モンスターハンター 閃耀の頂   作:生姜

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第二十三話 共振共闘

 正面に押し合う双角と大剣。

 牙を絡め鍔迫り合い、バルバロは獲物と見定めた双角竜に向かい『バルバロイブレイド』を奔らせる。炎熱それ自体は厚い外皮を持つ双角竜にとって有効打とはならないものの、バルバロの巨男たる膂力と大剣の質量でもって圧して行く。

 

「―― オオオオッ!!」

「ブロロォ、ロロッ!!」

 

 次撃。溜めて振り上げられた大剣を角竜は首下の襟巻きで受け流し、同時に恐るべき早さで双角を掬い上げ ―― バルバロが身を捻って躱す。巨男と巨竜とが、交錯。遠目から射撃を行っているノレッジにも余波が伝わって来る程の衝撃が空気を震わす。

 要は次の攻防にある。体勢を崩しているバルバロへ、ディアブロスが角を左から突き上げ、振るう。

 少女は上げて戻す機を読み、その一点 ―― 先を見て狙いを付けた。

 

(バルバロさんが、惹き付けてくれているなら……これを!)

 

 重弩『箒星(ブルームスター)』を腰に着けたまま中腰に抱える。貫通弾を込めてある外付けの追加弾倉を接合し、確認をする暇が無い事を惜しみ、詰まらない様にと願いを込め……扱いたての筈のこの重弩は、しかし、すんなりと狙いを定めてくれる。

 当てられると言う確信を持ち、ノレッジは引き金にかけた指に力を込めた。撃ち放つ。6発。装填の必要は未だ無い。射角を微調整し、7発、8発、9発、10発。

 双角竜が衝撃に首を傾け、右側面に居た少女の側を向く。―― 向いた時、既に少女はその場を離れている。外付けの部品を無造作に砂へと投げ出し、バルバロの反対へと駆け出していた。

 双角竜はノレッジが離れたのを受けて、再び正面に、視線を、

 

「―― ムオオッ!!」

 

 今度はバルバロが力を練って振り上げた大剣が、双角竜の視界を埋めた。

 重さを生かした一撃が脳天から振り下ろされ、向けようとした双角竜の頭は、直後に地面へと叩き付けられた。間を置かず、左から炎を纏った大剣が再び襲う。双角竜の牙の生えた顔が今度はかち上げられ、よろけた。たたらを踏んでいるその隙に、退いた二人が合流する。一角竜の鎧の内から大きな声が響く。

 

「ノレッジ、先ほどの外付け弾倉は新しい装備であるか」

「はい。動きながらだと高確率で弾詰まりを起こすので、自分の身体を固定して緩衝に使う必要がありますし、弩の構造上相性が悪い弾丸は無理なのですが、20発まで装填を行わず連射が出来ます!」

「ウム。ならばその隙を作り出す役目、このバルバロに任せるのである。我が妻の打ち鍛えた大剣でもって、角竜を砂原に引き摺り回してくれよう」

「あはは、流石はバルバロさんです。……頼りにしています!」

 

 言って笑いあった顔を、2者共に引き締める。

 双角竜の厚く垂れた瞼に隠された眼が狩人らを睨む。のしりと踏み出された脚 ―― 巨体が一つ飛びに加速する。

 僅か3歩で、左の角はバルバロを射程に捉えた。だがそれも狩人達の思惑の内。突進を嗾けた双角竜に、バルバロは蛮勇で持って踏み出した。

 しかし、双角は空を切る。バルバロを蹴り飛ばすかと思われた左足は(つか)えなく動き、左翼だけが大剣にぶたれ、仰け反った。避け際に一撃を加えたバルバロは、大剣を思い切り後ろに振り上げて衝撃をいなす。

 

「ブロ、ブロロロォ!」

 

 翼を一撃されたとてその勢いに曇りは無い。双角竜は二脚と翼で器用にバランスを保って砂原を滑り、身体を傾け、すぐさま反転。再びバルバロに狙いを定めた。

 バルバロは背後に大きく大剣を放り体勢を崩している。防御は不可能だ。その反撃を赦す訳には行かない……と、射手(ガンナー)たるノレッジの眼球が攻勢の機をしかと見据えていた。

 撃ち出される拡散弾。追加の弾倉からしゃがみ撃ちされた小型の爆弾が雨霰と足元を焼き爆ぜ、反転を試みていた双角竜の両脚をもたつかせ、遂には転ばせるに至る。

 ノレッジが砂漠を訪れてから積んでいた経験は、何も身体技術や勘といったものだけではない。知識として得た弾種やその特性、新しく開発された弩の機構についても実際に運用を行っていた。

 例えば弾丸の基本とされる通常弾であっても、弾の素材が違えば跳弾の度合いが違ってくる。視点を変えて見れば拡散弾はこうして足元を崩すのに使える他、腹の下に潜り込んだ攻撃を加えられるという意味合いもあったのだ。

 工房で試作される弾丸は今現在も着々とその数を増やしている。新しい物の例を挙げれば斬裂弾……砥石を弾頭とする事で皮膚を抉り削る様な、変り種の弾種までもあるという(それらが果たして運用されるのかは、さておき)。

 この様に、レクサーラはギルドとしての歴史は比較的浅いが研究熱心で、しかも初心を脱した中堅の……比較的若いハンター達がこぞって集まる土地柄にある。情報の量も中々に膨大であり、ジャンボ村に引き続き、ノレッジは暇さえあれば享受をと村中を走り回ったもの。

 

(……その分の成果は、こうして狩場に表れていると思うのですよね。……でも、)

 

 ふぅと息を吐き、ノレッジは脚を動かして位置取りを変えに走る。窮地を脱したバルバロはノレッジに一瞥の礼をくれた後に体勢を立て直し、双角竜に近寄って背甲、腹、胴と斬り付けた。身の丈程もある大剣をまるで棒切れの如く振り回し、流れの最期に持ち上がったばかりの頭を打ち据える。

 大剣を振るうバルバロの型は、ギルドで教え込まれる主流からは外れているが、濁り無く澄んだ体術であった。それ所か真に重撃とでも呼ぶべき「何か」を纏っている。恐らくは自らの体格に合わせた剣術として比重を裂いているに違いない。

 

「ブロッ……ルルルゥゥ……!」

 

 再び首を擡げた時、双角竜は口から黒い吐息を漏らしていた。怒気を隠そうともせず、目の前に立つ二方の敵を睨み据える。

 

「とぉ。怒りましたね」

「……ウム」

 

 双角竜が怒気を顕にしたその瞬間、重圧が周囲を包んだ。ノレッジは威圧されながらもそこへ、観察の眼を剥いてゆく。

 この威圧感の中に在って畏怖と嬉色とを交えた少女を、バルバロは見つめ。

 

「……怒り時の角竜の膂力には注意が必要だ。挙動は余裕を持って見切るべきである。クライフとヤンフィも居るのだ。キャンプも未だ設営を済ませていない。ここは回避に専念し、暫く観察を済ませたら一度撤退するのである」

「はい、了解しました!」

 

 提案に素直に頷き、ノレッジは弩を背負った。言葉の通り回避と観察に専念するつもりなのだろう。その僅かな挙動も見逃すまいと、視線はしっかりと熱砂の上の双角竜に固定されている。

 砂原を逃げ回り、脅威の脚力と無尽蔵のスタミナを実感した後。ノレッジとバルバロはペイントボールを放り、管轄地がハンターの猟場になり得るその所以……双角竜が通れない狭さの隘路を伝い、遭遇戦から撤退した。

 

 

 

■□■□■□■

 

 

 

 双角竜から逃げ切ったバルバロらと別隊であるクライフらが合流したのは、白亜の宮の根元……ただし砂漠の側ではなく丘陵地帯を超えた部分に開けた小広間の側であった。

 第五管轄地の調査団16名は人員を誰一人欠かず、一日目の調査を終えていた。

 土色の水平線に日が沈み、セクメーア砂漠に夜が来る。冷え込み藍に染まってゆく空の下、わらわらと集まった現地協力者達が設営されたテントの前に集まり、夕食を作り始めている。

 その中央、篝火の横にて。それぞれが持ち寄った第五管轄地の情報を纏めるべく、四者のハンターは顔を突き合わせて地図を睨む。

 

「あっちの影にある洞窟には予測の通り走竜ども……ゲネポスとその親玉が潜んでいやがった」

 

 クライフは現在地から1キロほど北西の位置を指した。次いでヤンフィが覚えている限りの情報を吐き出す。それら、それぞれの成果を書き加えたものを、ノレッジが書士として纏めてゆく、

 しかし、これらは只で手に入れた情報ではない。ノレッジとバルバロが双角竜と対峙しているその間、クライフ達はドスゲネポスら走竜の急襲を受けていたらしい。協力者一団を逃がしながらの闘争となったが、そこは経験のあるクライフとヤンフィの事。現地協力者達には狩猟道具を上手く使わせる事で撃退 ―― どころか反撃をもって、親玉を仕留めていた。

 おかげで双角竜と対峙したバルバロ達との合流は遅れてしまったものの。双方が逃げた先でかち合わせ、モンスターによる挟撃を受ける……などという想像しうる限り最悪の形よりは遥かに好ましい結果であった。

 付き合いからその手腕と運びの速さを知るノレッジは、納得しつつ、唸る。

 

「ふぅむ。だとするとこの第五管轄地には、ディアブロスとドスゲネポスとが共存していた訳ですね?」

「そうねー。っても角竜は砂原だし、走竜は岩場に住めるの事よ? 角竜は植物食で、走竜は肉食。食事も生息域も被っていないんだし十分にありえる話だと思うけど、ね」

「そう、なんですよね……」

 

 理由としては納得できる。しかしどこか腑に落ちない。そんな表情を隠せずにいる少女を見やりつつ、バルバロは場を動かないまま。

 

「……とはいえ長い間放置されていた場所である。管轄地の内々で縄張り争いが繰り広げられていたという例も、少ないながら無い訳ではない。他の生物の台頭も、警戒しておくに越したことはないであるな」

「っけ。ツイてなけりゃあ親父の権限で大連続狩猟の現地発布か……勘弁してくれよ、ったく」

「ふっふー。クライフ坊ちゃんの指揮下で大連続狩猟ってのも面白そうではあるけど、ね。今回の目的はあくまで調査だから、逃げるときは逃げるの事よ。ねえダンナ?」

「ウム。これは狩らねばならぬという依頼ではない。後追いのハンター達に任せる事も時には重要である……が、狩る事の敵う相手は、ここで狩っておくべきであるな」

 

 バルバロから発せられた一言は、この場に居合わせたハンター4名の総意でもある。

 この管轄地に潜む走竜の親玉が1頭とも限らない。双角竜は確かに脅威だが、砂漠においては度々出くわす種族である。砂漠に程近いレクサーラに所属するハンターの多くは遭遇した経験があり……バルバロを始めクライフもヤンフィも、集団における双角竜の討伐経験を持っている。またこの第五管轄地に出現した双角竜の固体は体格や傷跡から、成熟したばかりのものと予測される。そのため、狩ると決めてかかれば討伐できない相手では無いだろう。

 だとすれば、余裕の在る合間を縫って弱らせるだけでも。これは調査とは別に、ハンターとして課せられた役目といえる。

 するとここで、頬杖を着いて流れに任せていたクライフが。

 

「―― ん、だとすりゃ親父とノレッジは明日もディアブロスの牽制だな。オレらが調査を終えて合流出来りゃあ万々歳だろ……」

 

 思わず脳内から漏れ出したという様に、ぼそりと呟いていた。

 クライフは直後にしまった、と口を紡ぐも時既に遅し。ヤンフィがにんまりと笑みを湛え、

 

「坊ちゃん、ああ坊ちゃん! 無気力だったあの頃とはうって変わって、意見を差し込む程に逞しくなられて! ワタシは嬉しいの事よッ!!」

「引っ付くんじゃねえ! 離れろ!」

「流石、クライフさんとヤンフィさんは仲が良いですね!」

「がっはは! これなら調査を任せても問題ないのである!」

 

 クライフにヤンフィが擦り寄り、ノレッジと、バルバロが豪快に笑う。現地協力者や調査団の人員も徐々に釣られてゆき、ついには全員が笑顔を浮べていた。

 汁物の湯気が沸き立つ中、人々の笑い声が第五管轄地に木霊する。一頻り笑い終えると、ヤンフィが音頭を取って夕食が始まった。先にからかわれたからか、無言で匙を口に運ぶクライフを横目に、ヤンフィは書物を広げながら器に直接口を付けるノレッジの隣に座った。

 

「ところでね、ノレッジ。ガレオス装備の出来はどうなのよ?」

「はい、とても良い出来だと思います」

 

 ノレッジは目線を上げ、思っていた事を率直に述べた。

 少女が現在身に付けているのは砂竜の素材を主として作られた鎧。かつてジャンボ村で拵えたランポス装備は、砂漠で多くの狩猟をこなした事によって磨耗を余儀なくされてしまった。しかしランポスの素材はここレクサーラ周辺では手に入り辛いため、鎧を新調する運びとなり、少女は数多く狩猟した砂竜の素材を選択したのである。

 鉄爺らによって仕上げられた新しい鎧は、こうして多くの狩猟をこなしていても、未だ射撃の動作を阻害した覚えが無い。鎧は滑らかな鱗や甲殻などを関節部に仕込み、また下鎧とする事で可動性を確保する作りになっている。構造としても乾燥帯における保湿の機能性と熱放出能力に優れており、砂漠の広がるセクメーア砂漠においては大変に使い易いものであった。

 ――しかしそう考えると、今ノレッジの傍らにある重弩『箒星(ブルームスター)』の異様さが際立って見える。例えば、竜車の荷車に分解したまま寝かせてある『ボーンシューター』は骨を素材とする故、生物由来の「馴染みの良さ」がある。それは時にしなやかさや温かさに例えられる言外の「馴染み」であり、鉄製の、頑丈さを売りにした弩にはない良さでもあった。

 鎧だとてそうである。鉱石には鉱石の、生物由来には生物由来の良さがある。そして、それら良し悪しを継ぎ合わせ、繋ぎ合わせるのが工匠の役目なのだ。

 だが、だとすると、『箒星』が奇妙に手に馴染むこの感覚はおかしなものだと言わざるを得ない。何せ素材となった「星鉄」とはあくまで鉱石の類である筈。いくら鉄爺が腕を振るったとはいえ……むしろ違和感を覚えるほど……馴染まれるとなると、射手の末席に身を連ねるノレッジとしては「奇妙」と言い表す他にない。

 

「あー……この鎧だって、こんなに鉱石が使われているのに動き辛さはなくって……それに、ランポス装備の時よりも暑さが楽になった気がしますね」

 

 脳内ではそんな風に悩みつつも、無難な答えに終始したノレッジに、ヤンフィはふぅんと唸る。

 

「ほうほう。……ニャッハハ、ノレッジは才能あるの事よ。でもさ、もっとお洒落な鎧じゃなくって良かったの、ね?」

「? いえそれは、別に……」

 

 才能という言葉には僅かに引っ掛かりを覚えたが、後に続いた言葉に対してノレッジは首を振る。彼女自身、お洒落を理由に鎧を選ぶつもりは全くと言って良いほど無い。実用性が第一である。その点において、ガレオス装備は満足どころか自分には過ぎた鎧であるとすら思っている。

 そんなノレッジの悪い意味での素直さを気に留めず。ヤンフィは自身の鞄を漁ると、そこから1冊の本を取り出して広げて見せた。

 

「でもほら、これなんて似合うと思うの事よ?」

「あ、可愛いですね」

 

 煌びやかな表紙。それらを捲り、開かれた頁には、真っ白な布地(の様な)素材で作られたハンター用の「鎧」が描かれていた。

 少女は生来の思考から一瞬、防御の性能は ―― と考えはしたものの。内に縁取りの型金でも入っているのだろう。ふわりと広がったスカート型の腰部位を基調として艶やかにまとめられたその防具は、ノレッジの目にも可愛さを引き立てる様に映った。

 機能性ではなく設計(デザイン)についての感想を率直に口にすると、今度はヤンフィも満足げな表情を浮べた。手に持った冊子を見せびらかす様に掲げる。

 

「これは今期のメシエ・カタログの事よ! でも残念な事に、今期が最期だって言う噂もあるのね」

「めしえ……かたろぐ?」

 

 勿論というべきか、そういった事に疎い少女にとっては全く持って聞いた覚えの無い単語であった。若しくは聞いていたとしても右から左へ、だったのかも知れないが。

 そんな風に、仮面の狩人よろしくたどたどしい発音で首を傾げてみせた少女へ向けて、ヤンフィは眼鏡を取り落としそうなほどに身を引いて見せた後、鼻息を荒くして詰め寄った。

 

「……え!? もしかして、知らないのねっ!?」

「えと、はい。鎧については鉄爺さんにお任せしてしまったもので。……拙いですかね?」

「拙いとは言わないけど……メシエ・カタログは、女性のハンターに人気を博している装備品の事よ! 嘗ての銘家・メシエ一族の同作者が図面から製作までを手がけた珠玉の防具、ね。鱗や皮の使い方が上手くて着物に近い着心地を確保してあるうえ、何よりデザインが良いのよ。ハンターズギルドの発行してる定期雑誌でも特集が組まれる程の人気なの、ね!」

 

 ここでヤンフィが通りがかりの三等書士官・ソフィーヤに視線を送ると、彼女はうんうんと熱心に頷いて同意を示した。かつてのノレッジがそうであった様に、現地調査を行う書士官は簡素な鎧を着込む。しかし、如何せんソフィーヤは中央勤務だ。遠征の機会が殆ど無いであろう彼女までもがその存在を知っているとなると、どうやら「メシエ・カタログ」とやらはかなりの知名度を誇る銘の装備品であるらしい。

 他の意見を求めて視線を巡らせば、現地協力者の女性も「名前だけは知ってるね」と語り、果ては現地協力者の雌アイルーまでもが頷き出す。皆が皆、一団の女性陣の中で唯一その存在を知らずに居たノレッジが信じられないと言った様子であった。

 正しく四面楚歌。微妙な居心地の悪さを感じ、編んだ髪の一房を弄りつつ、ノレッジはもう1度鎧の絵に視線を落とした。先はどうせ絵なので幾らでも脚色出来ると思っていたのだが、人気があるとなると話は別だ。実際にこの絵を忠実に再現した華やかな鎧が出来上がるに違いない。そしてそれは設計がしっかりと成されている証拠でもある。メシエ・カタログを描いた人物は、確かな腕を持った設計士なのだろう。

 ……しかし絵によれば、鎧の下半身に入った切れ込みから大腿にかけて、大きく肌色が覗いている。その点についてやはり、防具の性能への疑問を抱かずにはいられなかったが。

 ノレッジは首を振り、逸らしかけた思考を戻す。辺りに満ちた反応を待つ空気を読んで、そうなんですかーという気のない返事を返した。実際に興味がないのだからこれは仕方が無い。とはいえ自分の返事に味気がないのは折込済みだ。こういう場合は、それに付け加えて疑問で返すのが丸い(・・)コミュニケーションという物。

 

「あー……あと、最期って言うのは……?」

「んん? ニャハ、そうそう。作者の都合で、今期で製作設計を終わってしまうらしいの事よ。噂だけど、本当だとしたら非常に残念、ねー」

 

 ヤンフィは言葉そのものの表情で残念そうに項垂れる。本当に設計を終わるのか。そもそも何故終わるのか。それらは、実際の製作者に尋ねなければ判らない。その製作者が「メシエ家」という芸名程度しか判らず素性が不明となると、楽しみにしている消費者側としては、吉報を待つ他に手段がないのだろう。

 

「……まぁ、ショックはショックだけど愚痴を言っても始まらないの事よ」

 

 ぶつくさと言いつつも、程なくして復活。ヤンフィは手に持った雑誌の頁を捲り眺め始めた。ノレッジの隣でどれそれの鎧のシルエットが、色合いがなどと説明を加えてゆく。いつの間にか隊に同行した女性陣5名が揃って品定めを始まっていた。始めは縮こまって説明を聞いていたソフィーヤも、遂には声色を強めて黒色の布鎧を推してなどいる。

 何とも自然な女性陣の様子であった。その姦しい雰囲気を、ノレッジもちょいちょいと口を挟みつつ楽しむ事にした。

 しかし暫くして、傍をクライフが通りかかる。彼は雑誌を手に盛り上がる彼女等を苦々しい顔をした後、(ただし、ヤンフィに向けて)舌打ちをして見せた。

 

「……ちっ。てめぇら。狩場に来てまで、んなもん広げてんじゃねえよ」

「んーんー、NOよ、モテナイ坊ちゃん。女性たるもの、身だしなみには気を使わないと。例えそれが狩猟の場であっても、ね!」

「うざ」

「ウザいとは心外、ね。防具の着心地と見た目は猟場の士気に直結するの事よ!!」

「そんなんを理由に目立ってちゃあ、意味ねえだろうがよ」

 

 何時しか、いつもの流れで、クライフとヤンフィとの掛け合いが始まっていた。

 取り囲む人々もやいのやいのと賑やかにし始めた頃合を見て、ノレッジは握っていた匙を口に運んだ。浮かぶ塩漬けされたサシミウオの切り身で塩分を補い、温かなスープが空腹を優しく満たしてくれる。黒パンは相変わらず堅いが、汁と共に口に運べば気にもならなかった。

 辺境のその奥。最奥の猟場に居るというのに、辺りは明るい気配に満ちている。人間というのはかくも強く在る事の出来る生き物なのだ。これも自らが知ることの出来た得難き知識の一つに違いない。

 その雰囲気からか、ふとレクサーラに来て間もない頃、ネコの国……橙の村で口にしたマカ漬けされた「魚竜のキモ」を思い出していた。お世辞にも美味いとは言えない味であった。が、そんなノレッジを見て笑うアイルーやメラルー達はいずれも笑顔であった。

 あれから時を経、ノレッジは油断無く修行を積んだ。周囲の一般的なハンター達と共に狩りをし、自らの力量の程も知った。

 

(それでも。もう少し……もう少しで何かが掴めそうな気がするんですが)

 

 ノレッジは歯噛みする。自分が目標とする場所へ到達するに、何か、決定的な何かが必要なのだ……と。

 少女の居る位置より遥か仰ぐ峰に立つ狩人ら。間にくっきりと引かれた境目。自と他を隔てる境界を踏み越える為の、その一歩。

 器から立ち昇る湯気を追って、ノレッジは空を見上げた。砂漠の空は耀きに彩られている。無数に浮かぶ中からレクサーラの吉凶を示す星を探し、ふと気になってその輝きの揺らぎを視た。目が良くとも、ノレッジに星を視る為の知識はない。そのためあくまで聞き齧った程度の見立てではあるのだが……少なくともそれらの輝きは、惑ってはいない様に思えた。

 少女が胸を撫で下ろし、暫く。顔を付き合わせるクライフとヤンフィの間に割り込みながら、現地住民の長と話を纏めたバルバロが戻って来た。

 行動予定は、明日より実行に移される事となった。

 

 

 

 夜が明けて陽が昇る……僅かに、前。

 キャンプを畳み荷車に乗せると、一団は昨晩クライフの提案した区分けで調査を再開した。

 人員を裂いて植物や地質の調査を護衛するのはクライフとヤンフィ。バルバロ及びノレッジは少数のみを引き連れ、再び双角竜と対峙するべくキャンプを出立した。

 

 こうして調べる程に明確に浮かび上がって来るのだが、第五管轄地は、名実共に巨大な白岩「白亜の宮」を中心とした猟場であった。

 白亜の宮を中心として岩が並び立ち、それら地形に惹かれるが如く植生が生されているのである。生命線となる地下水脈は白亜の宮周辺を囲み脈々と流れ、次に顔を出すのは遥か離れた位置にあるオアシスだ。岩峰それ自体には飾り気が無く、純粋に真白なものだが、遠めに見ているクライフにとってはそれがまた不思議な威光を纏っている様に思えてならなかった。

 植生にしろ地質にしろ、地層が見える路肩(ろかた)での調査が望ましい。クライフとヤンフィが引き連れた調査隊の足は、自然と「白亜の宮」の西側を取り囲む岩場と緑地帯の境目へと向いていた。

 

 ―― ォォォオオッ

 

 陽が覗き始める直前から活動を開始して数時間。長鉄槍『ランパート』を背負ったクライフは、遠間から耳を震わす咆哮に振り向いた。守護対象である書士隊員の、図鑑を広げながら岩間に生えていた植物を採取する様子を視界に入れつつ ――

 

「始めやがったな、親父ども」

 

 こうも離れた岩場にまで届く双角竜の気配。咆哮により振るえた大気が、頭蓋をずしりと刺激する。

 クライフは舌打ちをした後、びくりと背筋を伸ばして怯えだした三等書士官のケビンに、遠くの砂原で戦い始めただけで予定通りだから心配ねえよ……と声をかけ、背負った鉄槍の握りに手をかけた。野生の生物は気配に敏感でもある。近間では鼓膜をも破りかねないその咆哮によって、先日のゲネポスら同様、岩間へ隠れ潜んでいた生物が此方へ逃げ出して来る事を予見したのだ。

 クライフが耳を澄まし、肌を尖らせ気配を窺う。

 

「……。……。……来ねえな」

 

 しかし暫く待ってはみたものの、動きは無かった。見晴らしの良い位置から遠見をしているヤンフィからの合図も、無い。

 どうやら双角竜に刺激された生物は、少なくとも付近の岩間には居なかったらしい。昨日狩猟せしめたゲネポスの群れの残党も夜の内に奥へと隠れ縮こまっているのだとしたら、自分の働きも徒労ではなかったか……と、僅かに安堵が込み上げ……込み上げたものを臼歯で噛み砕く。

 

「……ちっ。ツイてねえ」

 

 どこか心の隅に、双角竜と対峙せずに……安全な位置に居るこの状況に、安堵している自分が在る。その事に気付いたクライフは、自身に向けた悪態をついていた。

 レクサーラのハンター達は、ハンターという職業に在る「規律」……または不文律を遵守する事で有名である。そんな彼等の様子をギルドの犬と揶揄する者はあれど、レクサーラに住むハンター達自身にとっては誇りであった。そしてそれは、クライフも例外ではない。

 第五管轄地全域の調査を終えれば、自分もヤンフィも双角竜の討伐に合流し、後追いで応援のハンターが来るまでの間を狩猟に費やさなければならない。その時。双角竜を目前にした時にまでこの様な気持ちを残していては、命をも掬われる ―― と、クライフは(かぶり)を振りつつ自らを戒めた。

 砂漠住まい故に、クライフも実際の双角竜と対峙した経験はある。が、それとこれとは別の問題だ。また逢いたいかと問われたならば間違いなく否と答える。鎧を纏ったとて中身は変わらない。槍を持ったとて死ぬ時は死ぬ。ただそこに、臆病な自身の性根に。「町の為に」「ハンターだから」という大義名分が付属しているに過ぎないのだから。

 

「―― 坊ちゃん! どうやら始まった、ね!」

 

 クライフと同様に、先ほどの咆哮を聞きつけたのだろう。上を見れば、ヤンフィが見晴らしの高台を(くだ)って来ていた。周囲で見守っていた書士官や現地協力者がオオッと歓声を上げるほどの身のこなし。小さな足場だけを頼りに、滑落に近い速度……着地。

 

「はい! ご観覧をありがとうございましたの事よー」

 

 着地をして大きく手を広げるポーズを決め、拍手を送る周囲の人々に笑顔を振りまきながら、ヤンフィはクライフの横へと並んだ。彼女はこうした周囲との交流を惜しまない。むしろサービスすらしてのける気性なのだ。そんな彼女は青年の呆れた表情をいつもの如く受け流し、尋ねる。

 

「どうやら始まった、ね!」

「繰り返さなくても聞こえてるっつうんだよ。……お前が聞きたいのは、これからの動き方だろ?」

「そうそう。ダンナとノレッジの向かっている砂原を除けば、残る調査場所は区画が2つとその間の区間が1つね。……どうする?」

 

 上目遣いのこれは、狩猟を始めたバルバロ達の応援にどの(タイミング)で行くか、という問いかけだ。

 クライフは視線を逸らして空を見上げる。未だ日は高い。しかも相手は名高き双角竜。合流は調査を終えてからとし、本腰を入れて狩猟に望むべきであろう。

 

「……なぁおい、書士官のアンタ。この区画の植生とやらの調査は終わりそうか」

 

 ソフィーヤにじろりと視線を向けて尋ねれば、やや怯えの見られる態度でもって王立学術院の研究者と顔を見合わせ、こくりと頷いた。残り3時間もあれば終えられる旨を告げると、クライフが片目を閉じて了解の意を示す。

 

「だとよ。んじゃあ調査を終えてからで良いだろ」

「OK、それなら賛成の事よ! ……因みに理由とか言える、ね?」

「……ちっ。あの親父とノレッジの野郎だ。半日かそこらで死にゃしねえ。それより調査を終わらせて、万全の体勢で合流するほうが援護になんだろ。お前も判ってんならさっさと動け」

 

 顔を正面から窺おうと追い回すヤンフィの視線を意地でも避けつつ、クライフは矢継ぎ早に言葉を並べる。そのまま、言い捨てるように、早足で残る区画へ向けて歩き出していた。

 砂漠の行軍を含めて一週ほど。行動を共にしてきた団員たちも青年の気性を理解し始めている。後を追う一団の表情には、僅かな笑顔が見て取れた。

 

 

 調査を終え、キャンプの設営を見届け。その他の協力者はそこで留まる事と、緊急時の行動について確認を行い。

 クライフとヤンフィが合流に走ったのは、それからぴたりと3時間後の事であった。岩場を抜け、巨大な一枚岩「白亜の宮」を目印に、第五管轄地の南東を覆う砂漠の区画へとひた走る。

 

「どっちだ!?」

「そう、ね! ……こっちよクライフ!」

 

 先導するヤンフィの指差した方向へと、鎧を揺らして駆ける。暫くすると路は下り始め、程なくして砂の原が広がった。

 そのまま砂の原の中央まで移動し、周囲を見回す。時折あがる咆哮を頼りに砂埃を掻き分ける。

 

「―― 居たね!」

「どっちだ!!」

「四時方向の事っっ!!」

 

 ヤンフィの指差した先。クライフが目を細めると、確かに姿が視認できた。2キロほど前方か。バルバロの向かいで、双角竜が頭を振り回している。

 バルバロは角を下がって避け、次いで振り回された尾を更に下がって避ける。しかし回る身体を、30歩ほど離れた場所に佇むノレッジが一斉射によって隙無く追い討ちを仕掛け ―― 双角が根元からぽきりと折れ、砂原へと突き刺さった。

 

「もう、角まで、折れてんじゃねえか……!」

「ニャハハ、流石はダンナね。ノレッジも、すっかり、慣れている様子だし、ね!」

 

 走りながらも状況を確認し合う。

 角竜の最大の武器にして象徴でもある角。その角が狩猟の最中に折れるなどという機会など、角竜自身が庇う猶予も無い程追い詰められた場合に他ならない。となると、目の前の個体は既にバルバロとノレッジの手によって追い詰められていると考えて良い。

 ちらりと、折れた角が視界に入る。

 双角竜の角などは、装飾品として高価で取引がなされる。2つ揃っていれば尚更だ。王国の物好きな貴族に持って行けば、家の1軒や2軒は軽く建ってしまう程の金額が手に入る。ただ本来、狩猟半ばで折らずとも、討伐の後に切り取るのが確実な方法だ。むしろ狩猟の中で折るよりも形が保たれるため、土産としてに出荷される品々は往々にして加工されたもであると聞く。

 だが ―― ハンターというものは不思議なゲンを担ぐ人種でもある。有名な話で言えば、最初期の彼ら彼女らは狩猟の最中に入手した素材、または狩猟の直後に剥ぎ取った幾つかの素材しか自らの取り分として持ち帰らなかったと言う逸話がある。それも今ではギルドから分配がされるため、仕組みは昔と大きく違っている。ハンターの取り分も、増加傾向にある。

 遥か昔に根付いていたその仕組みに、かつてのクライフは首を傾げていたものだ。が、こうしてギルドとの関係性を見て行く内に「利権が関係しているのだろう」などと感覚的な理解に及んでいた。そういうものだと認識してしまえば早いもの。今では疑問の欠片も感じなくなっている。

 考えながらも、援軍として、着々と距離を詰めてゆく。両角の折れた角竜が大きくよろけながら後退する隙を縫って槍と片手剣を構え……此方に気づいて道を開けたノレッジの横を、一声かけて通り過ぎ。

 

「―― おい、加勢すんぞ」

「合流するのね、ノレッジ!」

「はい! お願いします!!」

 

 クライフとヤンフィは揃って、迷い無く歩を詰める。

 立ち向かうとだけ心に刻み、砂の熱に鍛えられた……重厚な鎧と見紛う外皮へ向かって、『ランパート』の穂先を突き立てた。ざりっという砂を噛んだ音を立てつつも肌へと沈む。すぐさま引き戻し、再び力を溜める。腰の回転と低さが要だ。2度突いて、横、次いで後ろへ飛ぶ。クライフの後を追ったヤンフィが飛び込み様に片手剣『フロストエッジ』を振るった。刃が皮を噛んで冷気を浸透させ、本人はそのまま身軽さを活かしディアブロスの股下を転がり抜けて行く。

 クライフは後退、後退。最中に入れ替わったバルバロと機を合わせ、足を止め、今度は前進。父と共に併走する。父を庇う事の出来る位置、角竜の頭の真横に位置取った。

 顔が動く。怒りに染め上げられた角竜の面。折れた角とにらみ合い、クライフは鉄の凧型楯を構えて攻撃に備えた。

 

「ブロロロッ ――」

「っ!!」

 

 振り上げた頭を直近、半ば首元に近い位置で受け止める。歯を食いしばり、楯越しの衝撃をいなす事に注心する。大柄な角竜の激突は、確かに、クライフがハンターとして経験した内で最大級の衝撃である。が。

 

(予想の範疇なんだよ、こんなモンッ!!)

 

 その経験を覆す程の威力では、なかった。

 ハイメタ装備(シリーズ)の鉱石製の鎧が軋みながらもクライフの自重を確保し、すぐさま足元を安定させる。槍を持つ手に力が篭る。ならばと、受け際に反撃(カウンター)の一撃を加える事も忘れない。楯の横から突き出した槍が双角竜の側頭部を飾る土色の襟を突き、

 

「―― オオッ!!」

 

 そこへ、苛烈な剣戟でもってバルバロが加わる。

 双角竜の頭が沈み、体が臥せた。大きな隙を逃さず、4者によって次々と攻撃が加えられる。ヤンフィが腹を切りつけ、クライフが羽根を突き、バルバロが頭を打つ。残るノレッジは跳弾の少ない貫通弾を使い、背甲を狙い撃った。

 

「グルゥ……ブロロォッ!!」

「皆、下がるねッ!」

 

 ヤンフィの声が響くと、バルバロとクライフが反射的にその場を飛び退く。

 痛みに耐えつつも、双角竜が全身を勢い良く振るい、立ち上がる。周囲に群がるハンターらを振り払うべく、満身創痍の体を揺らして尾を振り回し、大地を揺らした。

 手応えは無い。双角竜は距離をとったハンターらを一息に睨み……息を呑む間にも脚を動かす。

 楯を構えたクライフへと、折れた双角が迫り。

 

「って、おい!?」

 

 しかし、双角竜は、すわ突撃かと警戒するクライフの横を通り過ぎ ―― そのまま西へと走り去って行った。

 

「……」

「……」

「……」

「……」

 

 どすどすと足音だけが響く。膂力にしろ歩幅にしろ、ハンター達による追撃は不可能だ。数キロ先までを僅か数十秒で移動した双角竜は、その身を地面の内へと滑り込ませると、地鳴りと共に遠ざかって行った。

 ……じり、と照らす日の熱さ。その場で戦闘陣形のまま立ち止まったハンター達。最も年長であるバルバロが、率先して大剣を背に収めた。

 

「―― ウム。仕切り直しであるな」

 

 発せられた一言によって、張られていた緊張の糸が緩んでゆく。クライフも息を吐くと、角竜の去った方向を半ば脱力の体でみやり、槍を担いだ。脅威は遠方へと去ったのだ。溜息を、様々な感情と共に思い切り吐き出した。

 弩を背負ったノレッジが駆け寄って来ると、自然と集まった4者によって環が出来上がっていた。視線は、自然と長に集まった。視線を向けられた先で、バルバロは割れた顎を撫でつつ、戦況を纏める為にと声を出す。

 

「これにて二次遭遇戦は終了であるな。……しかし、ウム。あの角竜は体駆が小さく重甲や背甲の傷も少ない。角も脆かった。闘争経験の少ない若い個体とみるべきである。逃走を図った機から見て、恐らくは、此方の増援を見て逃げ出したのであるな」

「……アイツ、あんな図体しといて若いのかよ」

「あっ、それならさっき折れたこの角を見てみましょうか。切断面から年輪を見れば、あの個体の年齢も概ねですが逆算できる筈ですよ。わたし、キャンプに戻ったら計算してみますね!」

「ニャハハっ! それは良い案ね、ノレッジ! でも角竜に限らずモンスターなんて総じてでっかいの事よ、坊ちゃん!」

 

 言いながら、ノレッジは回収してきた双角を麻紐で括り始めていた。角は中途から折れたと言うのに、1メートルはあるだろうか。捻れ、薄白く、鋭い角。それが2つ並んでいる様が、今にも敵を貫こうと念を発している様に感じられ、クライフは僅かに悪寒を覚えるものの。……周囲には気取られぬよう鉄面皮を装いながら。

 

「それじゃあ角なんて大荷物もあるし、一旦キャンプに戻るの事よ、ね!」

「ウム。地中に居るならば別であるが、地上に姿を現せばペイントの実の匂いで角竜の位置も知れるであろう。……死に際に在る生物は、時として恐ろしい底力をみせる。我が輩達もキャンプに寄って小休憩を取るべきである。補給を行い、装備を整え、万全を期して止めに向かうのである」

 

 各々がバルバロの言葉に頷くと、揃って設営済みのキャンプへ向かい、路を戻り始めた。

 双角竜との闘争についてノレッジがあれやこれやと尋ねつつ。道中、1人後ろを歩くバルバロだけが獲物の逃げ去った先を見つめ、ぼそりと呟く。

 

「……よりにもよってあの個体は、白亜の宮へと逃げ込んだであるか……。……さて、ラーよ。これがお前達の言う始まりの鐘と成るか否か。それを見極めるという重役……我が輩どもが請け負うのである」

 

 遠路の向こう。逃げ去ったその先には、五管轄地の中央部。

 それは砂漠を貫き、天に向かい。まるで神を奉じる「塔」が如くすらりと伸びて。

 ―― その身に一片の緑すら(・・・・・・)纏わぬ純白の峰が、全てを受け入れる寛容さを持って、近付くハンターらを見下ろしている。

 

 





 まだまだ(数話の区切りの後に休憩は挟みますが)続きます、第五管轄地編。
 予想外に長くなっている……のですが、でも、書いていて楽しいのですよね。申し訳ありません。悪しからず。
 メシエ・カタログは天体好きの方であれば知っているかもしれません。同時に、彼の異名も知っていると後々の展開において「おい」というツッコミを入れられます(ぉぃ。尚、出演予定につき仔細は後々。名前だけならば既に、主人公(仮面)の昔話で挙げられていたりしますのです。
 という訳で今話には特に解説する事もありませんでしょう。
 ので、とりあえず4Gについて。

 鬼人ゲージ溜めてからのずばずばぐるぐるばしゅーん(語彙不足)が楽しいのですっ!
 ソロの時はあえて薬を飲まない縛り。ただし槍さん、貴方の体力には脱帽しました。どうしろと言うのですか(歓喜
 一先ずは、何とか集会所までクリアー出来ましたけれどね。ええ。何とか。薬とか火事場+不屈とかで。
 はい。相変わらずのソロ双剣ですともっ!!
 とは言いますが、私は相手によって武器を変えるのです(苦笑。如何にも棍を使って、とか溜斧を使って(というのはあまりありませんね。寧ろ今回の溜斧は万能)、とかいう相手には勢い勇んで件の武器を持ち出します。
 ……そうです。ガララ亜種さん、貴方の事ですよ(微笑み。ファンネルミサイルだけでは飽き足らず、リフレクターインコムとか、ALICEでも積んでるんですかね。ガララアジャラEX-Sとかなんですかね(ガンダムのお話です)。
 狙い通りというか、拡散5のガンランスはG級序盤から多頭クエストまで大分活躍をしてくださっていますので。
 虫はオオシナトから育成のし直しの真最中です。ギルクエゴマさんをソロで狩るついでに、虫餌を集めたりしていますよ。個人的な目標としては、浪漫ランサーに挑戦中。2Gからの悲願だったり。
 あ、因みにハンマーよりは笛を担ぐ変態なのです。ソロのぶん回しは使い勝手が宜しい(涎

 では、では。
 次回、「モンスターハンター 閃耀の頂」第24話。
 物語の構成におきまして、私の性格の悪さがのたうって爆発して炸裂して撃滅します(ぉぃ。乞うご期待。

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