モンスターハンター 閃耀の頂   作:生姜

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第三十二話 曇天満たす、鳥羽玉の

 

 ハンターらがジャンボ村の命運を分ける狩猟へと発つ日 ―― その早朝。

 ジャンボ村は静かに日照を待つ。次第に空の端が明るくなった頃になって、村の川に面するハンターハウスが軋みを立てた。

 4者からなる一団。ハンター隊。準備を終えたヒシュとネコ、ダレン、そしてノレッジが自然と最後尾に並び、家の扉を外へと潜る。

 

「夜明け前、か」

「ん。あとは魚竜に遭わないようにって、祈る」

 

 荷袋をこれでもかと担いだダレンの声に、荷車を引くヒシュが相槌をうつ。

 一行はヒシュを筆頭にハンターハウスを出て村の西端、酒場の奥にある西口を目指した。西口から出てすぐ横の川港に、ヒシュとネコの船がつけてある。警戒区域である山を目指すにあたり、その途中に存在する湖までを、船で川を昇っていく予定となっているのである。何分長期の狩猟計画。荷物は膨大なもの。加えて、拠点にもなり得る船は是が非でも持っていきたいという思惑も在った。

 村を歩き抜ける最中、山際から太陽が顔を出す。酒場の周りを中心として宵闇を照らしていた篝火が、消えてゆく。

 ジャンボ村が成長を遂げているのは一目瞭然なのだが、こうして明かりが消え始め、その全てが人の手によるものだと知れば、この村に存在する人の営みの多さが実感となって認識できる。

 

 おばあの工房には念願の弟子が2人。

 港と船とを仕切るオヤカタの所も同様で、ジャンボ村の港は以前と比べても遥かに多くの声が響いている。

 門の脇の古い炭鉱は整えられ、珍しい鉱石が発掘されるようになった。

 薬師が駐在するようになり、市場はアイルーなどを交えて一層の賑わい。

 新たに山を切り開いて作られた切畑も拡張の一途。

 

 これら発展には四分儀商会が大きな援助元となっている。四分儀商会一隊の長ライトスからの依頼を、村に残ったヒシュとネコは文句のつけ様もなく達成して見せたらしい。

 ここジャンボ村は、交通の便を全て活用出来さえすれば、いずれは物流の中心になるだろう。資材を片す山の中で、ライトスはヒシュにそう語ってみせていた。最も(ライトス)自身は昨日ダレンらを迎えた後で部下に現場たる村を任せ、ドンドルマにある商会中央で忙しくしているという。彼によると現在、四分儀商会には大手の仕事が舞い込んで来ているのだそうだ。ジャンボ村での商いは既に軌道に乗ったという判断なのかも知れない。

 

 寒冷期を迎えたテロス密林は、その旺盛な緑色を僅かに縮込めている。清廉さをもって透き通った空気の中、来る寒さに向けた備えを続けている。

 村の西側にさしかかり、一行は酒場の中へと立ち寄る。代表したダレンが掲示板に張られている1番上の書類を手に取り、ギルドガールズの名に恥じず……早朝にも拘らずぴしりと身だしなみを整えたパティの目の前へと差し出した。

 

「お早う。……はい受諾ね。いよいよ、頑張って来なさいよ」

 

 パティは力強い言葉と共に受け取り、書類にドンドルマギルドの承認印を押しつける。全員が頷いて、踵を返した。

 酒場の横を抜ける途中、ノレッジの目に見慣れない竜人の女性が映った。向こう(・・・)で出会った竜人族と同じ衣装を身に纏う妙齢の女性である。彼女はどうやら村長と話し込んでいるらしい。

 用事だろうと、ヒシュは素通り。ノレッジは小さく礼をしてその横を通り過ぎる。ダレンとネコは、クエストカウンターだ。

 すると、此方に気づいた村長は、竜人族の女性に断りを入れ、走り寄って来た。その慌てようを見て初めて、ヒシュが足を止めて振り向く。

 

「―― ヒシュ。いよいよ出立かい?」

「ん」

「そうか。でも、そりゃあ当然、昼までは待たないよな……うん」

 

 村長は隣に並ぶと、大きな鼻を掻きながら、1人納得したように笑う。

 そして、背中の物入れをごそごそと漁ると。

 

「ヒシュ。オイラからはこれを。今朝方、ついさっき、やっと届いたんだ」

 

 冊子を1つ取り出し、ヒシュに手渡す。

 

「……? これって」

 

 古い皮に線がのたくる、しかし見た目の割には使い込まれた冊子。

 受け取った仮面の狩人は興味深そうな様子で冊子を裏、表とくるくる返し……ぽんと手を打つ。

 

「これ、術書?」

「ああ。弟から聞いたよ。早くから村を出ていたオイラには不可能だけど、君ならその術も使えるんだろう? シナトの術師、初代から先代までが書き記したっていう門外不出……だった書の、写本だよ」

 

 受け取った写本を、ヒシュはまじまじと見つめている。

 何かを思う間の後、面を上げて村長へと尋ねた。

 

「……皆伝は、確かに貰った。でも、分流のジブンが貰って良いの? 手段は多くて損は無い、から、良いなら貰う……けど」

「ああ勿論。折角オイラの弟を伝にして取り寄せたんだから、貰ってくれると嬉しいよ。それにどうせ現代で理解できる者は限られているし、君と姫君なら使いこなしてくれるだろうって、弟も当代も言っていたさ」

「……アイツ(・・・)にも?」

「そりゃあそうさ。まぁあの姫君には何時(いつ)何処(どこ)で、如何(どう)すれば出逢えるものか。判ったもんじゃあないけどね」

「じゃあ、本家の子」

「そちらも心配ご無用さ。当代が直接伝えている筈だから」

「……ん。なら、アリガト」

 

 お礼と共に、ヒシュは冊子をゴム質の革鞄に仕舞い込む。

 この無骨なゴム質の皮鞄は、ヒシュの特に大切なものばかりを仕舞っている ―― 防水性だけでなく抗菌性にも優れた品である。ダレンやノレッジにはよく判らない(奇面族的にはお宝らしい)がらくたや、お気に入りの宝石などが収納されている物入れ。その中に冊子を仕舞うという。それだけ大切な物という事なのだろう。

 

 冊子を渡した後、村長は「ちょっとお先に」と、走って港へ先行していった。見送りに行くつもりだろうか……と解釈し、荷物を引く一行は、村長から遅れて移動する事数分。ジャンボ村の西口である河川を渡す、木製の橋が見えてくる。

 すると同時に、普段のジャンボ村にはない異質な光景が広がった。所狭しと積まれた何かが、船が停泊する河川を覆い隠しているのだ。

 

「はて、なんでしょう……?」

 

 手を庇に、ノレッジが目を細める。

 黒光りする分厚い耐熱鋼。

 見るものに畏怖を覚えさせる砲身は朝日を飲み込んで鈍く返し、大口径の砲塔は揃って天を睨む。

 村の外にずらりと並べられているそれら。

 威容を放つ鉄の塊 ―― ミナガルデによる工匠兵器『試作型巨龍砲』である。

 

「……む」

「うわはぁ」

 

 ダレンがかみ殺した呆れの声を、後ろにいたノレッジが躊躇(ちゅうちょ)の欠片もなく口に出す。

 これら大砲は昨日、《廻る炎》によって護衛されたミナガルデギルドの人員が運び込んだものだった。

 興味を奔らせているノレッジの前に立ちながら、ダレンが説明を付け加える。彼はドンドルマに逗留していたために事情を知っている。

 

「手紙で話した、ミナガルデ卿の提出した『密林砲撃』の副案を実施するため……だろうな。ここまで手が早いとは思わなかったが……」

 

 今回の名義上、ダレンらはドンドルマに籍を置く王立古生物書士隊から派遣された「先遣隊」という扱いになっている。ドンドルマにミナガルデ。街同士、此方をけん制する意味合いもあるのだろう。余念ないその手管には、流石はミナガルデと唸らざるをえなかった。

 ただし台車付きとは言え、大砲はアプトノスの群れをも遥かに超える数。未知の住処である高山に運ぶにも中継が必要である。その中継地としてジャンボ村が選ばれたのだろう。何せここは竜人の村長が太鼓判を押すほどに、交通の要所としての要素を備えた場所。港としてここを選ぶのは理に適う。半ば当然、正しい行いですらある。……ただそれは、住み慣れた村にこれだけの異物を放り込まれた村民の心情を無視すれば、の話ではあるが。

 近くで番をしていた《廻る炎》の構成員に聞くところ、大砲らはここから天辺……射線の届く近くまで、残る一ヶ月を費やして運び込まれる算段であるらしい。その際には四分儀商会や《廻る炎》の人員だけでなく、僅かながら村の人手も使われるのだそうだ。《廻る炎》は確かに、そういった役目に重宝される立ち位置である。

 運搬員に給金は出るらしい。が、ダレンにしてみれば、ジャンボ村の村長がそれらの申し出に同意したのは意外でもあった。村長はミナガルデ卿の好き嫌い(・・・・)を知っている筈なのである。

 ただ、二ヶ月前にダレンの参加した会議で交わされた、ミナガルデとドンドルマの盟約の事もある。お上から多少なりとも圧力があったのだろうとの予測は出来るため、ここは仕方が無いと〆ておく事にした。

 

「おーい、ヒシュさん達が来たぞー!」

 

 ヒシュ達が船着場に近付くと、大砲の向こう側で大声が上がる。

 其処にずらりと、視線が並んでいる。

 早朝から出立する村のハンターを見送る為にと村の西口へ集まっていた、村人達の視線である。

 中にはオヤカタや先回りをしたらしいパティ、鍛冶のおばあとその弟子などは勿論、先ほど村長と話をしていた竜人族の女性までもが含まれている。どうやって先回りをしたかは定かではないが。

 村人らは周囲の異様にはやや不安を浮かべながらもそれらを表情には出さず、桟橋に乗り込むヒシュらを無言のまま見送ってくれる。

 

 川に掛けられた木製の橋の上。

 大砲の林をすり抜け、村人達の横を通り抜け、正面。

 それぞれの荷物を担いだハンター4名が、大小並ぶ。

 振り返り、村人の1人……少女が声援を発したのを皮切りに、一斉に声が飛んだ。

 

「……お願い、ハンターさん!」

「頼んだぜ、ハンターさんらよ!」

「どうにかこうにか……でも、死なんでくれ」

「そうさな。流通が滞るくらい、他にもどうとでもなるんだ。気をつけてくれよ」

「無事に帰ってきてくれさえすれば、それ以上なんて無いんだからな!!」

「ほっ、気張ってきんしゃい!」

「ふっ……今回の手柄はお前らに譲ってやるぜ、ヒシュ」

 

 止む事のない声援。引いた荷物と船の前で、一行は顔を見合わせる。

 見合わせたままヒシュにぐいと背中を押され、代表として前に出たダレンが拳を握って高く上げると、一層の歓声が沸いた。

 その中を、ハンター達は振り返らず、船の中へと乗り込む。

 期待を一身に、北へと向けて出立する。

 

 

 

□■□■□■□

 

 

 

 周囲一帯、水面を這う冷たい霧の中を船は進む。

 ジャンボ村を発って2日後の朝。ヒシュらを乗せた船は無事に「密林高地」の麓、中継点となる湖へと到着した。

 船は帆を畳みながら穏やかに、軋んだ音をたてて湖畔を減速してゆく。

 

「……ンー、ニャ……」

 

 船内に身を隠すハンターらを差し置いて、唯一船首へと駆け上ったネコが、哨戒の任務を果たすべくピンと髭を伸ばして周囲を確認する。

 川を上る最中、避けなければならないのは魚竜や怪鳥などによる襲撃であった。船を守りながら追い払うとなると、多大なる労力が必要になる。長期の狩猟となる今回、出来る限り浪費は抑えなければならない。

 ただこうして湖についてみると、心配は杞憂となっていた。密林の奥地に踏み入る毎に空気のざわつきが肌で感じられるようにはなるものの、同じくこの空気を味わっている密林の生物らが、迂闊に襲ってくるような事もなかったのである。緊張感によって不気味な均衡状態を保っていると言えば適切だろうか。

 砂浜にぐいと差し込んだ入り江の浅瀬で、船は動きを止めた。しんと静まり返った湖上で、舳先に1つの小さな影が躍り出る。顔を擡げ、髭を伸ばし。

 

「―― ふーむ。生物の熱や匂いは、どうやら見当たりません。皆様どうぞお出で下されば」

 

 辺りに敵意が無い事を確認したネコの促しを経て、ヒシュ、ダレン、ノレッジが船外へと次々顔を出した。

 

「と、あ、うわひゃ。……温暖な密林だとはいえ、流石に寒冷期の湖は冷たいですね」

 

 早速湖に飛び降りたノレッジが跳ね、体をぶるりと奮わせる。ダレンは辺りを警戒しながら、ヒシュは淀みの無い足取りで、それぞれが船を下りた。

 船を下りるハンターらは、既に鎧を身に着けていた。これから先は山登りになるのだが、いつどこで野生生物の襲撃を受けるか分からない以上、装備を解くべき理由も無い。そもハンターとは皮か鉱物か、鎧のままで管轄地を走り回る剛の者だからして、問題とて端から無い。

 

 積まれた荷物の内、保存用や予備の物以外の荷物を背負って船を離れる。

 暫くは平地が続いている。前方に見える裾野の境……「銀傘樹」の根元を目指して、一行は脚を動かし始めた。

 

「ん~、んん~。数多のぉ、飛竜を~」

 

 飄々と歩くヒシュが身につけているのは、黒狼鳥(イャンガルルガ)を素材とする紫苑の棘鎧。

 この大陸に来る前は銀火竜を素材とする手足甲冑と、白兎獣の皮を素材とした胴鎧を愛用していたが、それら装備は今、ロックラックの倉庫の肥しである。

 ヒシュは普段、仮面以外の防具には拘りがない。無論防具は命を守るもの。丁寧には扱うし、手入れもまめにする。加えて、四分儀商会からの依頼で狩猟したイャンガルルガの様に「気の合った」モンスターから取れた素材は愛用する ―― ものの。防具それ自体が修繕のため、素材も費用も(かさ)むものだ。動き易さと最低限の防御力さえあれば事足りると、ヒシュは考えていた。

 そのため長らく「レザー装備」を使用していたのだが……今回は相手が相手。恐らくは今まで培った仮面の狩人の経験すら凌駕する ―― 天災に等しいとされる古龍級の生物と評される「未知」を狩猟しなければならない戦局の只中に在る。

 備えは必要。そう考え、現状可能な限りの機能性を用意した。堅牢さに加えて、炎熱や毒に対する耐性を整えた。炎熱に強く堅牢なイャンガルルガの素材。内側には抗菌性と保温に優れたゴム質、ゲリョス皮の肌襦袢。そして「接ぎ」の素材としては、伸縮自在なフルフルの柔皮が使われている。既にヒシュ専用の一品として完成されたこれらは、手入れや修繕に手は掛かるが、防具として非の打ち所の無い性能となった。

 

「それは……童歌か。歌を歌うというのは確かに、緊張を緩和するには相応しいのかも知れないな」

 

 ダレンが頭から胴にかけて纏うのは、以前から愛用している「ハンターメイル」。鉱石と皮とを無駄なく継ぎ合わせたドンドルマ工匠の一品である。

 しかしそれら一般的な正中部から離れ ―― 両手と両脚の防具は、赤黒い竜鱗の燃えるような篭手と具足。雄火竜リオレウスの素材によって作られた物へと様変わりを遂げていた。

 ダレンは修行の間、ドンドルマに近しいラティオ活火山へ幾度と無く遠征した。炎熱の勢いが増し山々の鳴動が激しくなる温暖期には、当然モンスターの動きも活発になる。火山そのものの風格を備えた「空の王者(リオレウス)」と対峙したのも1度や2度ではない。屈強なるヨウ捨流の弟子達。またペルセイズやグントラム ―― 彼らが団長を務める猟団の団員といった歴戦のハンター達による助力がなければ、ダレンがこうして五体満足のままで立つことなど叶わなかったであろう。

 加えて、火山とそれらを囲む火の国は、鉱石の一大産地でもある。「ハンターメイル」の可動式兜の鉄鋼材も、一般的な鉄鉱石からドラグライト鉱石製に据え変わり、一層の耐久力と軽さを実現させている。構造を生かしながらより強固な装備へと強化が成された形であった。

 

「禍々しい歌ですよねぇ……でも、さらいにくるぞーっていう子供向けの脅し歌は、わたしの国にもありましたよ? 霞の様に姿を消す龍の話なんですが……」

 

 一方、ノレッジが選んだのは鱗の乗っていない皮の鎧である。

 頭上を覆う陣笠。首もとに巻かれた布。ぴたりと体に(あつら)えられた織物の内に帷子。くびれから垂れ広がる腰布。ノレッジがレクサーラで狩猟を重ねた様々なモンスターの素材が合皮として使われているこれらは、色合いこそ岩場に迷彩する地味な土気色に統一されているが、隠し切れない華のある衣装にも見えた。

 それら ―― ネコの国の「城砦遊撃隊」の図面を踏襲した装備を差し置いて、最も目を惹くのは左腕。

 鈍く輝きを主張する、白亜。一角竜亜種の堅殻を素材とした白銀の腕甲である。

 艶を消しても負けず輝くこの腕甲は、レクサーラの村とネコの王国、そしてハイランド・グリーズの連名でノレッジ個人へ送られた拝領の品だ。砂漠での経験を省みて、腕甲の裏には「白銀の角」を削った仕込みの短剣も誂えてある。

 射手とは、弾や矢を打ち込む役割。荷物を減らして獲物を撃つ役割である。故に弾丸や調合のための弾薬を持参しなければならず、結果として身体の守りは疎かになる。腕甲は、そんな射手の攻撃のための命綱。腕を射撃の衝撃や熱から守るため、唯一特化する事の許される装甲だった。

 他にも理由は幾つかあるが、ノレッジはこの腕甲を愛用していた。何より下手な鉱石よりも硬くて軽い。しかも、すり減らされるという防具の宿命を放棄したかの如く、牙を受けても炎を受けても揺らぐことの無い堅さを誇っている。ネコの国の鍛冶師……バルバロの妻が腕を振るい、「モノブロスハート」と呼ばれる特殊で稀少で用途不明な研磨剤を使用したらしいのだが、そこは専門でないノレッジには判らない。兎に角優秀な防具である事に偽りはないので、心配も感じていない。

 

「我が主よ。その歌を選ぶのは如何がなのでしょうかと、何度申し上げた事か……」

 

 後ろに続くネコは、荷物の替わりに、2輪の滑車を紐で引いている。

 船で来た故、荷車を引く役目の調教されたアプトノスがいないのが理由の1つだった。元より勾配のきつい高山はアプトノスに適さない環境でもあり、生命線である荷物の運搬を工夫するのは必要不可欠と言える。

 本来、山道などで荷を引かせるのであればガーグァという二脚の丸鳥が適しているのだが、生憎ガーグァは「新しき大陸」の渓流周辺や遺跡平原を根城とする生物である。しかも警戒心が強く、少しでも体駆の大きな生物に出くわすだけでも逃げ出すという。それ1羽を取り寄せるためには大量の金銭が必要となるというのに、今現在の密林周辺のざわついた空気では、近付くだけでも逃走しかねない……というヒシュの意見によってガーグァ取り寄せ案は却下されている。

 荷物は最低限まで減らされており、ヒシュらも背負い鞄として大量に背負っているため、荷車はネコの小さな体駆でもギリギリ引けないことはない。昇りになれば難しいだろうが、傾斜が急になれば吊り上げて移動すれば補う事も出来る。ネコ自身の装備は、防御力よりも身軽さを重視した外套と内鎧のため、荷物としては少ない側である。

 

「あーぁー喉あらば~叫ぇーべぇ~」

「よいしょ~耳あらば~聞けぇ~わたしの歌を~ぉ」

「……増えたな……」

「増えましたね……しかもノレッジ女史に至っては歌詞がオリジナルです」

 

 こんな騒がしい一団であるが、態々「中継点」に足を下ろしたのには訳がある。

 テロス密林の高地に埋もれた名も無き山。その天辺をこそ、イグルエイビスは根城としている。しかし山に踏み入るに際して、寄らなければならない場所があった。山麓に一際大きく根付いた「銀傘樹」の根元……そこに住む「伝承守」の頭取のもとである。

 ヒシュとネコが渡り来たこの「旧大陸」は、旧いが為に伝承や逸話が数多く存在する。中には「禁足地」と呼ばれ、足を踏み入れる事を禁忌とする区域が大陸各所にみられており……この高山を含む高地一帯も、その1つ。

 ただこれは、禁足地が危険度の高い生物の縄張りとなっているなど、侵入する側の危険を理由とするものが殆どであり、ハンターズギルドの権能を持ってか、ハンターという特殊な職業であれば立ち入りを許可される事例も少なくは無い。今回イグルエイビスが根城としているこの山も例に漏れず、ギルドの後押しを経て入山が許される地であった。

 それでも最低限、禁足地に踏み入るには、代々場所を管理している守人に顔を通さねばならない。しきたりと実利との妥協点、と言った所であろうか。勿論、山をくまなく知り尽くしている守人から山の近況を聞けるという利点も存在する。

 

「「彼の者の~、な~を~」」

「―― 丁度合唱が終わった所、満足でしょうか我が主、それにノレッジ殿」

「ん」

「はい!」

「そろそろ着くぞ。あれが目的地だ」

 

 ダレンの指差す先に視線が集まる。銀傘樹の名にある通り、薄翠の葉を傘型に着けた樹が間近に迫っていた。

 テロス密林における河川とは、人間でいう所の血管。栄養や必要成分を多量に含む循環機能である。それら河川の源域にのみ生息する銀傘樹は、生育に必要な栄養分の殆どを根元の河川から吸収するべく、葉に日光を浴びせる必要性が少なくなるよう重点的に進化を遂げた。それら進化の成功を示しているのであろう。山麓の恩恵を一身に受ける目前の銀傘樹は、根や幹の太さ1つをとっても並みの樹とは比べ物にならない程。大きさからして周囲よりも頭1つどころか3つ4つは抜けている。

 一行がそんな銀傘樹を見上げる位置まで近付く。すると。

 

「―― 来られましたか、運命の子らよ」

 

 大樹の下で、黄色を纏った老人がヒシュらを出迎えた。

 未だ距離がある中、先頭に立つダレンが軽く会釈をしながら口を開く。

 

「ジャンボ村より参りました、王立古生物書士隊のハンターが一隊。私はダレン・ディーノという者です。お目通りを嬉しく思います」

「よいよい」

 

 足は止めていない。近付くに連れ、老人の姿が鮮明になってゆく。

 老人は光を飲み込む様な、あるいは身に纏う者の存在感を丸ごと削る様な、古の衣を羽織っていた。艶消しの黄色に全身を包み、象形文字か意匠か様々な記号によって淵を彩られ、頭上にはつばの深い帽子。横から辛うじて見える尖った耳には、鈍く蒼く輝く年代物の飾りが揺れている。耳と鼻の特徴からして、目の前の老人は竜人族で間違いない。黄衣の出来と年季を重ねた厚みのある空気とが相まって、老人がこの地に根付いてからの長い歴史を感じさせる。

 老人はそれら風貌を一層強く印象付ける、凝り固まった眼球をぎょろりと動かし、ヒシュらを見回した。

 開口一番。

 

「歓迎させていただきます……ですが、申し訳ない。我等一族が存じ上げているのはざわつく森のこの様子(・・・・)のみなのです。これはここまで来られた貴方がた狩人であれば、既に肌身に染みてご存知の事でしょう。ドンドルマのハンターズギルドとの契約に基づく有用な情報の提供が出来なく、申し訳ない。ただ、せめて、どうぞ。この先へは自由に参られよ。例え滅びの運命にあろうとも、我らは甘んじて受け入れる。語り部はただ見届けるのみです」

「……と、いう事は」

「ん。通って良い、みたい?」

 

 どうやら許可は得られたようだ。情報はあくまでついでの目的であったため、顔通しという本来の目的はあっさりと終了した形である。

 ダレンとヒシュが思わず顔を見合わせるその前で、背に聳える山を仰ぎながら、ぼそりと、老人が続ける。

 

「本来であれば交わる事すらない筈の者らが、こうして今、相見えている。多少の差異は折りこみ済みでしょう。命をも命と思わぬアレを、貴方がたが、はてさて、狩る事が出来るか否か……。赤衣の奴らめと志を同じくする訳ではありませぬが、いずれにせよ歴史の岐路には違いありませぬ。この亜人の老翁は貴方がた狩人らの狩猟をしかと記憶に焼き付け、後世に伝えさせていただきましょう」

 

 此方の反応の一切を窺わないまま、老人は言い切った。

 ともすれば意味の端すら掴めないこの言葉に疑問符を浮べたのは、ノレッジのみ。

 ドンドルマで多少なりとも教授されたダレンは神妙な顔付きで、お伴たるネコはふむと髭を伸ばして。

 ヒシュは、仮面をかたかたと揺らし。

 

「そんなことはない、と、思う」

 

 かくりと、今度は首を横に振るう。

 否定の言葉によって一度は離れかけた老人の興味が、再び此方へと向いたのが肌で判る。

 老人はヒシュの仮面をじっと見つめ。

 

「ほう? ……貴方はどうやら、奇面の部族の気をお持ちですな。なればこそ、あの傾者のやっかいさを理解なさっているのでは?」

「んーん。ジブンだけじゃない。ここに居る皆は、それは判ってる。やっかいなのは、知ってる」

「ほうほう……成る程。確かにどうやら皆様揃って、それぞれ資質をお持ちの様子」

 

 ダレンと、ネコと、空気を呼んだノレッジが頷いたのを見て、年老いた語り部は率直に、感心した表情を浮べた。

 視線はそのままだ。ヒシュが続ける。

 

「この世で生きてる。ジブンも、その、イグルエイビスも。なら、交わる事がない、っては言い過ぎだと思う。モチロン、あれが未知性を孕んだ生き物だって、加味しても」

「それが未知を未知のままとせん……歴史を覆い隠すべく立ち塞ぐ、暗幕だとしてもですかな?」

「そう。命を命と思わないっていうのも、それは、人間が考え過ぎるだけ、と。命の何がしかなんて、きっと、自然の中では語るまでもないだけだから。タブンね」

 

 真っ向から言い分をすり抜けてゆくヒシュの言葉に、黄の老翁は笑みを深めた。

 

「ふむ。……それすらも受け入れる度量こそが、貴方達を狩人たらしめているのでしょうな」

「ん。やっぱり、生きているから。生きているなら、死ぬよ。狩れないことは無い。ここでジブンらが狩れば、あれ、世を脅かす天災になんて成らなくて……ただの生物(モンスター)で終わる」

 

 それは。

 と、老人は問いかける唇を紡いだ。果たしてこの狩人の立場がどちらに(・・・・)あるのかなど、歴史の流れの中では些細な事。興味をそそる内容なのは間違いないが、しかし、この老人はあくまで語り部という職務に忠実であった。

 話は続く。ヒシュがいつもと変わらず、向かいで首を傾げている。

 

「それにそもそも、ジブンらが駄目なら次の策がある。……って、ダレンが言ってた。ね、ダレン」

「ミナガルデ卿の策ではあるのですが、一応は。その際にはこの場に退去勧告の伝令が来る手筈になっていますのでご安心ください、ご老輩」

「ほっほ。ありがたい」

 

 軽やかに笑う老人はお礼の言葉を伝えながらも、勧告に従うつもりは毛頭無い。語り部は史実を見届け、後世に伝えるのが役目である。そこへ自ら介入をする余地も予定もない。

 ……無いが、せめてこの狩人達の健闘を祈るくらいは許されるであろう。彼ら彼女らが研鑽を重ねてきたのは間違いない。なればこそ、この物語が後の世で、1つの英雄譚として語り告がれ楽しまれるのであれば。

 

「―― 山の天辺は、一面黒い瘴気に覆われておった」

「えっと……瘴気……ですか?」

 

 反射的にノレッジが聞き返す。黄の衣がゆるりと縦に揺れる。

 

「そう。その瘴気のおかげで、我ら一族は近付けなんだ。遠目から目視するのも困難。ミナガルデギルドの気球が撤退を余儀なくされているのは、この瘴気によって観測に掛かる費用を抑えるためでありましょう。この物語の結末を求める英雄達よ、気をつけられよ。疾く参られよ。その手に栄えある耀きを掴まれよ」

 

 最後に「ミナガルデの監視は今は無い」と言外に付け加え、老翁は銀傘樹の根元へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 面通しを終えて。

 入り江の湖岸を離れ、船が再び動き出す。目指すは更に山へ近づく、奥まった停泊地である。

 湖から先の水路は急峻な崖、滝の連続となっているため、そこから先は徒歩となる。停泊させた船は第一野営地……本陣としての活用が可能であろう。

 船を水辺で完全に停泊させると、一行は再び荷物を持って船を下りる。先程よりも大荷物になっているのは、ネコが引いている荷車が存在するからだった。

 

「とうっ」

 

 唐突に声をあげ、ばしゃり。隊の中で最も好奇心旺盛な少女が、またも、桟橋を待たずして飛び降りた音である。

 

「おーぉぅ……」

 

 1番乗りを果たしたノレッジは、水辺に立ったまま顔を上げて感嘆の声を漏らす。

 砂漠とはうって変わって、懐かしい、水と縁とに溢れた湿密林。遠くから流れ落ちる瀑布の音。目前には、そんな密林をも突き抜けてゆく霊峰が、ジャンボ村から眺めた姿となんら変わる事無く厳かに、静かに、懐深く佇んでいる。

 ぼうっとしているノレッジの横にダレンと、ネコの荷を肩代わりしているヒシュとが追いついて、そのまま追い越した。それでも立ち止まったままの少女を、隊長としてダレンが諌める。

 

「ノレッジ・フォール。この先の山道から先に進む」

「あっ、すいません。じゃあわたしが先行しますね!」

 

 ノレッジは荷物を苦にする事無く、軽い足取りで木々の中へと分け入ってゆく。ダレンは少女の変わらない気性に少し溜息を漏らし、懐かしくも思いながらその後を追った。

 

 目の良いノレッジを先頭に、4者は上峰を目指す。

 登山の道中は楽ではないが、それでも序盤は予想の範疇に収まるもの。

 しかし高度を増すに連れて道中は激しさを増してゆく。普段は小型の生物で賑わっているであろう水辺を超え。勾配の急な坂を荷車を引き上げながら登り。方位を確認しては時折引き返しつつ、慎重に路を進む。

 移動は基本的に昼間に行う。夜間は体力の温存と体の適応、装備の点検に時間を割いた。夜間も野生生物による襲撃を警戒はしていたのだが、やはりというべきか、山中には他の生物の気配が感じられない。未知がこの山を居と定めてから、既にかなりの時間が経過している。糞や足跡を辿っても新しいものは見つけられず……居るとしても山を下ってゆくか、もしくは巣の中で縮こまるケルビやファンゴが数頭といった所。争うべき肉食または雑食の生物の姿が全く見受けられないのである。「静まり返っている」という黄衣の老人の言葉も、これならばと頷けた。

 

 時折体を慣らしながら4日ほど。

 一行は尾根伝いに山の頂上が視認できる高さにまで到達していた。

 

「―― っぷはぁ。身体も、大分お山の空気に慣れてきましたねー」

 

 ノレッジが腿を上げ下げした後、両腕を上に向けて大きく伸ばした。隣では真似をしたヒシュが首を傾げながら体を反らしている。

 山中を踏破するというのは予想以上に体力を食う。なので身体が鈍るという事はないが、これだけ他の生物が居ない猟場というのもまた珍しい事態である。緊張感を維持するのもまた大義ではあった。そういう意味で、ノレッジの持つ砕けた雰囲気は一行に良い作用をもたらしているに違いない。

 

「先に観測した地形と照らし合わせると、もう少し進めば樹林帯を抜ける筈だな」

 

 片手に書き込まれた地図を持ちながら、ダレンは前方を確認する。

 標高を上げるに連れて、木々は気候に適応すべく上背を減らしてゆく。それは人間や獣人も同様で、身体のだるさや空気の薄さに身体を馴染ませる必要があった。先日は怠さも頭痛も軽度あったが、それもかなり軽減してきているように思える。

 ダレン自身、標高のあるドンドルマを拠点として修業を行っていたため身体が馴染むのは早かっただろう。ヒシュとネコも最近に高い位置での狩猟を挟んでいたと聞く。心配があるとすればノレッジだが、彼女の体調は今の所安定していた。

 とはいえ、ここから先も慎重に進む必要性はあるだろう。ヒンメルン山脈程ではないが、この密林高地だとて頂上付近はかなりの標高になる。高ければ高いほど変化は強い。悠長にしている時間があるか否かは、相手の出方次第ではあるが。

 

「さて ―― 抜けた、が」

「ん、此処だと思う」

「おぉ」

「……ふむ?」

 

 樹林帯を抜けた瞬間、その光景を目前にして、4者4様の疑問符が浮かんだ。

 切り開かれたが如くおあつらえ向きの、平原。勾配は緩やかだが、それゆえに隠れる場所は無く、空からの見通しも良い。……襲うならばここであろう、と。

 空気が変わったのが、判る。

 気付けば山を覆っていた暗雲が、急速に、此方(・・)向かって(・・・・)伸びて来ていた。

 樹木が減り石と礫とが増え、開けた平地 ―― まるで辺りの明るさがなりを潜めたかの様に思われる。

 誰しもが腰を僅かに低く、その場に立ち止まり。

 

「来た」

 

 荷物を背負ったままのヒシュが、覆仮面のまま峰を見る。ネコの耳がぴくりと動く。ノレッジが僅かに遅れて仰ぎ見る。ダレンが最後に、ハンターヘルムの庇を持ち上げる。

 山道を歩く4者を目掛け、いよいよ近付いて来る ―― 羽音が1つ。

 

「……あれが!」

「お任せを」

 

 ノレッジが声を上げると同時。各々が荷物を放り、ネコがその移動を一手に請け負う。

 晴天の空に1筋、黒味が射した。

 黒く(ただ)れた羽を絢爛に揺らす、鳥竜の影。

 モンスターの出現を受けて、ハンターらは油断なく武器を構える。

 

「……しゃんたく……? あのまま、来る」

 

 視界に相手をはっきりと捉え、ぽつりと謎の呼び名を発しつつ、ヒシュは腰のククリ刀に手を伸ばした。

 

「いえ、イグルエイビスって名前が着いたんじゃなかったでしたっけ……もしくは始祖鳥?」

 

 青白い一体型の重弩を背から腰へと接着し、ノレッジは弾丸を装填した。

 

「余所見は程ほどにだノレッジ・フォール。迎え撃つぞ」

 

 大剣の皮鞘の留め金を外し、柄を把持して、ダレンは右足を半歩前に踏み出した。

 

「自ら我が主の下へ出向いてくるとは。相手ながら殊勝な心がけ」

 

 最後に、ネコが一行の後ろへと回り込む。

 陣形はこれで整えられた。

 

「―― 、」

 

 風を切る小さな羽音を引っ提げ、宙を割き飛び来る黒色。彼我の距離は十分に。

 王立古生物書士隊に籍を置く3名は、未だ距離を保ちながらも、相手の骨格と風貌とを観察し始めた。

 相手は原初 ―― つまりは過去に在ったもの。

 人が既に過ぎ去った時点にありながら、未だ知らぬという矛盾を抱えた生物だ。

 それらを知る千載一遇の機会を、狩人らは得た。未知を既知へと変えるべき時節を迎えているのだ。

 

 20メートル程の距離を保って、樹林帯の側へ。

 最も太い木を選び、その上に降り立つ。ぎしりと樹が軋みを上げた。

 鋭い脚を2度踏み鳴らし、翼をゆるりと持ち上げる。

 端から端まで、十全に開けた血路。危険が大口を開けている。

 そこを、死地を踏み行く慎重さを持って剣を握り、狩人らは行く先を睨む。

 威嚇。翼が広がり、太古の嘴がふるりと震え、上下に別たれ。

 

 

 

 

「―― ジュキュェァァァ゛アアーーッッ!」

 

 

 

 

 嘴を芯に大気が揺れた。翼に黒々と生え揃う羽が、其々の意思を持っているかの如く蠢いた。

 祖なる鳥を見上げながら。びりりと震える肌を押して、ヒシュとダレンが前に出る。

 

「―― ネコ!」

「了解です、我が主!!」

 

 4者の中で唯一、陣形 ―― ヒシュが最前、ダレンが中距離、ノレッジが3時方向に回り込むというもの ―― に加わっていなかったネコが、気合の乗った声で返答した。

 彼女は引いていた巨大な荷車の後ろ側へと飛び乗り、地面に固定された事を確認すると、鶴嘴を振り上げる。

 これはネコが元より得意としていた役目でもある。機を読むのも手馴れたもの。

 翼を羽ばたかせ、体が浮き上がり。

 

「行きます ―― ニャァッ!!」

 

 ネコが全身を使って叩き込むと、荷車だった(・・・)物がガラガラという音をたてて駆動を始めた。

 音を意に介せず、巨影は樹上から高速で降って来る。視線は先頭に立つヒシュへ注がれている。

 ヒシュが丸楯を構え、そこへ、頭蓋を侵食した巨大な嘴が近づき。

 

 衝突の寸前、弩砲を思わす蒸気の音が割り込んだ。

 

「穿てよっ ―― 撃龍槍っっ!!」

 

 マカライト鉱石。ドラグライト鉱石。カブレライト鉱石。それら名だたる鉱石を、獄炎石やユニオン鉱石で繋いだ……極大の「撃龍槍」が、轟音と共に回転し突き出される。

 新世を迎えた王立武器工匠の作、対大型生物迎撃兵器「撃龍槍」。初代のものは行方不明になったが、依然としてドンドルマやミナガルデで使い継がれてきた運用実績を持つ、弩砲と鉾の衝突角……その簡易版である。

 簡易とはいえ撃龍槍に違いはない。その刺突は、飛竜の外皮をも容易く貫いてみせる程の威力を宿している。

 が。

 槍の軌道上。

 全く臆する事無く、イグルエイビスはヒシュに向かって猛進する。

 結果、撃龍槍は嘴に真横から直撃した。槍に含まれた紅蓮石の成分が煌々と明るい火花を散らす。

 しかし堆積した闇を思わす巨鳥の外皮が、それら明るさを放たれた端から吸い込んで行き。

 結果、イグルエイビスが撃龍槍に貫かれるという事はなく。

 

「―― ュェァァ゛アッ!」

 

 それでも押しせめぎ合う力比べは、宙に浮かび足場の無いイグルエイビスの側が不利だった。鳥竜は押し出され、大きな羽を動かし空中で姿勢を立て直すと、一度地面に足を着けた。

 着地点へ向けて、ダレンとヒシュが一挙に走り出す。ノレッジが銃口を向ける。ネコが荷車兼簡易砲台から飛び降りる。

 

「これより、狩猟に取り掛かる」

「ん。行く」

「ノレッジ・フォール、行きますっ!」

「遊撃、開始致します」

 

 暗雲垂れ込める衝突。

 これらがダレン隊と未知との、長く果てない闘争の口火を切る一撃となった。

 





 間は開くと思いますが、とりあえず大筋は出来上がっているので更新します。VS未知戦その①です。何かあれば(特に遭遇→衝突の流れとかがうまく運ばなかった印象)追記修正削除のどれかはあるやも知れません。悪しからず。申し訳ありません。
 以下、順不同に雑談。書きながら寄り道している思考メモの様なもの。

・銀傘樹。残念ながらオリジナルです。
 モンハン世界の木々については殆ど(……というか、もしかして、名称が明らかなのはヒヨス位でしょうか?)情報が無いもので、オリジナルになってしまいました。眺めていると、一応名前が予想できるものも多いですが……はてさて。
 こういう大樹が目印になっている場所と言えば、バデュバトム樹海(2ndGのナルガ本拠)。ロマンが溢れています。名称については銀傘+傘寿の意味の薄い語呂合わせだったりしますが。

・防具を着ながら移動する事について
・問題とて端から無い。
 ……いや、あると思います。2ndGのOPを見るに、キャンプで装備を整える様子にも見えますし。
 ただ2ndの初っ端、ハンターポッケ村へ移動ムービーや3rd初っ端「ユクモ村へ」のムービーを見る限り、軽装であればそれで移動する人も多く居る様子です。ユクモ装備なんかも旅人の衣装として利用されている様子ですし、やはり重さは関係あるのだと思いますよ。当然。
 とはいえやはり危険度7(モンハンクロス現在、ウカムアカム&ドス古龍と同等。オストガロアやアマツ等が危険度8)のモンスターが居ると宣告されている地を歩くのに、鎧を外したくは無いですよねーという。このくだりを作中でやると、どうしてもメタメタしいので省かせていただきました。いえ説明の分量多いのにそこだけ気にするのも今更ですけれど。

・初っ端撃龍槍。
 やりますよね、ドンドルマ迎撃街とか立体闘技場とか。
 ……え、やりません? 4Gでティガ3体とか、あれを確実に当てられるか否かでタイムが変わってくるので……勿論、ソロですけれども。

・モノブロスハート。
 ……だから心臓を落とすのは如何程かと思うのですが……うん。用途不明。死んでも復活するあの方も心臓を素材にされていましたね。あと轟竜の希少種ですか。心臓を何に使えと……?
 いえ、ですから本作におきましては十分に有用な使い道があるのです(自問自答。
 初代辺りでは、英雄の剣の研磨に使われていましたモノブロスハート。モノブロスの稀少素材になります。他にモンハン世界の研磨剤といえば、大地の結晶、竜骨結晶といった辺りが有名でしょう(前も確か話題に出した)。この辺は私的にまとめてあるものを後々、設定集として出して見ましょうか。モンハンSSが増えてくださることを願いまして。

・遊撃隊? 弓撃じゃなくて?
 だって露出させる意味が判らない……(ぉぃ。
 でも隙あらば弾丸を搭載してやるぜ! というあのデザインは好きですね。ノレッジのも遊撃隊の露出度(御幣あり)で、でも弾丸は巻きつけてあって、頭は陣笠に変更してあるという。実際、視界を保持するという意味では傘の方が優秀なのではと。

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