寒冷期、繁殖期、温暖期。
これはジャンボ村やドンドルマの街を基準とした三季だが、大陸全体にもこれら時節は概ね一貫して存在している。
気圧の配置換えによって生じた雨季により植物が生い茂る。繁殖期によって増えた草食動物が植物を食み、肉食動物が動きを活発にする。温暖期から寒冷気にかけて活動は緩やかに減退し、繁殖期に向けた次代の生育が行われるのである。
流れ行く季節に、大局も、ゆっくりとだが確実に動いていた。
ドンドルマは《根を張る澪脈》の団長らを秘密裏に先遣し、「
忙しなく動き続けるドンドルマに対して、ミナガルデは空恐ろしい程の沈黙を保ち続けていた。ミナガルデ卿の言葉にある通り《廻る炎》からは応援のハンターも派遣された。彼らは「未知」によってかき乱された生物達の討伐及び調査の護衛に借り出され、その職務を忠実にこなしてくれている。少なくとも彼らに含むところは無い様子であった。
中立に在る火の国は、ラティオ活火山とモンスターが活発になる最盛期を経てようやくと落ち着いた頃合。ドンドルマからの協力要請にも応えられる時分となり、少しずつではあるがハンターの派遣を始めてくれた。火の国はハンター達にとっても最前線である。ラティオ活火山とは、膨大な地熱に耐えうる所かそれすらも自らのエネルギーとする様な怪物ばかりが集まる場所であるからだ。その様な場においてハンターという職業を担う者は当然、実力者ばかり。彼らの助力を得ることが出来るのは大きな援護でもある。
未だ開拓中 ―― 発展途上に有る街メゼポルタは、季節を問わず猟繁期であるため、依然として大量に移動した生物等への対処に追われていた。季節はずれの狩人祭を開催して駐在するハンターらの意欲を煽り、後手後手ながらも影響を最小限に抑える事に成功している。
そうして。
大陸の東……密林の高地を中心とした一連の事態は、周囲を巻き込みながらも、人々の尽力によって、僅かずつ沈静化に向けて動き始めている。
政務の努力もあって地勢は整い、周囲の生物および人々らの混乱は一応の収束を見せ。
残すは、元凶の討伐を待つばかり。
そして2ヶ月ほどの時が流れ。
遂に、温暖期が終わりを迎えようとしていた。
季節を問わず熱と湿気に包まれたテロス密林。
時々雄叫びを上げながらつかず離れずの位置を走る影が3つ、夜雨を避けた洞窟を横切った。ランポスによる縄張りの巡回であった。
「ギァ、ギァ!」
ランポスは忙しなく目を動かし周囲を確認するが、敵の姿は見当たらない。見当たらなくても走らなくてはならないのが下っ端である。この洞窟がランポスの縄張りになってからはケルビ達も姿を消してしまったため、おこぼれに預かる事も無い。彼らは事務的に周囲を確認しながら、また走り出す。
べちょり、という粘質な音が小さく耳に届く。先頭を走っていたランポスが立ち止まって辺りを見回す。周囲に敵影はない。ここは湿密林。雨音には事欠かない。後ろにいた1匹と顔を見合わせ、雄叫びを交わしてから再び走りだす。
べちょり。次に音が聞こえた時、先頭を走るランポスは気付いた。巡回を行っていた分隊が、既に自分しかいない事に。
頭上に、白影が迫っている事に。
無音からの破砕。電が洞窟を奔る。
ランポスが地に伏せる。雷撃を受けたのだと気付く間もなく、意識は失われていた。
鋸歯を揃えた口が下へと向けてずるりと伸び、地面に倒れ臥すランポスを丸呑みにする。鳴き声は終に聞こえなかった。
洞窟に静寂が満ちる。天井に溜まった白の影は動かない。白い影の喉元が走竜の形に浮かび上がり、膨らみは、胴部へとゆっくり移動してゆく。肉の塊は養分になるのを待つのみとなった。
胴部で消化するため、白い影が地上に降り立ち ―― 瞬間。
「居た。やっと見つけた……最後、フルフル」
「了解しました。遊撃、開始します!」
洞窟の岩肌を蹴り、闇に融ける紫の皮鎧 ―― 狩人が高所から飛び降りた。
岩盤を踏みしめバネの様に縮こまり、反動、湿っぽい風を切り、伸び上がる様に突貫する。黒狼鳥を象った覆仮面の嘴がかたかたと揺れ、刃物を二振り抜き放った。
白い影 ―― フルフルは無音を背景にその首を伸ばしては、辺りを探るような気配を見せる。寸胴な体駆。肌は艶やかなアルビノの白色に染まり、尾は短く、翼は申し訳程度に体の両脇。この飛竜の何よりの特徴は、頭と目される部位……口の有る部分に、本来あるべき目や耳や鼻といった感覚器官が見当たらない点であろう。
熱か、音か、はたまた音波の反響などを利用しているのか。王立学術院が熱心に研究に取り組んではいるが、フルフルが獲物や障害物を察知する為の器官は未だ解明されていない。
とはいえ。フルフルは個体数こそ少ないが、湿気を含む奥地へと足を踏み入れた場合はその存在を危惧しなければならない、確かに見かける飛竜でもある。その種は幼生体である「フルフルベビー」の環境適応能力の高さにある。そのためクルプティオスやジォ・テラードなどといった湿地帯からポッケの山々……大陸の西から東まで、実に広い生息域を持っている。そんな生物にいくら不明瞭な部分があろうと、ハンターとして狩りに赴かねばならない事例は枚挙に暇がない。
だが今回の狩猟はそう言った強制力のあるものではなく、ヒシュ達の側から申し出た物。フルフル種が体内に持つ発電機関 ―― 「雷袋」は特異に希少な素材で、入手に動いていた理由でも有る。この飛竜がジャンボ村周辺の洞窟に出現したと聞いたヒシュとネコが、これを逃す道理は無かった。
「フォ、フォ」
吐息。首をもたげていたフルフルが近付く敵対物の存在を察知する。
盲目の竜は確かに狩人らへと振り向き、口元を高く上げ、鳴いた。荒々しい轟音ではない。身を突く針の咆哮。音の波は洞窟内を揺らしフルフルの存在と戦意とを知らしめる。
「竜盤目、獣脚亜目、稀白竜上科……!」
呟き、咆哮の最中にある獲物へ。ヒシュは体重を全て乗せ、手斧『トルネードトマホーク』の片割れを小さく振り放った。
扇型の刃が胴に食い込むが、芯まで通る前に弾性に阻まれる。逆手の骨製湾曲刀『ククリブレイド』も叩きつけて、やはり結果は同様。
狩人が感触を経験に重ね反芻していると、フルフルの身体が青白い光を帯びた。尾が降りていたのを横目に確認し、飛び退る。
開いた脚。腹が着く程に身体を低く。尾が吸盤上に広がり、地面に張り付く。フルフルを中心として紫電が渦を巻いた。
終わらない。今度は雷が指向性を持ち、その矛先は離れた仮面の狩人へと向けられる。
雷撃は見えない部分にも影響を及ぼすため余分に距離を取って躱す。弧を描き、放電の後ゆったりと開いていた二脚を戻す間を、再度の接近で脅かす。
今度は近接戦に応じた。無数の血管が透ける腹を目掛けた手斧は翼で阻まれ、腰を捻って放たれた次の湾刀を大腿で受け止められ、背後を取ったネコの刺突は硬質化した尾で弾かれる。反撃と、フルフルの首が辺りを薙ぎ払った。
「フォォッ!」
「む、ぐっ!」
鞭の一撃を右腕に着けた楯で受け流し、勢いは飛び退いて殺す。ゴム質の円楯がびぃぃんと小さく揺れていた。右腕にも痺れが残っている。電撃ばかりではなく、全身を使った伸縮自在の打撃も決して侮れるものではない。
移動場所へ先んじ、ネコが呟く。
「若く強い個体ですね」
「うん ―― 」
フルフルは洞窟の奥深くに潜み……湿気の在る洞窟であれば気候に関係なく生息域を広げる事が出来る。生息域の獲物の状態によって体駆にばらつきが出るため、体高でだけで一概に年齢を読み取ることは出来なかった。
ただ、その代りの基準が存在する。老成の度合いは首元の下垂の程度によって判断するのだ。伸縮自在の首元は年を重ねる毎に垂れ下がり、最後には首が伸縮しなくなって老衰を迎える。
その点この個体の首は下垂なく、放電も伸縮もふんだんに使いこなしている。手斧を阻んだ肌の厚みも個体上位のフルフルのそれである。ネコの言葉にある通り若く強い個体と判断できた。同じく外皮が柔らかいゲリョスと比べて違うのは、弾力に厚みが加わりブヨブヨとしている点だ。これは首や尾を伸ばす為の余剰分であり、どちらかと言えば「新大陸」の垂皮竜や水獣ロアルドロスの十分に水を含んでいる際の海綿組織に近い……と、思考の隅に留めて置き。
「皮、弾力ある。手斧みたいに叩くのは効き辛い。なら ―― 引いて割く。突いて裂く」
狩人は手斧と湾刀を手放し、攻防の間にネコが放っていた袋から新たな得物を抜き出した。
背の有る刀身。近年狩人が新たに武器として担ぎ始めたような大太刀ではない。しかし軟鉄と外鋼の二層によって編まれた構造はそのままに ―― 飛竜の持つ発熱機構を搭載した『飛竜刀』。東方伝来の太刀を、片手でも持つことが出来るように縮小したものだ。
『飛竜刀』は一介の業物に留まらない特殊な武器である。空気に触れると発火する火竜の延髄が刀身に嵌められており、振るうと同時に炎熱を発するのだ。延髄は、リオレイアのものを物々交換で入手した。また火炎袋から取り出される粉塵も発火機構に一役買っている。
火炎は王立武器工匠本来の構造によるものよりは小規模だが、切れ味も炎熱も痛手を与えるには十分だ。火傷による細胞の破壊は傷の治癒を遅くする。傷の回復遅延は創傷感染を引き起こす。狩人の武器としてこれ以上ないいやらしさ。ただ、細くする為に犠牲にした武器としての耐久度は、狩人の剣腕によって補う他無いのだが。
対称、右手には『サーペントバイト』。ランポスの鱗に覆われた頑丈な胴と、刀身の替わりに無数の牙。この牙は着脱可能であり、用途や相手によって使い分けられる自由さが有った。
盲目の竜は湿気を好む。皮が持つ弾性は水分によって維持しているのだろうと踏んでいる。細胞内外の水分バランスを崩す熱傷 ―― 火の武器は有効であろう。
「フォッ」
距離を取っていた此方に向けてフルフルが跳ぶ。盲目ながらの跳躍の正確さは、裏を返せば移動によって回避できる容易さでもある。相手の動きを先読みしたヒシュが静かに飛ぶ。
空振り。重さと図体の割には小さな着地音。厚みの有る外皮は消音にも適しているのだろう。天井や壁を動き回るフルフルにとって消音は命綱でもある。
圧し掛かりを避けた狩人らが近付こうとすると、ネコの声。
「……主殿、お待ちを」
「ん」
フルフルが翼を動かしていた。ヒシュが脚を止めると同時に飛び上がり、洞窟の天井を這い伝って移動してゆく。流石に天井にまでは届かない。ヒシュとネコは揃って足を止め、その姿を見送る事に。
「逃げましたか?」
「……まだ、よく判らない」
出遭ったばかりだというのに争う場所を変えるその意味は、判らない。目も鼻も無いフルフル。表情が無く気性が読み取れないというのも、不明瞭さを助長している。
「でも、追わなきゃね。仕切りなおし」
「承りました。私が先行します故、装備を整えながら追ってください」
「ん、お願い」
放っていた荷物の袋3つを背負って、逃げた方角を確認し、狩人らは後を追う。
暫く降ると日が完全に遮られ光源が無くなったため、木の枝と油とぼろ布を取り出し松明を作る。灯りの元で、ヒシュは片手に鉛筆を取り出しては草紙に洞窟の様子を書き足して。
フルフルは西へ向かって移動していた。息の詰まる閉塞感と共に、人が通れる程度の細い路を辛うじて降って行くと、斥侯のネコが戻って来た。彼女は低い唸り声を発している。主を見上げ。
「報告を。……この先は足元一面の『水庭』になっている様子です。如何しましょう」
「ナルホド。それは、いい場所」
岩場に寄り掛かりながら、ヒシュはかくりと頷いた。場所を変えたのも納得出来る。フルフルは雷撃を武器としている故、空気よりも雷撃が伝いやすい水庭を闘争の場として選んだのだ。
ネコは主の判断に任せながらも、むざむざ敵地に飛び込む事は無いと警告する。ただ、勿論、ヒシュは首を振った。
「良く判らないけど、でも、この大陸のフルフルを知るためには。相手の土俵でぶつかってみるのも良いと思う。前進あるのみ」
「……はぁ。致し方ないですね。是非とも無茶を。いずれにせよ私は全力でお供させていただきます」
「心配ありがと、ネコ。一応の対策はする、から」
そう言うと、ヒシュは抱えていた袋からゴム質の皮で作られた肌襦袢を取り出し、鎧の上下に着込んだ。ゲリョスの皮で作られたこれらは、抗菌の効果を持つと共に雷撃を遮断してくれる。旅人などの鞄の素材として頻繁に使われ、その場合は抗菌作用が大きいのだが、今狩人らにとっては絶縁性こそが有用となる。ヒシュはよくよく雷光虫の素材を扱う際などに手袋として利用していたため、フルフルの狩猟にあたって下衣としても用意をしていたのだ。
襦袢の上から再び黒狼鳥の鎧を纏うと、縄を頼りに下降を始める。水流がはっきりと聞こえる頃になって、ネコの報告にある通り一面の水景色が開けた。命綱を切り出て、着水する。
予想を超える。壁一面を伝う水。囲まれていた。
直上、直下、天井に潜むは白き影。
「主殿!」
「―― 奇襲、了解っ」
地に脚を着けてすぐさま、ヒシュは水庭を転がった。フルフルの胴体が数瞬前まで自分が居た場所を押し潰す。
肝を冷やしている暇は無い。水で消えないよう手ごろな壁に松明を立てかけ、荷物をその下に置き、『飛竜刀』と『サーペントバイト』を両手に掲げた。
身を低く、左へ左へ。フルフルは時計回りに移動するヒシュを正面に捉えるべく回転を始めた。その間を利用して辺りを観察する。足元の水は
脚を止めて推進へ。ヒシュは水を切る身の軽さで横腹へと斬りかかる。皮を突破する為の要たる『飛竜刀』の刃を立て、柔肌を引き斬る。
炎熱を吐き出しながら、抵抗無く肌が裂ける。今度はしっかりと刃が通った感触。ただ、フルフルの身体の内、脚と放電の際の尾は柔皮に頼らず硬質である。『飛竜刀』で不用意に斬り付け折られてはかなわないと、留意を重ね。
「来ますっ」
ネコの激が飛ぶ。ヒシュは手を背に伸ばした。
フルフルの動作が先よりも素早い。身体をべたりと地に着ける。雷撃の予備動作である。足元に広がる水面を伝う為、放電の範囲が先ほどとは段違いになる筈だ。
(そこに指向性を持たせてくる、かも。注意して、動く時は、大胆に ――)
白肌が淡く光った瞬間、ヒシュは背負った幾本もの武器から1振、『アサシンカリンガ』を抜き放つ。脚を壁の岩場に。力のベクトルを上へ。鎌状に突き出した刃を洞窟の壁に引っ掛け、思い切り高く跳躍した。
想像の通り、雷撃は範囲を優先されていた。雷撃が洞窟の闇を穿ち激しく照らす。水面を這い回るそれらを、ヒシュは軽々と飛び越えた。眼下に跳ねる紫電の海。余分に距離を取って放電を防いだネコが此方を見上げている。表情が面白い。
そして、フルフルの背が間近に迫る。放電は既に収まっていた。
空中で回転した身体がぴたりと正対する。ヒシュは柄紐に牽引された『飛竜刀』と『サーペントバイト』を手元へ。
背を足場に。下降した分の力を余す事無く皮を割き、叩き付けた。
―― ボボ、ボボボンッ
途端、炸裂音が連続する。音源は『サーペントバイト』の刀身 ―― ランポスの牙。火薬草とニトロダケから作り出した即席の火薬に、火炎袋の発火粉塵とを組み合わせたもの。それがランポスの牙の根元に弾薬の原理で詰められており、衝撃によって爆散する仕組みになっていたのだ。牙は着脱可能なため補充も行うことが出来る。継戦には向かないが、短期の決戦には有用な武器である。
「フィィ、フゥゥ!」
刺突と痛撃。身体を振り乱すフルフル。その背には、まるで噛み付いた様な跡……ランポスの牙が一列に食い込んでいた。体内に届くならばと、牙にはありったけの毒も込めてある。効果を期待したい。
「フゥゥゥ……フゥ゛ゥゥ」
ヒシュが背を離れると、フルフルは鋸歯の並ぶ口から頻りに熱を吐き出していた。動きは荒いが、先までのゆったりとした動作も成りを潜めた。
ここからが本分である。『サーペントバイト』の
「このまま ―― 行く」
「援護を!」
相対する。ヒシュはだらりと脱力し、意識を染めてゆく。見聞は十分。洞窟の空気に融ける様に
しなる白影。唸る雷。閃く刃。洞窟を転がる様に降りながらの闘争となった。
ネコが慌てて松明を持って周囲警戒するものの、しかし、辺りは次第に明るさを取り戻してゆく。水の轟も聞こえ始める。一面の水庭から明らかな水路が次々と姿を現し、予想の通り、外が ―― 滝が近付いていた。
明るくなると雷撃の範囲が視認し辛くなる替わり、フルフルの動きが良く見える。ヒシュはガルルガフェイクの内から視線を伸ばして近接戦。確実な防御から、交互、打ち込みを続ける。
水位は下がったが、傾斜により水流が生まれた為に足元を掬われかねない。此方の意識を一瞬で奪う雷撃は、殊更に注意して避け。
「―― う゛」
各所に傷を開くことには成功した。確かめ、頷き、皮鞘で腰に釣り下げていた肉厚で幅広の刃を解く。それは狩人が予てから愛用する大鉈 ―― なの、だが ―― 狩猟漬けの3ヶ月の間に様変わりを遂げている。
引き抜いた大鉈は左手に。紫から青へと移りゆく刃。滴る液体毒。ぶらぶらと揺らし、身体は脱力。
奇面族の間で『呪鉈』と呼ばれるこれは、塗り込められた多種多様な秘毒により刃すら変色。かつてはマカライト鉱石製であった素材そのものも、度重なる打ち直しを経て、ヒシュが何処からか拾って来た「ゴミの様な鉄片」の集合体に据え代わっている。おばあの技術と執念と苦心とが込められた、歪ながらに渾身の得物であった。
「フィィ……フゴッ、フゴッ」
吐息の荒さに比例して動きが急ぐ。塞がらない体中の刀傷に加え、僅かながら毒も効き始めている。焦り始めているのだ。
フルフルが不意に向きを変え、横へと跳んだ。ヒシュらが追って角を曲がると、通路の先から光が差し込む。閉塞感を掃う風が頬に触れ。
「ここで外ですと!?」
途端、ネコの驚声と共に青空が開けた。遂に洞窟が外へと繋がったのだ。足元の水面が空を反射して真白く染まり、水面が日光を反射して洞窟全てを照らし出す。
何も考えていなさそうなその外見に反して、かなり賢い。ヒシュはこのフルフルに対してそう評価を付け加えた。狩人らが自分の生命を脅かすと認識し、逃げの一手を打てる場所にまで移動を試みたのだ。洞窟という地の利を完全に生かされた形である。
当然ヒシュは距離を詰め ―― びくりと身を起こし、すぐさま距離を取る。
狩人の相手をするつもりは無い。全ての力を逃走に費やしているのだろう。そんな予想を裏付ける様に、フルフルは常に微量の電撃を纏った移動を始めていた。
此方にしてみれば厄介な事極まりない。フルフルは防戦を選んだのだ。獲物の感知を視覚や嗅覚に頼らない……つまりフルフルには完全な死角がない(あったとしても読み取れない)という事でもある。不意打ちは通用しないと考えて良い。水庭による攻撃範囲の増大は効力を十二分に発揮しており、電撃による反撃は此方にとって致命的。迂闊にどころか、全く持って手が付けられない状況である。
そうしている内にフルフルが跳躍する。壁、そして天井へと張り付いてしまった。ただでさえ近寄り難いのに、物理的に届かないとまできている。
……やっとの事で狩猟の機会が巡ってきた標的である。手を打たねばならない。
「 ―― 先行します!」
ネコは主に同調し、すぐさま ―― 平行した水路へと飛び込んでみせた。
命知らずの移動方法だった。荷物の1つを浮きに激流を降る。走るより遥かに速い。速度を増し、フルフルより前方で命綱を手繰ると、適当な岩場から再び陸へと登る。
目測。身を振るう。背から金属筒を取り出し、絶縁体を引き抜いて。
「ン……ニャッ!!」
天井に向かって、放った。
投げられた鈍色の筒は放物線の頂点で完全に勢いを殺し、ネンチャク草の液によって岩場に付着する。その下に、岩場を跳ねるように降った仮面の狩人も追いついた。
頭上。フルフルは構わず前進。右の翼が筒を踏み抜き、狙いの通り「シビレ罠」が作動した。鉄筒が瞬間的に雷撃を纏い、神経毒を含んだゲネポスの麻痺牙が飛び出して柔皮を貫く。
雷撃も神経毒も効き辛いことは判っている。だが音、熱、臭気のどれからも感知され難い小さな無機物……罠という予期せぬ仕掛けは、天井を張って逃げる影を落とすのには十分だった。
僅かに痺れ、吸着力を失う左の翼手。
巨体が落下し ―― 冠状に飛沫が上がる。
「ふぅ、あ゛!」
「フゥゥ、フガッ、フガッ」
水の幕が降りるよりも速く、日を反射して煌く飛沫を潜る。洞窟を出で、光を浴び、尚浮き立つ
フルフルは受身が取れていない。腹が上に向いたままだ。そのため、電を外へ逃がすための尾を伸ばす余裕が無い。
常時帯電していたのが仇となる。雷袋の疲労により帯電が収まった。攻勢の機。先ず狙うは最も大きな痛手を与えた背。思考を終えて動くのみ。盲目の飛竜の昂ぶりに呼応するように、ヒシュは集中力を「昂めて」ゆく。
ここで仕留めきるのだ。相手が怒気に塗れている時こそ。鏡映しに気迫を、闘うために魂を燃やせ。
迫る飛竜。思い描いたそのままに身体は動く。
感覚の全てを注ぎ込む連激 ―― 斬っては叩く刀鉈の乱舞。
左。皮膚の走行に沿って可能な限りの速度で『飛竜刀』を引く。
右。ぱくりと開いた傷に向けて、『呪鉈』を叩き込んだ。
下方。回転の序で、上腕に着けた『飛竜刀』が間近の柔肌を割く。
逆袈裟。身を滑らすほど低く。叩きに叩いた背を目掛け、跳ねた『呪鉈』の厚刃が食い込む。
脚。
腹。フルフルの外皮の斬り方は理解した。『飛竜刀』で本命、魚を捌くが腹を開き、肉を顕に。
腹。皮の内。あばら骨 ―― 脂肪、筋層、腹膜を纏めて『呪鉈』で叩き切る。筋繊維が断ち切れる。
腹。血管が豊富なほど出血は派手になる。ヒシュは内臓に炎を叩き込むべく左腕を振り上げた。
フルフルが立ち上がる。
同時、振り上げた筈の左腕に鈍い痛みが奔る。
左腕。フルフルが首を伸ばし、『飛竜刀』ごと腕を飲み込んでいた。顎の力は弱く鎧ごと噛み千切られる事はない。ただ粘液が肌を焼き、腕鎧をざりざりと舐る音がする。溶かされる前に。
頭。フルフルの頭蓋は伸縮性を保つため殆どが軟骨で構成され、隙間も多い。可能だ。左の手首を返し、刀を僅かに引いて、内側から頭を突き破る。外皮から炎が吹き出し、鋭かった咆哮が鈍い悲鳴へと変わる。
腹。もう1度、筋繊維を断ち切った奥へ。複雑怪奇なその中身も、今は消化の最中にあるランポスによって脹らみ、狙いの通り皮の外からでもはっきりと目測出来ていた。
腹。身体を投げ出し体重を掛けた鉈で叩く。切り叩き貫いた先へ寸分違わず。穿孔をきたし、『呪鉈』が毒をばら撒いた。
「フィィ、ゥゥ……ッ!」
ヒシュは右腕を引き抜くと、フルフルの体を蹴って大きく飛び退いた、
いつしか水庭は鉄臭い赤に染まっている。鉈がどっぷりと帯びていたのはニトロダケや怪力の種を主成分とする「昇圧剤」の、希釈されていない原液だ。本来心機能を促進するそれらも使い所によっては毒と化す。開いた傷から溢れ出る血は、止まるどころか勢いを増した。血が治まるとすれば、それは容量減少により生理的な循環機能を保てなくなった事を意味している。
時折漏電を起こしながら段々に鈍く。夥しい失血を伴い、肢体は遂に弛緩する。最後に拍動が止まり、流血が緩やかになった。
「―― ふ、ぅ」
「狩猟、完了ですね」
死に際の反撃を警戒して距離を取っていたヒシュが息を吐き出し、隣のネコが水分によりほっそりとした毛並みを整える。
密林に飛来したフルフルの狩猟依頼は現時点、討伐をもって完遂された。
無言のまま。空の青色を反射する水庭を、仮面の狩人はゆっくりと踏みしめる。白い影の亡骸に向けてしゃがみ込み、腰につけた裁ち刀を右手で抜き、空に翳した。
(……ありがとう。ジブンは、前に行く)
左手の鉈の背に額を合わせて瞑目する。狩人としての仮面を被る自分を、刀の中に置いて来る。
再び顔を上げた時、ヒシュは亡骸の前から、自然と振り返ることが出来た。今日は皆が集まる予定の日だ ―― と、知らず期待を寄せる自らが。狩猟以外の事に胸を高鳴らせる自分が、今は嬉しく思えた。
■□■□■□■
昼を過ぎて、ジャンボ村の港に人が集まっていた。
見物人の山。長らく建造途中であった大型船は先月にようやくと完成を迎え、各所へと出港しているため姿がない。人々の目的は別にある。
木々に挟まれた川を遡り、一隻の中型船が入港する。船は帆を畳み、ぎぎと船底を軋ませてゆっくりと減速。やがて完全に停止すると、木製の足場が降ろされる。
その上を真っ先に、2者。
「―― 着きましたーっ!」
先頭を、少女が駆けて出た。額の左で編まれた一房の髪が元気良く揺れている。
後方から出た真面目顔の青年が先ず、村人達の最前に立った村長へと声をかける。
「ダレン・ディーノおよびノレッジ・フォール、只今帰還しました」
共にジャンボ村に逗留するハンター。王立古生物書士隊の隊員でもある2人の到着に、端から一気に喜色を帯びて迎える村人。
出先が異なるため装いはかけ離れていた。ノレッジは暑さに強いケープ状スカート状の上下衣類を、ダレンは書士隊の礼服を羽織っている。そんな2人へと、村人達は次々に話しかけ。
「2人とも無事でなによりだよ。聞く限り、大変だったそうじゃないか?」
先頭の村長は無煙の煙管を咥え、笑顔で言った。
どちらも船旅を終えた開放感からか、確かに疲労感は見て取れる。だがそれ以上のものを含ませ、村長は続ける。
「ドンドルマでも、急伸のハンター、ノレッジ・フォールの名前を聞かない日はない。ダレンも筆頭書士官の下について色々と学んでいたそうだね。あれだろ? フェン翁の秘蔵っこなんだって?」
村長がそう言うと、腕を組んで隣に立つ大柄の男……ライトスも、不精鬚を撫でながら口を開く。
「この3ヶ月で随分と有名になったもんだな、2人ともよ」
腕を組みながら。四分儀商会の長としてではなく、友人としての言葉である。村長が得ているドンドルマにおける見聞などは、恐らくこのライトスを通じたものであるのだろう。
これら賛辞にダレンは顔を頬をかき、ノレッジは編まれた髪の一房を弄り。
「村長は流石に耳がお早い。……とはいえ、私はまだまだ修行中の身ゆえ。過分な評価です」
「わたしも、修行をさせてもらっていたら、いつの間にかハンターランクが上がっていたんですよね……。わたしではなく、モノブロスが高名なのでは?」
謙遜と実感とを半々に滲ませたダレンに対し、ノレッジは苦労を微塵も感じさせずあっけらかんと。
対照的だが同様の答えを返した2人に対し、村長は続く笑いを堪え。堪えきれず。
「あっはっは! どちらも、それだけの苦労をしたっていうのに変わらないね! ―― でもやっぱり、
君達と、村長が振り返りながら指差したその先へ、視線は集まる。
―― 広場の中央に、灰の縞模様。引き車を着けたアプトノスが姿を見せている。
「……あっ! もしかして!!」
「待て、ノレッジ・フォール。……と言って聞く奴ではないか」
同時にアプトノスを引く仮面……の様な被り物……の姿が見え、ノレッジが一目散に走り出していた。
「……申し訳ない、村長」
「あっはっは! 別に良いさ。君も行って来なよ、ダレン!」
ダレンは村長に一礼をし、その後を追う。
そこまで広い村ではない。先を走ったノレッジに、ダレンはすぐ並ぶ事が出来ていた。
そして距離が近付く。丁度広場の中央。掲示板の前で、全員は見合う。
ひょいと手を挙げつつ……先頭。仮面被り物の狩人は、変わらぬ動作でかくりと傾いだ。
「皆、久しぶり。だいじょぶだった?」
「もっちろんですよ!」
「ああ。ヒシュもネコも、無事の様子だな」
「此方も順調でしたもので。ライトス殿の依頼は早々に済ませ、こうして防具の調達も間に合わせることが出来ました」
「ん。これ、防具」
ネコの言葉に、見せびらかすように身を翻すヒシュ。ダレンとノレッジもそういえばとその姿を見やる。
頭部をすっぽりと覆うのは、黒狼鳥の頭をそのまま象った「ガルルガフェイク」。身体に纏われているのは、処々に突き出した棘が印象的な防具だった。色は紫から青といった寒色で統一されており、ヒシュの醸し出す雰囲気と相まって、これら全てが黒狼鳥の威容を存分に表していると感じられる。
ネコの外套も、耐熱布と耐寒布とを織り合わせた特注のものになっていた。緋染めの外観はそのままだが、これはせめて注目を集めようという警戒色であるため、変える気はないらしい。
そんな両者を前にノレッジは目を輝かせ……ダレンが屈託なく笑う。
「ならばそちらも、準備とやらは整ったのだな」
「ん。狙ってたのは、後ろの ―― フルフルの狩猟で最後だった」
ヒシュが後ろを指す。アプトノスの引く竜車に解体された素材が山となって縛り付けられていた。白く艶やかな皮が目立つ為、フルフルのものだとは一目で判る。内臓などの器官は使う部分だけを氷結晶冷蔵に放り込んであるのだろう。
オオッと、港から移動してきた村人からも声があがった。フルフルの狩猟は見た目以上に難しい。洞窟というフルフルのホームグラウンドへ、狩人の側から向かわねばならないからだ。難しさを理解しているからこその歓声であった。
差し挟むように、ネコが続け。
「今回の狩猟では高所順応に時間が掛かりましたが、それ以外は順調だったと言えましょう」
ヒシュとネコがジャンボ村を発ったのは、今から2週も前の事だ。
このフルフルを狩った高山は、直線距離だけならジャンボ村からそう離れた場所ではない。徒歩で2日程、ここ酒場の前からも望むことが出来る位置に在る。ただ、高所故に高山病を意識した立ち回り……少しずつ体を慣らす必要があった。
それを、連続狩猟と並行して行った。高山に向けて道具を現地調達し、モンスターを狩猟しながら酸素に身体を慣らし、少しずつ登ってゆくのである。フルフルを狩猟した洞窟が、高山の峰に当たる部分。標高もかなりのものだったが、こうして無事に狩猟を遂げる事が出来ている。
態々そういった手順を踏んだ理由を、ダレンは的確に捉えた。
「成る程。確かに、準備は万端という事か。高所順応は『未知』……イグルエイビスの狩猟に向けた予行演習なのだな」
納得した声を出す。
それでも、一単語に引っ掛かりを覚えたヒシュが傾ぐ。その隣でノレッジも同様に傾ぐ。
「んん? いぐる……」
「えいびす、ですか?」
「む……そうか。聞き覚えがない単語だろうな。あの未知の事を、とりあえずはイグルエイビスと呼称する事にしたらしい。ロン殿やペルセイズが、名前を付けるだけでも得体の知れない感は減るだろうと言って聞かなくてな」
発端はドンドルマの議会。話題に出す度に一々「未知」と呼ぶよりも、個体の名称をつけてしまおう……と決められたのが、この名前である。
ダレンは序でにと説明を付け加える。その「イグルエイビス」とは、前筆頭書士官ジョン・アーサーが記した「生物樹形図」において、鳥竜種の項目の頂点にあたる生物の名前であるらしい。特にイグルエイビスは、骨格が見付かっている生物の内最古のものと予測がされている、貴重な資料でもあった。
そんな名を付けたのには、ペルセイズらが秘密裏に偵察を行い外観等を確認したという経緯が有るのだが……ヒシュはそれよりも、自らの師の名前が挙がった事に興味があった様子。ぐるりと首を回し、今度は右に傾ぐ。
「おー。ダレン、ペルセイズに会った?」
「ああ。リンドヴルム殿にも、グントラム殿にもな。世話になった」
「その人達の話ならわたしも聞いてますよ! わたし、ハイランドさんにお世話になってましたので!!」
両腕を伸ばして喜ぶノレッジ。ただ、対照的に、ヒシュが僅かに身を引き……その被り物の内側で顔を強張らせた。ハイランドという名前に釣られての反応だった。
ヒシュは恐る恐るといった様相で、尋ねる。
「……だいじょぶ? ノレッジ。怒られなかった?」
「いえ、怒られはしませんでしたが……?」
互いに向きあって疑問符を浮べる。ヒシュとしてはハイランドからのお守りを又貸し(の様な形で渡した)を心配したのだが、ノレッジはそれはないと首と手とを忙しなく動かしている。どうやら杞憂であったらしいと、安堵をしつつ。
「ん。なら良い、けど。ノレッジ、成長できたみたいだからね」
「……はい。それはもう、無事に」
暫し見合い、通じた表情で、頷く。
次いで嘴付きの顔はダレンの側を向き。
「それは、ダレンも同じ。リンドヴルムとグントラムの話、あとで聞かせて」
「勿論だ。ただ ―― 時間があれば、だがな」
揃って、フルフルを狩猟した場所から更に奥の嶺 ―― 「密林高地」の有る方角へと振り向いた。主に同調したネコと、釣られたノレッジもそちらを向く。
裾に伸びた緑。そこから天に向かって伸びた峰が悠々と雲を貫き、空を埋めている。
「そう言えば、あとひと月しかないですもんねー……」
「その通りだ。準備を行い、早々に発つ必要もあるだろう」
「うーん、3日くらい?」
「む。遠征だからな。準備となれば、確かに3日は必要か」
「ふーむ。ですがその点については私も尽力いたします。ダレン殿はじめ皆様方は、身体を休める事に注力していただきたく思うのですが」
「―― おいおい、ネコだって狩猟に向かう狩人だろう。その辺りはオイラやパティ、オヤカタ達なんかに任せてさ。君も休んだらどうだい?」
最後、後ろから追いついた村長の申し出に、ネコはそう言えば……と付け加えた後でにゃあと頷いた。その様子に村人たちがどっと笑う。
だがこの一言により、ジャンボ村の中には活気が灯り出した。なにせ村の大事となる狩猟、その準備の大詰めが、本格的に始まったのだ。
目前に迫る寒冷期。農繁期は既に過ぎ、人手が必要な収穫も終えており……残すは収穫祭のみ。だから、という事もあるのだろう。村人たちは次々に村長へと手伝いを申し出、船からの荷降ろしや各村々への伝達などを請け負っては散ってゆく。
「こっちは引き受けるからよ。頼んだぜ、ヒシュさん!」
「狩りは任せるよ、おれ達の分までな!」
「それにしても、そのモンスターの肉は美味いのかねぇ? 強いって事は、美味いもん食ってんだろう?」
「かぁちゃん、今から飯の話かよ!? 敵わんなぁ……」
「……今更だしハンターさん達が頑張ってるのはもう知ってるけど、それでも、頑張って!」
腕まくりをして意気揚々と出てゆく者。ばしばしと背を叩く者。遠巻きに手を振る者。視線だけで微笑む者。
村人たちからすれば、ヒシュらはジャンボ村を発展させるために動いてくれている恩人でもある。昔より広くなった河川も、開墾によって広くなった村の敷地も、鉱石が掘れる程に発達した坑道も、鉄火場も。狩猟によって得られる資材を中心として発展したものだった。
そしてそれは、人々が食べている物も例外ではない。安全な農作物の栽培から通商の交流まで。全ては何処かで狩猟と交わり、齎されたもの。故に、感謝は行動として返したい。そう思ったからこその、せめてもの協力であった。
ここは人間を遥かに凌駕する生物が跋扈する地である。狩猟は重要事であることも、心得ている。
だからこそ。それら心遣いを受けて、ハンター達は前を向く。
全てを背に負い、胸を張る。
「ん。任せて」
「承りましょう」
「引き受けた」
「任せてくださいっ」
揃い集った狩人らは、それぞれの仕草で了解の旨を示す。
ジャンボ村に立ち塞がる暗雲を打破すべく。集い来たるハンター達は、再び交差した路を踏みしめた。
打倒 ――
モンハンゲームの方の新エピソードもある意味楽しみなこの時期、やっとの事で一章最終部(の走りだし)更新と相成りました。
作中解説を挟みまして。
MHフロンティアの舞台となりますメゼポルタの発展については「メゼポルタ開拓記」という(ミニ)ゲームをご参照としますが、実際には場所も定かではありません。大陸も新旧決まっておらず、ただ、どちらにも行き来可能な場所に有るのだろうという予測は出来ますけれどもね。狩場的に。
フルフルについては倒さねば雷武器が……ではなく。稀白竜という呼び名については、ゲームにおいては一切出てきませんので悪しからず。奇怪竜でも良さそうなのですが、はてさて。
こなたを狩猟しましたのはヒシュに語って貰った通り、戦力の増強です。
空白の二ヶ月を経まして、いよいよ(長くなると思われる)最終決戦へ。ただその前に緩和の為の閑話を挟みます。