同じだった。個体を識別出来てれば、名前、必要なかった」

 

 そう語るヒシュの表情からは、今はそうは思っていないという意思がしっかりと読み取れる。

 だから、力強く首を振って続ける。

 

「しゃべり方だって、一番長く一緒にいたハイランドのをジブンが真似ただけ。似てしまっただけ。……けど、今は違う。ダレンも、ノレッジも、村のみんなもジブンをヒシュと呼んでくれる。だからジブンは、ヒシュで良い。ううん。ジブンは、ヒシュが良い。……ジブンは、ヒシュ。ヒシュ・アーサー」

 

 ダレンであればその姓が持つ意味に気付いたかも知れない。しかし、ノレッジにとってすぐに思い当たる名前ではなかった。脳裏と心の大事な部分に名前を刻んで、これからもヒシュと呼び続けられる事だけを率直に喜んだ。

 ヒシュが前を向く。大陸の北から流れ来てテロス密林を包んでいた寒気は、次第に穏やかさを取り戻しつつある。旅立ちの日は遠くはない。

 いずれくる別れを思いながら、ノレッジは胸に当てていた手を、掌を、前へと伸ばす。

 

「では ―― またいつか。一緒に狩りをしましょうね、ヒシュさん」

 

「ん。約束」

 

 差し出された少女の手を、ヒシュは迷う事無くしっかりと掴み取った。

 そして、空いている一方の手を持ちあげ、傾けた仮面の端をしっかりと摘まむ。

 所々が焼け焦げ、警戒色の色味は燻り、それでもヒシュの顔を覆い続けた、木製の仮面である。

 

「約束した。だから仮面(・・)は、棄てていく。ジブンには、多分、もう、必要はないから。ジブンにとっての最高のお面は……きっと、見つけられたと思うから」

 

 仮面は取り去られ、そこには、真っ直ぐに前を見据えたひとりの狩人だけが残される。

 しっかりと地に足をつけた彼は、ひたすらに狩猟を行う歯車ではなく、部族にとっての刃物という役職でもなく、ヒシュと言うひとりのハンターだ。

 そうして選ばれた道を、彼は、ハンターとして歩んでいくのだ。

 今を。そして、これからを。

 

「はい」

 

「ん」

 

 師匠と弟子。ハンターとハンター。手を握り交わすヒシュとノレッジ。

 ……今はまだ、誰も知るはずはない事ではあるが。

 数年後、2人は次代を担うハンターとしてその名を広く轟かせる事になる。

 

 古き大陸を覆っていた一連の事態は、序章は、こうして過ぎ去って行った。

 

 まだ冷たい朝焼けの帳の中で、彼と彼女の頭上高く、明けの星が瞬いている。

 

 帳は開けた。

 

 動き出した運命を遮るものは、今はもう、ない。

 

 

 

 

 ――

 

 ――――

 

 ――――――――

 

 

 

 

 少しだけ、ジャンボ村のその後について語っておきたい。

 

 やがて、9つの季節が過ぎ去っては到来した。

 季節が過ぎ去るごとに、ジャンボ村は見事なまでの発展を遂げた。それも通常は考えられないほどの短い年月で。既にこの大陸においてジオ・ワンドレオに次ぐ第二の主要交流点としてまで機能をしている程だった。

 急進の中心を成したのは、やはりハンターであった。ミナガルデやドンドルマで既に証明されたモデルケースではあるが、ハンターを中心とした集落の構築は発展が早く、規模も通常の村とは比べ物にならない程大きなものになる。新興の街としてはメゼポルタも挙げられるだろうが、兎角、ジャンボ村は竜人族の村長の思惑を裏付ける成長を見せたのだった。

 竜人族の村長は大きく発展したジャンボ村を見届け、自分無しでもジャンボ村が機能することを確認するや否や、また次の開拓地を求めて旅立った。彼を慕うパティは村に残り、萎れた様子もなく、引き続きギルドガールズを勤め上げてくれている。元々竜人族らしからぬ、好奇心旺盛な青年の事だ。ジャンボ村と言うひと区切りだけで落ち着くはずもないと、パティも予想はしていたのだろう。

 村長だけでなくヒシュとネコ、それに暫くしてダレンもジャンボ村を去っている。村には他にも2名ほど居つきのハンターは居るが、これは大きな損失だ。そんな状況にある辺境の村に、それでも数多くのハンターが集まった要因としては、未知の狩猟に参加した先遣隊の内ただひとり村に残った少女……ノレッジ・フォールの存在が挙げられる。

 ミナガルデやドンドルマにも名が轟く功績 ―― 十代での一角竜の単独討伐を成し遂げた、年若い英雄。「天狼」ノレッジ・フォールが、書士隊の駐在員兼ハンターとしてジャンボ村に残っている。師を求める新人ハンター達がその存在を聞きつけ、こぞってジャンボ村を目指したのである。

 また、ハンターだけではなく書士隊の研修地としてもジャンボ村は大いに賑わいを見せた。中央に戻ったダレンやロンの手際なのだろうが、現地調査の実地経験を得るために、ノレッジという先達のいるジャンボ村は特に有用な地域となったのである。

 おかげでかは知れないが、ノレッジ・フォールという少女は必要以上に持ち上げられてしまった。上位ハンターとしての仕事のみならず、格付け的には殆ど二等書士官の内容……隊長的な立場を任せられることも少なくない。

 そうして経験を積んだ末、遂には正式に二等書士官へ昇進までしてしまったのだから、呆れでもって空いた口が塞がる筈も猶予もない。

 恐らくはロンの陰謀であろう。こうなるともうやけっぱちである。未熟ながらに出来ることをこなす。開き直ったノレッジ・フォールは我武者羅に突き進み、その結果、大陸の辺境に居ながらにして名を知られる立場となっていたのだった。

 これを成長と語るべきか、それでも神輿として担ぎ上げられているのか。ノレッジとしてはどちらにせよ無茶ぶりをされている事には変わりなく、結局は忙しい日々を送っている。

 

 ヒシュが村を去った折、ノレッジは彼から1つの手記を手渡された。

 それはかつて四分儀商会によって運ばれた「古龍の書」―― に挟められていた、とある書士官の手記である。ジャンボ村に到着したヒシュが真っ先に古龍の書を求めたのは、文献としての貴重さよりも、古龍の書に挟まれていたその手記を手に入れたいという部分が大きかったのだそうだ。

 読み終わったから。そう言ってヒシュから渡された手記と……もう1つ。土産として残されたそれらを、ノレッジは肌身離さず身に付けている。再び追いつくべきその背を、その影を、身近に感じていたいという心持からである。

 ジャンボ村の、今はひとりで使用しているハンターハウスの2階。

 しかし変わらずモンスターの資料で溢れた部屋の中で、ノレッジは待ち時間の手持無沙汰にその手帳を持ちあげ、小さな声で読み始めた。

 

 

「はじめに。

 ……これは、私的な日記である。過度の期待をしないように。

 

 この世界の南。旧き大陸の南洋には、「アヤ」という名の国家を内包する島が浮かんでいる。

 その島の西端。山の中腹をぐるりと刳り貫く様に、小さくも暖かい村が在った。そこは人と亜人種族とが手を取り合って生活する、稀有な「部族」の村であった。

 心を解する人の王。

 生死を別つ奇面の王。

 世に根付き、枝葉を広げる獣人(アイルー)の王。

 知を尊ぶ竜人の王。

 「部族」では四者の賢王がそれぞれ種族の頭を務めていた。時に皆が入り乱れた宴を催し、時に衝突し、時に酒を酌み交わし、時にいがみ合い……そして時に、協力して苦難を乗り越える。シュレイドの王都や、アイルー族が身近になった今のドンドルマなどと比べても尚、その村は人と亜人とが近しくも親しい生活をしていたのだった。

 

 ここで言う苦難とは、主にモンスターの襲来である。

 なにせ辺鄙な場所にたてられた辺鄙な村。しかも土地だけはあるときている。中型もしくは大型のモンスターが近付く事が村全体の危機でもあった。

 そのため「部族」は近付くモンスターを片から追っ払い、出来うる限りを狩猟する事で村の蓄えとしていた。村には若者で組織された専属の狩人達がおり、その者達が率先して武器と鎧とを持って狩猟にあたった。若者達の中には人間だけでなく奇面族の者やアイルーも含まれ、竜人族の頭を戴いて、狩猟のために野山を海川をと駆け巡った。

 

 そんな狩人らの中に、一際の異彩を放つ少年の姿が在った。幼い頃に山の天辺で放られていた所を、偶然にも参拝に訪れていた奇面族の王に発見され ―― 以後、種族は人間でありながら奇面族として育てられたという「部族」の中でも奇異な経歴を持つ男児である。

 彼には当然の如く両親がおらず、それ所か言語すらまともに理解できず……かつては獣の如く四肢で地面を這い、人に出会えば警戒心を顕にするという、通常ならざる状態であったと言う。

 しかし彼は、人間から言葉を。竜人から知恵を。奇面族から狩りを。社会についてアイルー族から教えを乞い、心身ともに成長を重ねてゆく。

 そうして数年後。少年は幼くして、狩人として一端の実力を身につけた。

 

 私が書士隊の筆頭書士官という立場(を、半ば放棄)で「部族」の元を訪れたのは、そんな少年が狩人として生計を立て、奇面の王から幼いながらに狩人衆の副長を任されていた時期であった。

 何分、山をぐるりと周る村である。狩人が毎日モンスターによって揉まれていたであろう事は想像に難くない。少年は口数少なく全てに純粋であったが、年齢を感じさせない熟達した狩猟の腕を保持しており ―― しかし、外の世界の見聞に餓えていた。食べ物や酒などよりも、子供に読み聞かせる寝物語の類などを何より聞いて喜んだ。

 そんな少年の様子を見ていたのが、竜人と人間の王であった。賢くも優しい彼等は、奇面の王とアイルーの王へ、少年に世界を旅させてはどうかという話を持ちかけた。しかも、連れ出す相方は私という内容である。私としては、この少年を外の世界に触れさせるという申し出については賛成であった。旅の連れが居るのも悪くは無いだろうと。

 稀有な環境を有する「部族」には少年の他にも優秀な狩人が山ほど居たこともあり、この提案をアイルーの王は快諾した。外の世界より御付の()を手配するという手配までもしてくれた。対して、奇面の王は親心からか少々渋りはしたものの、「奇面の民は一人前と成る際に自らに最も合った『最高のお面』を探す旅に出る」というしきたりを引き合いに出し、遂には首を縦に振った。少年が旅立つと決まった晩は夜通しの宴会となり、奇面の王は泣く泣く鉈を振り回し炎をばら撒き、その愛妾方々は秘伝の薬の調合方法などを惜しみなく少年に授けたという。

 

 ともあれ私は少年とそのお供となった雌アイルーとを連れて、書士隊員兼狩人として旅立った。

 ここで初めて少年の名を尋ねれば、彼は暫し悩んだ後、訛りの無い発音で「となりとおんなじ」という王国の古語を口にした。どうやら少年が言葉ではなく音として覚えていた唯一の言語であったらしい。

 ただ、それは名前としては少々不適格なものだ。私は仕方なく自らの苗字と奇面の王が去り際につけた「ヒシュ」という仮名を彼に教え、仮初の養子として、書士隊として、また狩人として、様々な場所を渡り歩き始めた。

 

 手始めに情報を得ようと観測隊の元 ―― 王都の存在するこの大陸に比べて、新しき大陸と呼称するが ―― 新大陸の西端に在るフォンロンに立ち寄った際の事。

 私達は旧き国(・・・)の姫君だという少女に出逢い、少女と、その守人である青年と侍女も、半ば強制的に旅の一行へと加わった。どうやら少女は見た事もない風習と仮面を身に着けたこの少年を以前の「部族」に居た頃から見知っており(対する少年は姫君を覚えていなかったが)、その旅に興味が沸いたらしい。

 姫君という立場であるからか何事にも不遜な態度を取る少女と、その見聞の狭さ故に何事にも無頓着で反応の薄い少年との間では、半ば一方的な喧嘩が絶えなかったが、不思議と険悪な様子はなく、私と守人とアイルーとは視ていて微笑ましい気分になるものだった。……侍女は終始鉄面皮であったが。

 

 さて。仲間を増やし、モンスターに困窮している人々が居れば手を貸したりという寄り道はするものの、一行の目的地は基本的に私の研究に関連した場所である。

 

 大陸と大陸の合間に浮かぶシキ国では、天剣山の峰を登りシナト村を訪れた。

 そこで私は逸話に詳しい長老と兄弟から悪しき風や天剣山の成り立ちといった伝承を聞き、モンスター達の持つ力の一端に触れる事ができた。

 彼の少年は風車(かざぐるま)に興味を持ったのか、同年代の子供達と折り紙に夢中になっていた。少女の方はというとどうやら珍しい技術に興味があるらしく、少年を引っ張っては練金屋と呼ばれる店に入り浸っていた。村長ら竜人族の知識は多岐に渡るものであり、ついつい私が長居をした結果、遂には少年少女が錬金術と呼ばれる法を身につけ、船上での食料事情が改善される運びとなった。

 ……現在私が食べているこんがりと焼けた肉の原料が何であるのかを問うのは、野暮という物だろう。腹が満たされ毒が無く、栄養が摂取出来るのであれば問題は無い。錬金術の動力源とされる「マカ」と呼ばれる摩訶不思議な力については、余力があれば研究に回す事とする。

 

 途中で嵐に襲われ立ち寄ったモガの地では、海の民が代々住まう村に滞在した。

 彼らに船の修理を請け負ってもらう対価として、狩人としての立場も持つ村長やその友人である太刀の達人と共に、「冥雷竜」と呼ばれる海竜の狩猟に立ち会う事となった。近隣の森にまで縄張りを広げていた彼との闘争は三日三晩にも渡り、激闘の末、撃退に成功した。同時にこの狩猟において海竜の放った「謎の力」の運用について見聞を得る事が出来たのは、私にとって思わぬ収穫といえよう。

 村においては、少年は畑に興味を持った様子であり、アイルー達と共に毎日土を弄繰り回していた。少女はこの地における弩の構造に興味があったらしく、鍜治の老翁から技術を伝授されていた。

 狩人としての技量を持たない守人と、世事に長けたアイルーとが手際よく手配をしてくれたため、ふた月後には船の修理を終えて再び旅立つ事が出来た。タンジアを出港する際、船にはロックラックと呼ばれる砂漠の中継地に向かう村娘を1名乗せた。娘はかの地でギルドガールズになる為の学びを受けるらしい。溌剌とした活力を漲らせるこの娘がギルドガールズになるのであれば、激務に追われるロックラックのハンター達も一層張り切って狩りをこなしてくれる事請け合いであろう。

 

 紅葉の美しいユクモという村を訪れた事もあった。

 渓流に挟まれたユクモの地は温泉が有名であり、近々ギルドの支部も置く手筈となっているらしい。竜人族が村長を務めているという事態は私の竜人族に対する覚えを革新したものの、その他には大きな滞りもなく、村の人々は調査隊である私達を概ね好意的に受け入れてくれた。

 私はこの地に流れ着いたという古の龍について記された書を目的としており、それらを収集保管していた四分儀商会と村長の計らいにて拝読をしていたのだが、ここでは近場の生物を貪り襲う未知の竜が現れた。

 ユクモの地には専任の狩人がおらず、且つ急を要する事態であったため、私は少年と……決して専門ではないが狩人としての腕も熟達してきた少女。それに加えて少年のお伴であるアイルーを引き連れて、件の竜と対峙した。

 結果は、見事な敗北。

 途中までは巨体による暴食の暴力をいなしつつ狩猟を運べたのだが、追い詰められた竜はモガの地にて海竜も発していた ―― 赤黒く奇妙に私達を威圧する「謎の力」を発現した。伝承の悪魔の様な姿になった暴食の竜に、私達は圧倒的なまでに蹂躙された。だというのに全員が五体満足のまま撤退に成功したのは、急遽、軽弩使いとして高名な鉄面皮の侍女が4人1組というハンター間での仕来りを無視してまで力を貸してくれた為である。

 しかし命からがら逃げ帰り、観測隊から事の顛末を聞けば、暴食の竜の全身から発せられる威圧感……を更に増した「謎の力」の影響であろうか。本来餌と成る筈の野生の獣達が、遠く離れていても竜の存在を察する事が可能になったらしい。件の竜は周囲の生物達に悉く逃げられ、生態の崩壊故に獲物にありつく事が出来ず、消費の激しいエネルギーが不足。最後には空腹で力尽きていた所を発見される、という顛末を迎えた。

 私は慶弔の意を込めつつ暴食の竜に「イビルジョー」という学術名を付け、その遺体について回収および調査を行った。骨格からして新しい種であり、どうやら私達書士隊が創っている生物樹形図には見直しと追加が必要になりそうであった。敢えて呼ぶとすれば獣竜種、といった所だろうか。この辺りは種として纏めるための時間がかかるだろうが、いずれはこの竜も樹形図の一員として加えられることだろう。

 尚、この狩猟の際に飢餓に陥ったイビルジョーからお伴のアイルーを間一髪で救った少年は、以降アイルーから全幅の信頼を寄せられる事となる。終始構ってもらえなかった少女はむくれ、遂には防具の作成に手を出し始めた。どうやら服飾の覚えもある侍女と共に、実家の伝手を元手にしてハンター向けの服飾屋とやらを立ち上げる心算であるらしい。

 

 未開の知識を求めて、書士隊と提携する龍歴院が建てられたベルナという高地を訪れたこともあった。

 龍歴院それ自体はとある()造物を調べる為の組織なのだが、王立古生物書士隊と組んで生物の調査も行っている。

 その肝は周囲に広がる特異な植生……古代林にある。ベルナ近隣の古代林と呼ばれる地域は、まるでそこだけが年月に取り残されたような「進化を放り出した」場所であった。菌糸類が割合を占めるその森において、私達は龍歴院職員の調査の護衛に帯同し、珍しい鳥型モンスターと遭遇。これを狩猟した。

 この世界には僻地がたんと存在している。このベルナという地もそれにあたり……僻地ほど生物は独自の進化を遂げ易い。我々が狩猟した現地人にホロロホルルと呼ばれるこの鳥形種も、ベルナの古代林に近い植生によって育まれた、守られた種なのであろう。とはいえこの地には他にも多くの独自性を持つ種が存在していそうではある。例えば……そう。村の長たちが噂に語る、暗闇に赤さを光らす双眸の、白い体の竜だとか。亜種や近似の種も、隔絶したこの地であれば外的要因に影響されることなく進化を遂げることだろう。

 今回ホロロホルルを狩猟したのは私以外の、少年少女アイルーの3者であった。少年と少女は、何だかんだで息が合う。近距離武器全てに熟れた少年と、絡繰りに強い少女、搦め手に長けたアイルーという組み合わせはハンターの一隊としては理想的なものだ。成す術なく狩猟と相成ったホロロホルルにおいては、御愁傷様である。チームワークを乱す要因があるとすれば少女の癇癪であるが、時折少女が放つ八つ当たり気味な砲撃も、少年の勘の良さからくる身のこなしを捉えることは出来ないようであった。

 

 そうして旅をすること数年。この時期からは材料も揃い、私が研究に時間を割く事が多くなったため、少年と少女には専属の師匠をつける事とした。

 少年には人々とハンターの界隈にて「至高の狩人(モンスターハンター)」と称される狩人達を、少女には「天の辣爪」と称される竜人の鍛冶師と骨爺鉄爺竜爺の三爺を紹介した。こういった時には私の持つ筆頭書士官という肩書きも役に立つものだ。

 少年と少女は類稀な才覚をいかんなく発揮し、各々が力を伸ばしていった。

 比例するように、私も研究へと没頭してゆく。

 

 それ故に、私は疎まれたのだろう。

 ある時を境に、私達の旅には暗雲がたちこめた。どういった天運によるものか、元々各地で厄介な生物と出くわしてきた私達であったが、より一層の災厄が齎されたのである。

 空を覆う雨と風が、まるで私達が逗留する村を追いかけるかの様に襲い始めた。

 度々に彼の龍と対峙し、敵わず、爪弾きにされる。

 私達は仮の名を使い回し、各地を転々とする。

 落雷が響く度、白く鋼質なその身体が覗く度、私達は逃げ惑った。

 

 いつしか少年と少女の成長を見守る事が、私にとって研究に等しい生きがいとなっていた。だから追っ手を嗾けられた際、狙いが……疎まれているのが私自身であると悟ると、迷わず別れることを選択した。少年も少女も狩人としての名が売れ始めている。守人と侍女とアイルーも居る。路頭に迷うという事は、ないだろう。

 私が一か八か鋼の龍に適した環境とは言えない火山へと逃げ込む事、ここで旅を分かつ事を告げると、いつも超然としている少女が年相応に泣き出していた。少年も無言のまま仮面の内から涙を溢し、不思議そうに雫を拭っている。2人の反応は共に長く旅をした私自身、初めて見る光景でもあった。

 私は腰を屈め、両者の涙が落ち着くまで頭を撫でながら、守人と侍女とアイルーへ宜しく頼むと告げる。幾つか「その後」の行動指針について話しが纏まる頃には、両者共に涙を収め前を向いてくれていた。

 

 一行に「また会おう」と別れ、旧き大陸へととんぼ返りした私は、着の身着のままラティオ活火山へと立ち入った。

 火山に入ってからも身を潜めつつ研究は継続する。猟場に近い場所に在り合せの掘っ立て小屋を構え、火の国の王都とを行き来しては研究に励んだ。

 王国のギルドとは依存の深くない火の国が取り仕切る場所だからか、追っ手はぴたりと止んでくれていた。ギルドに取り締まられる古文書の類も火の国の書庫には数多く現存しており、まさに研究にはうってつけの地であると言えよう。

 これまでの旅の経験だけでなく、火の国の王の助力もあり、私の研究は目覚しく進展をみせる。最大の一助となったのは、王からの託で知識を借りた……火の国の聡明な姫から預かった、火山から時折発掘されるという謎の鉄塊であった。解析してみれば、それらは未知の成分を含んだ鉱石で ―― いや、この敵性(・・)を見るに既に武器と呼べる代物なのかも知れないが ―― 何れにせよ「謎の力」に関連した素材を発見する事が出来たのである。

 力に宿る敵性、指向性には驚かされるばかりであった。意思を込めて鉄塊を振るえば、既に見慣れた赤黒い粒子が舞い、一定の力場を発生させるのである。何に対して有効な力であるのかは知れないが、私は『大戦』の遺物であると予測をたてた。また古文書の地道な検証の結果、「赤菱の実」または「龍殺しの実」と俗称される木の実が類似した指向性を持つと判明した。

 先にも記したが、私の居住地は火山である。火の元には困る事が無いためまずは実践と、鉄塊であったものを「大地の結晶」で寝ずに研磨し、『錆た片手剣』へと整えた。

 武器と呼ぶには未だ心許ないそれを火の国に持ち込んで尋ねれば、王宮仕えの竜人鍛冶師より『滅龍の剣』と呼ばれる品である事が語られた。「龍殺しの実」から抽出した液体と特定のモンスターの血とを折り重ねる様に染みこませながら、人の煩悩の数だけ昼と夜とを重ねて打ち込まねばならないらしい。私にとっては復元するだけで済んだのが幸いといえよう。

 

 この片手剣を差して(私のハンターとしての専門武器は棍であるが)、更なる研究をと構えていた矢先の出来事である。

 火の国を、炎皇龍という(つがい)の龍が同時に襲った。

 私を含めた狩人達が総出で押し返し、幸いにして進行は都の一歩手前までに押し留める事が出来た。が、火の国の三割もの地域が跡形も無く燃やし晒され、王と姫君はその対応に追われる事となってしまった。

 私は悩んだ。炎の皇と妃の龍は、かつて私達を追い回した金属質の龍ではない。だがこれは……いや。これすらも、私が招いた災いではないのだろうか。頭を抱えて悩む私へ火の国の王と妃、その娘君は気にするなと言ってくれる。彼らの優しさがまた、私の心を一層に苛んだ。

 研究の成果について語らせてもらえば、長きに及んだ炎皇龍との闘争において、私の持つ『滅龍の剣』は絶大な効果を発揮した。刀身に刻まれた溝が斬り付け龍の血を吸う度に怪しく脈打ち、赤黒い粒子が辺りに舞って。王都まで残り僅かという決戦において、既に死に体であった私が最期に一矢をと、渾身の力を持って剣を差し貫いた所、皇と妃の龍は一際膨大な粒子を吐き出してすっきりとした面持ちで何処へと去った ―― というのが襲撃の顛末である。そんな私の姿を見ていた火の国のハンターらおよび人々は私の事をやれ英雄だと囃し立て、火の国の王と妃まで娘の姫君を是非にと押し立てたが、結局、私が火の国に留まる事はなかった。

 

 この剣に宿る力が古の龍に敵性を発するという確証を掴み、次いで私は龍達の生態を記して行く事にした。

 火山を出立し、我が生涯の友であるギュスターヴ・ロンにいつもの様に内密の依頼をすると、いつに無く憂慮のみえる文章で綴られた返答があった。友の忠告に気を引き締めているとその通り、再びの追っ手が私を追い回し始めた。私が辛うじて難を逃れたのはロンの忠告のお陰であると言えよう。ただ、炎皇龍などの事件を記してあった書き物「古龍生態」は世に出回る前に、火山の半ばで起こった小競り合いの中で紛失してしまった。私の頭の中にはしっかりと記してあるため、実際の問題は起きていないのだが、それすらも相手の思い通りだとすれば、そこはかとなく口惜しい。

 

 追っ手を逃れるため、私はひたすらに逃走を図る。火の国の二の舞は御免である。出来ればここで追いつ追われつの連鎖を断ち切りたい。だとすれば、徹底的に逃げるべきだろう。

 そう考えた私は、かつてシナト村で伝え聞いた天を廻って戻り来る龍が如く。名を変え身の振りを変え、別れる前に少女の守人から仲介されていた赤衣の男の力を借りて、少年と出遭ったアヤ国へと逃げ込む事とする。

 

 旅立ちの日、私はドンドルマに建てられた書士隊の入り口で、誰にでも聞こえるよう声高に言った。

 『まだまだ未発見の生物がこの地方に存在する』……と。

 そうして私は、ジョン・アーサーという書士隊員は、深い森の中へと姿を消すのだ。

 重ねてきたその歴史も、無駄に嵩張る名声も、ジョン・アーサーという個体名さえも引き連れて。

 

 折角なので、テロス密林の真っただ中 ―― 旧い大陸最期の寄港にと立ち寄ったこの未開の集落に、『滅龍の剣』と我が相棒たる虫達以外の全てを置いて行こうと思う。

 古龍の書も、この手記も、私の名も、書き綴られた独白も。

 

 ああ。叶うのならば向こうでも研究と日記は続けたいものだ。

 それも、命あってのものだね(・・・・)だが。

 

 私の研究が今は開けた未来にて実を結び、かの少年と少女とが幸福な未来を掴む事が出来るよう、筆に願いと想いを込める。

 さて。この手記が親愛なる……誰だかは知らないが、誠に親愛なる……読んでくださった貴方の暇を潰せたならば、幸いである。

 

 かつての筆頭書士官、私 」

 

 

「―― !」

 

「……ふーむ」

 

「―― さん!」

 

「……んむ?」

 

「ノレッジさん、ノレッジ・フォールさん!」

 

 かけられた声によって、段々と現実に引き戻される。

 どうやら手元の手記に没頭していたらしい。日は既に昇り、自らが指定した集合の時間となっていた。

 

「あー、えと、すいません。少しぼうっとしてました」

 

 少しだけ居ずまいを直してから、女性は声をかけられた側……ハンターハウスの入口へと振り向いた。

 入口には、彼女に教えを請うハンターとしての弟子が数人、集まっている。声をかけたのはその内の青年である。

 ノレッジ・フォールは椅子から腰を上げ、入口へと歩み寄る。庇を潜れば、ジャンボ村には何時もと変わらぬ南国の、やや強めの日差しが降り注いでいた。

 以前よりも大人びた視線で。しかし好奇心に溢れた表情はそのままに。

 ノレッジは太陽の明るさに目を細め、弟子達を順繰りに見回して、声をかけ。

 

「皆さん、準備は出来ましたか?」

 

「「「はい!」」」

 

「では改めて。……今回は密林の奥まで遠征します。ダレン隊長からの依頼。『霞隠し』という現象の調査で、長丁場ですよー」

 

 声をかけ、朗らかに心掛けつつ、笑いかける。

 ……笑いかけるも、残念ながら本日が初顔合わせの3人の反応は芳しくも無い。緊張が解れる筈もない。

 これも仕方の無いことか、と、幾度も見てきた反応には溜息も苦笑ももう1つ。

 理由は単純。この狩猟は、今やハンターとして史上最年少となる19才での「6つ星位」を獲得し、ハンター間や王国の民草に広く知れ渡る次代の英雄 ――「天狼」ことノレッジ・フォールが同行する調査でもあるのだ。(ノレッジ自身から見ても)本来はあり得ない威光を目前に、3人共が萎縮してしまっているのである。

 ノレッジが書士官として実働した期間は未だ短く、ダレンには文章がなっていないと叱られる日々。王立古生物書士隊の一員としては未だ新人ともいえる彼女なのだが、しかし今は、ドンドルマに招聘されたダレンの代わりに二等書士官という立場を請け負ってしまっているのだから、これも仕方の無いことだと思えば諦めもつこうと言う物。

 観念と共に顔を上げる。ノレッジの目の前で身を縮こめる3人はダレンの元で修行を請うた、「アーサー流」を継ぐ、行動派の書士官なのである。嘗ての自分とは違い、全員が飛竜種の狩猟経験を持つ程にはハンター暦もある……の、だが、それでも勇名というのは大きいものだ。

 

「あはは。まぁ、出来る限り緊張はしないで下さいね?」

 

「いえ。……ノレッジ師匠兼隊長に見られながら狩猟を行うと言うのに、緊張するなというのが無理なんですが……」

 

「ええ。何せわたし達の師匠であるノレッジさんは、強大なモンスターをばったばったと撃ち倒す、新進気鋭にして伝説的なハンターですもの!」

 

「しかも若くして王立古生物書士隊の隊長候補だっていうしな」

 

 誇らし気な弟子が発した言葉に他の弟子達も賛同し、囃し立て始める。

 そんな光景をいつかの自分と重ね合わせて懐かしく思い……今は弟子を取る立場になった自らの成長を喜ばしくは思いながら、ノレッジはまたも苦笑を重ねた。

 実感は無い。自分はただ、あの人達を追いかけていただけなのだ。

 隊長としては、ダレンを。

 狩人およびハンターとしては、ヒシュとネコを。

 そして今も、前方をひた走るその背を追いかけている最中なのである。

 ……と、そう考えれば、自嘲ながらに言葉は浮かんでくる。

 

「あー、いいえ。その認識はやっぱり、違うと思います」

 

 ノレッジの否定の言葉に、弟子たちが一様に首を傾げた。

 首を、かくり。

 その様に少しだけ仮面の狩人を思いだし、懐かしく思いながら、少女は笑った。

 

「ノレッジ・フォールはまだ、ただの書士隊員。一端の狩人なので。しかも隊長としては新人ですよ。なのですから、皆さん。どうかわたしに、お力を貸してくださいねっ!」

 

 力強い言葉と共に、ぐっと拳を握る。

 鎧を確かめ、強化砲身(パワーバレル)を接続した重弩『流星(ミーティア)(スワム)』を担ぎ。

 今は導く立場となったノレッジ・フォールはハンターとして、書士官として彼ら彼女らの先頭に立つ。

 

「ではでは、行きましょう!」

 

「「「はい!」」」

 

 そうして勇ましくも歩むノレッジは、猟場へ向かう道中、ずっと。

 胸元に下げられた ―― かつては仮面の一部であった変哲のない木片を、お守りの如く、固く固く握り締めていた。

 

 





 ご拝読をありがとうございました。
 1章だけになんと足かけ3年。むしろ4年。これまでを読んでくだすった皆様には、感謝の念が絶えません。
 三つ指着いて。
 ありがとうございます。
 ありがとうございました。

 更新ペースが心配ですが、私的にはこのモンハン書き物はかなり趣味に寄ったものです。書きたいという気持ちは全くもって薄れていませんので、書き上がり次第2章も開始させていただきたいと思います。筆を置くつもりは全く持ってありません。趣味ですので!
 とはいえ次更新は「あとがき」、その後に(私的には初となる)「キャラクター紹介と世界観紹介」を挟ませて貰おうと思っています。ラノベ的に言えば、カバー裏とかそういう感じですね。ちょっと心配ですけれども。
 ちょい出ししていたサブキャラ達に焦点をあてた幕間……も、2章に必要と思われる部分については2つほど蔵出ししようかなーと思っています。それぞれ短いので、一話ごとの字数平均を下げかねないのですが、私はあんまり気にしていないので。
 あとは1章の書き直しと修正を挟みます。誤字や表現の変更だけでなく、シーンの書き加えなどがあれば、あとがき部分に追記をさせていただきたく思います。悪しからず。

 それでは。
 謹賀新年、皆様に激運のありますことを願いまして。
 ハンターとして確立したヒシュと、これからも走り続けるノレッジにも。そして不穏なダレンにも……これからの幸せを祈りまして。
 2章では一層の活躍が約束されているネコについては心配など必要なく。

 次章、剣鎧の章。舞台はポッケ村。
 時代背景は2ndへと突入いたします。

 では、では。


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